Spin群(spin group)とは、$v^2=-\lvert v\rvert^2$ を満たす $\mathbb{R}^n$ の Clifford 代数 $\mathrm{Cl}_n$ の中で、長さ $1$ のベクトルの偶数個の積として得られる群 $\mathrm{Spin}(n)$ である。長さ $1$ のベクトルによるねじれた共役が鏡映を与えることから、全射準同型 $\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ の核は $\{\pm1\}$ であり、$n\ge2$ で $\mathrm{Spin}(n)$ は回転群のコンパクトで連結な二重被覆群、$n\ge3$ で単連結な普遍被覆群になる。$\mathrm{Spin}(2)\cong\mathrm{U}(1)$、$\mathrm{Spin}(3)\cong\mathrm{SU}(2)$ である。
3 次元の回転群 $\mathrm{SO}(3)$ は、単位四元数の群 $\mathrm{Sp}(1)\cong\mathrm{SU}(2)$ によって 2 対 1 に被覆される。単位四元数 $q$ と $-q$ が同じ回転を与え、回転角を $0$ から $2\pi$ まで回すと、回転は元に戻るのに四元数は $1$ から $-1$ に移る(SO(3)とSU(2))。Spin 群 $\mathrm{Spin}(n)$ は、この現象をすべての次元の回転群 $\mathrm{SO}(n)$ に広げたものであり、$n\ge2$ で $\mathrm{SO}(n)$ の連結な二重被覆群、$n\ge3$ で単連結な二重被覆群(普遍被覆)になる。
四元数の代わりに使うのが Clifford 代数 $\mathrm{Cl}_n$ である。これは $\mathbb{R}^n$ を含み、長さ $1$ のベクトル $u$ が $u^2=-1$ を満たすように「ベクトルどうしを掛ける」ことのできる結合的な代数である。この記事では、Clifford 代数を定義して基底を決定し、その中で長さ $1$ のベクトルの積として Spin 群を構成する。主定理は、ベクトル $u$ による「ねじれた共役」が $u$ に直交する超平面に関する鏡映になることを使って、全射準同型 $\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ の核がちょうど $\{\pm1\}$ であり、$\mathrm{Spin}(n)$ がコンパクトで連結な二重被覆群であることを示す(thm-spin-main)。さらに $n\ge3$ での単連結性と、$\mathrm{Spin}(2)\cong\mathrm{U}(1)$、$\mathrm{Spin}(3)\cong\mathrm{Sp}(1)\cong\mathrm{SU}(2)$ を証明する。
$\mathbb{R}^n$ の標準内積を $(v,w)$、長さを $\lvert v\rvert$、標準基底を $e_1,\dots,e_n$ とする。この記事で「代数」は単位元 $1$ をもつ $\mathbb{R}$ 上の結合的な代数を、「代数の準同型」は単位元を保つ準同型を指す。
$n\ge1$ とする。代数 $A$ と線形写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to A$ の組で
$$
f(v)^2=-\lvert v\rvert^2\cdot1\qquad(v\in\mathbb{R}^n)
$$
を満たすものを考える。このような組 $(\mathrm{Cl}_n,j)$ で、任意の組 $(A,f)$ に対し $\varphi\circ j=f$ となる代数の準同型 $\varphi\colon\mathrm{Cl}_n\to A$ がただ 1 つ存在するものを、$\mathbb{R}^n$ の Clifford 代数(Clifford algebra)という。$v\in\mathbb{R}^n$ と $j(v)$ を同一視して $v$ と書く。
条件 $v^2=-\lvert v\rvert^2$ を $v+w$ に当てて展開すると $v^2+vw+wv+w^2=-\lvert v\rvert^2-2(v,w)-\lvert w\rvert^2$ なので、Clifford 代数の中では
$$
vw+wv=-2(v,w),\qquad\text{とくに}\quad e_i^2=-1,\quad e_ie_k=-e_ke_i\ (i\ne k)
$$
が成り立つ。直交するベクトルどうしは反可換であり、長さ $1$ のベクトルの 2 乗は $-1$ である。$\{1,\dots,n\}$ の部分集合 $I=\{i_1< i_2<\dots< i_k\}$ に対し $e_I:=e_{i_1}e_{i_2}\cdots e_{i_k}$($e_\emptyset:=1$)とおく。
$n\ge1$ とする。$\mathbb{R}^n$ の Clifford 代数 $(\mathrm{Cl}_n,j)$ は存在し、同型を除いて一意である。$j$ は単射であり、$2^n$ 個の元 $e_I$($I\subset\{1,\dots,n\}$)は $\mathrm{Cl}_n$ の基底をなす。とくに $\dim\mathrm{Cl}_n=2^n$ である。
要点:$2^n$ 次元の実ベクトル空間 $W$(基底 $\varepsilon_I$)の上に、$\gamma_i^2=-1$、$\gamma_i\gamma_k=-\gamma_k\gamma_i$ を満たす線形変換 $\gamma_i$ を符号付きの「$i$ を出し入れする」写像として作る。$\gamma_{i_1}\cdots\gamma_{i_k}$ は $\varepsilon_\emptyset$ を $\varepsilon_I$ に写すので $2^n$ 個は線形独立であり、それらの張る空間が Clifford 代数になる。
段 1(作用素の構成):$W$ を、$\{1,\dots,n\}$ の部分集合 $I$ で番号づけた基底 $\varepsilon_I$ をもつ $2^n$ 次元の実ベクトル空間とする。$m_i(I):=\#\{l\in I\mid l< i\}$ とおき、$\gamma_i\in\operatorname{End}(W)$ を $\gamma_i\varepsilon_I:=s_i(I)\,\varepsilon_{I\triangle\{i\}}$ で定める。ここで $I\triangle\{i\}$ は $i$ を加える($i\notin I$)か取り除く($i\in I$)ことを表し、$s_i(I):=(-1)^{m_i(I)}$($i\notin I$)、$s_i(I):=-(-1)^{m_i(I)}$($i\in I$)とする。
段 2(関係式):$I$ と $I\triangle\{i\}$ で $m_i$ は同じ値 $m$ をとり($i$ 自身は $i$ より小さくない)、一方だけが $i$ を含むので、$\gamma_i^2\varepsilon_I=s_i(I\triangle\{i\})s_i(I)\varepsilon_I=(-1)^m\cdot\bigl(-(-1)^m\bigr)\varepsilon_I=-\varepsilon_I$ である。$i< k$ とすると、$k$ を出し入れしても $i$ より小さい元の個数と $i$ の有無は変わらないので $s_i(I\triangle\{k\})=s_i(I)$、$i$ を出し入れすると $k$ より小さい元の個数が $1$ 変わるので $s_k(I\triangle\{i\})=-s_k(I)$ である。よって $\gamma_i\gamma_k\varepsilon_I=s_i(I)s_k(I)\varepsilon_{I\triangle\{i,k\}}$、$\gamma_k\gamma_i\varepsilon_I=-s_k(I)s_i(I)\varepsilon_{I\triangle\{i,k\}}$ であり、$\gamma_i\gamma_k=-\gamma_k\gamma_i$ である。$c(v):=\sum_iv_i\gamma_i$ とおくと $c(v)^2=\sum_iv_i^2\gamma_i^2+\sum_{i< k}v_iv_k(\gamma_i\gamma_k+\gamma_k\gamma_i)=-\lvert v\rvert^2$ である。
段 3(線形独立):$I=\{i_1<\dots< i_k\}$ に対し $\gamma_I:=\gamma_{i_1}\cdots\gamma_{i_k}$($\gamma_\emptyset:=\mathrm{id}$)とおく。右から順に作用させると、$\gamma_{i_l}$ は $i_l$ より大きい元だけからなる $\varepsilon_{\{i_{l+1},\dots,i_k\}}$ に $i_l$ を符号 $+1$ で加えるので、$\gamma_I\varepsilon_\emptyset=\varepsilon_I$ である。$\varepsilon_I$ は線形独立なので、$2^n$ 個の $\gamma_I$ も線形独立である。
段 4(積で閉じる):記号 $1,\dots,n$ の任意の語 $w=a_1a_2\cdots a_r$ は、隣り合う相異なる 2 文字の入れ替え(符号 $-1$ を掛ける)と、隣り合う同じ 2 文字の削除(符号 $-1$ を掛ける)を有限回くり返して、符号 $\sigma\in\{\pm1\}$ と増加列 $K$ の組 $\sigma K$ に変形できる(たとえば隣接互換による並べ替えで同じ文字を隣り合わせ、2 つずつ消す)。その変形の列を 1 つ固定して $\mathrm{red}(w)=(\sigma,K)$ と書く。段 2 の関係式から $\gamma_{a_1}\cdots\gamma_{a_r}=\sigma\gamma_K$ であり、とくに $\gamma_I\gamma_J=\sigma\gamma_K$ である。よって $C:=\operatorname{span}\{\gamma_I\}$ は積で閉じ、$\gamma_\emptyset=\mathrm{id}$ を含む部分代数で、$c(\mathbb{R}^n)$ が生成する。
段 5(普遍性):組 $(A,f)$ が与えられたとする。上の展開から $f(e_i)^2=-1$、$f(e_i)f(e_k)=-f(e_k)f(e_i)$($i\ne k$)である。$f_I:=f(e_{i_1})\cdots f(e_{i_k})$ とおき、線形写像 $\varphi\colon C\to A$ を $\varphi(\gamma_I):=f_I$ で定める。$I,J$ を並べた語の変形 $\mathrm{red}=(\sigma,K)$ の各段は $A$ の中でも成り立つ等式なので $f_If_J=\sigma f_K$ であり、$\varphi(\gamma_I\gamma_J)=\sigma f_K=f_If_J=\varphi(\gamma_I)\varphi(\gamma_J)$ である。よって $\varphi$ は代数の準同型で、$\varphi\circ c=f$ を満たす。$C$ は $c(\mathbb{R}^n)$ で生成されるので、そのような準同型は 1 つしかない。したがって $(C,c)$ は Clifford 代数である。一意性:2 つの組 $(C,c)$、$(C',c')$ が普遍性をもてば、互いへの準同型の合成は恒等写像と同じ性質をもつので、普遍性の一意性から恒等写像に等しい。$c$ は $\gamma_i$ が線形独立なので単射であり、$e_I=\gamma_I$ が基底をなす。$\square$
$\mathrm{Cl}_n$ は可換でない($n\ge2$ なら $e_1e_2=-e_2e_1\ne e_2e_1$)。$\lvert I\rvert$ が偶数の $e_I$ が張る部分空間を $\mathrm{Cl}_n^0$、奇数のものが張る部分空間を $\mathrm{Cl}_n^1$ とすると、$\mathrm{Cl}_n=\mathrm{Cl}_n^0\oplus\mathrm{Cl}_n^1$、$\mathrm{Cl}_n^a\mathrm{Cl}_n^b\subset\mathrm{Cl}_n^{a+b\bmod2}$ である(段 4 の変形は語の長さの偶奇を変えない)。$\mathrm{Cl}_n^0$ は $2^{n-1}$ 次元の部分代数で、これを 偶部分代数 という。$k$ 個のベクトルの積は $\mathrm{Cl}_n^{k\bmod2}$ に属する。
普遍性により、次の 3 つの写像が定まる。
1 は組 $(\mathrm{Cl}_n,-j)$ に普遍性を当てて得る($(-v)^2=v^2$)。2 は、積の順序を逆にした代数 $\mathrm{Cl}_n^{\mathrm{op}}$ と $j$ の組に普遍性を当てて得る($\mathrm{Cl}_n^{\mathrm{op}}$ の中でも $v\cdot v=v^2=-\lvert v\rvert^2$)。どちらも 2 回施すと恒等写像になる(2 回施したものは $j$ を保つ準同型なので、普遍性の一意性による)。$\alpha$ と転置は基底 $e_I$ を符号を除いて保つので互いに可換である。
$S^{n-1}:=\{u\in\mathbb{R}^n\mid\lvert u\rvert=1\}$ を単位球面とする。$u\in S^{n-1}$ は $u^2=-1$ を満たすので $\mathrm{Cl}_n$ の可逆元で、$u^{-1}=-u=\bar u$ である。$\mathrm{Cl}_n\cong\mathbb{R}^{2^n}$ に通常の位相を入れる。
$n\ge1$ とする。
$$
\mathrm{Pin}(n):=\{u_1u_2\cdots u_k\mid k\ge0,\ u_1,\dots,u_k\in S^{n-1}\},\qquad \mathrm{Spin}(n):=\mathrm{Pin}(n)\cap\mathrm{Cl}_n^0
$$
とおく($k=0$ の積は $1$)。$\mathrm{Pin}(n)$ を Pin 群、$\mathrm{Spin}(n)$ を Spin 群(spin group)という。$\mathrm{Spin}(n)$ は、長さ $1$ のベクトルの偶数個の積の全体である。
$\mathrm{Pin}(n)$ は積で閉じ、$u_1\cdots u_k$ の逆元は $(-u_k)\cdots(-u_1)$ なので、$\mathrm{Cl}_n$ の可逆元の群の部分群である。$\mathrm{Spin}(n)$ はその部分群である(奇数個の積は $\mathrm{Cl}_n^1$ に入り、$\mathrm{Cl}_n^0\cap\mathrm{Cl}_n^1=\{0\}$ だが可逆元は $0$ でないので、$\mathrm{Spin}(n)$ の元は偶数個の積としてしか書けない)。任意の $u\in S^{n-1}$ について $-1=uu\in\mathrm{Spin}(n)$ である。また $x=u_1\cdots u_k\in\mathrm{Pin}(n)$ について
$$
x\bar x=u_1\cdots u_k(-u_k)\cdots(-u_1)=1\qquad(\ast)
$$
なので、$x^{-1}=\bar x$ である。
Spin 群が回転を与える仕組みは、次の ねじれた共役 である。$x\in\mathrm{Pin}(n)$ に対し、線形写像 $\rho(x)\colon\mathrm{Cl}_n\to\mathrm{Cl}_n$ を
$$
\rho(x)(y):=\alpha(x)\,y\,x^{-1}
$$
で定める。$\alpha$ が準同型なので $\rho(xy)=\rho(x)\circ\rho(y)$ である。
$u\in S^{n-1}$、$v\in\mathbb{R}^n$ なら
$$
\rho(u)(v)=v-2(v,u)\,u=H_uv
$$
である。すなわち $\rho(u)$ は $\mathbb{R}^n$ を保ち、その上で $u$ に直交する超平面に関する鏡映 $H_u$(直交行列 の定義「鏡映の行列」)に一致する。
$\alpha(u)=-u$、$u^{-1}=-u$ なので $\rho(u)(v)=(-u)v(-u)=uvu$ である。$vu=-uv-2(v,u)$ を代入すると $uvu=u\bigl(-uv-2(v,u)\bigr)=-u^2v-2(v,u)u=v-2(v,u)u$ である。$\square$
$\alpha$ を入れずに $xyx^{-1}$ とすると、$uvu^{-1}=-H_uv$ となり、鏡映ではなく「鏡映の $-1$ 倍」が出てくる。$n$ が奇数なら $-H_u$ は行列式 $1$ の回転なので、奇数個のベクトルの積からも回転が得られ、行列式で偶奇を見分けられなくなり、核も $\{\pm1\}$ より大きくなる(ex-spin-counterexamples の 4 行目)。ねじれは、この符号を補正するためのものである。
核の計算には次の補題を使う。
$n\ge1$ とする。
要点:$e_ie_Ie_i^{-1}=\pm e_I$ で、符号は $i\in I$ かどうかと $\lvert I\rvert$ の偶奇で決まる。$I\ne\emptyset$ なら $i\in I$ をとると求める符号と逆になる。
$e_i$ を $e_I$ の各文字と入れ替えると、$i\notin I$ なら $\lvert I\rvert$ 回、$i\in I$ なら $\lvert I\rvert-1$ 回の反交換が起こる($e_i$ 自身とは可換)ので$$e_ie_Ie_i^{-1}=\begin{cases}(-1)^{\lvert I\rvert}e_I&(i\notin I)\\(-1)^{\lvert I\rvert-1}e_I&(i\in I)\end{cases}$$である。$y=\sum_Iy_Ie_I$ と書くと $e_iye_i^{-1}=\sum_I\pm y_Ie_I$ であり、$e_I$ は基底なので条件は係数ごとに読める。1:$\lvert I\rvert$ が偶数で $y_I\ne0$ なら、すべての $i$ について符号が $+1$ でなければならないが、$i\in I$ なら符号は $-1$ である。よって $I$ はどの $i$ も含まず $I=\emptyset$ である。2:$\lvert I\rvert$ が奇数で $y_I\ne0$ なら、すべての $i$ について符号が $-1$ でなければならないが、$i\in I$ なら符号は $+1$ なので $I=\emptyset$ となり、$\lvert I\rvert$ が奇数であることに反する。よって $y=0$ である。$\square$
$n\ge1$ とする。
1:$x=u_1\cdots u_k$ と書くと、$\rho$ は準同型なので $\rho(x)=\rho(u_1)\circ\dots\circ\rho(u_k)$ であり、lem-spin-reflection により $\mathbb{R}^n$ 上では鏡映の積 $H_{u_1}\cdots H_{u_k}\in\mathrm{O}(n)$ である。$\mathrm{O}(n)$ のどの元も高々 $n$ 個の鏡映の積である(直交行列 の定理「鏡映の積への分解」)。鏡映 $H_w$($w\ne0$)は $H_{w/\lvert w\rvert}=\rho(w/\lvert w\rvert)$ なので、$\rho$ は全射である。
核:$\rho(\pm1)$ は恒等写像である($\alpha(-1)=-1$)。逆に $x\in\mathrm{Pin}(n)$、$\rho(x)=\mathrm{id}$ とし、$x=x_0+x_1$($x_0\in\mathrm{Cl}_n^0$、$x_1\in\mathrm{Cl}_n^1$)と分ける。$\alpha(x)v=vx$($v\in\mathbb{R}^n$)は $(x_0-x_1)v=v(x_0+x_1)$ であり、$x_0v,vx_0\in\mathrm{Cl}_n^1$、$x_1v,vx_1\in\mathrm{Cl}_n^0$ なので、偶奇の成分に分けて $x_0v=vx_0$、$-x_1v=vx_1$ を得る。lem-spin-commute により $x_0=\lambda\in\mathbb{R}$、$x_1=0$ である。$(\ast)$ から $1=x\bar x=\lambda^2$ なので $\lambda=\pm1$ である。
2:$x=u_1\cdots u_k$ なら $\det\rho(x)=(-1)^k$ である(鏡映の行列式は $-1$)。$x\in\mathrm{Spin}(n)$ なら $k$ は偶数(定義のあとの段落)なので $\rho(x)\in\mathrm{SO}(n)$ である。逆に $\rho(x)\in\mathrm{SO}(n)$ なら $k$ は偶数で $x\in\mathrm{Cl}_n^0$、すなわち $x\in\mathrm{Spin}(n)$ である。よって $\rho^{-1}(\mathrm{SO}(n))=\mathrm{Spin}(n)$ であり、1 の全射性から $\rho(\mathrm{Spin}(n))=\mathrm{SO}(n)$、核は 1 の核 $\{\pm1\}$($\subset\mathrm{Spin}(n)$)である。
3:コンパクト性:$\mathrm{Pin}(n)$ の元は高々 $\max(n,2)$ 個の長さ $1$ のベクトルの積なので、$(S^{n-1})^k$ の連続像の有限個の和としてコンパクトである。
$x\in\mathrm{Pin}(n)$ について、1 により $\rho(x)=H_{u_1}\cdots H_{u_m}=\rho(u_1\cdots u_m)$($m\le n$、$u_i\in S^{n-1}$)と書け、核が $\{\pm1\}$ なので $x=\pm u_1\cdots u_m$ である。$m\ge1$ なら $-u_1\cdots u_m=(-u_1)u_2\cdots u_m$、$m=0$ なら $-1=e_1e_1$ なので、$x$ は高々 $\max(n,2)$ 個の長さ $1$ のベクトルの積である。$k$ 個の積の全体は、コンパクトな $(S^{n-1})^k$ の連続写像 $(u_1,\dots,u_k)\mapsto u_1\cdots u_k$ による像なのでコンパクトであり、$\mathrm{Pin}(n)$ はその有限個の和としてコンパクトである。$\mathrm{Spin}(n)$ は閉部分空間 $\mathrm{Cl}_n^0$ との共通部分なのでコンパクトである。積は双線形なので連続、逆元は $(\ast)$ により線形写像 $x\mapsto\bar x$ の制限なので連続であり、どちらも位相群である。
$\rho(x)(v)=\alpha(x)v\bar x$ は $x$ について連続なので、$\rho\colon\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ は連続な全射準同型である。核 $K:=\{\pm1\}$ は中心的で、$\mathrm{Spin}(n)\subset\mathbb{R}^{2^n}$ は Hausdorff なので、商写像 $q\colon\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{Spin}(n)/K$ は二重被覆準同型である(二重被覆群 の命題「中心的な位数 2 の部分群による商」)。$\rho$ が誘導する $\bar\rho\colon\mathrm{Spin}(n)/K\to\mathrm{SO}(n)$ は連続な全単射で、$\mathrm{Spin}(n)/K$ はコンパクト($q$ による像)、$\mathrm{SO}(n)$ は Hausdorff なので同相写像である(コンパクト空間 の命題「保存と閉性」)。よって $\rho=\bar\rho\circ q$ も二重被覆準同型である。$\square$
1 で $\rho(x)=H_{u_1}\cdots H_{u_k}$ を見たとおり、$\mathrm{Pin}(n)$ の元は「鏡映の積に、符号の情報を 1 つ加えたもの」である。同じ回転を鏡映の積として 2 通りに書くと、対応する $\mathrm{Spin}(n)$ の元は一致するか $-1$ 倍だけ違う。この符号がちょうど「$2\pi$ 回すと元に戻らない」情報を担う(ex-spin-half-angle)。
$n\ge2$、$t\in\mathbb{R}$ とし、$x(t):=\cos t+\sin t\,e_1e_2$ とおく。$x(t)=e_1\bigl(-\cos t\,e_1+\sin t\,e_2\bigr)$ は長さ $1$ のベクトル 2 つの積なので $x(t)\in\mathrm{Spin}(n)$ である。$\rho(x(t))$ は $e_1,e_2$ の張る平面を角 $2t$ だけ回し、$e_3,\dots,e_n$ を動かさない回転である。
計算は次のとおりである。
実際、$e_1e_2e_1=e_2$、$e_1e_1e_2=-e_2$ などから $x(t)e_1=\cos t\,e_1+\sin t\,e_2$ であり、$x(t)^{-1}=\overline{x(t)}=\cos t-\sin t\,e_1e_2$($\overline{e_1e_2}=e_2e_1=-e_1e_2$)を右から掛けると$$\rho(x(t))(e_1)=(\cos t\,e_1+\sin t\,e_2)(\cos t-\sin t\,e_1e_2)=(\cos^2t-\sin^2t)e_1+2\sin t\cos t\,e_2=\cos2t\,e_1+\sin2t\,e_2$$となる($e_2e_1e_2=e_1$ を使う)。同様に $\rho(x(t))(e_2)=-\sin2t\,e_1+\cos2t\,e_2$ であり、$k\ge3$ の $e_k$ は $e_1e_2$ と可換なので $\rho(x(t))(e_k)=e_k$ である。
要点:$\mathrm{Cl}_2^0\cong\mathbb{C}$、$\mathrm{Cl}_3^0\cong\mathbb{H}$ と同一視すると、$(\ast)$ から $\mathrm{Spin}(n)$ はノルム $1$ の元に含まれる。逆に、ノルム $1$ の元が長さ $1$ のベクトル 2 つの積であることを、$vw=-(v,w)-\omega(v\times w)$ を使って示す。
1:$S^0=\{\pm e_1\}$ なので、偶数個の積は $\pm e_1^{2k}=\pm1$ であり、$1$ も $-1=e_1e_1$ も現れる。
2:$\mathrm{Cl}_2^0$ は $1,e_1e_2$ で張られ、$(e_1e_2)^2=-1$ なので $a+be_1e_2\mapsto a+bi$ は代数の同型 $\mathrm{Cl}_2^0\cong\mathbb{C}$ である。$x=a+be_1e_2\in\mathrm{Spin}(2)$ なら $(\ast)$ から $1=x\bar x=(a+be_1e_2)(a-be_1e_2)=a^2+b^2$ である。逆に $a^2+b^2=1$ なら $a+be_1e_2=x(t)$ の形で、ex-spin-half-angle により $\mathrm{Spin}(2)$ に属する。$\rho(x(t))$ は角 $2t$ の回転なので、$e^{it}\mapsto e^{2it}$ である。
3:$\mathrm{Cl}_3^0$ の基底は $1,e_2e_3,e_3e_1,e_1e_2$ である($e_3e_1=-e_1e_3$)。$I:=e_2e_3$、$J:=e_3e_1$、$K:=e_1e_2$ とおくと、$I^2=e_2e_3e_2e_3=-e_2e_2e_3e_3=-1$ で、同様に $J^2=K^2=-1$、また $IJ=e_2e_3e_3e_1=-e_2e_1=K$、$IJK=K^2=-1$ である。四元数の積は $i^2=j^2=k^2=ijk=-1$ から定まる(四元数 の定義)ので、$\psi$ は積を保ち、基底を基底に写すので同型である。$\overline{e_ae_b}=e_be_a=-e_ae_b$($a\ne b$)なので $\psi$ は共役と可換で、$\psi(q)\overline{\psi(q)}=\psi(q\bar q)=N(q)$ である。よって $(\ast)$ から $\mathrm{Spin}(3)\subset\psi(\mathrm{Sp}(1))$ である。
逆を示す。$\omega:=e_1e_2e_3$ とおくと、$v,w\in\mathbb{R}^3$ について$$vw=-(v,w)-\omega\,(v\times w)\qquad(\times\text{ はベクトル積})$$が成り立つ(両辺は $v,w$ について双線形で、$e_ae_a=-1$、$e_1e_2=-\omega e_3$、$e_2e_3=-\omega e_1$、$e_3e_1=-\omega e_2$ と、反交換による符号の反転から、基底の組で一致する)。$-\omega e_1,-\omega e_2,-\omega e_3$ は $I,J,K$ なので、$\psi^{-1}(vw)=-(v,w)+\widehat{v\times w}$($\hat p:=p_1i+p_2j+p_3k$)である。単位四元数は $q=\cos t+\sin t\,\hat p$($p\in S^2$)と書ける(四元数 の定理「$x^2=-1$ の解と極表示」)。$p$ に直交する $u\in S^2$ をとり、$w:=-\cos t\,u+\sin t\,(p\times u)$ とおくと、$\lvert w\rvert=1$、$(u,w)=-\cos t$、$u\times w=\sin t\,u\times(p\times u)=\sin t\,p$ なので $\psi(q)=uw\in\mathrm{Spin}(3)$ である。したがって $\psi(\mathrm{Sp}(1))=\mathrm{Spin}(3)$ である。$\mathrm{Sp}(1)\cong\mathrm{SU}(2)$ は 二重被覆群 の命題「$\mathrm{Sp}(1)$ と $\mathrm{SU}(2)$ の同型」により、$\mathrm{Sp}(1)$ は $\mathbb{H}=\mathbb{R}^4$ の単位球面である。$\square$
3 の $\omega$ は $n=3$ が奇数なので $\mathrm{Cl}_3$ の中心に属し($e_i$ を $\omega$ の 3 文字と入れ替えると反交換が 2 回起こる)、$v=-\omega\cdot\psi(\hat v)$ である。よって偶元 $x$ について $\rho(x)(v)=xvx^{-1}=-\omega\,x\psi(\hat v)x^{-1}$ であり、$\rho$ は四元数の共役作用 $\hat v\mapsto q\hat vq^{-1}$ にあたる。これは SO(3)とSU(2) の二重被覆 $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ と同じものである。
$n\ge3$ なら、$\mathrm{Spin}(n)$ は単連結であり、$\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。$\pi_1(\mathrm{SO}(n))$ の自明でない元は、$e_1e_2$ 平面の $2\pi$ 回転のループ(ex-spin-half-angle)で表される。
要点:ファイバー束 $\mathrm{O}(n-1)\to\mathrm{O}(n)\to S^{n-1}$ のホモトピー完全列から $\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\pi_1(\mathrm{SO}(3))$($n\ge4$)であり、$\mathrm{Spin}(3)\cong S^3$ から $\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。連結な二重被覆 $\mathrm{Spin}(n)$ の基本群の像は指数 $2$、すなわち自明である。
段 1:$\mathrm{SO}(n)$ は弧状連結である(直交群 の定理「直交群の位相」)ので、$\pi_1(\mathrm{SO}(n),I)=\pi_1(\mathrm{O}(n),I)$ である。$n\ge4$ では、ファイバー束 $\mathrm{O}(n-1)\to\mathrm{O}(n)\to S^{n-1}$(Hat02 Example 4.55、p. 383)のホモトピー完全列(同書 Theorem 4.41、p. 376、Proposition 4.48、p. 379)$$\pi_2(S^{n-1})\to\pi_1(\mathrm{O}(n-1))\to\pi_1(\mathrm{O}(n))\to\pi_1(S^{n-1})$$で、$n-1\ge3$ なので両端は $0$ である(同書 Corollary 4.9、p. 349)。よって $\pi_1(\mathrm{SO}(n-1))\to\pi_1(\mathrm{SO}(n))$ は同型であり、$\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\pi_1(\mathrm{SO}(3))$ である。
段 2:$\mathrm{Spin}(3)\cong S^3$(prop-spin-low)は単連結(同書 Proposition 1.14、p. 35)なので、thm-spin-main の二重被覆と 二重被覆群 の命題「基本群との関係」により $\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ であり、段 1 から $\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$($n\ge3$)である。
段 3:$\mathrm{Spin}(n)$ は弧状連結(thm-spin-main の 3)なので、同じ命題により $\rho_*\pi_1(\mathrm{Spin}(n))$ は $\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の指数 $2$ の部分群、すなわち自明群であり、$\rho_*$ は単射なので $\pi_1(\mathrm{Spin}(n))=0$ である。自明でない元:ループ $\theta\mapsto R(\theta)$($0\le\theta\le2\pi$)の持ち上げ $x(\theta/2)$ の終点は $-1\ne1$ なので、このループは定値ループにホモトピックでない(被覆空間 の定理「基本群との関係」)。$\square$
単連結な二重被覆は普遍被覆なので、$n\ge3$ の $\mathrm{Spin}(n)$ は $\mathrm{SO}(n)$ の普遍被覆群である。$n=2$ では $\mathrm{Spin}(2)\cong\mathrm{U}(1)$ は単連結でなく、$\mathrm{SO}(2)\cong S^1$ の普遍被覆は $\mathbb{R}$ である。$\mathrm{Spin}(3)\cong\mathrm{SU}(2)$ の表現のうち $-1$ が $-1$ 倍で働くものは、$\mathrm{SO}(3)$ の表現から得られない($\rho$ の核 $\{\pm1\}$ の上で自明でないため)。$\mathrm{Cl}_n$ の既約表現を $\mathrm{Spin}(n)$ に制限して得られる表現を スピン表現 といい、その空間の元を スピノル という(FH91 §20.1・§20.2)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $n\ge2$(thm-spin-main の 3) | $\mathrm{Spin}(1)=\{\pm1\}$ | 連結であること |
| $n\ge3$(cor-spin-pi1) | $\mathrm{Spin}(2)\cong\mathrm{U}(1)$ | 単連結であること |
| 偶数個の積($\mathrm{Spin}(n)$ を $\mathrm{Pin}(n)$ に広げる) | $\mathrm{Pin}(n)$($n\ge1$) | 連結であること |
| ねじれ $\alpha$($\rho$ を $y\mapsto xyx^{-1}$ に替える) | $n=3$、$\omega=e_1e_2e_3\in\mathrm{Pin}(3)$ | 核が $\{\pm1\}$ であること |
1 行目は prop-spin-low の 1 で、$\mathrm{Spin}(1)$ は 2 点からなり連結でない。2 行目は prop-spin-low の 2 で、$\mathrm{U}(1)$ の基本群は $\mathbb{Z}$ である。3 行目:$x\mapsto\det\rho(x)$ は $\mathrm{Pin}(n)$ 上の連続関数で、値 $1$($x=1$)と $-1$($x=e_1$)をとり、それ以外の値をとらないので、$\mathrm{Pin}(n)$ は連結でない。4 行目:$\omega=e_1e_2e_3$ は長さ $1$ のベクトル 3 つの積なので $\mathrm{Pin}(3)$ に属し、$\mathrm{Cl}_3$ の中心に属する(prop-spin-low のあとの段落)ので、すべての $y$ について $\omega y\omega^{-1}=y$ である。$\omega=e_{\{1,2,3\}}$ は基底の元で $\pm1$ でないので、ねじれのない共役の核は $\{\pm1\}$ より真に大きい。ねじれた $\rho$ では $\alpha(\omega)=-\omega$ なので $\rho(\omega)=-\mathrm{id}$ であり、核に入らない。
文献によっては Clifford 代数を $v^2=+\lvert v\rvert^2$ で定める。一般の 2 次形式 $Q$ に対して $v^2=Q(v)$ とする流儀では、この記事の $\mathrm{Cl}_n$ は $Q=-\lvert\cdot\rvert^2$ の場合にあたり、実の Spin 群はこの形式から作られる(FH91 §20.1、p. 301 の脚注と §20.2、p. 311)。符号 $(p,q)$ の不定値な形式でも同じ構成で $\mathrm{SO}^+(p,q)$ の二重被覆が得られる(同 p. 312)。時空(符号 $(1,3)$)の場合は SL(2,C)とSO^+(1,3) で扱われている。
Clifford 代数の普遍性による定義と $e_I$ が基底をなすことは FH91 §20.1(pp. 301–302、Lemma 20.3)、Spin 群・Pin 群とねじれた共役による二重被覆は同 §20.2(pp. 307–309、(20.27)・Proposition 20.28)、連結性の道 $\gamma$ と $\mathrm{Spin}(3)$ と四元数の対応は同 p. 312(Exercise 20.41・20.42)にある。同書は Spin 群を偶部分代数の元 $x$ で $x\bar x=1$、$xV\bar x\subset V$ を満たすものの全体として定めている((20.27))。長さ $1$ のベクトルの偶数個の積はこの条件を満たすので、この記事の $\mathrm{Spin}(n)$ は同書の Spin 群に含まれ、どちらも $\mathrm{SO}(n)$ の上へ核 $\{\pm1\}$ で写る(thm-spin-main、同書 Proposition 20.28)ので、両者は一致する。ホモトピー完全列とファイバー束は Hat02 Theorem 4.41(p. 376)・Proposition 4.48(p. 379)・Example 4.55(p. 383)・Corollary 4.9(p. 349)による。この記事のほかの命題・定理は、引用した記事の定理を除いて記事の中で証明した。
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