カレント(current)とは、向きづけられた多様体上のコンパクトな台をもつ滑らかな $p$-形式に数を対応させる連続線形汎関数であり、微分形式に対する超関数にあたる。de Rham が導入した。滑らかな形式、向きづけられた部分多様体 $Z$ 上の積分カレント $[Z]$、点に集中した量をすべて含む。境界作用素 $\langle\partial T,\omega\rangle=\langle T,d\omega\rangle$ により Stokes の定理は $\partial[Z]=[\partial Z]$ と書ける。カレントで計算した de Rham コホモロジーは滑らかな形式によるものと一致し、部分多様体をコホモロジー類の代表として扱える。
カレント(current)は、微分形式に対する超関数 である。多様体上のコンパクトな台をもつ滑らかな微分形式に数を対応させる連続線形汎関数として定義され、滑らかな微分形式、部分多様体上の積分、点に集中した量をすべて同じ枠に入れる。de Rham が導入したDem12。
カレントには境界作用素 $\partial$ と外微分 $d$ が、テスト形式への外微分の転置として定義される。向きづけられた部分多様体 $Z$ 上の積分で定まる積分カレント $[Z]$ については、Stokes の定理がそのまま $\partial[Z]=[\partial Z]$ という式になる。カレントで計算した de Rham コホモロジーは、滑らかな形式で計算したものと一致する。このため、部分多様体や特異点をもつ図形を、コホモロジー類の代表として滑らかな形式と同じように扱える。
以下、$M$ を $m$ 次元の向きづけられた $C^\infty$ 級多様体(境界なし、第 2 可算)とする。係数は $\mathbb R$ とするが、$\mathbb C$ でも同様である。
コンパクトな台をもつ滑らかな $p$-形式の全体を $\mathcal D^p(M)$ と書き、その元をテスト形式という。座標近傍 $(U;x^1,\dots,x^m)$ で $\omega=\sum_{|I|=p}\omega_I\,dx^I$ と書き、コンパクト集合 $L\subset U$ と非負整数 $s$ に対して半ノルム
$$
p^s_L(\omega):=\sup_{x\in L}\ \max_{|I|=p,\ |\alpha|\le s}\bigl|\partial^\alpha\omega_I(x)\bigr|
$$
を考えるDem12。$\alpha$ は多重指数、$I$ は増加する添字の列である。
$M$ 上の次元 $p$ のカレントとは、線形写像 $T\colon\mathcal D^p(M)\to\mathbb R$ で次の連続性をもつものである:任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し、$K$ を覆う有限個の座標近傍内のコンパクト集合 $L_1,\dots,L_k$、非負整数 $s$、定数 $C$ があって、台が $K$ に含まれるすべての $\omega\in\mathcal D^p(M)$ について
$$
|\langle T,\omega\rangle|\le C\max_{1\le j\le k}p^{s}_{L_j}(\omega)
$$
が成り立つ。値 $T(\omega)$ を $\langle T,\omega\rangle$ と書く。次元 $p$ のカレントを次数 $m-p$ のカレントともいい、その全体を
$$
\mathcal D'_p(M)=\mathcal D'^{\,m-p}(M)
$$
と書く。$K$ によらずに $s$ を選べるとき、$T$ は位数 $s$ 以下であるという。
これは超関数 の定義のテスト関数を $p$-形式に替えたものである(Dem12 Ch. I (2.3)、p. 14)。次元はテスト形式の次数、次数は「カレントを微分形式とみたときの次数」であり、次の例で意味が分かる。
カレント $T$ が開集合 $V$ 上で $0$ であるとは、台が $V$ に含まれるすべてのテスト形式で $\langle T,\omega\rangle=0$ となることをいう。そのような $V$ 全体の和集合の補集合を $T$ の台 $\operatorname{supp}T$ という。
$f$ を係数が局所可積分な $q$-形式とする。
$$
\langle T_f,\omega\rangle:=\int_Mf\wedge\omega\qquad(\omega\in\mathcal D^{m-q}(M))
$$
は次元 $m-q$、次数 $q$、位数 $0$ のカレントである。$f$ から $T_f$ への対応は単射であり(prop-current-coefficients の後で確かめる)、以後 $f$ と $T_f$ を同一視する。とくに定数関数 $1$ は次数 $0$ のカレント $\langle[M],\omega\rangle=\int_M\omega$ を定める。
$Z\subset M$ を、$M$ の閉集合であるような $p$ 次元の向きづけられた部分多様体(境界があってもよい)とし、包含写像を $\iota\colon Z\to M$ とする。
$$
\langle[Z],\omega\rangle:=\int_Z\iota^*\omega\qquad(\omega\in\mathcal D^p(M))
$$
で定まる次元 $p$(次数 $m-p$)のカレント $[Z]$ を、$Z$ 上の積分カレント(current of integration)というDem12。幾何学的測度論の integral current とは別の概念である(rem-current-terminology)。
$Z$ は $M$ の閉集合なので $\iota^*\omega$ は $Z$ 上でコンパクトな台をもち、積分は意味をもつ。$|\langle[Z],\omega\rangle|$ は $\operatorname{supp}\omega\cap Z$ の $p$ 次元の体積と係数の最大値で評価できるので、$[Z]$ は位数 $0$ であり、$\operatorname{supp}[Z]=Z$ である。$Z$ の向きを逆にすると $[Z]$ は $-[Z]$ になる。
点 $x\in M$ と接ベクトル $v_1,\dots,v_p\in T_xM$ に対し $\langle T,\omega\rangle:=\omega_x(v_1,\dots,v_p)$ は次元 $p$ のカレントで、台は $\{x\}$ である。$p=0$ のときは $\langle T,\varphi\rangle=\varphi(x)$ であり、これは $0$ 次元の部分多様体 $\{x\}$(正の向き)の積分カレント $[\{x\}]$ である。
$M=\Omega\subset\mathbb R^m$ のとき、次元 $0$ のカレントは関数 $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に作用するので、超関数 そのものである。次数 $0$(次元 $m$)のカレント $T$ も、$\varphi\mapsto\langle T,\varphi\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^m\rangle$ によって超関数と同一視できる。一般の次数では次の成分表示がある。
$\{1,\dots,m\}$ の増加する添字の列 $I$ に対し、その補集合を増加順に並べたものを $\complement I$、置換 $(1,\dots,m)\mapsto(I,\complement I)$ の符号を $\varepsilon(I,\complement I)$ と書く。$dx^I\wedge dx^{\complement I}=\varepsilon(I,\complement I)\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^m$ である。
$(U;x^1,\dots,x^m)$ を向きに適合する座標近傍とし、$T$ を次数 $q$ のカレントとする。$|I|=q$ ごとに
$$
T_I(\varphi):=\varepsilon(I,\complement I)\,\langle T,\varphi\,dx^{\complement I}\rangle\qquad(\varphi\in C_c^\infty(U))
$$
とおくと、$T_I$ は $U$ 上の超関数であり、$U$ に台をもつ $u=\sum_{|J|=m-q}u_J\,dx^J$ に対して
$$
\langle T,u\rangle=\sum_{|I|=q}\varepsilon(I,\complement I)\,T_I\bigl(u_{\complement I}\bigr)
$$
が成り立つ。この等式を $T=\sum_IT_I\,dx^I$ と書く。成分 $T_I$ はこの等式で一意に決まる。$T$ が位数 $s$ 以下なら各 $T_I$ も位数 $s$ 以下である。
$\varphi\mapsto\varphi\,dx^{\complement I}$ は $C_c^\infty(U)$ から $\mathcal D^{m-q}(M)$ への線形写像である。$U$ の座標では $p^s_L(\varphi\,dx^{\complement I})$ は $\varphi$ の $s$ 階までの導関数の $L$ 上の最大値であり、他の座標近傍の半ノルム $p^s_{L_j}(\varphi\,dx^{\complement I})$ も、座標変換の連鎖律により、台を含むコンパクト集合 $K\subset U$ ごとの定数 $C_K$ を使って $C_K\max_{|\alpha|\le s}\sup_K|\partial^\alpha\varphi|$ で抑えられる。よって $T$ の連続性評価がそのまま $T_I$ の評価になり、$T_I$ は位数を上げずに超関数になる。
$u=\sum_Ju_Jdx^J$ について、$J$ は $|J|=m-q$ の増加列全体を動き、$J\mapsto\complement J$ は $|I|=q$ の増加列全体との全単射である。線形性から
$$
\langle T,u\rangle=\sum_{|I|=q}\langle T,u_{\complement I}\,dx^{\complement I}\rangle=\sum_{|I|=q}\varepsilon(I,\complement I)\,T_I(u_{\complement I})
$$
である($\varepsilon(I,\complement I)^2=1$)。一意性は、この等式に $u=\varphi\,dx^{\complement I}$ を代入すると $T_I(\varphi)$ が取り出せることから分かる。$\square$
$T=T_f$、$f=\sum_If_Idx^I$ なら、$f\wedge\varphi\,dx^{\complement I}=\varepsilon(I,\complement I)f_I\varphi\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^m$ より $T_I$ は正則超関数 $f_I$ である。したがって $T_f=T_g$ なら各成分で $f_I=g_I$ が超関数として等しく、超関数 の命題「局所可積分関数の埋め込みは単射」によりほとんど至る所 $f=g$ である。これで ex-current-form の単射性が示された。
成分表示により、次数 $q$ のカレントは「係数が超関数の $q$-形式」であり、位数 $0$ のカレントは「係数が測度の $q$-形式」であるDem12。
次元 $p\ge1$ のカレント $T$ に対し、次元 $p-1$ のカレント $\partial T$ を
$$
\langle\partial T,\omega\rangle:=\langle T,d\omega\rangle\qquad(\omega\in\mathcal D^{p-1}(M))
$$
で定め、$T$ の境界という。次元 $0$ のカレントには $\partial T:=0$ とおく。$\partial T=0$ となるカレントをサイクルまたは閉カレントという。
$d$ は台を広げず、局所座標で係数を 1 回微分するだけなので、$p^s_L(d\omega)\le C\,p^{s+1}_L(\omega)$ である。よって $\partial T$ の連続性評価は $T$ の評価から従い、$\partial T$ はカレントになる(位数は高々 $1$ 上がる)。
カレントを微分形式の一般化とみるときは、次数を 1 上げる外微分を使う。
次数 $q$ のカレント $T$ に対し、次数 $q+1$ のカレント $dT$ を
$$
\langle dT,u\rangle:=(-1)^{q+1}\langle T,du\rangle\qquad(u\in\mathcal D^{m-q-1}(M))
$$
で定めるDem12。すなわち $dT=(-1)^{q+1}\partial T$ である。
$f$ を $C^1$ 級の $q$-形式とすると $dT_f=T_{df}$ である。また $d(dT)=0$ であり、$Z$ が $p$ 次元なら
$$
d[Z]=(-1)^{m-p+1}[\partial Z]
$$
である。
$u\in\mathcal D^{m-q-1}(M)$ とする。Leibniz 則により $d(f\wedge u)=df\wedge u+(-1)^qf\wedge du$ であり、$f\wedge u$ はコンパクトな台をもつ $(m-1)$-形式で $M$ は境界をもたないから、Stokes の定理により $\int_Md(f\wedge u)=0$ である。よって $\int_Mf\wedge du=(-1)^{q+1}\int_Mdf\wedge u$ であり
$$
\langle dT_f,u\rangle=(-1)^{q+1}\int_Mf\wedge du=\int_Mdf\wedge u=\langle T_{df},u\rangle
$$
となる。$d(dT)=\pm\partial\partial T=0$ は prop-current-boundary-basic の 1 から従う。$[Z]$ の次数は $q=m-p$ なので、prop-current-boundary-basic の 3 から $d[Z]=(-1)^{m-p+1}\partial[Z]=(-1)^{m-p+1}[\partial Z]$ である。$\square$
符号 $(-1)^{q+1}$ は、滑らかな形式に対して $dT_f=T_{df}$ となるように選んだものである。境界作用素 $\partial$ は Stokes の定理と符号なしで合い、外微分 $d$ は形式の外微分と符号なしで合う。両者は符号だけ異なる。
滑らかな $r$-形式 $g$ との外積 $T\wedge g$ を $\langle T\wedge g,u\rangle:=\langle T,g\wedge u\rangle$ で定めると、$T_f\wedge g=T_{f\wedge g}$ であり、Leibniz 則
$$
d(T\wedge g)=dT\wedge g+(-1)^{q}\,T\wedge dg
$$
が成り立つ($q$ は $T$ の次数)Dem12。
$u\in\mathcal D^{m-q-r-1}(M)$ に対し $d(g\wedge u)=dg\wedge u+(-1)^rg\wedge du$ だから $g\wedge du=(-1)^r\bigl(d(g\wedge u)-dg\wedge u\bigr)$ である。よって
$$\langle d(T\wedge g),u\rangle=(-1)^{q+r+1}\langle T,g\wedge du\rangle=(-1)^{q+1}\langle T,d(g\wedge u)\rangle-(-1)^{q+1}\langle T,dg\wedge u\rangle=\langle dT\wedge g,u\rangle+(-1)^q\langle T\wedge dg,u\rangle$$
である。
$\mathbb R$ 上で $I=[a,b]$($a< b$、標準の向き)とすると、$\langle\partial[I],\varphi\rangle=\int_a^b\varphi'(x)\,dx=\varphi(b)-\varphi(a)$ なので
$$
\partial[I]=[\{b\}]-[\{a\}]
$$
である。$\mathbb R^2$ の閉円板 $D$ では $\partial[D]=[\partial D]$(反時計回りの円周)であり、$[D]$ は $D$ の指示関数 $\mathbf 1_D$ が定める次数 $0$ のカレントに等しいから、prop-current-d-extends の符号で
$$
d\,\mathbf 1_D=-[\partial D]
$$
となる。跳びをもつ関数を微分すると、跳びの起こる曲線の上に集中したカレントが現れる。これは超関数 の例「Heaviside関数の微分」の 2 次元版である。
次の例は、開集合の上で閉じた形式を全体のカレントとみると閉でなくなることを示す。
$\mathbb R^2\setminus\{0\}$ 上の角形式
$$
\alpha=\frac{x\,dy-y\,dx}{x^2+y^2}
$$
は閉形式である。$|\alpha|$ は原点からの距離 $r$ について $1/r$ の程度なので係数は $\mathbb R^2$ 上で局所可積分であり、$T=T_{\alpha/2\pi}$ は $\mathbb R^2$ 上の次数 $1$ のカレントを定める。このとき
$$
dT=[\{0\}]
$$
である。すなわち $\langle dT,u\rangle=u(0)$($u\in C_c^\infty(\mathbb R^2)$)が成り立つ。
$q=1$ なので $\langle dT,u\rangle=(-1)^2\langle T,du\rangle=\frac1{2\pi}\int_{\mathbb R^2}\alpha\wedge du$ である。被積分関数は可積分なので、優収束定理により $\frac1{2\pi}\lim_{\varepsilon\to0}\int_{r\ge\varepsilon}\alpha\wedge du$ に等しい。$r>0$ では $d\alpha=0$ だから $d(u\alpha)=du\wedge\alpha=-\alpha\wedge du$ であり、境界つき多様体 $\{r\ge\varepsilon\}$ 上の Stokes の定理により
$$
\int_{r\ge\varepsilon}\alpha\wedge du=-\int_{\partial\{r\ge\varepsilon\}}u\,\alpha
$$
となる。$\{r\ge\varepsilon\}$ の外向き法線は原点を向くので、境界の円周 $r=\varepsilon$ は時計回りに向きづけられている。反時計回りの円周では $\alpha$ の引き戻しは $d\theta$ なので
$$
-\int_{\partial\{r\ge\varepsilon\}}u\,\alpha=\int_0^{2\pi}u(\varepsilon\cos\theta,\varepsilon\sin\theta)\,d\theta\longrightarrow2\pi\,u(0)\qquad(\varepsilon\to0)
$$
である。よって $\langle dT,u\rangle=u(0)=\langle[\{0\}],u\rangle$ である。$\square$
この例で、$\alpha$ は $\mathbb R^2\setminus\{0\}$ では閉じているが、原点を含めると $dT$ は原点に集中する。$dT$ の原点での重み $1$ は、証明で見たとおり原点を回る円周上の $\alpha/2\pi$ の積分であり、$\alpha$ が $\mathbb R^2\setminus\{0\}$ で完全形式でないことを示すのと同じ量である(微分形式 の例「閉形式だが完全形式でない 1-形式」)。$\alpha/2\pi$ を複素数で書くと $\frac{1}{2\pi i}\,d\log z$ の実部に当たり、このカレントの計算は留数定理と同じ構造をもつ。
$F\colon M_1\to M_2$ を向きづけられた多様体の間の滑らかな固有写像(コンパクト集合の逆像がコンパクト)とする。次元 $p$ のカレント $T$ に対し
$$
\langle F_*T,\omega\rangle:=\langle T,F^*\omega\rangle\qquad(\omega\in\mathcal D^p(M_2))
$$
で定まる次元 $p$ のカレント $F_*T$ を、$T$ の $F$ による押し出し(順像)という。
$F$ が固有なので $F^*\omega$ はコンパクトな台をもち、右辺は意味をもつ。$F$ 全体が固有でなくても、$T$ の台の上で $F$ が固有なら同様に定義できるDem12。押し出しは次元を保つが、$M_1$ と $M_2$ の次元が違えば次数は変わる。
$\partial(F_*T)=F_*(\partial T)$ である。また $G\colon M_2\to M_3$ も固有なら $(G\circ F)_*=G_*F_*$ である。$N$ を境界をもたない向きづけられた多様体、$F\colon N\to M$ を固有な埋め込みとし、像 $F(N)$ に $F$ で向きを移すと $F_*[N]=[F(N)]$ である。
引き戻しと外微分は可換($F^*d=dF^*$)なので $\langle\partial F_*T,\omega\rangle=\langle T,F^*d\omega\rangle=\langle T,dF^*\omega\rangle=\langle F_*\partial T,\omega\rangle$ である。$(G\circ F)^*=F^*G^*$ から 2 番目が従う。最後は、$F\colon N\to F(N)$ が向きを保つ微分同相なので $\int_NF^*\omega=\int_{F(N)}\omega$ となることによる。$\square$
カレントの列 $T_j$ が $T$ に弱収束するとは、すべてのテスト形式 $\omega$ について $\langle T_j,\omega\rangle\to\langle T,\omega\rangle$ となることをいう。定義から、弱収束すれば $\partial T_j\to\partial T$、$F_*T_j\to F_*T$ である。たとえば $\mathbb R^2$ の半径 $\varepsilon$ の円周の積分カレント $[S_\varepsilon]$ は、$\bigl|\int_{S_\varepsilon}\omega\bigr|\le2\pi\varepsilon\sup|\omega|$ から $\varepsilon\to0$ で $0$ に弱収束する。また $\mathbb R^m$ の開集合上のカレントは、軟化子との畳み込みで作った滑らかな形式によって弱収束の意味で近似できる(Dem12 Ch. I §2.D.3、p. 19)。
$d\circ d=0$ なので、カレントも複体
$$
\cdots\xrightarrow{\ d\ }\mathcal D'^{\,q-1}(M)\xrightarrow{\ d\ }\mathcal D'^{\,q}(M)\xrightarrow{\ d\ }\mathcal D'^{\,q+1}(M)\xrightarrow{\ d\ }\cdots
$$
をなす。prop-current-d-extends により、滑らかな形式を $f\mapsto T_f$ でカレントとみる写像はこの複体への複体の射であり、コホモロジーの間の写像を引き起こす。
この記事では証明しない。1 は Dem12 Ch. I Theorem (2.24)(p. 20)で、カレントを微分同相で少しずらして平均し、滑らかな形式とコホモロジー類が等しいことを示してから、形式の Poincaré の補題を使う。2 は同書 Ch. IV (6.4)・(6.8)(pp. 213–214)で、滑らかな形式の層もカレントの層も定数層 $\mathbb R$ の非輪状な分解であることから、両者のコホモロジーがともに層コホモロジー $H^q(M,\mathbb R)$ に等しいことを導く。滑らかな形式についての同型はde Rhamの定理 である。
$M$ をコンパクトとし、$Z\subset M$ を境界のないコンパクトな $p$ 次元の向きづけられた部分多様体とする。$[Z]$ は次数 $m-p$ の閉カレントであり、thm-current-de-rham により $[Z]=T_\beta+dS$($\beta$ は滑らかな閉 $(m-p)$-形式)と書ける。このとき、すべての滑らかな閉 $p$-形式 $\eta$ について
$$
\int_Z\eta=\int_M\beta\wedge\eta
$$
が成り立つ。
$Z$ は境界をもたないので prop-current-boundary-basic の 3 により $\partial[Z]=0$、したがって $d[Z]=0$ である。$M$ はコンパクトなので $\eta$ はテスト形式であり
$$
\int_Z\eta=\langle[Z],\eta\rangle=\langle T_\beta,\eta\rangle+\langle dS,\eta\rangle=\int_M\beta\wedge\eta\pm\langle S,d\eta\rangle=\int_M\beta\wedge\eta
$$
である($d\eta=0$ を使った)。$\square$
$\beta$ の類は、$Z$ の Poincaré 双対と呼ばれる類である。Poincaré双対 の定理「de Rham コホモロジーの双対」の後の注では、Poincaré 双対類 $\eta_Z$ を $\int_Z\omega=\int_M\omega\wedge\eta_Z$ と右側に置いて定めている。$\beta\wedge\eta=(-1)^{p(m-p)}\eta\wedge\beta$ なので $\eta_Z=(-1)^{p(m-p)}[\beta]$ であり、$p(m-p)$ が偶数のとき(たとえば複素多様体の複素部分多様体)両者は一致する。カレントを使うと、この類の代表として $[Z]$ そのものを使える。
複素多様体 $X$ の上では、テスト形式の $(p,q)$ 型の分解に応じて、カレントにも $(p,q)$ 型が定まる。$X$ の純 $p$ 次元(すべての既約成分が $p$ 次元)の複素解析的部分集合 $A$ に対し、特異点を除いた部分 $A_{\mathrm{reg}}$ の上の積分
$$
\langle[A],v\rangle:=\int_{A_{\mathrm{reg}}}v
$$
は収束し、閉じた正カレントを定める(Lelong の定理、Dem12 Ch. III Theorem (2.7)、p. 140)。この記事では証明しない。$A$ が特異点をもっても積分カレント $[A]$ が閉じていることは、代数的サイクルのコホモロジー類を考えるときの基礎になる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $Z$ に境界がない | 閉円板 $D\subset\mathbb R^2$ | $[Z]$ が閉カレント($\partial[D]=[\partial D]\neq0$) |
| 形式が全体で滑らか | 角形式 $\alpha/2\pi$($\mathbb R^2$ 上) | 閉形式の延長が閉カレント($dT=[\{0\}]$) |
| $F$ が $T$ の台の上で固有 | $\sum_{k\ge1}[\{k\}]$ と $\arctan$ | 押し出し $F_*T$ が定義されること |
| テスト形式の台がコンパクト | $[\mathbb R]$ と $1$-形式 $dx$ | $\langle T,\omega\rangle$ が有限 |
1 行目と 2 行目は ex-current-interval-disk と ex-current-angle-form で確かめた。
$\mathbb R$ 上で $T=\sum_{k\ge1}[\{k\}]$ とする。どのコンパクト集合とも有限個の点しか交わらないので、$T$ は次元 $0$ のカレントである。$F=\arctan\colon\mathbb R\to\mathbb R$ は $\operatorname{supp}T=\{1,2,\dots\}$ の上で固有でない($F^{-1}([0,\pi/2])\cap\operatorname{supp}T$ は無限集合)。$\pi/2$ の近くで $1$ になる $\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R)$ をとると、$\varphi(\arctan k)=1$ が十分大きいすべての $k$ で成り立つので
$$
\langle T,F^*\varphi\rangle=\sum_{k\ge1}\varphi(\arctan k)
$$
は発散する。$F_*T$ を定義の式で定めることはできない。この反例は、固有性の仮定を外すと押し出しが存在しないことを示す。
$\mathbb R$ 上の積分カレント $[\mathbb R]$ は $\langle[\mathbb R],\omega\rangle=\int_{\mathbb R}\omega$ であるが、コンパクトな台をもたない $\omega=dx$ では値 $\int_{\mathbb R}dx$ が発散する。カレントをコンパクトな台のテスト形式の上で定義するのはこのためである。台がコンパクトなカレントは、逆に台がコンパクトでない滑らかな形式すべてに作用できる(Dem12 Ch. I (2.3) の後の注意、p. 14)。
この記事の「積分カレント」は、部分多様体上の積分で定まるカレント $[Z]$(current of integration)の意味である。幾何学的測度論(Federer–Fleming)には、整数の重複度をもつより一般の集合上の積分で表されるカレントの理論があり、integral current の語はそちらを指すことがある。この記事では扱わない。また、2 つのカレントの外積は、超関数 の注意「超関数どうしの積が一般にはないこと」と同じ理由で一般には定義されない。滑らかな形式との外積だけが常に定義できる。
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