sin kxとcos kxの和(sums of sines and cosines)とは、$\sum_{k=1}^{n}\cos kx$ と $\sum_{k=1}^{n}\sin kx$ を 1 つの式で表す公式である。$x$ が $2\pi$ の整数倍でなければ順に $\frac{\sin\frac{nx}{2}\cos\frac{(n+1)x}{2}}{\sin\frac{x}{2}}$、$\frac{\sin\frac{nx}{2}\sin\frac{(n+1)x}{2}}{\sin\frac{x}{2}}$ に等しく、整数倍なら $n$、$0$ である。$2\sin\frac{x}{2}$ を掛けて積和の公式で隣どうしを打ち消すか、公比 $\cos x+i\sin x$ の等比数列の和として導く。$N\ge2$ なら 1 の $N$ 乗根すべての和は $0$ である。
角が等差数列になっている余弦の和
$$
\cos x+\cos2x+\cos3x+\cdots+\cos nx
$$
や、同じ形の正弦の和を考える。$x$ に特別な角を入れれば値を 1 つずつ計算できるが、$n$ が大きくなると大変である。この記事では、この和を 1 つの式で表す公式を導き、その公式が何を意味しているかを見る。
使う道具は 2 つある。1 つは積和の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)で、和の各項に同じ正弦を掛けると、隣どうしの項が打ち消し合う形になる。もう 1 つは複素数で、和を等比数列の和と見る(等差数列と等比数列、複素数の掛け算は回転と拡大)。
$\cos\dfrac\pi2=0$、$\cos\pi=-1$、$\cos\dfrac{3\pi}2=0$ なので
$$
\cos\frac\pi2+\cos\pi+\cos\frac{3\pi}2=0+(-1)+0=-1
$$
である。
次に、$x$ を文字のまま扱う。積和の公式 $2\sin\alpha\cos\beta=\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)$ で $\alpha=\dfrac x2$、$\beta=kx$ とおくと、$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ から
$$
2\sin\frac x2\cos kx=\sin\frac{(2k+1)x}2-\sin\frac{(2k-1)x}2
$$
となる。$k=1,2,3$ を入れて足すと
$$
\begin{aligned}
2\sin\frac x2\,(\cos x+\cos2x+\cos3x)
&=\Bigl(\sin\frac{3x}2-\sin\frac x2\Bigr)+\Bigl(\sin\frac{5x}2-\sin\frac{3x}2\Bigr)+\Bigl(\sin\frac{7x}2-\sin\frac{5x}2\Bigr)\\
&=\sin\frac{7x}2-\sin\frac x2
\end{aligned}
$$
である。$\sin\dfrac{3x}2$ と $\sin\dfrac{5x}2$ が、正と負で 1 回ずつ現れて消えた。$x=\dfrac\pi2$ を入れると、左辺は $2\sin\dfrac\pi4\times(\text{求める和})=\sqrt2\times(\text{求める和})$、右辺は $\sin\dfrac{7\pi}4-\sin\dfrac\pi4=-\dfrac{\sqrt2}2-\dfrac{\sqrt2}2=-\sqrt2$ なので、和は $-1$ である。直接計算した値と一致する。
$\sin\dfrac\pi3=\dfrac{\sqrt3}2$、$\sin\dfrac{2\pi}3=\dfrac{\sqrt3}2$、$\sin\pi=0$、$\sin\dfrac{4\pi}3=-\dfrac{\sqrt3}2$ なので、和は
$$
\frac{\sqrt3}2+\frac{\sqrt3}2+0-\frac{\sqrt3}2=\frac{\sqrt3}2
$$
である。この値は、後の thm-ssc-main の式 $\dfrac{\sin\frac{nx}2\sin\frac{(n+1)x}2}{\sin\frac x2}$ に $n=4$、$x=\dfrac\pi3$ を入れた $\dfrac{\sin\frac{2\pi}3\sin\frac{5\pi}6}{\sin\frac\pi6}=\dfrac{\frac{\sqrt3}2\cdot\frac12}{\frac12}=\dfrac{\sqrt3}2$ と一致する。
2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $2\sin\frac x2$ を掛けて積和の公式で打ち消す | 差の和(隣どうしが消える和) | prf-ssc-main |
| $\cos kx+i\sin kx=(\cos x+i\sin x)^k$ | 公比 $\cos x+i\sin x$ の等比数列の和 | prf-ssc-main-complex |
| 正 $N$ 角形の頂点の座標の和は $0$ | 1 の $N$ 乗根の和は $0$ | cor-ssc-roots |
| $\frac12+\cos x+\cdots+\cos nx$ | Fourier 級数の部分和に現れる Dirichlet 核 | prop-ssc-dirichlet |
以下、$n$ は正の整数、$x$ は実数とし、
$$
C_n(x)=\sum_{k=1}^{n}\cos kx=\cos x+\cos2x+\cdots+\cos nx,\qquad S_n(x)=\sum_{k=1}^{n}\sin kx=\sin x+\sin2x+\cdots+\sin nx
$$
とおく。和は $k=1$ から始め、$k=0$ の項($\cos0=1$、$\sin0=0$)は入れない。$k=0$ から始める和との違いは ex-ssc-start-index で扱う。
$x$ が $2\pi$ の整数倍でない(つまり $\sin\dfrac x2\ne0$ である)とき、
$$
C_n(x)=\sum_{k=1}^{n}\cos kx=\frac{\sin\frac{nx}2\,\cos\frac{(n+1)x}2}{\sin\frac x2},\qquad
S_n(x)=\sum_{k=1}^{n}\sin kx=\frac{\sin\frac{nx}2\,\sin\frac{(n+1)x}2}{\sin\frac x2}
$$
である。$x$ が $2\pi$ の整数倍なら、$C_n(x)=n$、$S_n(x)=0$ である。
$\sin\dfrac x2=0$ と「$x$ が $2\pi$ の整数倍」が同じであることを確かめておく。$\sin\theta=0$ となるのは $\theta$ が $\pi$ の整数倍のときだけなので、$\sin\dfrac x2=0$ は $\dfrac x2=m\pi$($m$ は整数)、つまり $x=2m\pi$ と同じである。$x=2m\pi$ なら、すべての $k$ で $\cos kx=\cos2km\pi=1$、$\sin kx=0$ なので、$C_n(x)=n$、$S_n(x)=0$ である。
方針:両辺に $2\sin\frac x2$ を掛けた式を示す。各項 $2\sin\frac x2\cos kx$ を積和の公式で 2 つの正弦の差に直すと、隣どうしが打ち消し合い、両端だけが残る。残った差を和積の公式で積に戻す。
段 1(1 項ずつ差に直す)。積和の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)
$$
2\sin\alpha\cos\beta=\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)
$$
で $\alpha=\dfrac x2$、$\beta=kx$ とおくと、$\alpha+\beta=\dfrac{(2k+1)x}2$、$\alpha-\beta=-\dfrac{(2k-1)x}2$ である。$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ なので
$$
2\sin\frac x2\cos kx=\sin\frac{(2k+1)x}2-\sin\frac{(2k-1)x}2\qquad(k=1,2,\dots,n)
$$
である。
段 2(足すと打ち消し合う)。段 1 の式を $k=1$ から $n$ まで足す。$k$ 番目の式の第 1 項 $\sin\frac{(2k+1)x}2$ と、$k+1$ 番目の式の第 2 項 $-\sin\frac{(2(k+1)-1)x}2=-\sin\frac{(2k+1)x}2$ は打ち消し合う。
$$
\begin{aligned}
2\sin\frac x2\,C_n(x)
&=\Bigl(\cancel{\sin\frac{3x}2}-\sin\frac x2\Bigr)+\Bigl(\cancel{\sin\frac{5x}2}-\cancel{\sin\frac{3x}2}\Bigr)+\cdots+\Bigl(\sin\frac{(2n+1)x}2-\cancel{\sin\frac{(2n-1)x}2}\Bigr)\\
&=\sin\frac{(2n+1)x}2-\sin\frac x2
\end{aligned}
$$
残るのは、最後の式の第 1 項と最初の式の第 2 項だけである。
段 3(和積の公式で積に戻す)。和積の公式 $\sin A-\sin B=2\cos\dfrac{A+B}2\sin\dfrac{A-B}2$ で $A=\dfrac{(2n+1)x}2$、$B=\dfrac x2$ とおくと、$\dfrac{A+B}2=\dfrac{(n+1)x}2$、$\dfrac{A-B}2=\dfrac{nx}2$ なので
$$
2\sin\frac x2\,C_n(x)=2\cos\frac{(n+1)x}2\sin\frac{nx}2
$$
である。$\sin\frac x2\ne0$ なので両辺を $2\sin\frac x2$ で割ってよく、$C_n(x)$ の式が得られる。
段 4(正弦の和)。積和の公式 $2\sin\alpha\sin\beta=\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)$ で $\alpha=\dfrac x2$、$\beta=kx$ とおくと、$\cos(-\theta)=\cos\theta$ なので
$$
2\sin\frac x2\sin kx=\cos\frac{(2k-1)x}2-\cos\frac{(2k+1)x}2
$$
である。段 2 と同じく $k=1$ から $n$ まで足すと、隣どうしが打ち消し合って
$$
2\sin\frac x2\,S_n(x)=\cos\frac x2-\cos\frac{(2n+1)x}2
$$
となる。和積の公式 $\cos B-\cos A=2\sin\dfrac{A+B}2\sin\dfrac{A-B}2$($A,B$ は段 3 と同じ)により、右辺は $2\sin\dfrac{(n+1)x}2\sin\dfrac{nx}2$ である。$2\sin\frac x2$ で割って $S_n(x)$ の式が得られる。$\square$
段 4 で使った和積の公式 $\cos B-\cos A=2\sin\frac{A+B}2\sin\frac{A-B}2$ は、よく見る形 $\cos A-\cos B=-2\sin\frac{A+B}2\sin\frac{A-B}2$ の両辺に $-1$ を掛けたものである。
主定理の 2 つの式は、段 2 の途中の形で覚えておくと使いやすい。
$$
C_n(x)=\frac{\sin\frac{(2n+1)x}2-\sin\frac x2}{2\sin\frac x2},\qquad S_n(x)=\frac{\cos\frac x2-\cos\frac{(2n+1)x}2}{2\sin\frac x2}
$$
$n=3$、$x=\dfrac\pi2$:$C_3\left(\dfrac\pi2\right)=\dfrac{\sin\frac{3\pi}4\cos\pi}{\sin\frac\pi4}=\dfrac{\frac{\sqrt2}2\cdot(-1)}{\frac{\sqrt2}2}=-1$ で、ex-ssc-first-direct の値と一致する。
例 1 の「$\sin\frac x2$ を掛ける」工夫は、複素数を使うと自然に出てくる。$z=\cos x+i\sin x$ とおくと、de Moivre の定理(複素数の掛け算は回転と拡大)により
$$
z^k=\cos kx+i\sin kx
$$
である。したがって $C_n(x)+iS_n(x)=z+z^2+\cdots+z^n$ は、初項 $z$、公比 $z$ の等比数列の和である。等比数列の和の公式 $z+z^2+\cdots+z^n=\dfrac{z(z^n-1)}{z-1}$($z\ne1$)は、実数のときと同じ計算(和を $T$ として $zT-T$ を作る)で、複素数でも成り立つ。
要点:公比 $z$ の「半分」にあたる複素数 $w$ を使って、分母の $z-1$ と分子の $z^n-1$ を「$w$ の冪 $\times$ 純虚数」の形にする。実部と虚部を比べると 2 つの式が同時に出る。結果は $C_n(x)+iS_n(x)=\Bigl(\cos\frac{(n+1)x}2+i\sin\frac{(n+1)x}2\Bigr)\dfrac{\sin\frac{nx}2}{\sin\frac x2}$ である。
段 1($w$ を用意する)。$w=\cos\dfrac x2+i\sin\dfrac x2$ とおく。de Moivre の定理により $w^2=z$、$w^{2n}=z^n$ である。また $w^{-1}=\cos\dfrac x2-i\sin\dfrac x2$ である($w\cdot(\cos\frac x2-i\sin\frac x2)=\cos^2\frac x2+\sin^2\frac x2=1$ だから)。同じように、正の整数 $n$ について $w^{-n}=\cos\dfrac{nx}2-i\sin\dfrac{nx}2$ である。
段 2(分母)。$z-1=w^2-1=w\,(w-w^{-1})$ で、段 1 から $w-w^{-1}=2i\sin\dfrac x2$ である。よって$$z-1=2i\,w\sin\frac x2$$である。$\sin\frac x2\ne0$ なので $z\ne1$ であり、等比数列の和の公式が使える。
段 3(分子)。同じく $z^n-1=w^{2n}-1=w^n\,(w^n-w^{-n})$ で、段 1 から $w^n-w^{-n}=2i\sin\dfrac{nx}2$ なので$$z^n-1=2i\,w^n\sin\frac{nx}2$$である。
段 4(まとめる)。段 2・段 3 と $z=w^2$ から$$C_n(x)+iS_n(x)=\frac{z(z^n-1)}{z-1}=\frac{w^2\cdot2i\,w^n\sin\frac{nx}2}{2i\,w\sin\frac x2}=w^{n+1}\,\frac{\sin\frac{nx}2}{\sin\frac x2}$$である。de Moivre の定理により $w^{n+1}=\cos\dfrac{(n+1)x}2+i\sin\dfrac{(n+1)x}2$ で、$\dfrac{\sin\frac{nx}2}{\sin\frac x2}$ は実数である。両辺の実部と虚部を比べると、thm-ssc-main の 2 つの式が得られる。$\square$
| 積和の公式(prf-ssc-main) | 等比数列(prf-ssc-main-complex) | |
|---|---|---|
| 使う道具 | 積和・和積の公式 | de Moivre の定理、等比数列の和 |
| 何が打ち消し合うか | 隣どうしの正弦(差の和) | $zT-T$ で $z^2,\dots,z^n$ が消える |
| $\sin\frac x2$ の出どころ | 掛ける数として工夫して選ぶ | 分母 $z-1=2iw\sin\frac x2$ から自然に出る |
| 余弦の和と正弦の和 | 別々に示す | 実部と虚部で同時に出る |
2 つの証明は同じ計算を別の言葉で書いたものである。等比数列の和の公式の証明で $zT-T$ を作ると、$z^2,\dots,z^n$ の項が正と負で消える。$z-1=w(w-w^{-1})$ なので、両辺に $w^{-1}$ を掛けて 1 項ずつ見ると $(w-w^{-1})z^k=w^{2k+1}-w^{2k-1}$ である。左辺は $2i\sin\frac x2\,(\cos kx+i\sin kx)$ なので、両辺の虚部を比べると prf-ssc-main の段 1 の式になり、実部を比べると段 4 の式の両辺に $-1$ を掛けた式になる。
次の例は、主定理を $x=\frac\pi n$ で使うと、区分求積(区分求積と積分の定義)の和が正確に計算できることを示す。
$n\ge2$ とし、$x=\dfrac\pi n$ で、和を $k=1$ から $n-1$ までとる。主定理で $n$ を $n-1$ に替えると
$$
\sum_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n=\frac{\sin\frac{(n-1)\pi}{2n}\,\sin\frac{\pi}{2}}{\sin\frac{\pi}{2n}}=\frac{\cos\frac{\pi}{2n}}{\sin\frac{\pi}{2n}}=\frac1{\tan\frac{\pi}{2n}}
$$
である($\frac{(n-1)\pi}{2n}=\frac\pi2-\frac\pi{2n}$ と $\sin\left(\frac\pi2-\theta\right)=\cos\theta$ を使った)。
両辺に $\dfrac\pi n$ を掛けた $\dfrac\pi n\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n$ は、$\int_0^\pi\sin x\,dx=2$ を区分求積で近似した和である($k=n$ の項 $\sin\pi$ は $0$ なので、入れても同じ)。この値は $n=10$ で $1.98352\ldots$、$n=100$ で $1.99983\ldots$ である。$n\to\infty$ では、$\theta=\dfrac\pi{2n}$ とおくと $\dfrac\pi n\cdot\dfrac1{\tan\theta}=2\cdot\dfrac\theta{\sin\theta}\cdot\cos\theta\to2$ となり(sin x/xの極限)、積分の値 $2$ に一致する。
主定理で $\sin\frac{nx}2=0$ となるように $x$ を選ぶと、和が $0$ になる。
$N\ge2$ を整数、$m$ を $N$ の倍数でない整数とする。このとき
$$
\sum_{k=0}^{N-1}\cos\frac{2\pi mk}N=0,\qquad\sum_{k=0}^{N-1}\sin\frac{2\pi mk}N=0
$$
である。
方針:主定理で分子の $\sin\frac{nx}2$ が $0$ になり、分母は $0$ にならないことを確かめる。
段 1(分母)。$x=\dfrac{2\pi m}N$ とおく。$\dfrac x2=\dfrac{m\pi}N$ で、$m$ は $N$ の倍数でないので $\dfrac mN$ は整数でない。よって $\dfrac x2$ は $\pi$ の整数倍でなく、$\sin\dfrac x2\ne0$ である。
段 2(分子)。主定理で $n=N$ とすると、分子の因数 $\sin\dfrac{Nx}2=\sin m\pi=0$ なので、$C_N(x)=0$、$S_N(x)=0$ である。
段 3(和の範囲をずらす)。求める和は $k=0$ から $N-1$ まで、$C_N(x)$、$S_N(x)$ は $k=1$ から $N$ までの和である。$k=0$ の項と $k=N$ の項は、$\cos0=1=\cos2\pi m$、$\sin0=0=\sin2\pi m$ で等しいので、2 つの和は等しい。よってどちらも $0$ である。$\square$
$N=5$、$m=1$ のとき、系は、単位円に内接する正五角形の頂点 $\left(\cos\frac{2\pi k}5,\ \sin\frac{2\pi k}5\right)$($k=0,1,2,3,4$)の座標の和が $0$ であることを言っている。原点から各頂点へのベクトルを足すと $\vec0$ になる、と言ってもよい。図 1 は 5 本のベクトル、図 2 はそれらを順につないだものである。ベクトル $k$ の向きは、ベクトル $k-1$ の向きを $\frac{2\pi}5=72^\circ$ だけ回したものなので、順につなぐと 5 回曲がって向きが 1 周し、正五角形を描いて始点に戻る。戻るので、和は $\vec0$ である。
単位円上の正五角形の 5 つの頂点へ、原点から引いた 5 本のベクトル。
同じ 5 本のベクトルを順につなぐと正五角形を描いて始点に戻り、和が零ベクトルになることを見る図。
$N=6$、$m=3$:$\cos\dfrac{2\pi\cdot3k}6=\cos k\pi$ は $1,-1,1,-1,1,-1$ で、和は $0$ である。点は $(1,0)$ と $(-1,0)$ を 3 回ずつくり返す。
$N=5$、$m=2$:角は $0,\ \dfrac{4\pi}5,\ \dfrac{8\pi}5,\ \dfrac{12\pi}5,\ \dfrac{16\pi}5$ で、点は正五角形の頂点を 1 つおきにたどる(星形)。点の集まりは $m=1$ のときと同じなので、和はやはり $0$ である。
複素数で言えば、$\omega=\cos\frac{2\pi}N+i\sin\frac{2\pi}N$ とおくと系は $1+\omega^m+\omega^{2m}+\cdots+\omega^{(N-1)m}=0$ である。1 の $N$ 乗根の和が $0$ になることを使って係数を振り分ける方法は 1の冪根で数を振り分ける で扱う。正七角形の場合($\cos\frac\pi7-\cos\frac{2\pi}7+\cos\frac{3\pi}7=\frac12$)を、例 1 と同じく $\sin$ を掛けて打ち消す方法で示す問題は、加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の数学オリンピックの節にある。
主定理の余弦の和に $\frac12$ を足すと、式がさらに簡単になる。
正の整数 $n$ について、実数 $x$ の関数
$$
D_n(x)=\frac12+\sum_{k=1}^{n}\cos kx=\frac12+\cos x+\cos2x+\cdots+\cos nx
$$
を Dirichlet 核という。
1 の証明。prf-ssc-main の段 2 により $2\sin\frac x2\,C_n(x)=\sin\frac{(2n+1)x}2-\sin\frac x2$ である。両辺に $\sin\frac x2$ を足すと
$$
2\sin\frac x2\,\Bigl(C_n(x)+\frac12\Bigr)=\sin\frac{(2n+1)x}2
$$
で、$C_n(x)+\frac12=D_n(x)$、$\frac{(2n+1)x}2=\left(n+\frac12\right)x$ なので、$2\sin\frac x2$ で割れば 1 の式になる。$x$ が $2\pi$ の整数倍なら、主定理の後半から $C_n(x)=n$ なので $D_n(x)=n+\frac12$ である。
2 の証明。$\cos k(-x)=\cos kx$、$\cos k(x+2\pi)=\cos(kx+2k\pi)=\cos kx$ なので、各項が偶関数で周期 $2\pi$ をもつ。和も同じ性質をもつ。
3 の証明。$k\ge1$ の整数について $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}\cos kx\,dx=\Bigl[\frac{\sin kx}k\Bigr]_{-\pi}^{\pi}=\frac{\sin k\pi-\sin(-k\pi)}k=0$ である。よって $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}D_n(x)\,dx=\int_{-\pi}^{\pi}\frac12\,dx=\pi$ である。
4 の証明。1 の式で、分子について $\lvert\sin(n+\frac12)x\rvert\le1$ である。$\square$
Dirichlet 核 $D_n(x)$ の $n=2,5,10$ のグラフ。$x=0$ の山の高さ $n+\frac12$ は $n$ とともに高くなり、山の幅は狭くなることを見る図。
図 3 は $D_n$ のグラフである。次のことが読みとれ、どれも定義と prop-ssc-dirichlet から確かめられる。
$n=10$:$x=0$ で $10.5$、最初の $0$ 点は $x=\dfrac{2\pi}{21}=0.2991\ldots$ である。数値積分でも $\int_{-\pi}^{\pi}D_{10}(x)\,dx=3.14159\ldots$ となる。
| 外した条件・誤った推測 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\sin\frac x2\ne0$($x$ が $2\pi$ の整数倍でない) | $x=2\pi$ | 主定理の分数の式(分母が $0$ になる) |
| 和を $k=1$ から始める | $k=0$ から始めた和 | 主定理の式そのまま($\cos$ の和は $1$ ずれる) |
| 角が等差数列 $x,2x,\dots,nx$ | $\cos x+\cos4x+\cos9x$ | 隣どうしが打ち消し合うこと |
| (誤った推測)部分和がある範囲にとどまれば、1 つの値に近づく | $S_n\left(\frac\pi2\right)$、$C_n(1)$ | 無限和 $\sum\cos kx$ が値をもつこと |
$x=2\pi$ とすると、主定理の式は $\dfrac{\sin n\pi\cos(n+1)\pi}{\sin\pi}=\dfrac00$ の形になり、値が決まらない。実際の和は、すべての項が $\cos2k\pi=1$ なので $C_n(2\pi)=n$ である。prf-ssc-main の段 2 の等式 $2\sin\frac x2\,C_n(x)=\sin\frac{(2n+1)x}2-\sin\frac x2$ は $x=2\pi$ でも成り立つが、両辺とも $0$ で、$C_n$ について何も教えてくれない。段 3 で $2\sin\frac x2$ で割るところで、この条件を使っている。
一方、$x\to0$ の極限をとると、$\sin\theta\approx\theta$(sin x/xの極限)から$$\frac{\sin\frac{nx}2\cos\frac{(n+1)x}2}{\sin\frac x2}=\frac{\sin\frac{nx}2}{\frac{nx}2}\cdot\frac{\frac x2}{\sin\frac x2}\cdot n\cos\frac{(n+1)x}2\to1\cdot1\cdot n\cdot1=n$$となり、$C_n(0)=n$ に一致する。分数の式は $x=0$ では意味をもたないが、$x\to0$ の極限は正しい値になる。
$k=0$ から始めた和では、余弦の和には $\cos0=1$ が加わり、正弦の和は変わらない($\sin0=0$)。たとえば $x=1$、$n=3$ では
$$
\sum_{k=1}^{3}\cos k=-0.86583\ldots,\qquad\sum_{k=0}^{3}\cos k=1+(-0.86583\ldots)=0.13416\ldots
$$
である。主定理の式を $k=0$ から始める和に使うと $1$ だけずれる。
Dirichlet 核 $D_n$ では、$k=0$ の項の代わりに $\frac12$ を足している。$\frac12$ にするのは、式が $\dfrac{\sin(n+\frac12)x}{2\sin\frac x2}$ とまとまるからである(prop-ssc-dirichlet の 1)。cor-ssc-roots のように $k=0$ から $N-1$ までの和を扱うときも、範囲のずれを 1 項ずつ確かめる。
$\cos x+\cos4x+\cos9x$ では、$2\sin\frac x2$ を掛けて積和の公式を使っても、隣どうしの項が打ち消し合わない。
$\cos x+\cos4x+\cos9x$(角が $1^2x,2^2x,3^2x$)に $2\sin\frac x2$ を掛けると、積和の公式で$$\Bigl(\sin\frac{3x}2-\sin\frac x2\Bigr)+\Bigl(\sin\frac{9x}2-\sin\frac{7x}2\Bigr)+\Bigl(\sin\frac{19x}2-\sin\frac{17x}2\Bigr)$$となる。$k$ 番目の正の項 $\sin\frac{(2k^2+1)x}2$ と $k+1$ 番目の負の項 $\sin\frac{(2(k+1)^2-1)x}2$ は、$2k^2+1\ne2k^2+4k+1$($k\ge1$)なので同じにならず、打ち消し合わない。主定理の方法は、角が一定の差 $x$ で増えていること(公差 $x$ の等差数列)を使っている。
$x=\dfrac\pi2$ の正弦の和は、$\sin\frac{k\pi}2$ が $1,0,-1,0,1,0,-1,0,\dots$ とくり返すので
$$
S_1,S_2,S_3,\dots=1,\ 1,\ 0,\ 0,\ 1,\ 1,\ 0,\ 0,\ \dots
$$
である。部分和は $0$ と $1$ の間にとどまるが、1 つの値に近づかない。
$x=1$ の余弦の和 $C_n(1)$ も同じである。prop-ssc-dirichlet の 1・4 から $C_n(1)=D_n(1)-\frac12$ は
$$
-\frac12-\frac1{2\sin\frac12}\le C_n(1)\le-\frac12+\frac1{2\sin\frac12}
$$
を満たし、$-1.5429\ldots$ から $0.5429\ldots$ の範囲にとどまる。しかし図 4 のように、$n$ を大きくしても上下にゆれ続ける。
$C_n(1)$ がある値 $L$ に近づくとすると、$C_n(1)-C_{n-1}(1)=\cos n$ は $0$ に近づくはずである。すると $\cos(n+1)$ も $0$ に近づき、$\cos^2n+\cos^2(n+1)$ は $0$ に近づくはずである。ところが、下の exc-ssc-odd の (2) により、どの $n$ でも $\cos^2n+\cos^2(n+1)\ge1-\cos1=0.4596\ldots$ なので、これは起こらない。よって $C_n(1)$ は 1 つの値に近づかない。
$x=1$ での部分和 $C_n(1)$ を $n=1$ から $60$ まで打った図。2 本の破線の間にとどまるが、1 つの値には近づかないことを見る。
$\sin x\ne0$ のとき、$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\cos^2kx=\frac n2+\frac{\sin nx\cos(n+1)x}{2\sin x}$ を示せ。また $n=3$、$x=\dfrac\pi4$ で両辺を計算して確かめよ。
2 倍角の公式 $\cos^2kx=\dfrac{1+\cos2kx}2$ から、$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\cos^2kx=\frac n2+\frac12\sum_{k=1}^{n}\cos k(2x)$ である。主定理を $x$ の代わりに $2x$ で使う($\sin\frac{2x}2=\sin x\ne0$)と $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\cos k(2x)=\frac{\sin nx\cos(n+1)x}{\sin x}$ なので、示す式が得られる。$n=3$、$x=\frac\pi4$ では、左辺は $\frac12+0+\frac12=1$、右辺は $\frac32+\dfrac{\sin\frac{3\pi}4\cos\pi}{2\sin\frac\pi4}=\frac32-\frac12=1$ で一致する。
(1) 積和の公式から $2\sin x\cos(2k-1)x=\sin2kx-\sin(2k-2)x$ である。$k=1$ から $n$ まで足すと隣どうしが打ち消し合い、$2\sin x\sum_{k=1}^{n}\cos(2k-1)x=\sin2nx-\sin0=\sin2nx$ となる。$2\sin x$ で割ればよい。たとえば $n=3$、$x=\frac\pi8$ では両辺とも $0.92387\ldots$ である。
(2) 2 倍角の公式から $\cos^2n+\cos^2(n+1)=1+\dfrac{\cos2n+\cos(2n+2)}2$ で、和積の公式から $\cos2n+\cos(2n+2)=2\cos(2n+1)\cos1$ である。よって $\cos^2n+\cos^2(n+1)=1+\cos(2n+1)\cos1\ge1-\cos1$ である($\cos1>0$ と $\cos(2n+1)\ge-1$ から $\cos(2n+1)\cos1\ge-\cos1$)。$1-\cos1=0.4596\ldots>0$ なので、$\cos n$ と $\cos(n+1)$ が同時に $0$ に近づくことはない。
周期 $2\pi$ の関数 $f$ を、$\cos kx$、$\sin kx$ の和で近似することを考える。係数を
$$
a_k=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\cos kt\,dt,\qquad b_k=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\sin kt\,dt
$$
で決めた和 $s_n(x)=\dfrac{a_0}2+\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(a_k\cos kx+b_k\sin kx)$ を、$f$ の Fourier 級数の部分和という。係数がこの積分で決まる理由($\cos kx$、$\sin kx$ の直交性)は 三角関数の直交性(高校数学) で扱う。
係数の式を部分和に入れ、積分と有限和の順序を入れかえると
$$
s_n(x)=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\Bigl(\frac12+\sum_{k=1}^{n}\bigl(\cos kt\cos kx+\sin kt\sin kx\bigr)\Bigr)dt=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(t)\,D_n(x-t)\,dt
$$
となる。2 つ目の等号は、加法定理 $\cos kt\cos kx+\sin kt\sin kx=\cos k(x-t)$ による。つまり、Fourier 級数の部分和は、$f$ に Dirichlet 核を掛けて積分したもの($f$ と $D_n$ の畳み込み)である。
図 3 のように、$D_n$ は $n$ が大きいと $x=0$ の近くに高い山をもち、積分は $\pi$ のままである。このため $\frac1\pi\int f(t)D_n(x-t)\,dt$ は「$t=x$ の近くの $f$ の値」を強く拾い、多くの場合 $f(x)$ に近づく。ただし $D_n$ は負の値もとり、山の外の振動も $n$ とともに小さくはならない(図 3)。このため、部分和が $f(x)$ に近づくことを示すには $f$ についての条件が要る。連続な $f$ でも、部分和がある点で $f(x)$ に近づかない例が知られている(この記事では証明しない)。
大学の教科書(たとえば Leb26 §11.8.4)では、Dirichlet 核を $\displaystyle\sum_{k=-n}^{n}e^{ikx}=\frac{\sin(n+\frac12)x}{\sin\frac x2}$ と書くことが多い。$e^{ikx}+e^{-ikx}=2\cos kx$ なので、これはこの記事の $D_n$ の $2$ 倍である。
部分和 $D_0,D_1,\dots,D_n$ の平均 $\dfrac1{n+1}\displaystyle\sum_{j=0}^{n}D_j(x)$($D_0(x)=\frac12$ とする)を Fejér 核という。Fejér 核は負の値をとらない。Fourier 級数の部分和 $s_0,s_1,\dots,s_n$ の平均 $\dfrac1{n+1}\displaystyle\sum_{j=0}^{n}s_j$ は、連続な周期関数ならいつも元の関数に(一様に)近づく(Fejér の定理。この記事では証明しない)。
$x$ が $2\pi$ の整数倍でないとき、$$\frac1{n+1}\sum_{j=0}^{n}D_j(x)=\frac{\sin^2\frac{(n+1)x}2}{2(n+1)\sin^2\frac x2}\qquad(x\text{ は }2\pi\text{ の整数倍でない。}D_0(x)=\tfrac12)$$である。この式から、Fejér 核が負の値をとらないことが分かる。
prop-ssc-dirichlet の 1 から $2\sin\frac x2\,D_j(x)=\sin\left(j+\frac12\right)x$ である($j=0$ でも $D_0=\frac12$ で成り立つ)。もう一度 $2\sin\frac x2$ を掛け、積和の公式 $2\sin\alpha\sin\beta=\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)$ を使うと $4\sin^2\frac x2\,D_j(x)=\cos jx-\cos(j+1)x$ である。$j=0$ から $n$ まで足すと隣どうしが打ち消し合い、$4\sin^2\frac x2\sum_{j=0}^{n}D_j(x)=1-\cos(n+1)x=2\sin^2\frac{(n+1)x}2$ となる(2 倍角の公式)。両辺を $4(n+1)\sin^2\frac x2$ で割ればよい。
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