写像の制限(restriction of a map)とは、写像 $f\colon X\to Y$ の定義域を部分集合 $A\subseteq X$ に狭め、同じ値を与える写像 $f|_A\colon A\to Y$ を作る操作である。
写像の制限(restriction of a map)とは、写像 $f\colon X\to Y$ の定義域を部分集合 $A\subseteq X$ に狭め、同じ値を与える写像 $f|_A\colon A\to Y$ を作る操作である。
制限は写像の値を変えずに定義域だけを狭める操作である。局所的な情報を取り出し、それらが重なりで一致するかを調べる際の基本操作となる。
写像 $f\colon X\to Y$ と部分集合 $U\subseteq X$ に対し、$f$ の $U$ への制限(restriction)とは
$$
f|_U\colon U\to Y,\qquad f|_U(u)=f(u)
$$
で定まる写像である。対応規則と終域は保ち、定義域だけを $X$ から $U$ へ狭める。終域も小さく取り直す操作は、ここでいう制限とは区別する。
$V\subseteq U$ とする。各写像 $f\colon U\to Y$ をその制限 $f|_V\colon V\to Y$ へ送る写像
$$
\rho^U_V\colon \operatorname{Map}(U,Y)\to\operatorname{Map}(V,Y),\qquad
\rho^U_V(f)=f|_V
$$
を制限写像(restriction map)という。
多項式関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ を $U=[0,\infty)$ に制限すると、$f|_U\colon[0,\infty)\to\mathbb{R}$、$f|_U(x)=x^2$ を得る。対応規則は変わらないが、定義域が異なるので $f$ と $f|_U$ は写像として異なる。
$f\colon\mathbb R\to\mathbb R$、$f(x)=x^2$ を $[0,\infty)$ に制限すると単射になるが、$f|_{[0,\infty)}\colon[0,\infty)\to\mathbb R$ は負の実数を値に取らないので全射ではない。終域を無断で $[0,\infty)$ に変えて全単射と結論してはいけない。破れる条件は全射性である。
$U\subseteq X$、$f\colon X\to Y$ とする。$g\colon U\to Y$ がすべての $u\in U$ について $g(u)=f(u)$ を満たすならば、$g=f|_U$ である。したがって $f$ の $U$ への制限は一意である。
任意の $u\in U$ に対して、仮定と制限の定義から $g(u)=f(u)=f|_U(u)$ である。$g$ と $f|_U$ は定義域も終域も同じで、すべての入力における値が一致するので $g=f|_U$ である。$\square$
$U\subseteq X$、$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ とし、$\iota\colon U\to X$ を包含写像($\iota(u)=u$)とする。このとき $f|_U=f\circ\iota$ であり、$(g\circ f)|_U=g\circ(f|_U)$ である。
任意の $u\in U$ に対して $(f\circ\iota)(u)=f(\iota(u))=f(u)=f|_U(u)$ であり、両辺は $U$ から $Y$ への写像なので $f|_U=f\circ\iota$ である。後半は、結合律により $(g\circ f)|_U=(g\circ f)\circ\iota=g\circ(f\circ\iota)=g\circ(f|_U)$ である。$\square$
任意の集合 $U,Y$ に対して
$$
\rho^U_U=\mathrm{id}_{\operatorname{Map}(U,Y)}
$$
が成り立つ。
$W\subseteq V\subseteq U$ ならば
$$
\rho^V_W\circ\rho^U_V=\rho^U_W\colon
\operatorname{Map}(U,Y)\to\operatorname{Map}(W,Y)
$$
が成り立つ。
はじめに、任意の $f\in\operatorname{Map}(U,Y)$ と $u\in U$ に対して $\rho^U_U(f)(u)=f|_U(u)=f(u)$ である。したがって $\rho^U_U(f)=f$ であり、$\rho^U_U$ は $\operatorname{Map}(U,Y)$ 上の恒等写像である。
つぎに、任意の $f\in\operatorname{Map}(U,Y)$ と $w\in W$ に対して
$$
(\rho^V_W\circ\rho^U_V)(f)(w)
=\rho^V_W(f|_V)(w)
=(f|_V)|_W(w)
=f(w)
=f|_W(w)
=\rho^U_W(f)(w).
$$
よって二つの写像は一致する。$\square$
制限は元の写像と同じ値を使うが、定義域が小さくなることで単射性や全射性は異なる振る舞いをする。
$f\colon X\to Y$ が単射で $U\subseteq X$ なら、$f|_U\colon U\to Y$ も単射である。
$u,u'\in U$ が $f|_U(u)=f|_U(u')$ を満たすとする。制限の定義から $f(u)=f(u')$ であり、$f$ の単射性により $u=u'$ である。
逆に、ある部分集合への制限が単射でも元の写像が単射とは限らない。二乗写像 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ は単射でないが、$[0,\infty)$ への制限は単射である。また、全射の制限は一般に全射でない。恒等写像 $\operatorname{id}_{\mathbb R}$ は全射だが、$[0,1]$ への制限を終域 $\mathbb R$ のまま考えると全射でない。
$U\subseteq X$ と $A\subseteq U$、$B\subseteq Y$ に対して
$$
(f|_U)(A)=f(A),
\qquad
(f|_U)^{-1}(B)=U\cap f^{-1}(B)
$$
が成り立つ。
第1式では、どちらの辺も $\{f(a):a\in A\}$ である。第2式について、$u\in U$ に対し
$$
u\in(f|_U)^{-1}(B)
\Longleftrightarrow f|_U(u)=f(u)\in B
\Longleftrightarrow u\in U\cap f^{-1}(B)
$$
である。
$$
\Gamma_{f|_U}=\Gamma_f\cap(U\times Y)
$$
が成り立つ。
$(u,y)$ が左辺に属することは、$u\in U$ かつ $y=f|_U(u)=f(u)$ であることと同値である。これは $(u,y)\in U\times Y$ かつ $(u,y)\in\Gamma_f$ であることと同値なので、外延性から等式を得る。
制限は、全体の写像から部分集合上の局所データを取り出す。逆に、部分集合上の写像が重なりで一致すれば、一つの写像へ貼り合わせられる。
集合族 $(U_i)_{i\in I}$ が $X=\bigcup_{i\in I}U_i$ を満たし、各 $i$ について写像 $f_i\colon U_i\to Y$ が与えられているとする。任意の $i,j$ について
$$
f_i|_{U_i\cap U_j}=f_j|_{U_i\cap U_j}
$$
なら、すべての $i$ に対して $f|_{U_i}=f_i$ を満たす写像 $f\colon X\to Y$ がただ一つ存在する。
$x\in X$ とする。被覆の仮定から $x\in U_i$ となる $i$ が存在するので、$f(x):=f_i(x)$ と定める。別の $j$ も $x\in U_j$ を満たすなら $x\in U_i\cap U_j$ であり、重なり上の一致から $f_i(x)=f_j(x)$ となる。従って定義は $i$ の選び方によらない。これで写像 $f\colon X\to Y$ が定まり、定義から各 $U_i$ 上で $f_i$ と一致する。
$g\colon X\to Y$ も同じ制限をもつとする。任意の $x\in X$ に対して $x\in U_i$ となる $i$ を取れば
$$
g(x)=g|_{U_i}(x)=f_i(x)=f|_{U_i}(x)=f(x)
$$
である。従って $g=f$ であり、一意性が従う。
重なりでの一致は必要である。たとえば $U_1=U_2=\{0\}$、$f_1(0)=0$、$f_2(0)=1$ とすれば、両方を制限としてもつ写像は存在しない。この反例が破るのは「局所写像は条件なしに貼り合わさる」という含意である。
単なる集合の写像だけでなく、多くの構造を保つ写像も定義域の適切な部分へ制限できる。連続写像を部分空間へ制限すれば連続であり、可測写像を可測部分集合へ制限すれば可測である。群準同型を部分群へ制限すれば準同型である。ただし、制限後の定義域がその構造を受け継ぐことを確認する必要がある。
$f\colon X\to Y$ が連続で、$U\subseteq X$ に部分空間位相を入れると、$f|_U\colon U\to Y$ は連続である。
$V\subseteq Y$ を開集合とする。制限の逆像の式から
$$
(f|_U)^{-1}(V)=U\cap f^{-1}(V)
$$
である。$f$ の連続性により $f^{-1}(V)$ は $X$ で開であり、その $U$ との共通部分は部分空間 $U$ で開である。従って $f|_U$ は連続である。
$f|_U\colon U\to Y$ は定義域だけを狭める。もし $f(U)\subseteq V\subseteq Y$ なら、同じ対応規則で $U\to V$ という写像を作れるが、これは終域の取り直しである。特に $V=f(U)$ とすれば全射になる。二つの操作を同時に行うことはできるが、単射・全射の議論ではどちらを変えたかを明示する。
空集合への制限 $f|_\emptyset\colon\emptyset\to Y$ は一意な空写像である。制限写像 $\rho^U_\emptyset$ は、$U\to Y$ のどの写像も同じ空写像へ送る。従って $U$ と $Y$ によっては制限写像そのものが単射でない。
定義、写像の相等、合成、部分集合への制限については Hara20(第3章 §§3.1--3.3)、Matsusaka68(第1章 §§3--4, pp. 22--41)を参照した。
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