複素共役(complex conjugation)とは、複素数 $z=x+iy$ を $\overline z=x-iy$ に送る操作である。複素平面では実軸に関する反射であり、和・積を保ち、2回施すと元に戻る。実部・虚部の取り出し、絶対値や逆数の計算、実係数多項式の非実根が共役な組で現れることに使う。実線形かつ共役線形だが複素線形ではなく、写像 $z\mapsto\overline z$ 自体は正則でない。
複素数 $z=x+iy$($x,y\in\mathbb R$、$i^2=-1$)に対し、虚部の符号だけを変えた $x-iy$ を $z$ の複素共役(complex conjugate)といい、$\overline z$ と書く。すべての複素数をその共役へ送る写像 $c:\mathbb C\to\mathbb C$、$c(z)=\overline z$ を複素共役写像または複素共役(complex conjugation)という。同じ語が一つの数 $\overline z$ と写像 $c$ の両方に使われるため、文脈に応じて区別する(DLMF19 §1.9(i))。
複素平面を実平面と見たとき、$z=x+iy$ は座標 $(x,y)$、$\overline z=x-iy$ は $(x,-y)$ に対応する。したがって共役写像は実軸に関する反射である。実軸上の点は動かず、上半平面と下半平面を交換する。例えば $\overline{3+2i}=3-2i$、$\overline{-i}=i$、実数 $r$ なら $\overline r=r$ である。記号の上の横棒はこの操作を表し、確率論の平均値や集合の閉包を表す横棒と混同してはいけない。
複素共役は足し算と掛け算を保ち、2回行うと元に戻る。さらに複素数の絶対値を変えない。このため、代数では体の自己同型、幾何では反射、解析では正則性を反転させる操作として現れる。これらの見方は同じ $x+iy\mapsto x-iy$ の性質だが、複素線形な写像ではないことが重要である。以下、基礎恒等式を証明し、それぞれの文脈で使える範囲を明確にする。
$z=x+iy\in\mathbb C$($x,y\in\mathbb R$)の複素共役を $\overline z=x-iy$ と定める。複素共役写像は $c(z)=\overline z$ である。
$x$ と $y$ の表し方は一意なので、定義は曖昧でない。$z$ が実数かどうかは共役で判定できる。$z=\overline z$ と書いて $x+iy=x-iy$ を比べれば $y=0$ である。従って固定点集合 $\{z\in\mathbb C:\overline z=z\}$ はちょうど $\mathbb R$ となる。$z=-\overline z$ のときは $x=0$ で、純虚数の集合 $i\mathbb R$ が得られる。$0$ は実数でも純虚数でもあるので、この二つの分類は排他的ではない。
任意の $z,w\in\mathbb C$ について
$$
\overline{z+w}=\overline z+\overline w,\qquad
\overline{zw}=\overline z\,\overline w,\qquad
\overline{\overline z}=z
$$
が成り立つ。特に $\overline 0=0$、$\overline 1=1$ であり、$w\ne0$ なら $\overline{z/w}=\overline z/\overline w$ である。
$z=x+iy$、$w=u+iv$ とおく。和は $z+w=(x+u)+i(y+v)$ だから、その虚部の符号を変えると $(x+u)-i(y+v)=(x-iy)+(u-iv)$ になる。積は $zw=(xu-yv)+i(xv+yu)$ である。一方、$(x-iy)(u-iv)=(xu-yv)-i(xv+yu)$ なので、積についても等式が成り立つ。さらに $\overline{\overline z}=\overline{x-iy}=x+iy=z$。$1$ と $0$ は実数なので固定される。$w\ne0$ の場合、$\overline w\ne0$ は対合性から従う。$w(1/w)=1$ の両辺に共役を施すと $\overline w\,\overline{1/w}=1$ であり、$\overline{1/w}=1/\overline w$。これを積の等式に用いれば商の式を得る。
この証明で掛け算を保つことまで確かめたのが大切である。単なる平面の反射なら一般に複素数の乗法を保つとはいえないが、実軸に関するこの反射は乗法と両立する。多項式や有理式の計算で「式全体の共役を各成分に移す」ときは、上の二つの等式を繰り返し使っている。分母があるときは零でない条件を忘れない。
$z\in\mathbb C$ に対し
$$
\operatorname{Re}z=\frac{z+\overline z}{2},\qquad
\operatorname{Im}z=\frac{z-\overline z}{2i},\qquad
z\overline z=|z|^2,\qquad
|\overline z|=|z|
$$
が成り立つ。$z\ne0$ なら $1/z=\overline z/|z|^2$ である。
$z=x+iy$ とおけば $z+\overline z=2x$、$z-\overline z=2iy$ なので最初の二式を得る。また $(x+iy)(x-iy)=x^2+y^2=|z|^2$。$\overline z=x-iy$ の絶対値の平方も $x^2+y^2$ だから、双方が非負であることより $|\overline z|=|z|$。$z\ne0$ なら $|z|^2>0$ であり、$z(\overline z/|z|^2)=1$ から逆数の式が従う。
実部・虚部を取り出す式は「共役を使って複素数を実成分に分ける」公式である。例えば $1/(2+3i)=(2-3i)/13$ は逆数の式の一例である。分母を実数に直す計算は単なる技巧ではなく、$z\overline z$ が非負の実数になることに基づく(DLMF19 式 1.9.11–1.9.16)。ただし $z=0$ では逆数がない。$z\overline z=0$ から $z=0$ と結論できるのは、複素数体で $x^2+y^2=0$ なら $x=y=0$ だからである。
複素平面上の点を横軸が実部、縦軸が虚部の座標 $(x,y)$ で表すと、複素共役は $(x,y)\mapsto(x,-y)$ である。実軸上の点から測った上下の距離を保ったまま位置を反対側に移す。この説明は図を思い浮かべやすいが、代数的な内容もある。実数 $r$ を足してから共役をとっても $\overline{z+r}=\overline z+r$ であり、実軸に沿う平行移動とは両立する。これに対して虚数方向の平行移動は向きが変わり、$\overline{z+is}=\overline z-is$($s\in\mathbb R$)となる。
任意の $z,w\in\mathbb C$ について $|\overline z-\overline w|=|z-w|$。従って共役写像は複素平面の距離を保つ全単射で、円と直線をそれぞれ円と直線へ写す。実座標での行列は $\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ で、行列式は $-1$ である。
加法の公式により $\overline z-\overline w=\overline{z-w}$ であり、絶対値の公式から $|\overline{z-w}|=|z-w|$。共役を2回とると元に戻るので、写像は全単射である。中心 $a$、半径 $r$ の円を満たす $|z-a|=r$ は、共役後に $|\overline z-\overline a|=r$ を満たし、中心 $\overline a$ の円になる。直線は反射という実線形変換で直線に移る。基底 $(1,i)$ で $c(1)=1$、$c(i)=-i$ だから実行列は表示のとおりで、行列式は $-1$ となる。
例えば中心 $1+2i$、半径 $3$ の円は中心 $1-2i$、半径 $3$ の円へ移る。上半平面 $\operatorname{Im}z>0$ は下半平面 $\operatorname{Im}z<0$ へ移る。一方、単位円 $|z|=1$ は集合として保たれるが、各点が固定されるわけではない。単位円上では $z\overline z=1$ なので $\overline z=1/z$。例えば $i$ は $-i$ に移る。円全体が不変であることと、各点が不変であることを区別する。
$z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r\ge0$)と極形式で書けば、$\overline z=r(\cos\theta-i\sin\theta)=r(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta))$ である。絶対値 $r$ はそのままで偏角の符号が反転する。$r=0$ のとき偏角は定まらないので、偏角の式は $z\ne0$ に限る。偏角は $2\pi$ の整数倍を除いてしか定まらないため、厳密には「偏角の同値類が $\theta$ から $-\theta$ へ移る」と読む(DLMF19 式 1.9.12–1.9.13)。
複素共役は和・積・$1$ を保ち、逆写像も自分自身である。従って $\mathbb C$ から $\mathbb C$ への体自己同型である。さらにすべての実数を固定するので、$\mathbb R$ 上の体自己同型と呼ぶ。これは単なる「実係数の式に代入できる」という以上の主張で、体の四則演算と両立する全単射を与えるという意味である。
$\mathbb C$ の $\mathbb R$ 上の体自己同型は恒等写像と複素共役写像の二つだけである。従って $\operatorname{Aut}(\mathbb C/\mathbb R)=\{\mathrm{id},c\}$ は位数 $2$ の群である。
$\sigma:\mathbb C\to\mathbb C$ が $\mathbb R$ を点ごとに固定する体自己同型とする。$i^2=-1$ より $\sigma(i)^2=\sigma(-1)=-1$。複素数体で $X^2+1$ の根は $i$ と $-i$ の二つだから、$\sigma(i)=i$ または $-i$ である。任意の $x+iy$ は実数 $x,y$ と $i$ で表せるので $\sigma(x+iy)=x+\sigma(i)y$。前者なら恒等写像、後者なら複素共役である。どちらも実際に体自己同型であり、$c^2=\mathrm{id}$ なので結論を得る。
ここで「$\mathbb R$ 上」という指定が欠かせない。$\mathbb Q$ 上の体自己同型を考える場合、固定することを要求するのは有理数だけであり、実数の各点を固定するとは限らない。上の証明が二つに絞れるのは $\mathbb C=\mathbb R(i)$ と、すべての実数を固定する条件を使ったからである。複素共役が $\mathbb Q$ も固定するのは正しいが、「$\mathbb Q$ 上の自己同型が二つだけ」とは結論できない。代数的数全体への制限については 代数閉包・絶対Galois群 に接続する。
$p(X)\in\mathbb R[X]$ なら、任意の $z\in\mathbb C$ について $p(\overline z)=\overline{p(z)}$。特に $p(z)=0$ なら $p(\overline z)=0$ である。さらに $p\ne0$ で $z$ が非実数の根なら、$z$ と $\overline z$ は異なる根で、重複度も等しい。
$p(X)=\sum_{k=0}^n a_kX^k$、$a_k\in\mathbb R$ と書く。和と積の公式、$\overline{a_k}=a_k$ から $\overline{p(z)}=\sum a_k\overline z^{\,k}=p(\overline z)$。これで零多項式の場合も含めて根の主張が従う。以下 $p\ne0$ とする。$z$ が重複度 $m$ の根なら $p(X)=(X-z)^m q(X)$、$q(z)\ne0$ と複素係数で因数分解できる。両辺の係数を共役にすると、$p$ の係数は実数なので $p(X)=(X-\overline z)^m\overline q(X)$ である。また $\overline q(\overline z)=\overline{q(z)}\ne0$。従って $\overline z$ の重複度も $m$ である。
例えば $X^2-2X+5$ の根は $1+2i$ と $1-2i$ である。実係数多項式の非実根が組になるという言葉には、係数が実数であるという仮定が入っている。$X-i$ は $i$ を根にもつが $-i$ を根にもたない。複素係数の多項式 $p$ では一般に $p(\overline z)=\overline{p(z)}$ は成立せず、正しい式は係数も共役にした多項式 $\overline p(X)$ を用いた $\overline{p(z)}=\overline p(\overline z)$ である。
体の自己同型であることと、$\mathbb C$ を $\mathbb C$ 上の一次元ベクトル空間と見たときの線形写像であることは違う。複素線形写像 $T$ なら $T(iz)=iT(z)$ が必要だが、共役写像では $\overline{iz}=-i\overline z$ となる。$z=1$ とすれば $c(i)=-i$、$ic(1)=i$ で一致しない。一方、実数 $r$ については $c(rz)=r\,c(z)$ だから、$\mathbb C$ を二次元の実ベクトル空間と見れば $c$ は実線形である。
より一般に、複素ベクトル空間の写像 $T:V\to W$ が $T(v+w)=T(v)+T(w)$ と $T(av)=\overline a\,T(v)$ を満たすとき共役線形(反線形、antilinear)という。共役写像 $c:\mathbb C\to\mathbb C$ はその基本例である。成分ごとの共役 $c_n(z_1,\ldots,z_n)=(\overline z_1,\ldots,\overline z_n)$ も共役線形だが、複素線形ではない。実線形性は残る。共役線形写像二つの合成は複素線形になりうる。実際 $c_n^2=\mathrm{id}$ は複素線形である。
$c:\mathbb C\to\mathbb C$ は実線形かつ共役線形であるが、複素線形ではない。また、実線形写像 $T:\mathbb C\to\mathbb C$ が $T(1)=1$ と $T(i)=-i$ を満たせば $T=c$ である。
加法性は基本恒等式で示した。$a,z\in\mathbb C$ に対して $c(az)=\overline a\,\overline z=\overline a\,c(z)$ だから共役線形であり、$a\in\mathbb R$ では $\overline a=a$ なので実線形でもある。一方 $c(i)=-i\ne i=i\,c(1)$ だから複素線形ではない。最後に $T$ が条件を満たすなら、実線形性より $T(x+iy)=xT(1)+yT(i)=x-iy=c(x+iy)$。任意の複素数で一致するから $T=c$。
行列や内積では「共役」と「随伴」を分ける。複素行列 $A=(a_{jk})$ の成分ごとの共役 $\overline A=(\overline{a_{jk}})$ と、共役転置 $A^*=(\overline{a_{kj}})$ は一般には違う。例えば $A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ は実成分なので $\overline A=A$ だが、$A^*=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ である。複素内積では一方の変数について共役線形性が現れるが、どちらを線形とするかは流儀による。内積 の記事と記号の約束をそろえる必要がある。単に上付きの星だけを見て成分ごとの共役と判断してはいけない(MathWorldConj)。
共役写像 $c(z)=\overline z$ は連続で距離も保つが、複素微分可能ではない。$z_0$ における差商を計算すると
$$
\frac{c(z_0+h)-c(z_0)}{h}=\frac{\overline h}{h}.
$$
$h$ を実軸上で $0$ に近づければ値は $1$、虚軸上で近づければ $-1$ となる。二つの経路で極限が異なるため、どの点でも複素導関数をもたない。これは「実変数 $x,y$ に関して滑らか」と「複素変数 $z$ に関して正則」が異なることを最も簡単に示す例である。実座標では $c(x,y)=(x,-y)$ なので何回でも実微分できる。
$U\subseteq\mathbb C$ を開集合、$f:U\to\mathbb C$ を正則関数とし、$\overline U=\{\overline z:z\in U\}$ と置く。$g:\overline U\to\mathbb C$ を $g(z)=\overline{f(\overline z)}$ と定めると、$g$ は正則で、$g'(z)=\overline{f'(\overline z)}$ である。
$z\in\overline U$ とすると $\overline z\in U$ である。$h\ne0$ が十分小さければ $z+h\in\overline U$ であり、
$$
\frac{g(z+h)-g(z)}{h}
=\frac{\overline{f(\overline z+\overline h)-f(\overline z)}}{h}
=\overline{\frac{f(\overline z+\overline h)-f(\overline z)}{\overline h}}.
$$
$h\to0$ とともに $\overline h\to0$ だから、正則性より最後の式は $\overline{f'(\overline z)}$ に収束する。よって $g$ は各点で複素微分可能で、導関数の公式も得られる。
この命題では入力と出力の両方に共役を施している。出力だけを共役にした $z\mapsto\overline{f(z)}$ は一般には正則でない。例えば $f(z)=z$ なら共役写像そのものである。一方、$f(z)=z^2+1$ なら $g(z)=\overline{(\overline z)^2+1}=z^2+1$ と正則になる。領域が共役で保たれる場合、実係数の多項式・冪級数では $f(\overline z)=\overline{f(z)}$ となることが多い。ただし「領域が共役で保たれる」だけで任意の正則関数がこの等式を満たすわけではない。$f(z)=iz$ を反例にできる。
複素共役写像を反正則(antiholomorphic)写像の標準例と呼ぶ。反正則とは、入力を共役したときに正則になるという形で定められる。$c$ は正則ではないが、$c(\overline z)=z$ は正則である。一般の $f$ について $\overline{f(z)}$ も、$f$ が正則なら反正則である。正則写像と反正則写像を合成するときは、共役を何回行うかで結果が変わる。反正則性を単なる連続性や実微分可能性と同一視しない。
連結な開集合 $U\subseteq\mathbb C$ 上の正則関数 $f$ がすべての点で実数値をとるなら、$f$ は定数である。特に、正則な $f$ に対し値だけを共役にした $\overline{f(z)}$ も正則であるなら $f$ は定数である。
$f=u+iv$ と実部・虚部に分ける。実数値という仮定から $v=0$ である。正則性の Cauchy–Riemann 方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ より $u_x=u_y=0$。従って $u$ は各点の近傍で定数となる。連結な $U$ では局所定数関数は全体で定数なので $f$ は定数である。次に $f$ と $\overline f$ がともに正則とする。両者の和 $f+\overline f=2\operatorname{Re}f$ は正則で実数値だから、その実部は定数である。差を $i$ で割った $(f-\overline f)/i=2\operatorname{Im}f$ も正則で実数値だから虚部も定数である。従って $f$ は定数である。
最後の命題は連結性がないと「各連結成分で定数」に弱まる。例えば二つの離れた円板上で異なる実定数をとる関数は正則だが、全体では同じ定数にならない。また領域が開でなければ通常の複素微分の議論をそのまま適用できない。実軸上の関数が実数値であることから、複素平面の開集合上で定数とは結論できない。正則性は二次元の開近傍についての条件である(DLMF19 §1.9(ii)、Sim15 Part 2A)。
共役が便利なのは、与えられた式のどの部分が実数で固定されるかを明示したときである。$z^2+1$ の係数は実数なので $\overline{z^2+1}=\overline z^{\,2}+1$。対して $iz+1$ では係数 $i$ も共役になり、$\overline{iz+1}=-i\overline z+1$。根の共役や関数の対称性を主張する前に、係数と定義域の条件を確かめる。
共役は不等式の扱いも助ける。例えば $|z+w|^2=(z+w)(\overline z+\overline w)=|z|^2+|w|^2+2\operatorname{Re}(z\overline w)$ である。右辺は実数であり、交差項の実部を評価すれば三角不等式に進める。$z\overline w$ と $\overline zw$ は互いに共役だから、それらの和は実数である。この展開は複素内積の一変数の場合でもある。ただし $z\overline w$ 自体は一般には実数でない。例えば $z=i,w=1$ では $z\overline w=i$ である。
複素共役による反射は原点を通る実軸を固定する。原点を通らない直線についての反射も、平行移動や回転と共役を組み合わせて書けるが、その写像は通常、体の自己同型ではない。例えば $z\mapsto1+\overline z$ は直線 $\operatorname{Re}z=1/2$ に関する反射ではなく、実軸反射の後に実方向へ $1$ だけ移す写像である。後者は対合ですらなく、2回施すと $z+2$ になる。幾何的な「反射」や「等長性」だけから、四則演算を保つ性質を推論してはいけない。
最後に、複素共役を使う三つの読み方をまとめる。点の計算では $x+iy\mapsto x-iy$、実平面の幾何では実軸反射、体の代数では $\mathbb R$ を固定する位数2の自己同型である。複素解析では向きを反転させ、入力・出力の双方に共役を施せば正則関数から別の正則関数を作れる。どの読み方でも出発点は同じ定義だが、正則性、線形性、係数体の条件はそれぞれ別に確認する。
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