微分幾何学(differential geometry)とは、可微分多様体上で接空間・テンソル場・微分形式・計量・接続・曲率を用い、局所的な微分データと大域的な幾何・位相の関係を研究する分野である。微分構造から接ベクトルと外微分、計量から長さ・距離とLevi--Civita接続、接続から平行移動・測地線と曲率が定まる。リーマン幾何、擬リーマン幾何、シンプレクティック幾何、複素・Kähler幾何、微分位相、ゲージ幾何は、多様体にどの構造を載せるかによって分かれる。
微分幾何学(differential geometry)は、曲線・曲面・可微分多様体の上で微分を行い、接空間、計量、微分形式、接続、曲率などを用いて幾何学的性質を研究する分野である。局所座標では多変数微分積分学として計算できる一方、最終的な対象は座標の選び方に依存しない。
一つの可微分多様体には多くの追加構造を入れられる。リーマン幾何学では各接空間に内積を入れ、長さ・角度・距離・測地線を扱う。シンプレクティック幾何学では閉じた非退化2形式を入れ、Hamilton力学を記述する。複素幾何学では複素座標変換をもち、複素解析と位相の関係を調べる。接続の幾何学では異なる点の接ベクトルを比較し、その比較が経路に依存するずれを曲率として測るLee12Lee18。
可微分多様体とその上の滑らかな写像・テンソル場・微分形式・計量・接続・曲率を研究し、局所的な微分データと大域的な幾何・位相の関係を明らかにする数学の分野を微分幾何学という。
本記事は分野全体の地図を担う。可微分構造そのものは可微分多様体、テンソル演算はテンソル解析、外微分と積分は微分形式、計量と測地線・曲率はリーマン幾何学、個々の曲率量はリーマン曲率テンソル・断面曲率・リッチテンソル・スカラー曲率が詳しく扱う。
$n$ 次元可微分多様体 $M$ は各点の近くでは $\mathbb R^n$ の開集合に見える。座標近傍 $(U,x^1,\ldots,x^n)$ を取れば、滑らかな関数、曲線、ベクトル場は通常の偏微分で記述できる。しかし座標を替えると成分が変わるため、幾何学的対象には変換則が必要である。
点 $p\in M$ の接空間 $T_pM$ は、$p$ を通る曲線の速度を集めた線形空間である。滑らかな写像 $F:M\to N$ は微分
$$
dF_p:T_pM\longrightarrow T_{F(p)}N
$$
を誘導する。ベクトル場は各点 $p$ に $T_pM$ のベクトルを滑らかに割り当てたもので、1形式は接ベクトルを実数へ送る線形汎関数を滑らかに並べたものである。これらをテンソル積・外積・縮約で組み合わせるのがテンソル解析であるLee12。
局所計算から大域的結論へ進む代表的な仕組みは次の通りである。
リーマン計量 $g$ は各 $T_pM$ に内積 $g_p$ を滑らかに与える。区分的に滑らかな曲線 $\gamma:[a,b]\to M$ の長さは
$$
L_g(\gamma)=\int_a^b\sqrt{g_{\gamma(t)}(\dot\gamma(t),\dot\gamma(t))}\,dt
$$
である。ここから二点間の距離を、それらを結ぶ曲線の長さの下限として定義する。長さが曲線のパラメータ表示に依存しないことが、これを幾何学的量にしているLee18。
$\gamma:[a,b]\to M$ を区分的に滑らかな曲線、$\varphi:[c,d]\to[a,b]$ を向きを保つ区分的に滑らかな全単射で、逆写像も区分的に滑らかとする。このとき
$$
L_g(\gamma\circ\varphi)=L_g(\gamma)
$$
である。
連鎖律から
$$
(\gamma\circ\varphi)'(s)=\dot\gamma(\varphi(s))\varphi'(s)
$$
である。計量の双線形性と $\varphi'(s)\ge0$ により、速さは
$$
\sqrt{g((\gamma\circ\varphi)'(s),(\gamma\circ\varphi)'(s))}
=\varphi'(s)\sqrt{g(\dot\gamma(\varphi(s)),\dot\gamma(\varphi(s)))}
$$
となる。したがって変数変換 $t=\varphi(s)$ により
$$
L_g(\gamma\circ\varphi)
=\int_c^d\varphi'(s)\|\dot\gamma(\varphi(s))\|_g\,ds
=\int_a^b\|\dot\gamma(t)\|_g\,dt
=L_g(\gamma)
$$
を得る。
$\mathbb R^n$ に標準内積
$$
g=\sum_{i=1}^n dx^i\otimes dx^i
$$
を入れると、曲線の長さは通常の弧長になる。標準座標における接続係数と曲率はすべて0であり、微分幾何学の平坦な基準模型である。
単位球面 $S^n\subset\mathbb R^{n+1}$ に周囲のEuclid計量を制限すると、測地線は大円になる。$S^n$ は局所的には $\mathbb R^n$ に見えるが、正の曲率と非自明な大域位相をもつ。
$k$ 形式は各点で $k$ 本の接ベクトルを交代的に実数へ送るテンソル場である。外微分
$$
d:\Omega^k(M)\longrightarrow\Omega^{k+1}(M)
$$
は $d^2=0$ を満たす。$d\omega=0$ となる形式を閉形式、$\omega=d\eta$ と書ける形式を完全形式という。完全形式は閉形式だが、逆は大域的には成り立たない。その差を測るのがde Rhamコホモロジーである。
写像 $F:M\to N$ は形式を逆向きに引き戻す。関数の合成に対する連鎖律が、高次形式では「引き戻しと外微分が可換する」という形になる。
微分形式 $\omega$ が $\omega=d\eta$ と書けるなら、$d\omega=0$ である。
外微分の基本性質 $d\circ d=0$ を用いると
$$
d\omega=d(d\eta)=d^2\eta=0
$$
である。したがって完全形式は閉形式である。
円周 $S^1$ 上の角度1形式は局所的には $d\theta$ と書けるが、円周全体で一価な実数値角度関数 $\theta$ は存在しない。円周を一周する積分が0でないため、この閉1形式は大域的には完全でない。局所的に解ける微分方程式が大域位相によって妨げられる典型例である。
Stokesの定理
$$
\int_M d\omega=\int_{\partial M}\omega
$$
は、微分幾何学における局所と大域の橋である。微積分学の基本定理、Greenの定理、Gaussの発散定理はその特別な場合として統一されるLee12。
異なる点の接空間は別々の線形空間なので、ベクトル場をそのまま偏微分しても座標に依存する。接続 $\nabla$ はベクトル場 $X,Y$ に共変微分 $\nabla_XY$ を対応させ、曲線に沿う平行移動と測地線を定める。
接続の曲率は
$$
R(X,Y)Z=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z
$$
であり、二方向への共変微分を交換したときのずれを測る。リーマン計量がある場合、計量を保ち捩れがない接続がただ一つ存在し、リーマン接続という。リーマン曲率テンソルから2次元方向の断面曲率、その縮約であるリッチテンソル、さらに縮約したスカラー曲率が得られるLee18doCarmo92。
曲率の役割は「曲がって見える」ことだけではない。Gaussの驚異の定理は曲面のGauss曲率が計量から内在的に決まることを示す。Gauss--Bonnetの定理は曲率の積分をEuler標数へ結び付ける。Bonnet--Myersの定理は正のリッチ曲率下限から直径・コンパクト性・基本群の有限性を導く。このように局所テンソルが大域位相を拘束することが、微分幾何学の中心問題である。
リーマン幾何学は正定値計量を備えた多様体を扱う。長さ、距離、体積、測地線、曲率、完備性を研究し、球面・Euclid空間・双曲空間が三つの基本模型である。
内積の正定値性を外した計量を扱う。特に符号数が $(1,n-1)$ のLorentz計量は時間的・空間的・光的方向を区別し、一般相対性理論の時空を記述する。
閉じた非退化2形式 $\omega$ を備えた偶数次元多様体を扱う。局所的にはすべて標準形になるが、大域的なシンプレクティック容量、Lagrange部分多様体、Hamilton流には豊かな不変量がある。
複素多様体は複素解析的な座標変換をもつ。複素構造、リーマン計量、シンプレクティック形式が両立するKähler多様体では、三つの理論が強く結び付く。
微分可能写像の正則値、横断性、Morse関数、埋め込みなどを使い、多様体の位相を調べる。計量を固定せず、微分構造と滑らかな写像そのものに注目する点でリーマン幾何学と異なる。
ベクトル束や主束上の接続を扱い、曲率を場の強さとして読む。接束上の接続だけでなく一般のベクトル束・主 $G$ 束を扱うことで、特性類、Yang--Mills理論、ゲージ理論へつながる。
Lie群は群演算が滑らかな多様体である。単位元の接空間からLie代数が生じ、左移動により局所的な線形データが群全体へ運ばれる。代数構造と微分幾何が直接交わる例である。
曲面を $\mathbb R^3$ に埋め込むと、法線方向への曲がりを第2基本形式で測れる。一方、曲面上の距離だけから決まるGauss曲率は内在量である。円柱は空間内では曲がっているが、局所的には平面と同じ内在計量をもちGauss曲率は0である。
局所的にEuclid空間に同相な位相多様体であっても、滑らかな座標変換をもつアトラスが存在するとは限らない。また滑らかな構造が存在しても一意とは限らず、同じ位相的球面上に標準構造と微分同相でない構造が入ることがある。したがって微分幾何学では位相空間だけでなく微分構造もデータである。
次の順序で進むと、定義同士の依存関係を追いやすい。
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