2 次正方行列 $A$ の行列式 $\det A=ad-bc$ は、1 次変換 $x\mapsto Ax$ による符号付き面積の拡大率である。符号付き面積 $D(u,v)=u_1v_2-u_2v_1$ は、双線形で交代的な関数として定数倍を除いてただ一つなので $D(Au,Av)=\det A\cdot D(u,v)$ が成り立ち、どの平行四辺形・多角形の面積も $|\det A|$ 倍になり、符号は向きの保存・反転を表す。ここから $\det(AB)=\det A\det B$ が直ちに従う。整数成分のベクトル $u,v$ が格子 $\mathbb{Z}^2$ の基底になるのは、張る平行四辺形の面積が $1$ のときに限り、$SL_2(\mathbb{Z})$ は互除法によって 2 つの行列で生成される。1 次でない写像の局所的な拡大率がヤコビアンで、重積分の変数変換に現れる。
原点 $O$ と 2 点 $A(x_1,y_1)$, $B(x_2,y_2)$ を頂点とする三角形の面積は
$$
\triangle OAB=\frac12\,|x_1y_2-x_2y_1|
$$
で求められる。これは、$a=\overrightarrow{OA}$, $b=\overrightarrow{OB}$ のなす角を $\theta$ として $\triangle OAB=\frac12|a||b|\sin\theta$ と書き、$\sin\theta=\sqrt{1-\cos^2\theta}$ と $a\cdot b=|a||b|\cos\theta$ を使って
$$
\triangle OAB=\frac12\sqrt{|a|^2|b|^2-(a\cdot b)^2}
$$
とし、根号の中を成分で展開すると
$$
(x_1^2+y_1^2)(x_2^2+y_2^2)-(x_1x_2+y_1y_2)^2=(x_1y_2-x_2y_1)^2
$$
となることから従う。たとえば $A(3,1)$, $B(1,2)$ なら $\triangle OAB=\frac12|3\cdot2-1\cdot1|=\frac52$ である。
次に、平面の点 $(x,y)$ を点 $(3x+y,\ x+2y)$ に移す変換 $f$ を考える。$f$ は $O$ を $O$ に、$A(3,1)$ を $A'(10,5)$ に、$B(1,2)$ を $B'(5,5)$ に移すので、像の三角形の面積は
$$
\triangle OA'B'=\frac12|10\cdot5-5\cdot5|=\frac{25}2=5\times\triangle OAB
$$
である。面積がちょうど $5$ 倍になった。この $5$ は、$f$ を表す式の係数から作った $3\cdot2-1\cdot1$ に等しい。
この記事で示すのは、この倍率 $5$ は三角形の選び方によらないということである。$f$ はどんな三角形も、どんな平行四辺形も、どんな多角形も、面積を $5$ 倍にする(円や楕円のように面積が定まる一般の図形でも同じであることは、証明せずに引用で述べる)。その倍率が行列式であり、面積の公式に現れた $x_1y_2-x_2y_1$ そのものも行列式である。さらに、面積の拡大率という見方から、積の行列式の公式 $\det(AB)=\det A\det B$ が 1 行で出ること、成分が整数で面積 $1$ の平行四辺形が格子の「基底」と対応すること、重積分の変数変換でヤコビアンが現れる理由が見えてくる。
平面ベクトルを列ベクトル $u=\begin{pmatrix}u_1\\u_2\end{pmatrix}$ で表し、平面全体を $\mathbb{R}^2$ と書く。$e_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$, $e_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ とする。
$u,v\in\mathbb{R}^2$ について
$$
D(u,v):=u_1v_2-u_2v_1
$$
を、$u,v$ の張る平行四辺形の符号付き面積という。ここで $u,v$ の張る平行四辺形とは、$0,u,u+v,v$ を頂点とする(つぶれているかもしれない)平行四辺形 $\{su+tv:0\le s,t\le1\}$ のことである。
名前の理由は次の命題による。
$u,v\in\mathbb{R}^2$ とする。
1:平行四辺形の面積は三角形 $0,u,v$ の面積の 2 倍なので、前節の計算により $\sqrt{|u|^2|v|^2-(u\cdot v)^2}=|u_1v_2-u_2v_1|$ に等しい($u$ か $v$ が $0$ のときは両辺とも $0$)。平行四辺形がつぶれること、つまり面積が $0$ であることは、$u,v$ が同じ直線上にあることと同値である。
2:$u=|u|(\cos\alpha,\sin\alpha)$, $v=|v|(\cos\beta,\sin\beta)$ と書くと、正弦の加法定理により
$$
D(u,v)=|u||v|(\cos\alpha\sin\beta-\sin\alpha\cos\beta)=|u||v|\sin(\beta-\alpha)
$$
である。$\beta-\alpha$ と $\varphi$ の差は $2\pi$ の整数倍なので $\sin(\beta-\alpha)=\sin\varphi$ であり、$\sin\varphi>0\iff0<\varphi<\pi$ である。
3:$D(u,v)=u_1v_2-u_2v_1$ は、$v$ を固定すれば $u$ の成分の 1 次式で定数項がなく、$u$ を固定すれば $v$ の成分の同様の 1 次式である。これが双線形性 $D(su+s'u',v)=sD(u,v)+s'D(u',v)$ などを意味する。$D(u,u)=u_1u_2-u_2u_1=0$、$D(e_1,e_2)=1\cdot1-0\cdot0=1$ である。最後に、双線形性で展開すると $0=D(u+v,u+v)=D(u,u)+D(u,v)+D(v,u)+D(v,v)=D(u,v)+D(v,u)$ である。$\square$
1 と 2 をまとめると、$D(u,v)$ は「面積」に「向き」の符号を付けたものである。$u$ を $v$ に重ねる向きが反時計回りなら正、時計回りなら負になる。
2 次正方行列 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ について、写像 $f_A\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$, $f_A(x):=Ax$ を $A$ の定める 1 次変換という。成分で書けば $f_A\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}ax+by\\cx+dy\end{pmatrix}$ である。また
$$
\det A:=ad-bc
$$
を $A$ の行列式という。
$A$ の第 1 列は $Ae_1$、第 2 列は $Ae_2$ なので、$\det A=D(Ae_1,Ae_2)$ である。つまり行列式は、正方形 $e_1,e_2$(面積 $1$)の像である平行四辺形の符号付き面積である。前節の $f(x,y)=(3x+y,\ x+2y)$ は $A=\begin{pmatrix}3&1\\1&2\end{pmatrix}$ の定める 1 次変換で、$\det A=5$ であった。
1 次変換は線形である:$A(su+tv)=sAu+tAv$。このため、直線を直線(または 1 点)に、平行四辺形 $\{p+su+tv:0\le s,t\le1\}$ を平行四辺形 $\{Ap+sAu+tAv:0\le s,t\le1\}$ に移す。
まず、符号付き面積 $D$ が prop-lmd-signed-area-meaning の 3 の性質だけで(定数倍を除いて)決まってしまうことを示す。これが「拡大率が図形によらない」ことの本当の理由である。
関数 $F\colon\mathbb{R}^2\times\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ が各変数について線形で、すべての $u$ について $F(u,u)=0$ を満たすとする。このとき、すべての $u,v\in\mathbb{R}^2$ について
$$
F(u,v)=D(u,v)\,F(e_1,e_2)
$$
である。
prop-lmd-signed-area-meaning の 3 の最後と同じ計算で、$F(v,u)=-F(u,v)$ である。$u=u_1e_1+u_2e_2$, $v=v_1e_1+v_2e_2$ を代入して双線形性で展開すると
$$
F(u,v)=u_1v_1F(e_1,e_1)+u_1v_2F(e_1,e_2)+u_2v_1F(e_2,e_1)+u_2v_2F(e_2,e_2)
$$
であり、$F(e_1,e_1)=F(e_2,e_2)=0$, $F(e_2,e_1)=-F(e_1,e_2)$ を使うと $F(u,v)=(u_1v_2-u_2v_1)F(e_1,e_2)=D(u,v)F(e_1,e_2)$ となる。$\square$
$A$ を 2 次正方行列とする。すべての $u,v\in\mathbb{R}^2$ について
$$
D(Au,Av)=\det A\cdot D(u,v)
$$
が成り立つ。したがって次が成り立つ。
$F(u,v):=D(Au,Av)$ とおく。$u\mapsto Au$ は線形で $D$ は双線形なので $F$ も双線形であり、$F(u,u)=D(Au,Au)=0$ である。lem-lmd-uniqueness により
$$
D(Au,Av)=F(u,v)=D(u,v)F(e_1,e_2)=D(u,v)\,D(Ae_1,Ae_2)=D(u,v)\det A
$$
である。
1:$\Pi=\{p+su+tv:0\le s,t\le1\}$ とすると、$f_A(\Pi)=\{Ap+sAu+tAv:0\le s,t\le1\}$ は $Au,Av$ の張る平行四辺形を $Ap$ だけ平行移動したものである。平行移動で面積は変わらないので、prop-lmd-signed-area-meaning の 1 により $f_A(\Pi)$ の面積は $|D(Au,Av)|=|\det A|\,|D(u,v)|$、つまり $|\det A|$ と $\Pi$ の面積の積である。三角形 $p,\,p+u,\,p+v$ はその半分なので、同じ倍率になる。
2:$D(Au,Av)=\det A\cdot D(u,v)$ から直ちに従う。$\square$
この定理は成分の計算 $\bigl(a u_1+bu_2\bigr)\bigl(cv_1+dv_2\bigr)-\bigl(cu_1+du_2\bigr)\bigl(av_1+bv_2\bigr)=(ad-bc)(u_1v_2-u_2v_1)$ でも確かめられる。しかし lem-lmd-uniqueness を経由した証明は、「面積を測る」双線形で交代的なものは $D$ の定数倍しかないという構造から結論を出しており、なぜ倍率が図形の位置・形・大きさによらないのかを説明している。
多角形は有限個の三角形に、辺だけを共有するように分割できる。$\det A\ne0$ なら $f_A$ は全単射なので(下の cor-lmd-invertible)、分割した三角形の像は再び辺だけを共有する三角形に分かれ、各三角形の面積が $|\det A|$ 倍になるので多角形の面積も $|\det A|$ 倍になる。$\det A=0$ なら、$Ae_1,Ae_2$ が平行なので $Ax=x_1Ae_1+x_2Ae_2$ はすべて 1 本の直線上にあり、像の面積は $0$ である。
円や楕円のように多角形でない図形 $\Omega$ でも、面積が定まるもの(有界で、境界が面積 $0$ のもの。たとえば区分的に滑らかな曲線で囲まれた図形)については、$f_A(\Omega)$ の面積は $|\det A|$ と $\Omega$ の面積の積である。これは、$\Omega$ を方眼の正方形で内側と外側から近似し、各正方形の像が面積 $|\det A|$ 倍の平行四辺形になることを使って示される。本記事では証明せず、引用する。$\det A=0$ のときは、上で示したとおり $f_A$ の像全体が 1 本の直線に含まれるので、$f_A(\Omega)$ の面積は $0$ で、主張は成り立つ。$\det A\ne0$ のときは、Leb26 の Theorem 10.7.2(変数変換の公式。写像が単射で連続微分可能、ヤコビアンが $0$ にならないという条件のもとで、有界閉集合で境界が面積 $0$ のものについて述べたもの)を、写像 $f_A$(ヤコビアンは定数 $\det A\ne0$)と被積分関数 $1$ に適用したものである($\Omega$ が境界を含まなければ、面積 $0$ の境界を付け加えた図形に適用する。$f_A$ は境界を境界に移すので、$\Omega$ 側でも像の側でも面積は変わらない)。$\det A$ が $0$ かどうかによらず、任意の 1 次変換について $n$ 次元でまとめて述べたものが Axl24 の 9.61 である。
面積の拡大率という見方からは、積の行列式の公式がほとんど計算なしに出てくる。
2 次正方行列 $A,B$ について $\det(AB)=\det A\det B$ である。
$AB$ の第 $j$ 列は $ABe_j=A(Be_j)$ である。thm-lmd-area-scaling を $u=Be_1$, $v=Be_2$ に適用すると
$$
\det(AB)=D(ABe_1,ABe_2)=\det A\cdot D(Be_1,Be_2)=\det A\det B
$$
である。$\square$
変数を 1 次式で取り替えると 2 次形式の判別式が行列式の 2 乗倍になることは 2次形式と2次曲線の判別式 で扱う。
$f_{AB}=f_A\circ f_B$(先に $B$、次に $A$)なので、この公式は「面積を $\det B$ 倍してから $\det A$ 倍すれば $\det A\det B$ 倍」と読める。符号も込めて、向きを 2 回逆にすれば元に戻ることまで表している。
2 次正方行列 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ について、$A$ が逆行列をもつ($f_A$ が全単射である)ことと $\det A\ne0$ は同値である。このとき
$$
A^{-1}=\frac1{\det A}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix},\qquad\det(A^{-1})=\frac1{\det A}
$$
である。
$\det A\ne0$ なら、右辺の行列を $A$ に左右から掛けると単位行列 $I$ になることが成分の計算で確かめられるので、それが $A^{-1}$ である。$\det A=0$ なら、上で見たとおり $f_A$ の像は 1 本の直線に含まれるので $f_A$ は全射でなく、逆行列はない。最後の式は cor-lmd-product と $\det I=1$ から $\det A\det(A^{-1})=\det(AA^{-1})=1$ として得られる。$\square$
冒頭の公式 $\triangle OAB=\frac12|x_1y_2-x_2y_1|$ は、thm-lmd-area-scaling の特別な場合である。$a=\overrightarrow{OA}$, $b=\overrightarrow{OB}$ を列に並べた行列 $M=\begin{pmatrix}x_1&x_2\\y_1&y_2\end{pmatrix}$ は $e_1\mapsto a$, $e_2\mapsto b$ と移すので、面積 $\frac12$ の三角形 $O,e_1,e_2$ を三角形 $OAB$ に移す。よって $\triangle OAB=\frac12|\det M|=\frac12|x_1y_2-x_2y_1|$ である。
頂点が一般の位置 $P_1,P_2,P_3$ にあれば、$P_1$ を原点に平行移動して $\frac12\bigl|D(\overrightarrow{P_1P_2},\overrightarrow{P_1P_3})\bigr|$ となる。多角形を三角形に分けて符号付き面積を足し合わせると、多角形の面積を頂点の座標から求める公式(いわゆる靴ひも公式)も得られる。
| 変換 | 行列 | 行列式 | 面積 | 向き |
|---|---|---|---|---|
| 原点のまわりの角 $\theta$ の回転 | $\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$ | $1$ | 変わらない | 保つ |
| 直線 $y=x$ に関する対称移動 | $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ | $-1$ | 変わらない | 逆にする |
| $x$ 軸方向に $p$ 倍、$y$ 軸方向に $q$ 倍 | $\begin{pmatrix}p&0\\0&q\end{pmatrix}$ | $pq$ | $pq$ の絶対値倍 | $pq>0$ なら保つ |
| ずらし $(x,y)\mapsto(x+ky,\,y)$ | $\begin{pmatrix}1&k\\0&1\end{pmatrix}$ | $1$ | 変わらない | 保つ |
| $x$ 軸への正射影 | $\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$ | $0$ | $0$ になる | — |
回転の行列式は $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ である。ずらしで面積が変わらないことは、高校で学ぶ「底辺と高さが同じ平行四辺形は面積が等しい」(等積変形)の言い換えである。
楕円 $\frac{x^2}{p^2}+\frac{y^2}{q^2}\le1$($p,q>0$)は、単位円板 $x^2+y^2\le1$ を $\begin{pmatrix}p&0\\0&q\end{pmatrix}$ で移したものである。rem-lmd-general-region により、面積は $pq\cdot\pi=\pi pq$ である。高校では同じ値を積分 $\int_{-p}^{p}2q\sqrt{1-x^2/p^2}\,dx$ で計算するが、行列式を使えば円の面積 $\pi$ から直ちに得られる。
$A=\begin{pmatrix}3&1\\1&2\end{pmatrix}$ では $\det A=5$ である。冒頭の三角形は面積 $\frac52$ から $\frac{25}2$ になった。正方形 $0,e_1,e_1+e_2,e_2$ は、$0,(3,1),(4,3),(1,2)$ を頂点とする平行四辺形に移り、その面積は $D\bigl((3,1),(1,2)\bigr)=5$ である。$\det A>0$ なので向きも保たれ、$e_1$ から $e_2$ へ反時計回りの関係は、$(3,1)$ から $(1,2)$ へ反時計回りの関係に移る。
ずらし $B=\begin{pmatrix}1&2\\0&1\end{pmatrix}$ は $\det B=1$ なので面積と向きを保つ。しかし $e_2$ を長さ $\sqrt5$ の $(2,1)$ に移し、直角 $\angle(e_1,e_2)$ を直角でない角に変える。「行列式が $1$ ならば長さや角が保たれる」という含意は成り立たない。行列式は面積だけを測る量であり、長さと角を保つ変換(回転と対称移動)は行列式が $\pm1$ の変換のごく一部にすぎない。
$g(x,y):=(x^2,\,y)$($x>0$ で考える)は 1 次変換ではない。正方形 $[1,2]\times[0,1]$ は長方形 $[1,4]\times[0,1]$(面積 $3$)に、同じ大きさの正方形 $[2,3]\times[0,1]$ は $[4,9]\times[0,1]$(面積 $5$)に移る。面積の倍率が図形によって異なり、「倍率が図形によらない」という thm-lmd-area-scaling の結論は、線形性の仮定を外すと成り立たない。ただし、ごく小さい正方形の近くでは $g$ は 1 次変換で近似でき、その 1 次変換の行列式 $2x$ が局所的な倍率になる。これが後で述べるヤコビアンである。
$C=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}$ では $\det C=0$ で、$C\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=(x+2y)\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}$ なので、平面全体が直線 $y=2x$ に押しつぶされる。たとえば $(2,0)$ と $(0,1)$ はどちらも $(2,4)$ に移るので $f_C$ は単射でなく、逆変換はない。面積が $0$ になる(情報が失われる)ことが、逆行列がないことの図形的な意味である(cor-lmd-invertible)。
2 つの座標がともに整数である点を格子点といい、その全体を $\mathbb{Z}^2$ と書く。$e_1,e_2$ を使えば、どの格子点 $w=(m,n)$ も $w=me_1+ne_2$($m,n$ は整数)とただ一通りに書ける。同じことが別の 2 本のベクトルでもできるかを考える。
$u,v\in\mathbb{Z}^2$ が $\mathbb{Z}^2$ の基底であるとは、すべての $w\in\mathbb{Z}^2$ が整数 $m,n$ を使って $w=mu+nv$ とただ一通りに書けることをいう。
$u,v\in\mathbb{Z}^2$ とし、$u,v$ を列に並べた行列を $M$ とする($\det M=D(u,v)$ は整数である)。次の 3 条件は同値である。
1 ⇒ 2:$\det M=\pm1$ なので、cor-lmd-invertible の公式により $M^{-1}=\pm\begin{pmatrix}v_2&-v_1\\-u_2&u_1\end{pmatrix}$ は整数を成分とする。$w\in\mathbb{Z}^2$ に対して $\begin{pmatrix}m\\n\end{pmatrix}:=M^{-1}w$ とおけば $m,n$ は整数で、$w=M\begin{pmatrix}m\\n\end{pmatrix}=mu+nv$ である。逆に $w=mu+nv$ なら $\begin{pmatrix}m\\n\end{pmatrix}=M^{-1}w$ なので、表し方はただ一通りである。
2 ⇒ 1:$e_1=m_1u+n_1v$, $e_2=m_2u+n_2v$($m_i,n_i$ は整数)と書ける。$N:=\begin{pmatrix}m_1&m_2\\n_1&n_2\end{pmatrix}$ とおくと $MN=I$ である。cor-lmd-product により $\det M\det N=\det I=1$ であり、$\det M,\det N$ はともに整数なので $\det M=\pm1$ である。
1 ⇒ 3:$\det M\ne0$ である。平行四辺形の点は $w=su+tv$($0\le s,t\le1$)と書ける。$w$ が格子点なら、1 ⇒ 2 で見たとおり $\begin{pmatrix}s\\t\end{pmatrix}=M^{-1}w$ は整数の組なので、$s,t\in\{0,1\}$ であり、$w$ は頂点である。
3 ⇒ 2:3 を仮定し、2 が成り立たないとして矛盾を導く。$D(u,v)\ne0$ なので $M$ は逆行列をもち、どの $w\in\mathbb{Z}^2$ も実数 $s,t$ によって $w=su+tv$ とただ一通りに書ける。2 が成り立たないので、$s,t$ の少なくとも一方が整数でないような $w\in\mathbb{Z}^2$ がある。$s,t$ 以下の最大の整数をそれぞれ $[s],[t]$ とし、
$$
w':=w-[s]u-[t]v=(s-[s])u+(t-[t])v
$$
とおく。$w'$ は格子点であり、係数 $s-[s],\,t-[t]$ は $0$ 以上 $1$ 未満で、少なくとも一方は $0$ でない。したがって $w'$ は平行四辺形に含まれ、係数の一意性から $0,u,v,u+v$ のどれとも異なる。これは 3 に反する。
以上で 1 ⇒ 2 ⇒ 1、1 ⇒ 3 ⇒ 2 が示された。$\square$
$u=(3,2)$, $v=(4,3)$ は $D(u,v)=9-8=1$ なので $\mathbb{Z}^2$ の基底である。$M^{-1}=\begin{pmatrix}3&-4\\-2&3\end{pmatrix}$ から $e_1=3u-2v$, $e_2=-4u+3v$ であり、たとえば $(5,-7)=43u-31v$ である。細長い平行四辺形 $0,(3,2),(7,5),(4,3)$ の内部と周には、頂点以外の格子点がない。
$u=(1,1)$, $v=(1,-1)$ は格子点で $D(u,v)=-2$ である。平行四辺形 $0,(1,1),(2,0),(1,-1)$ の中心に格子点 $(1,0)=\frac12u+\frac12v$ があり、$(1,0)$ は $u,v$ の整数係数の和では書けない。この例は条件 3 と条件 2 を同時に破り、「頂点が格子点で面積が $0$ でない平行四辺形の辺は基底になる」という含意を否定する。同様に $u=(2,1)$, $v=(1,2)$($D=3$)では、$0\le s,t<1$ の範囲 $su+tv$ にある格子点は $0,(1,1),(2,2)$ の 3 個である。一般にこの個数は $|D(u,v)|$ に等しい(Cla15 の Proposition 1.7、p. 8 の、指数と基本領域の体積の関係。本記事では証明しない)。
頂点が格子点の凸多角形について、内部の格子点の数を $I$、周上の格子点の数を $B$ とすると、面積は $I+\frac B2-1$ に等しい(Pick の定理。Cla15 の Theorem 5.12、p. 32 は凸多角形について述べている。凸でなくても、穴のない多角形なら同じ式が成り立つことが知られているが、本記事では使わない)。thm-lmd-unimodular の条件 3 を満たす平行四辺形では $I=0$, $B=4$ なので、面積は $0+2-1=1$ となり、条件 1 と一致する。本記事の証明は Pick の定理を使っていない。
整数を成分とし、行列式が $\pm1$ である 2 次正方行列の全体を $GL_2(\mathbb{Z})$、そのうち行列式が $1$ のものの全体を $SL_2(\mathbb{Z})$ と書く。
cor-lmd-product と cor-lmd-invertible により、$GL_2(\mathbb{Z})$ の 2 つの行列の積と、各行列の逆行列はまた $GL_2(\mathbb{Z})$ に属する(逆行列の公式の分母が $\pm1$ だから)。同じことが $SL_2(\mathbb{Z})$ でも成り立つ。このように積と逆元について閉じた行列の集まりを群という。thm-lmd-unimodular は、$GL_2(\mathbb{Z})$ の行列の列がちょうど $\mathbb{Z}^2$ の基底であることを述べている。$SL_2(\mathbb{Z})$ は、そのうち向きを保つ基底、つまり $D(u,v)=1$ となる順序付きの組に対応する。
$SL_2(\mathbb{Z})$ のすべての行列は、次の 2 つの行列から作れる。
$$
T:=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\qquad S:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}.
$$
$T$ はずらし、$S$ は原点のまわりの $90^\circ$ 回転で、どちらも行列式は $1$ である。左から掛けると、$T^k$($k$ は整数)は「第 1 行に第 2 行の $k$ 倍を足す」操作であり、$S$ は「第 2 行の $-1$ 倍を第 1 行に、第 1 行を第 2 行に移す」操作である:
$$
T^kA=\begin{pmatrix}a+kc&b+kd\\c&d\end{pmatrix},\qquad SA=\begin{pmatrix}-c&-d\\a&b\end{pmatrix}\qquad\Bigl(A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\Bigr).
$$
また $S^2=-I$, $S^4=I$ である。
$SL_2(\mathbb{Z})$ のすべての行列は、$T$, $T^{-1}$, $S$ の有限個の積として書ける。
$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in SL_2(\mathbb{Z})$ とし、$|c|$ についての帰納法で示す。
$c=0$ のとき:$ad=1$ なので $a=d=\pm1$ である。$a=d=1$ なら $A=\begin{pmatrix}1&b\\0&1\end{pmatrix}=T^b$ である($b<0$ なら $T^{-1}$ の $|b|$ 個の積)。$a=d=-1$ なら $A=-\begin{pmatrix}1&-b\\0&1\end{pmatrix}=S^2T^{-b}$ である。
$c\ne0$ のとき:割り算により $a=kc+r$, $0\le r<|c|$ となる整数 $k,r$ をとる。$T^{-k}A=\begin{pmatrix}r&b-kd\\c&d\end{pmatrix}$ であり、
$$
A':=ST^{-k}A=\begin{pmatrix}-c&-d\\r&b-kd\end{pmatrix}
$$
は $SL_2(\mathbb{Z})$ に属し(cor-lmd-product)、左下の成分 $r$ は $|r|<|c|$ を満たす。帰納法の仮定により $A'$ は $T,T^{-1},S$ の積で書ける。$S^{-1}=S^3$ なので $A=T^kS^{-1}A'=T^kS^3A'$ も $T,T^{-1},S$ の積で書ける。$\square$
整数の互除法そのものは 整数の割り算と互除法 で扱う。
この証明で第 1 列 $(a,c)$ に起きていることは、$(a,c)\to(-c,\,a\bmod c)$ という Euclid の互除法そのものである。1 回ごとに左下の成分の絶対値 $|c|$ は真に減るので、互除法は有限回で $c=0$ となって終わる。さらに $ad-bc=1$ から $a,c$ は互いに素なので、終わったときの第 1 成分は $\pm1$ である(prf-thm-lmd-sl2z-generators の $c=0$ の場合で $a=\pm1$ となったことにあたる)。
ex-lmd-basis の $M=\begin{pmatrix}3&4\\2&3\end{pmatrix}$ を分解する。$3=1\cdot2+1$ なので $ST^{-1}M=\begin{pmatrix}-2&-3\\1&1\end{pmatrix}$。次に $-2=(-2)\cdot1+0$ なので $ST^{2}\begin{pmatrix}-2&-3\\1&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1&-1\\0&-1\end{pmatrix}=S^2T$。したがって $ST^2ST^{-1}M=S^2T$ であり、
$$
M=TS^{-1}T^{-2}S^{-1}\cdot S^2T=TS^{3}T^{-2}ST
$$
となる。
$n$ 次正方行列の行列式も、同じ構造から定まる。$\mathbb{R}^n$ の $n$ 個のベクトルについて各変数で線形で、2 つが等しければ $0$ になる関数(交代的な $n$ 重線形形式)は、lem-lmd-uniqueness と同様に、定数倍を除いてただ一つである。基本ベクトルで $1$ をとるものが $D_n(v_1,\dots,v_n)$ で、$\det A:=D_n(Ae_1,\dots,Ae_n)$ と定めると、thm-lmd-area-scaling と cor-lmd-product の証明がそのまま通用し、$|\det A|$ は $n$ 次元の体積の拡大率になる(Axl24 の 9.49、p. 357 と 9.61、p. 363。本記事では証明しない)。3 次元では、3 本のベクトルの張る平行六面体の体積が $|\det(u\ v\ w)|$ である。
この小節は紹介であり、証明はしない。1 次変換でない写像 $g(s,t)=\bigl(x(s,t),\,y(s,t)\bigr)$ でも、微分可能なら、点 $(s,t)$ の近くでは 1 次変換で近似できる。小さな長方形 $[s,s+\Delta s]\times[t,t+\Delta t]$ の像は、ほぼ $\frac{\partial g}{\partial s}\Delta s$ と $\frac{\partial g}{\partial t}\Delta t$ の張る平行四辺形であり、その面積はほぼ
$$
\left|\det\begin{pmatrix}\dfrac{\partial x}{\partial s}&\dfrac{\partial x}{\partial t}\\[2mm]\dfrac{\partial y}{\partial s}&\dfrac{\partial y}{\partial t}\end{pmatrix}\right|\Delta s\,\Delta t
$$
である。この行列式を $g$ のヤコビアン(Jacobi 行列式)という。これらを足し合わせたものが重積分の変数変換の公式
$$
\iint_{g(S)}f(x,y)\,dx\,dy=\iint_Sf\bigl(g(s,t)\bigr)\,\bigl|J_g(s,t)\bigr|\,ds\,dt
$$
であり、$g$ が単射で連続微分可能、ヤコビアン $J_g$ が $S$ 上で $0$ にならないなどの条件のもとで成り立つ(Leb26 の Theorem 10.7.2、p. 134)。
$SL_2(\mathbb{Z})$ は、複素数の上半平面に $z\mapsto\frac{az+b}{cz+d}$ として作用し、保型形式や楕円曲線の理論の出発点になる。thm-lmd-sl2z-generators の証明で使った互除法は、実数の連分数展開と結びついている。格子 $\mathbb{Z}^2$ を一般の格子に、面積 $1$ を「基本領域の体積」に置き換えると、数の幾何学(Minkowski の定理など)へ進む(Cla15 の第 1 章)。
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