既約成分(irreducible component)とは、位相空間の既約な部分集合(空でなく、2 つの真の閉部分集合の和に書けない部分集合)のうち、包含について極大なものである。既約成分はつねに閉集合で、空間は既約成分の和集合であり、閉集合の降鎖条件を満たす Noether 位相空間では既約成分は有限個で、どれも他の成分の和に含まれない。可換環 $A$ の素スペクトル $\operatorname{Spec}A$ の既約成分は $A$ の極小素イデアルと 1 対 1 に対応し、スキームでは各既約成分がただ 1 つの生成点で代表される。連結成分と違って既約成分は互いに交わることがあり、$xy=0$ が定める 2 本の座標軸は連結だが既約成分を 2 つもつ。
平面の中で方程式 $xy=0$ が定める図形は、$x$ 軸と $y$ 軸の 2 本の直線の和である。この図形は原点でつながっているので連結空間であり、「つながり」の言葉では 2 本に分けられない。それでも、この図形が 2 つの「かたまり」からできていることは明らかである。既約成分(irreducible component)は、この「かたまり」を位相だけから取り出す概念である。鍵になるのは、Zariski位相のような位相では閉集合が非常に少なく、1 本の直線はそれより小さい 2 つの閉集合の和に分けられない(既約である)が、2 本の直線の和は分けられる、という事実である。既約成分は、それ以上大きくできない既約な部分集合として定義され、代数幾何学では図形を「成分ごとに」調べるときの単位になる。アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ では既約成分は $A$ の極小素イデアルに対応し、スキームでは既約成分の生成点(閉包が成分全体になる点)を通して、成分を 1 点で代表させることができる。
以下、位相空間 $X$ の部分集合 $Y$ には相対位相($Y\cap U$、$U$ は $X$ の開集合、を開集合とする位相)を入れる。$Y$ の閉集合は $Y\cap F$($F$ は $X$ の閉集合)の形の集合である。
位相空間 $X$ が既約(irreducible)であるとは、$X$ が空でなく、$X$ の閉集合 $F_1,F_2$ について
$$
X=F_1\cup F_2\ \Longrightarrow\ X=F_1\ \text{または}\ X=F_2
$$
が成り立つことをいう。すなわち、$X$ は 2 つの真の閉部分集合の和に書けない。$X$ の部分集合 $Y$ は、相対位相で既約なとき既約であるという。空でない位相空間が既約でないとき、可約(reducible)であるという。
空集合は既約でないと約束している。この約束により、次の def-irreducible-component-component で既約成分がつねに空でない集合になり、prop-irreducible-component-noetherian の分解の一意性で空の成分を数えずに済む。
位相空間 $X$ と部分集合 $Y\subset X$ について次が成り立つ。
要点:1 は閉集合 $F_i$ を補集合の開集合 $X\setminus F_i$ に取り替えるだけであり、2 は相対位相の閉集合が $Y\cap F$ の形であることから従う。
1. 閉集合 $F_1,F_2$ と開集合 $U_i:=X\setminus F_i$ を対応させる。$X=F_1\cup F_2$ は $U_1\cap U_2=\emptyset$ と同値であり、$X\neq F_i$ は $U_i\neq\emptyset$ と同値である。したがって「$X=F_1\cup F_2$ かつ $X\neq F_1$ かつ $X\neq F_2$ となる閉集合がある」ことと「交わらない空でない開集合 $U_1,U_2$ がある」ことは同値であり、その否定どうしも同値である。
2. $Y$ の閉集合は $Y\cap F$($F$ は $X$ の閉集合)の形である。$Y\subset F_1\cup F_2$ は $Y=(Y\cap F_1)\cup(Y\cap F_2)$ と同値であり、$Y\subset F_i$ は $Y=Y\cap F_i$ と同値である。よって 2 の条件は、def-irreducible-component-irreducible を $Y$ の相対位相で書いたものにほかならない。$\square$
1 から、既約な空間では空でない開集合はすべて稠密である(空でない開集合 $U$ と交わらない空でない開集合がないので、$U$ の閉包の補集合は空である)。
位相空間 $X$ の既約成分(irreducible component)とは、$X$ の既約な部分集合 $Z$ で、包含について極大なもの、すなわち「$Z\subset Y$ かつ $Y$ が既約ならば $Y=Z$」を満たすものをいう。
位相空間 $X$ が Noether 位相空間(Noetherian topological space)であるとは、閉集合の降鎖条件を満たすこと、すなわち閉集合の列 $F_1\supset F_2\supset\cdots$ がつねにある番号から先で一定($F_r=F_{r+1}=\cdots$)になることをいう。
閉集合の降鎖条件は、「閉集合の空でない族はつねに包含について極小な元をもつ」ことと同値である。
極小元をもたない空でない族 $\mathcal{F}$ があれば、$F_1\in\mathcal{F}$ から始めて $F_n$ より真に小さい $F_{n+1}\in\mathcal{F}$ を選び続けて(選択公理の弱い形である従属選択を使う)、一定にならない降鎖が得られる。逆に一定にならない降鎖 $F_1\supset F_2\supset\cdots$ があれば、$\{F_n\}$ は極小元をもたない。
$\mathbb{R}^2$ の通常の位相では、線分を 2 つの短い線分に切れば、それぞれが閉集合なので、2 点以上からなる図形はどれも小さな閉集合の和に分けられてしまう。Zariski 位相では閉集合は多項式の共通零点に限られるので、ずっと少ない。たとえば無限体 $k$ 上の直線 $k$ の閉集合は有限集合と $k$ 全体だけであり、直線を 2 つの真の閉集合の和に書くことはできない。一方、2 本の直線の和は、それぞれの直線という 2 つの真の閉集合の和である。既約性は「これ以上閉集合の和に分けられない」ことであり、既約成分はそのような部分のうち極大なもの、つまり図形の「かたまり」である。
既約な空間では空でない開集合がすべて稠密なので、1 つの開集合で成り立つことは「ほとんど至るところ」で成り立つとみなせる。スキームではさらに、既約閉集合 $Z$ はただ 1 つの点 $\eta$ の閉包として $Z=\overline{\{\eta\}}$ と書ける(この $\eta$ を $Z$ の生成点という)。既約成分は、その生成点という 1 点によって代表される。
$X=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の閉集合は $V(n)$($n\in\mathbb{Z}$)であり、$n=0$ なら $X$ 全体、$n=\pm1$ なら空集合、それ以外なら $n$ を割り切る素数 $p$ に対する点 $(p)$ の有限集合である。したがって $X$ の真の閉部分集合は有限集合であり、$X$ は無限集合(素数は無限個)なので、2 つの真の閉部分集合の和にはならない。よって $X$ は既約で、既約成分は $X$ 自身だけである。$\overline{\{(0)\}}=V(0)=X$ なので、$(0)$ がその生成点である。また真の閉集合が有限集合なので、閉集合の降鎖は一定になり、$X$ は Noether 位相空間である。
無限集合 $X$ に余有限位相(空集合と、補集合が有限な集合を開集合とする位相)を入れる。空でない開集合 $U_1,U_2$ が交わらなければ $X=(X\setminus U_1)\cup(X\setminus U_2)$ は有限集合になって矛盾するので、空でない 2 つの開集合はつねに交わる。lem-irreducible-component-equivalent の 1 により $X$ は既約である。無限体 $k$ に古典的な Zariski 位相を入れた直線 $k$ はこの位相空間である(余有限位相 の記事の例「無限体上の直線の Zariski 位相」)。
$k$ を体、$A=k[x,y]/(xy)$、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。$A$ の極小素イデアルはちょうど $(\bar x)$ と $(\bar y)$ の 2 つである(極小素イデアル の記事の例「2 本の座標軸」)。同記事の命題「極小素イデアルと既約成分」により、$X$ の既約成分はちょうど $V(\bar x)$($y$ 軸に当たる)と $V(\bar y)$($x$ 軸に当たる)の 2 つである。2 つの成分はともに点 $(\bar x,\bar y)$(原点)を含むので、共通点をもつ連結集合の和として $X$ は連結である(既約集合が連結であることは prop-irreducible-component-open-image の 3)。$X$ は連結だが既約でない。
$k$ を体、$P=k[x,y,z]$、$I=(xz,yz)=(z)(x,y)$ とする。$I$ 上の極小素イデアルは $(z)$ と $(x,y)$ の 2 つである。
$I$ を含む素イデアルは、イデアルの積 $(z)(x,y)$ を含むので $(z)$ か $(x,y)$ を含む(素イデアル の記事の命題「イデアルの積と素イデアル」)。$P/(z)\cong k[x,y]$、$P/(x,y)\cong k[z]$ は整域なので $(z)$ と $(x,y)$ は素イデアルであり、$z\notin(x,y)$($x=y=0$ を代入しても $z$ が残る)、$x\notin(z)$ なので互いに他を含まない。
方程式 xy=0 の実数解の図形。x 軸と y 軸が原点で交わり、2 つの既約成分をなす
方程式 xz=yz=0 の実数解の図形。平面 z=0 と z 軸が原点で交わり、2 次元と 1 次元の既約成分をなす
図 1 と図 2 は、ex-irreducible-component-two-axes と ex-irreducible-component-plane-line の図形の実数の点を描いたものである。どちらも原点で成分どうしが交わっており、全体は連結であるが、2 つの既約成分に分かれる。スキームの点には実数の点のほかに生成点などの点もあるが、図は成分の形を見るためのものである。
$A=k[x]/(x^2)$ の素イデアルは $(\bar x)$ だけなので、$\operatorname{Spec}A$ は 1 点であり、既約で、既約成分は自分自身だけである。$A$ は $0$ でない冪零元 $\bar x$ をもつが、位相空間としての $\operatorname{Spec}A$ は $\operatorname{Spec}k$ と同じである。既約成分は位相空間だけで決まる概念なので、冪零元による「厚み」は既約成分には現れない。
| 既約成分 | 連結成分 | |
|---|---|---|
| 定義 | 極大な既約部分集合 | 極大な連結部分集合 |
| 閉集合か | つねに閉 | つねに閉 |
| 互いの交わり | 交わりうる(2 本の座標軸の原点) | 交わらず、空間を分割する |
| 開集合か | 一般に開でない(2 本の座標軸の 1 本) | Noether 位相空間では開、一般には開とは限らない |
| 包含関係 | 各既約成分はある連結成分に含まれる | 各連結成分は既約成分の和 |
| $\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$ | 2 つ | 1 つ |
既約成分が閉であることは prop-irreducible-component-closure の 3、連結成分が閉で空間を分割することは 連結空間 の記事の命題「連結成分は閉であり空間を分割する」による。2 本の座標軸 $X=V(\bar x)\cup V(\bar y)$ で成分 $V(\bar y)$ が開なら、補集合 $X\setminus V(\bar y)$ は閉集合で、$V(\bar x)$ の開集合 $V(\bar x)\setminus V(\bar y)$ に等しい。これは点 $(\bar x)$ を含むので空でなく($\bar y\notin(\bar x)$)、既約な $V(\bar x)$ の中で稠密だから閉包は $V(\bar x)$ 全体になり、原点を含んでしまう。原点は $V(\bar y)$ に属するので矛盾であり、$V(\bar y)$ は開でない。
既約集合は連結である(prop-irreducible-component-open-image の 3)から、既約成分 $Z$ は $Z$ の点の連結成分に含まれる。逆に連結成分 $C$ の点 $x$ を含む既約成分 $Z_x$(thm-irreducible-component-zorn)は連結で $x$ を含むので $Z_x\subset C$ であり、$C=\bigcup_{x\in C}Z_x$ は既約成分の和である。Noether 位相空間では既約成分が有限個(prop-irreducible-component-noetherian)なので、連結成分も有限個であり、1 つの連結成分の補集合は残りの有限個の閉集合の和として閉であるから、各連結成分は開である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 既約(連結だけにする) | $\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$ | 既約成分が空間自身ただ 1 つ |
| Noether 性 | 離散位相の $\mathbb{N}$ | 既約成分が有限個 |
| Noether 性(連結でも) | 通常の位相の $\mathbb{R}$ | 既約成分が有限個 |
| Noether 性(アフィンスキームでも) | $\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]/(x_ix_j\ (i\neq j))$ | 既約成分が有限個 |
1 行目は ex-irreducible-component-two-axes で確かめた。含意「連結ならば既約」を破る例であり、満たす性質は「連結」、満たさない性質は「既約」である。残りの行は次の 2 つの例で確かめる。
Hausdorff空間 $X$ の既約な部分集合は 1 点集合だけである。実際、1 点集合は既約であり、相異なる 2 点 $a,b$ を含む部分集合 $Y$ に対しては、$a,b$ の交わらない開近傍 $U,V$ をとると $Y\cap U$、$Y\cap V$ は $Y$ の交わらない空でない開集合なので、lem-irreducible-component-equivalent の 1 により $Y$ は既約でない。したがって $X$ の既約成分は 1 点集合であり、その個数は $X$ の点の個数に等しい。
$k$ を体、$A:=k[x_1,x_2,\dots]/(x_ix_j\mid i\neq j)$、$X=\operatorname{Spec}A$ とし、$x_i$ の像も $x_i$ と書く。各 $i\ge1$ について $\mathfrak{p}_i:=(x_j\mid j\neq i)$ とおくと、$A/\mathfrak{p}_i\cong k[x_i]$ は整域なので $\mathfrak{p}_i$ は素イデアルであり、$A$ の極小素イデアルはちょうど $\mathfrak{p}_1,\mathfrak{p}_2,\dots$ である。
素イデアル $\mathfrak{p}$ は $x_ix_j=0$($i\neq j$)を元として含むので $x_i\in\mathfrak{p}$ または $x_j\in\mathfrak{p}$ であり、$\mathfrak{p}$ に属さない $x_i$ は高々 1 つである。$x_i\notin\mathfrak{p}$ なら $j\neq i$ のすべての $x_j$ が $\mathfrak{p}$ に属して $\mathfrak{p}\supset\mathfrak{p}_i$ であり、すべての $x_i$ が $\mathfrak{p}$ に属すれば $\mathfrak{p}\supset\mathfrak{p}_1$ である。$i\neq j$ なら $x_j\in\mathfrak{p}_i$、$x_j\notin\mathfrak{p}_j$ なので $\mathfrak{p}_i\not\subset\mathfrak{p}_j$ である。極小素イデアルはある $\mathfrak{p}_i$ を含むのでそれに等しい。また素イデアル $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}_i$ はある $\mathfrak{p}_j$ を含み、$\mathfrak{p}_j\subset\mathfrak{p}_i$ から $j=i$ なので $\mathfrak{q}=\mathfrak{p}_i$ となり、$\mathfrak{p}_i$ は極小である。
$X$ を位相空間、$Y\subset X$ を部分集合とする。
要点:閉集合 $F$ について $Y\subset F$ と $\overline{Y}\subset F$ は同値なので、lem-irreducible-component-equivalent の 2 の条件は $Y$ と $\overline{Y}$(および間の $W$)で同じになる。3 は、既約成分 $Z$ の閉包が既約で $Z$ を含むので、極大性から $Z=\overline{Z}$ となることによる。
1. $Y$ が既約とする。$\overline{Y}\supset Y\neq\emptyset$ である。閉集合 $F_1,F_2$ について $\overline{Y}\subset F_1\cup F_2$ なら $Y\subset F_1\cup F_2$ なので、lem-irreducible-component-equivalent の 2 により、たとえば $Y\subset F_1$ である。$F_1$ は閉なので $\overline{Y}\subset F_1$ となり、同 2 により $\overline{Y}$ は既約である。逆に $\overline{Y}$ が既約とする。$Y=\emptyset$ なら $\overline{Y}=\emptyset$ で既約でないから $Y\neq\emptyset$ である。$Y\subset F_1\cup F_2$ なら右辺は閉なので $\overline{Y}\subset F_1\cup F_2$ であり、たとえば $\overline{Y}\subset F_1$、したがって $Y\subset F_1$ である。
2. $W\supset Y\neq\emptyset$ である。$W\subset F_1\cup F_2$ なら $Y\subset F_1\cup F_2$ なので、たとえば $Y\subset F_1$、したがって $W\subset\overline{Y}\subset F_1$ である。
3. 既約成分 $Z$ について、1 により $\overline{Z}$ は既約で $Z\subset\overline{Z}$ なので、極大性から $Z=\overline{Z}$ である。$\square$
要点:どれも lem-irreducible-component-equivalent の言い換えから直ちに従う。1 は「空でない開集合どうしが交わる」ことが開集合に遺伝すること、2 は閉集合の逆像が閉であること、3 は交わらない空でない開集合がないことによる。
1. $U$ が $X$ で稠密であることは lem-irreducible-component-equivalent の後で述べた。$U$ の空でない開集合 $V_1,V_2$ は $X$ の空でない開集合でもあるので、同補題の 1 により交わる。$U\neq\emptyset$ なので、同 1 により $U$ は既約である。
2. $f(Z)\neq\emptyset$ である。$Y$ の閉集合 $G_1,G_2$ について $f(Z)\subset G_1\cup G_2$ とすると、$Z\subset f^{-1}(G_1)\cup f^{-1}(G_2)$ であり、$f^{-1}(G_i)$ は $X$ の閉集合なので、lem-irreducible-component-equivalent の 2 により、たとえば $Z\subset f^{-1}(G_1)$、すなわち $f(Z)\subset G_1$ である。同 2 により $f(Z)$ は既約である。
3. $X$ が既約で、$X=U_1\sqcup U_2$ と交わらない 2 つの開集合の和に書けたとする。lem-irreducible-component-equivalent の 1 により、$U_1,U_2$ がともに空でないことはない。よって一方は空であり、$X$ は連結である。$\square$
3 の逆は成り立たない(ex-irreducible-component-two-axes)。1 の「稠密」は、既約な空間では開集合が「大きい」ことを表しており、Hausdorff 空間の直感とは大きく異なる。
$X$ を位相空間とする。$X$ の既約な部分集合は、ある既約成分に含まれる。とくに $X$ の各点はある既約成分に属し、$X$ は既約成分の和集合である。
既約な部分集合 $Y$ を固定し、$Y$ を含む既約な部分集合の全体 $\mathcal{S}$ を包含で順序づける。$\mathcal{S}$ は $Y$ を含むので空でない。$\mathcal{S}$ の空でない全順序部分集合(鎖)$\{Z_\alpha\}_{\alpha}$ をとり、$Z:=\bigcup_\alpha Z_\alpha$ とおく。$Z$ が既約であることを示す。$Z\supset Y\neq\emptyset$ である。閉集合 $F_1,F_2$ について $Z\subset F_1\cup F_2$ で、$Z\not\subset F_1$ かつ $Z\not\subset F_2$ であったとする。$Z_\alpha\not\subset F_1$、$Z_\beta\not\subset F_2$ となる $\alpha,\beta$ がある。鎖なので、たとえば $Z_\alpha\subset Z_\beta$ とすると、$Z_\beta\not\subset F_1$ かつ $Z_\beta\not\subset F_2$ であるが、$Z_\beta\subset F_1\cup F_2$ であり、$Z_\beta$ の既約性(lem-irreducible-component-equivalent の 2)に反する。$Z_\beta\subset Z_\alpha$ の場合も同様である。よって $Z\in\mathcal{S}$ は鎖の上界である(空の鎖の上界は $Y$ である)。Zornの補題により $\mathcal{S}$ は極大元 $Z_0$ をもつ。$Z_0\subset W$ となる既約な $W$ は $Y$ を含むので $\mathcal{S}$ に属し、極大性から $W=Z_0$ である。よって $Z_0$ は $Y$ を含む既約成分である。
1 点集合 $\{x\}$ は既約である(空でなく、$\{x\}\subset F_1\cup F_2$ なら $x$ はどちらかの $F_i$ に属する)。したがって各点はある既約成分に属する。$\square$
この定理と証明の方針は Vak25 Exercise 3.6.O にある。既約成分の存在には Zorn の補題を使った。次の prop-irreducible-component-noetherian のように Noether 性があれば、既約成分は Zorn の補題なしに有限個の閉集合として具体的に得られる。
$X$ を位相空間、$U\subset X$ を開集合とする。$X$ の既約成分 $Z$ で $Z\cap U\neq\emptyset$ となるものに $Z\cap U$ を対応させる写像は、そのような $Z$ の全体から $U$ の既約成分の全体への全単射であり、逆写像は $U$ の既約成分 $W$ にその $X$ での閉包 $\overline{W}$ を対応させる。
要点:$Z\cap U$ は既約な $Z$ の空でない開集合なので既約で $Z$ の中で稠密であり、$\overline{Z\cap U}=Z$ となる。この等式と閉包をとる操作が既約性を保つこと(prop-irreducible-component-closure の 1)から、極大性が $X$ と $U$ の間で行き来する。
$Z$ を $U$ と交わる既約成分とする。$Z\cap U$ は既約な $Z$ の空でない開集合なので、prop-irreducible-component-open-image の 1 により既約で $Z$ の中で稠密であり、$\overline{Z\cap U}=Z$ である($Z$ は閉なので prop-irreducible-component-closure の 3)。$Z\cap U\subset W\subset U$ となる既約な $W$ をとると、$\overline{W}$ は既約(同 1)で $\overline{W}\supset\overline{Z\cap U}=Z$ なので、$Z$ の極大性から $\overline{W}=Z$ であり、$W\subset Z\cap U$ である。よって $Z\cap U$ は $U$ の既約成分である。
逆に $W$ を $U$ の既約成分とする。$W$ は $X$ の既約な部分集合でもあるので、thm-irreducible-component-zorn により $W$ を含む $X$ の既約成分 $Z$ がある。$Z\cap U\supset W\neq\emptyset$ であり、前段により $Z\cap U$ は $U$ の既約な部分集合だから、$W$ の極大性から $W=Z\cap U$ である。さらに $\overline{W}=\overline{Z\cap U}=Z$ である。
以上から、$Z\mapsto Z\cap U$ は全射であり、$\overline{Z\cap U}=Z$ から単射でもあって、逆写像は $W\mapsto\overline{W}$ である。$\square$
$X$ を Noether 位相空間とする。
1 の存在と表示の一意性は Vak25 Proposition 3.6.15 にある(そこでは一意性を表示どうしの比較で示している)。2 から、Noether 位相空間 $X=Z_1\cup\cdots\cup Z_n$ では $U_i:=X\setminus\bigcup_{j\neq i}Z_j$ が $Z_i$ に含まれる空でない開集合になる。$U_i$ の上では $X$ は既約成分 $Z_i$ しか見えないので、成分ごとの性質を開集合 $U_i$ で調べることができる。
$A$ をNoether環とすると、$\operatorname{Spec}A$ は Noether 位相空間である。したがって $\operatorname{Spec}A$ の既約成分は有限個であり、$A$ の極小素イデアルは有限個である。
$\operatorname{Spec}A$ の閉集合の降鎖 $V(I_1)\supset V(I_2)\supset\cdots$ をとり、$J_m:=\sqrt{I_m}$ とおく。Zariski位相 の記事の命題「イデアルと閉集合の対応」の 1 により、$V(I_{m+1})\subset V(I_m)$ は $I_m\subset\sqrt{I_{m+1}}$、したがって $J_m\subset J_{m+1}$ を意味する。Noether 環のイデアルの昇鎖 $J_1\subset J_2\subset\cdots$ はある番号から先で一定であり、$V(I_m)=V(J_m)$(同命題)なので、閉集合の降鎖も一定になる。後半は prop-irreducible-component-noetherian の 2 と、極小素イデアル の記事の命題「極小素イデアルと既約成分」による。$\square$
極小素イデアルの有限性は、極小素イデアル の記事の定理「Noether環における有限性」で代数的にも示されている。ここでの証明は、それが閉集合の降鎖条件という位相的な事実から従うことを示している。ex-irreducible-component-infinite の環は Noether でなく、極小素イデアルが無限個ある。
スキーム $X$ では、空でない既約閉集合 $Z$ はただ 1 つの点 $\eta$ で $Z=\overline{\{\eta\}}$ となるものをもち、点 $x$ に $\overline{\{x\}}$ を対応させる写像は、$X$ の点の全体から空でない既約閉集合の全体への全単射である(スキーム の記事の命題「既約閉集合は生成点をただ 1 つもつ」)。この $\eta$ を $Z$ の生成点(generic point)という。点 $y$ が $\overline{\{x\}}$ に属するとき、$y$ は $x$ の特殊化、$x$ は $y$ の一般化であるという。
$X$ をスキームとする。
点と既約閉集合の対応は Stacks Tag 01IS、アフィンスキームでの既約成分と極小素イデアルの対応は Vak25 Exercise 3.7.G にある。1 と 2 から、スキームの既約成分は「アフィン開集合ごとの極小素イデアル」を貼り合わせたものとして理解できる。とくに、有限個の Noether 環のスペクトルで覆われるスキームの位相空間は Noether 位相空間の有限個の和になり、既約成分は有限個である(各アフィン開集合と交わる成分が有限個で、どの成分もいずれかのアフィン開集合と交わるから)。
多項式 $f\in k[x_1,\dots,x_n]$ が既約多項式なら、$k[x_1,\dots,x_n]$ は一意分解整域なので $(f)$ は素イデアルであり、$V(f)$ は既約である。一般に $0$ でない $f$ を $f=c\,g_1^{e_1}\cdots g_r^{e_r}$($c\in k^\times$、$g_i$ は互いに同伴でない既約多項式、$e_i\ge1$)と分解すると、$V(f)\subset\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$ の既約成分は $V(g_1),\dots,V(g_r)$ である。実際、$f$ を含む素イデアルはある $g_i$ を含み、素イデアル $(g_i)$ どうしは互いに他を含まないので、$(f)$ 上の極小素イデアルは $(g_1),\dots,(g_r)$ である。指数 $e_i$ は位相には現れない。
複素解析空間では、既約性を「2 つの真の解析的部分集合の和に書けない」ことで定め、解析的部分集合の既約分解を考える(複素解析空間 の記事の定理「解析的部分集合の既約分解」)。これは本記事の既約性とは別の定義であり、既約成分が無限個(局所有限)になりうる点も異なる。
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