小平の埋め込み定理(Kodaira embedding theorem)とは、コンパクト複素多様体 $X$ が正の直線束 $L$ をもてば、適当な $k$ について $L^k$ の正則切断が定める写像 $\Phi_{L^k}\colon X\to\mathbb P^N$ が正則な埋め込みになるという定理である。帰結として、コンパクト複素多様体が射影空間の閉部分多様体になることと、正の直線束をもつこと、有理係数の類をもつ Kähler 形式(Hodge 計量)をもつことは同値である。証明は点を爆発して点で消える関数のイデアルを直線束に変え、小平の消滅定理で切断の 1 次のジェットを自由に指定できることを示す。
前提知識: 小平の消滅定理, Chern接続, 正則ベクトル束, Fubini–Study計量, Kähler形式
小平の埋め込み定理(Kodaira embedding theorem)とは、コンパクト複素多様体 $X$ の上に正の直線束 $L$(曲率 $i\Theta$ が正になる Hermite 計量をもつ正則直線束)があれば、適当な $k$ について $L^k=L^{\otimes k}$ の正則切断の基底 $s_0,\dots,s_N$ が定める写像
$$
\Phi_{L^k}\colon X\to\mathbb P^N,\qquad x\mapsto[s_0(x):\cdots:s_N(x)]
$$
が正則な埋め込みになるという定理である。逆に射影空間の閉複素部分多様体は $\mathcal O(1)$ の制限という正の直線束をもつので、コンパクト複素多様体について、次の 3 条件は同値である:射影空間の閉複素部分多様体と双正則になること、正の直線束をもつこと、de Rham 類が有理係数の Kähler 形式(Hodge 計量)をもつこと。Chow の定理により射影空間の閉複素部分多様体は代数的なので、これは「どのコンパクト複素多様体が射影代数多様体か」の微分幾何的な判定法である。
埋め込みであるためには、切断が異なる 2 点を分け、各点で接ベクトルを分ければよい。これは「有限個の点で正則切断の値と 1 階の微分を自由に指定できる」ことに帰着する。その障害は点で消える関数のイデアルの係数のコホモロジーだが、点を爆発するとイデアルが直線束 $\mathcal O(-2E)$ に変わり、小平の消滅定理(小平の消滅定理)が使えるようになる。この記事では、爆発の性質、例外因子の直線束の正値性、ジェットの持ち上げ、主定理をすべて証明する。外から使うのは小平の消滅定理、Dolbeault の定理、Riemann の拡張定理、Chow の定理(最後の代数性の部分だけ)である。
以下、$X$ を複素次元 $n$ のコンパクト複素多様体、$F$ を $X$ 上の正則直線束とする。正則切断の空間 $H^0(X,F)$ は有限次元である(Serre双対性 の注意「引用する Hodge の定理」の $(p,q)=(0,0)$ の場合)。点 $x$ の近くの正則な枠 $e$ について、切断を $s=f_se$ と書く。
すべての $s\in H^0(X,F)$ が $x$ で $0$ になるとき、$x$ を $F$ の基点という。基底 $s_0,\dots,s_N$ をとり、基点でない点 $x$ に $\Phi_F(x):=[f_{s_0}(x):\cdots:f_{s_N}(x)]\in\mathbb P^N$ を対応させる。枠を取り替えると座標がいっせいに同じ関数倍になるので $\Phi_F$ は矛盾なく定まる正則写像であり、基底を取り替えると射影変換で移り合う。基点がなく $\Phi_F$ が単射なはめ込みであるとき、$F$ は非常に豊富であるという。$X$ はコンパクトなので、このとき $\Phi_F$ は像(閉複素部分多様体)の上への双正則写像である。
点 $x$ での1 次のジェットを $j_x(s):=\bigl(f_s(x),df_s(x)\bigr)\in\mathbb C\oplus T^{*1,0}_xX$ と書く(枠を替えると可逆な線形変換で移るので、全射であるかどうかは枠によらない)。
$x,y\in X$ とする。
要点:基底の中に都合のよい切断を入れ、$\Phi_F$ をアフィン座標で書く。
1:座標 $z$ をとり、$j_{x}(s_0)=(1,0)$、$j_x(s_i)=(0,dz_i)$ となる $s_0,\dots,s_n$ をとる。これらは 1 次独立なので基底に延ばせる。$f_{s_0}(x)\neq0$ なので $x$ は基点でなく、アフィン座標で $\Phi_F$ の成分に $f_{s_i}/f_{s_0}$ が現れ、その $x$ での微分は $dz_i$ である。よって $d\Phi_F(x)$ は単射である。
2:$s$ を含む基底をとると、$\Phi_F(x)$ の $s$ に対応する座標は $0$、$\Phi_F(y)$ の座標は $0$ でない。射影空間の同じ点なら同次座標は比例するので、$\Phi_F(x)\neq\Phi_F(y)$ である。
3:基底 $\varphi_0,\dots,\varphi_N$ を $f_{\varphi_0}(x)\neq0$ となるようにとり、$u_i:=f_{\varphi_i}/f_{\varphi_0}$ とおく。$d\Phi_F(x)$ が単射なら $du_i(x)$ のうち $n$ 個が基底になり、$s_i:=\varphi_i-u_i(x)\varphi_0$ とすればよい。点については、$\mathbb C^{N+1}$ の線形形式 $\ell$ で直線 $\Phi_F(x)$ の上で $0$、$\Phi_F(y)$ の上で $0$ でないものをとり、$s:=\sum_i\ell_i\varphi_i$ とすればよい。$\square$
$S=\{x_1,\dots,x_M\}\subset X$ を有限集合とし、各 $x_\nu$ を中心とする座標球 $U_\nu$(座標 $z=(z_1,\dots,z_n)$、$z(x_\nu)=0$)を互いに交わらないようにとる。
$$
W_\nu:=\bigl\{(z,[t])\in U_\nu\times\mathbb P^{n-1}\ \big|\ z_it_j=z_jt_i\ (1\le i,j\le n)\bigr\}
$$
は $U_\nu\times\mathbb P^{n-1}$ の $n$ 次元複素部分多様体で、$t_j\neq0$ の部分では $w_k:=t_k/t_j$($k\neq j$)、$w_j:=z_j$ を座標にとると
$$
z=\sigma_j(w):=(w_1w_j,\dots,w_{j-1}w_j,\ w_j,\ w_{j+1}w_j,\dots,w_nw_j)
$$
と書ける。射影 $\sigma(z,[t])=z$ は $W_\nu\setminus E_\nu\to U_\nu\setminus\{x_\nu\}$ の双正則写像で、$E_\nu:=\sigma^{-1}(x_\nu)=\{0\}\times\mathbb P^{n-1}$ は各座標で $w_j=0$ と表される超曲面である。$X\setminus S$ と $W_\nu$ たちを $\sigma$ で貼り合わせたコンパクト複素多様体 $\tilde X$ と正則写像 $\sigma\colon\tilde X\to X$ を、$X$ の $S$ での爆発という。$E:=\bigcup_\nu E_\nu$ を例外因子という(Wel08 Ch. VI §3(pp. 229–230)、Dem12 Ch. VII (12.2)–(12.3)(pp. 355–356)。スキームの爆発は 爆発)。$n=1$ では $\tilde X=X$ である。
要点:1 は $W_\nu$ 上のトートロジカルな切断 $(z,[t])\mapsto z$、2 は $\sigma^*(dz_1\wedge\cdots\wedge dz_n)=\pm w_j^{n-1}dw_1\wedge\cdots\wedge dw_n$、3 は例外因子の上で正則関数が定数であることと Riemann の拡張定理による。
1:$\mathcal O_{\mathbb P^{n-1}}(-1)$ は $[t]$ の上のファイバーが直線 $\mathbb Ct$ の直線束で、$W_\nu$ の定義から $z\in\mathbb Ct$ なので、$h(z,[t]):=z$ は $\mathrm{pr}_2^*\mathcal O(-1)$ の正則切断である。座標 $w$ の上の枠 $\varepsilon_j:=t/t_j=(w_1,\dots,1,\dots,w_n)$ について $h=w_j\varepsilon_j$ なので、$h$ はちょうど $w_j=0$ の上で $1$ 位の零をもつ。$\tilde X\setminus E$ の上では自明な直線束と切断 $1$ をとり、$W_\nu\setminus E_\nu$ の上で $1$ と $h$ を同一視して貼り合わせたものが $\mathcal O(E)$ である。
2:$j$ 番目の座標で $dz_j=dw_j$、$dz_k=w_j\,dw_k+w_k\,dw_j$($k\neq j$)なので、$\sigma^*(dz_1\wedge\cdots\wedge dz_n)=\pm w_j^{n-1}dw_1\wedge\cdots\wedge dw_n$ である($dw_j$ を含む項は消える)。形式の引き戻しは $K_{\tilde X}\otimes\sigma^*K_X^{-1}$ の正則切断 $\tau$ を定め、$\tau$ はちょうど $E$ の上で $n-1$ 位の零をもつ。$h^{n-1}$ も同じ零をもつので、$\tau\otimes h^{-(n-1)}$ は $K_{\tilde X}\otimes\sigma^*K_X^{-1}\otimes\mathcal O(-(n-1)E)$ の $0$ にならない正則切断で、この直線束は自明である。
3:$\sigma$ は全射なので $\sigma^*$ は単射である。全射:$\tilde s\in H^0(\tilde X,\sigma^*F)$ から $X\setminus S$ 上の切断 $s$ が定まる。$U_\nu$ 上で $F$ を自明化すると $\tilde s$ は $\sigma^{-1}(U_\nu)$ 上の正則関数である。$n\ge2$ なら 1 点は余次元 $2$ 以上なので、$U_\nu\setminus\{x_\nu\}$ 上の正則関数 $s$ は $U_\nu$ 上の正則関数に延びる(Riemann の拡張定理。Dem12 Ch. I Corollary (6.4)、p. 46)。$\sigma^*s$ と $\tilde s$ は稠密な $\tilde X\setminus E$ の上で一致するので等しい。$\square$
$L$ を $X$ 上の正の直線束とする。$c$ が十分大きければ、$\mathcal O(-E)\otimes\sigma^*L^c$ は $\tilde X$ 上の正の直線束である。
$\mathcal O(-E)$ に次の計量を入れる。1 の同型により $W_\nu$ 上で $\mathcal O(-E)\cong\mathrm{pr}_2^*\mathcal O_{\mathbb P^{n-1}}(1)$ で、$\mathcal O(1)$ に $\mathbb C^n$ の標準計量から誘導される計量 $h_1$ を入れて引き戻す。$\tilde X\setminus E$ の上では $\mathcal O(-E)$ は切断 $h^{-1}$ で自明化され、$|h^{-1}|=1$ となる計量 $h_2$ を入れる。$U'_\nu\Subset U_\nu$ を $x_\nu$ のより小さい球とし、$U_\nu$ に台をもち $U'_\nu$ で $1$ になる関数 $\chi_\nu\ge0$ をとって、$h_E:=\sum_\nu(\sigma^*\chi_\nu)\,\mathrm{pr}_2^*h_1+\bigl(1-\sum_\nu\sigma^*\chi_\nu\bigr)h_2$ とおく(計量の凸結合は計量である)。このとき $\sigma^{-1}(U'_\nu)$ の上で $i\Theta(\mathcal O(-E),h_E)=\mathrm{pr}_2^*\,i\Theta(\mathcal O(1),h_1)$ で、これは各点で半正である(Chern接続 の命題「射影空間の $\mathcal O(-1)$ と $\mathcal O(1)$ の曲率」)。
$\sigma^{-1}(U'_\nu)$ の上.$\sigma^*i\Theta(L)$ も半正で、その核は $\ker d\sigma$ である。$\mathrm{pr}_2^*i\Theta(\mathcal O(1))$ の核は $\ker d\,\mathrm{pr}_2$ である。$W_\nu$ は $U_\nu\times\mathbb P^{n-1}$ の部分多様体で $(\sigma,\mathrm{pr}_2)$ はその包含写像なので、$\ker d\sigma\cap\ker d\,\mathrm{pr}_2=0$ である。核が $0$ でしか交わらない 2 つの半正な $(1,1)$ 形式の和は正なので、任意の $c>0$ について $i\Theta(\mathcal O(-E))+c\,\sigma^*i\Theta(L)$ はここで正である。
残りの部分.$B:=\tilde X\setminus\bigcup_\nu\sigma^{-1}(U'_\nu)$ はコンパクトで、$\sigma$ は $B$ の近くで双正則なので $\sigma^*i\Theta(L)$ は $B$ の上で正である。$i\Theta(\mathcal O(-E),h_E)$ は $B$ 上の連続な実 $(1,1)$ 形式なので、単位球面束のコンパクト性から、$c$ が大きければ $B$ の上でも和は正である。$\square$
この構成は Wel08 Ch. VI Proposition 3.3 の証明(pp. 231–233)、Dem12 Ch. VII Proposition (12.4)(p. 357)にある。
$L$ を $X$ 上の正の直線束、$S=\{x_1,\dots,x_M\}$ を有限集合とする。ある $k_S$ があって、$k\ge k_S$ なら
$$
H^0(X,L^k)\to\bigoplus_{\nu=1}^M\bigl(\mathbb C\oplus T^{*1,0}_{x_\nu}X\bigr),\qquad s\mapsto\bigl(j_{x_\nu}(s)\bigr)_\nu
$$
は全射である。
$\sigma\colon\tilde X\to X$ を $S$ での爆発とし、$F_k:=\mathcal O(-2E)\otimes\sigma^*L^k$ とおく。
段 1:$H^{0,1}(\tilde X,F_k)=0$.lem-ke-blowup の 2 により
$$
F_k\cong K_{\tilde X}\otimes G_k,\qquad G_k:=\sigma^*\bigl(L^k\otimes K_X^{-1}\bigr)\otimes\mathcal O\bigl(-(n+1)E\bigr)
$$
である。lem-ke-positive により $P:=\mathcal O(-E)\otimes\sigma^*L^c$ が正になる $c$ をとり、小平の消滅定理 の節「正の直線束」により $L^{k_1}\otimes K_X^{-1}$ が正になる $k_1$ をとる。$k_S:=(n+1)c+k_1$ とすると、$k\ge k_S$ で
$$
G_k=P^{\otimes(n+1)}\otimes\sigma^*\bigl(L^{k-(n+1)c}\otimes K_X^{-1}\bigr)
$$
であり、$L^{k-(n+1)c}\otimes K_X^{-1}=L^{k-k_S}\otimes(L^{k_1}\otimes K_X^{-1})$ は正なので、第 2 因子は正の直線束の引き戻しで、引き戻しの計量について曲率は各点で半正である。正と半正の和は正なので $G_k$ は正である。$\tilde X$ はコンパクトなので、小平の消滅定理(小平の消滅定理 の定理「小平–中野の消滅定理」の 2)と Dolbeault の定理から $H^{0,1}(\tilde X,F_k)\cong H^1(\tilde X,K_{\tilde X}\otimes G_k)=0$ である。
段 2:近似の切断を作る.$x_\nu$ で指定するジェットを $(a_\nu,b_\nu)$、$b_\nu=\sum_lb_{\nu l}dz_l$ とし、$U_\nu$ 上の $L^k$ の正則な枠 $e_\nu$ について $v_\nu:=\bigl(a_\nu+\sum_lb_{\nu l}z_l\bigr)e_\nu$ とおく。$U_\nu$ に台をもち $x_\nu$ の近くで $1$ になる滑らかな関数 $\chi_\nu$ をとり、$v:=\sum_\nu\chi_\nu v_\nu$ とする。$v$ は $L^k$ の滑らかな切断で、$\bar\partial v=\sum_\nu\bar\partial\chi_\nu\,v_\nu$ は $S$ の近くで $0$ である。
段 3:$\bar\partial$ 方程式で補正する.$\beta:=\sigma^*(\bar\partial v)$ は $\sigma^*L^k$ に値をとる滑らかな $(0,1)$ 形式で、$E$ の近くで $0$ である。$h^{-2}$ は $\tilde X\setminus E$ 上の $\mathcal O(-2E)$ の正則切断なので、$E$ の外で $w:=h^{-2}\beta$、$E$ の近くで $w:=0$ とおくと、$w$ は $F_k$ に値をとる滑らかな $(0,1)$ 形式で、$E$ の外では $\bar\partial w=h^{-2}\sigma^*(\bar\partial\bar\partial v)=0$、$E$ の近くでは $w=0$ なので、$\bar\partial w=0$ である。段 1 により、$F_k$ の滑らかな切断 $u$ で $\bar\partial u=w$ となるものがある。$\tilde g:=\sigma^*v-h^2u$ は $\sigma^*L^k$ の滑らかな切断で
$$
\bar\partial\tilde g=\beta-h^2w=0
$$
なので正則である。lem-ke-blowup の 3 により $\tilde g=\sigma^*g$ となる $g\in H^0(X,L^k)$ がある。
段 4:ジェットを確かめる.$x_\nu$ の近くで $v=v_\nu$ なので、$g-v_\nu=fe_\nu$ と書くと $f$ は $x_\nu$ の近くの正則関数で、$\sigma^*f=-h^2u$($e_\nu$ についての係数)である。$\xi\in\mathbb C^n$、$\xi_l\neq0$ とする。$t\neq0$ が小さいとき、点 $t\xi$ の $\sigma$ による逆像は座標 $w$($j=l$)で $w_l=t\xi_l$、$w_k=\xi_k/\xi_l$($k\neq l$)の点であり、$h=w_l\varepsilon_l$ だから
$$
f(t\xi)=(t\xi_l)^2\,\psi(t)
$$
で、$\psi$ は $t\to0$ で有界である($u$ は $E$ の点 $(0,[\xi])$ の近くで連続)。よって $f(0)=0$ で、$t\mapsto f(t\xi)$ の $t=0$ での微分 $df(x_\nu)(\xi)$ も $0$ である。$\xi_l\neq0$ となる $l$ はつねにあるので $df(x_\nu)=0$ であり、$j_{x_\nu}(g)=j_{x_\nu}(v_\nu)=(a_\nu,b_\nu)$ である。$\square$
この証明は Dem12 Ch. VII Theorem (13.1)・Lemma (13.2)(pp. 358–359)の $m=1$ の場合である。Wel08 Ch. VI Lemma 4.4(pp. 238–239)は同じことを、層の完全列 $0\to\mathcal O(\tilde F)\otimes\mathcal I_S^2\to\mathcal O(\tilde F)\to\cdots$ のコホモロジーと Hartogs の定理で示している。段 3 の $h^{-2}$ は、点で 2 位まで消える関数のイデアルが、爆発すると直線束 $\mathcal O(-2E)$ の切断の層になることの具体的な現れである。
$X$ を複素次元 $n$ のコンパクト複素多様体とする。
1.$L^k$ の切断が定める写像を $\Phi_k$ と書く。$X\times X$ の部分集合 $G(k)$ を、次をみたす $(x,y)$ の全体とする:$x,y$ は $L^k$ の基点でなく、$x\neq y$ なら $\Phi_k(x)\neq\Phi_k(y)$、$x=y$ なら $\Phi_k$ は $x$ ではめ込みである。
(i) $G(k)$ は開集合である。基点の集合は閉じているので、$x\neq y$ の点では $\Phi_k$ の連続性から明らかである。$(x,x)\in G(k)$ なら、$\Phi_k$ は $x$ ではめ込みなので、逆関数定理により $x$ の近傍 $V$ で $\Phi_k$ は基点をもたず、単射なはめ込みである。よって $V\times V\subset G(k)$ である。
(ii) $c\ge1$ について $G(k)\subset G(ck)$ である。$(x,y)\in G(k)$、$x\neq y$ なら、lem-ke-jets-embedding の 3 により $s(x)=0$、$s(y)\neq0$ となる $s\in H^0(X,L^k)$ があり、$s^c\in H^0(X,L^{ck})$ も同じ性質をもつ。基点でない点の切断の $c$ 乗は $0$ にならないので $x,y$ は $L^{ck}$ の基点でもなく、同補題の 2 により $\Phi_{ck}(x)\neq\Phi_{ck}(y)$ である。$x=y$ なら、同補題の 3 の $s_0,\dots,s_n$ について $s_0^c$ と $s_0^{c-1}s_i$ を考えると、比 $f_{s_0^{c-1}s_i}/f_{s_0^c}=f_{s_i}/f_{s_0}$ は変わらないので、$\Phi_{ck}$ も $x$ ではめ込みである(同補題の 1 の証明と同じ)。
(iii) 任意の $(x,y)$ はある $G(k)$ に属する。$x\neq y$ なら $S=\{x,y\}$、$x=y$ なら $S=\{x\}$ として lem-ke-jets を当てると、$k\ge k_S$ で 1 次のジェットを自由に指定できる。とくに $j_x$ は全射なので lem-ke-jets-embedding の 1 により $x$ は基点でなく $\Phi_k$ は $x$ ではめ込みで、$x\neq y$ なら $s(x)=0$、$s(y)=1$(枠について)となる $s$ があるので、同補題の 2 により $\Phi_k(x)\neq\Phi_k(y)$ である。
(iv) $X\times X$ はコンパクトなので、(i)・(iii) により有限個の $G(k_1),\dots,G(k_r)$ で覆われる。$k_0:=k_1k_2\cdots k_r$ とおくと、$k_0$ の倍数 $k$ は各 $k_i$ の倍数なので、(ii) により $G(k)\supset G(k_i)$ がすべての $i$ について成り立ち、$G(k)=X\times X$ である。すなわち $L^k$ は基点をもたず、$\Phi_k$ は単射なはめ込みである。$X$ はコンパクトなので $\Phi_k$ は像への同相写像で、像は閉複素部分多様体である。
2.1 により正の直線束をもてば $X$ は射影空間の閉複素部分多様体と双正則である。逆に $X\subset\mathbb P^N$ が閉複素部分多様体なら、$\mathcal O(1)$ に $\mathbb C^{N+1}$ の標準計量から誘導される計量の曲率は $i\Theta=2\,\omega_{\mathrm{FS}}$ で正であり(Chern接続 の命題「射影空間の $\mathcal O(-1)$ と $\mathcal O(1)$ の曲率」とその後の段落)、その $X$ への制限 $\mathcal O(1)|_X$ は正である(Chern 曲率は制限と両立し、正の形式の制限は正)。最後の主張は、射影空間の解析的部分集合は斉次多項式の共通零点である、という Chow の定理による(Dem12 Ch. II Theorem (8.10)、p. 121。この記事では証明しない)。$\square$
主定理は Wel08 Ch. VI Theorem 4.1 と Remark (b)(p. 234)、Dem12 Ch. VII Corollary (13.3)・Theorem (14.1)(pp. 359–360)にある。Wel08 は点を分けることと接ベクトルを分けることを 2 点の爆発と 1 点の爆発で別々に示し、必要な冪を点によらず一様にとる評価(Proposition 3.3)を使う。上の証明は点ごとの $k_S$ だけを使い、一様性を (i)・(ii) の開集合の議論とコンパクト性で置き換えた。Dem12 Remark (14.2)(p. 360)によれば、射影的な $X$ は $\mathbb P^{2n+1}$ に埋め込める。
$X$ を連結なコンパクト複素多様体とする。$X$ が射影空間の閉複素部分多様体と双正則であるための必要十分条件は、$X$ が Kähler 形式 $\omega$ で、その de Rham 類 $[\omega]$ が $H^2(X,\mathbb Q)$ の像に入るもの(Hodge 計量)をもつことである。
要点:Hodge 計量の類の整数倍を第 1 Chern 類にもつ直線束をとり、$\partial\bar\partial$-補題で計量を取り替えて曲率形式をその Kähler 形式に一致させる。
必要性:$X\subset\mathbb P^N$ なら $\frac i{2\pi}\Theta(\mathcal O(1)|_X)$ は Kähler 形式で、その類は整数係数の類 $c_1(\mathcal O(1)|_X)$ の像である(第1Chern類 の定理「3つの定義の一致」)。
十分性:$[\omega]$ に正の整数 $m$ を掛けて $[m\omega]$ が整数係数の類 $a$ の像になるようにする。$a$ の像は型 $(1,1)$ の形式で代表されるので、Lefschetz の $(1,1)$ 定理(第1Chern類 の定理「Lefschetzの(1,1)定理」)により $c_1(L)=a$ となる正則直線束 $L$ がある。$L$ に計量 $h$ を入れると $\frac i{2\pi}\Theta(L,h)$ と $m\omega$ は同じ de Rham 類をもつ実 $(1,1)$ 形式なので、差は $d$ 完全であり、∂∂̄-補題 の系「実 $(1,1)$ 形式の $\partial\bar\partial$-補題」により実数値関数 $\varphi$ で $m\omega-\frac i{2\pi}\Theta(L,h)=i\partial\bar\partial\varphi$ となるものがある。$h':=e^{-2\pi\varphi}h$ の曲率は $\Theta(L,h')=\Theta(L,h)+2\pi\partial\bar\partial\varphi$ なので $\frac i{2\pi}\Theta(L,h')=m\omega$ で、$L$ は正である。thm-ke-main の 2 から結論を得る。$\square$
Wel08 Ch. VI Definition 1.1(p. 218)は整係数の類をもつ Kähler 形式を Hodge 形式と呼び、Proposition 2.2(p. 223)で同じ計量の取り替えを行っている。Dem12 Ch. VII Theorem (14.1)(pp. 359–360)の c) も同じ内容である。
$X=\mathbb C/\Lambda$ を楕円曲線、$P\in X$ とし、$L=\mathcal O(P)$ とする。$L$ は次数 $1$ で正である(小平の消滅定理 の例「コンパクト Riemann 面」)。$H^0(X,L)$ は $P$ にたかだか 1 位の極をもつ有理型関数の空間と同一視でき、そのような関数は定数に限る(定数でなければ次数 $1$ の正則写像 $X\to\mathbb P^1$ を与え、$X\cong\mathbb P^1$ となって種数が合わない)。よって $\dim H^0(X,L)=1$ で、$\Phi_L$ は 1 点への写像であり埋め込みではない。$L^2=\mathcal O(2P)$ も非常に豊富でない(豊富な直線束 の例「反例:豊富だが非常に豊富でない可逆層」)。一方、種数 $g$ の曲線では次数 $2g+1$ 以上の直線束は非常に豊富なので(同記事の命題「曲線上の豊富性と次数」の証明)、$L^3=\mathcal O(3P)$ は非常に豊富で、$X$ を $\mathbb P^2$ の 3 次曲線として埋め込む。thm-ke-main の 1 で $k_0$ をとることは省けない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 正の直線束(Kähler だけを仮定) | 周期行列が Riemann の条件をみたさない複素 2 次元トーラス | 射影空間への埋め込み |
| Kähler | Hopf 曲面 $(\mathbb C^2\setminus\{0\})/\langle z\mapsto2z\rangle$ | 射影空間への埋め込み |
| $L$ の冪をとる | 楕円曲線と $L=\mathcal O(P)$ | $\Phi_L$ が埋め込み |
| コンパクト | $\mathbb C$ と自明束、計量 $e^{-\lvert z\rvert^2}$ | 閉複素部分多様体としての埋め込み |
1 行目:Wel08 Ch. VI Example 1.6(p. 222)の周期行列 $\begin{pmatrix}1&0&\sqrt{-2}&\sqrt{-5}\\0&1&\sqrt{-3}&\sqrt{-7}\end{pmatrix}$ で定まる複素トーラスは、平坦な計量で Kähler だが、Riemann の条件をみたす有理係数の交代行列がなく、射影的でない(同所の計算。この記事では証明しない)。Kähler 形式の類を有理係数に動かせないことが障害であり、cor-ke-hodge の「有理係数」は外せない。
2 行目:Hopf 曲面は $S^3\times S^1$ と微分同相で $b_1=1$ は奇数なので Kähler でない(Hodge分解 の例「反例:Hopf 曲面」)。正の直線束があれば曲率が Kähler 形式になる(小平の消滅定理 の定義「正の直線束と負の直線束」の後の段落)ので、Hopf 曲面は正の直線束をもたず、射影空間の閉部分多様体にならない。
3 行目:ex-ke-elliptic のとおりである。
4 行目:Chern接続 の例「重みの付いた自明直線束」により自明束は計量 $e^{-|z|^2}$ で正だが、$\mathbb C$ はコンパクトでないので射影空間の閉複素部分多様体(コンパクト)と双正則にならない。$H^0(\mathbb C,\mathcal O)$ は無限次元で、切断が定める写像も定義されない。証明の中でコンパクト性は、$H^0$ の有限次元性、小平の消滅定理、(iv) の有限被覆に使われている。
注意を 2 つ挙げる。
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