Rieszの表現定理(Riesz representation theorem)とは、Hilbert 空間 $H$ 上の有界な線形汎関数 $\varphi$ に対し、すべての $x\in H$ で $\varphi(x)=\langle x,h\rangle$ となる $h\in H$ がただ 1 つ存在し、$\|\varphi\|=\|h\|$ となるという定理である。$\mathbb{R}^n$ の 1 次式を法線ベクトルとの内積で表すことの無限次元版であり、$H$ をその連続双対空間と共役線形に同一視する。随伴作用素の存在や、対称でない形式を扱う Lax–Milgram の定理の基礎になる。空間の完備性や汎関数の有界性を外すと成り立たなくなる。
$\mathbb{R}^3$ の 1 次式 $\varphi(x)=2x_1-x_2+2x_3$ は、ベクトル $a=(2,-1,2)$ との内積 $\varphi(x)=a\cdot x$ として書ける。$a$ は平面 $\varphi(x)=c$ の法線ベクトルであり、点 $p$ から平面までの距離は $|\varphi(p)-c|/\|a\|$ で与えられる。このように、線形な関数(線形汎関数)を 1 つのベクトルとの内積で表すと、その関数の等高面の向きと、関数の「大きさ」が 1 つのベクトルで読み取れる。
Riesz の表現定理は、この表示が関数の空間のような無限次元の空間でも成り立つことを述べる。内積について完備な空間(Hilbert空間)の上では、連続な線形汎関数はすべて、ある 1 つの元との内積であり、その元はただ 1 つに決まり、汎関数のノルムはその元の長さに等しい。これにより、Hilbert 空間はその連続双対空間と(共役線形に)同一視され、随伴作用素の存在や、偏微分方程式の弱い解の存在(Lax–Milgram の定理)が導かれる。完備性と連続性(有界性)のどちらを外しても、この表示は成り立たなくなる。
以下、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、$a\in F$ の複素共役を $\bar a$ と書く($F=\mathbb{R}$ なら $\bar a=a$)。内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は 内積空間 の記事と同じく第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形とし、$\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ とおく。
内積空間 $V$ 上の線形写像 $\varphi\colon V\to F$ を線形汎関数という。
$$
\|\varphi\|:=\sup\{|\varphi(x)|\mid x\in V,\ \|x\|\le1\}\in[0,\infty]
$$
が有限のとき $\varphi$ は有界であるといい、これは $\varphi$ が連続であることと同値である(ノルム空間 の記事の定理「連続性と有界性の同値」)。有界な線形汎関数全体を $V'$ と書き、$V$ の連続双対空間という。$V'$ は $\|\cdot\|$ について Banach 空間である(Banach空間 の記事の定理「有界線形写像の空間の完備性」)。
$h\in V$ に対して
$$
\varphi_h(x):=\langle x,h\rangle\qquad(x\in V)
$$
とおく。内積の第 1 変数の線形性から $\varphi_h$ は線形汎関数である。
内積空間 $V$ の元 $h$ について、$\varphi_h$ は有界で $\|\varphi_h\|=\|h\|$ である。また $\varphi_h=\varphi_{h'}$ ならば $h=h'$ である。
Cauchy–Schwarz の不等式(内積空間 の記事の定理「内積のCauchy–Schwarz不等式」)から $|\varphi_h(x)|\le\|h\|\,\|x\|$ なので $\|\varphi_h\|\le\|h\|$ である。$h\ne0$ なら $x=h/\|h\|$ で $|\varphi_h(x)|=\|h\|$ なので $\|\varphi_h\|\ge\|h\|$ である($h=0$ なら両辺 $0$)。$\varphi_h=\varphi_{h'}$ なら、$x=h-h'$ として $\|h-h'\|^2=\varphi_h(h-h')-\varphi_{h'}(h-h')=0$ である。$\square$
したがって「$\varphi=\varphi_h$ となる $h$」は、あれば 1 つであり、そのとき $\varphi$ は有界で $\|\varphi\|=\|h\|$ である。問題は、そのような $h$ が存在するかどうかである。
有限次元の内積空間では、線形汎関数はすべて有界であり、表す元は正規直交基底で具体的に書ける。
$V$ を有限次元の内積空間、$\varphi\colon V\to F$ を線形汎関数とする。$e_1,\dots,e_n$ を $V$ の正規直交基底とし、
$$
h:=\sum_{k=1}^n\overline{\varphi(e_k)}\,e_k
$$
とおくと、すべての $x\in V$ について $\varphi(x)=\langle x,h\rangle$ である。このような $h$ はただ 1 つであり、したがって正規直交基底の選び方によらない。
$x=\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$(正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」の 1)と $\varphi$ の線形性から
$$
\varphi(x)=\sum_{k=1}^n\langle x,e_k\rangle\varphi(e_k)=\Bigl\langle x,\sum_{k=1}^n\overline{\varphi(e_k)}\,e_k\Bigr\rangle=\langle x,h\rangle
$$
である(2 つ目の等号は第 2 変数の共役線形性)。一意性は lem-rrt-norm による。$\square$
$F^n$ の標準内積では $e_k$ を標準基底にとれて、$\varphi(x)=\sum_ka_kx_k$ に対し $h=(\overline{a_1},\dots,\overline{a_n})$ である。有限次元のこの主張は、双対空間(線形代数) の記事の双対基底の言葉では、正規直交基底の双対基底が内積によって $e_1,\dots,e_n$ 自身と同一視されることにあたる(Axl24 6.42、Exercises 6C の 14)。
2 次以下の実係数多項式の空間 $V$ に内積 $\langle p,q\rangle=\int_{-1}^1p(t)q(t)\,dt$ を入れ、$\varphi(p):=p(0)$ とする。$V$ の正規直交基底
$$
e_1=\frac1{\sqrt2},\qquad e_2=\sqrt{\frac32}\,t,\qquad e_3=\sqrt{\frac{45}8}\Bigl(t^2-\frac13\Bigr)
$$
(内積空間 の例「Gram–Schmidtの直交化の計算」)を使うと、$\varphi(e_1)=\frac1{\sqrt2}$、$\varphi(e_2)=0$、$\varphi(e_3)=-\frac13\sqrt{\frac{45}8}$ なので
$$
q(t)=\frac12-\frac{45}{8}\cdot\frac13\Bigl(t^2-\frac13\Bigr)=\frac98-\frac{15}8t^2
$$
である。すなわち、すべての 2 次以下の多項式 $p$ について $p(0)=\int_{-1}^1p(t)\Bigl(\frac98-\frac{15}8t^2\Bigr)dt$ が成り立つ。両辺とも $p$ について線形なので、$p=1,t,t^2$ で確かめれば十分であり、実際 $\int_{-1}^1q=\frac94-\frac54=1$、$\int_{-1}^1tq=0$(奇関数)、$\int_{-1}^1t^2q=\frac34-\frac34=0$ である。$\|\varphi\|=\|q\|=\sqrt{9/8}$ である($\|q\|^2=\langle q,q\rangle=\varphi(q)=q(0)$)。
同じ計算を $n$ 次以下の多項式の空間で行うと、$p(0)$ を表す多項式 $q_n$ は $n$ ごとに変わり、$\|q_n\|^2=q_n(0)$ は $n=2,4,10,20,40$ で $1.125$、$1.757\ldots$、$3.664\ldots$、$6.845\ldots$、$13.21\ldots$ と大きくなっていく。連続関数全体を同じ内積で扱う無限次元の空間では、$f\mapsto f(0)$ はもはや有界でなく、どの元との内積としても表せない(ex-rrt-unbounded)。
$H$ を Hilbert 空間、$\varphi\colon H\to F$ を有界な線形汎関数とする。このとき、すべての $x\in H$ について
$$
\varphi(x)=\langle x,h\rangle
$$
を満たす $h\in H$ がただ 1 つ存在し、$\|\varphi\|=\|h\|$ である。さらに $\varphi\ne0$ なら、$h$ は直交補空間 $(\ker\varphi)^\perp$ に属し、$(\ker\varphi)^\perp$ は 1 次元である。
一意性と $\|\varphi\|=\|h\|$ は lem-rrt-norm による。$\varphi=0$ なら $h=0$ でよい。以下 $\varphi\ne0$ とし、$N:=\ker\varphi$ とおく。
$N$ は閉部分空間である($\varphi$ は連続なので $N=\varphi^{-1}(0)$ は閉集合)。$\varphi\ne0$ なので $N\ne H$ であり、直交補空間 の記事の定理「Hilbert 空間での直交補空間」の 2 から $H=N\oplus N^\perp$ なので、$N^\perp\ne\{0\}$ である。
$N^\perp$ は 1 次元である。実際 $g_1,g_2\in N^\perp$ について、$w:=\varphi(g_2)g_1-\varphi(g_1)g_2$ は $\varphi(w)=0$ を満たすので $w\in N$ であり、部分空間 $N^\perp$ にも属するので $w\in N\cap N^\perp=\{0\}$ である。$g_1\ne0$ なら $\varphi(g_1)\ne0$($g_1\in N$ なら $g_1\in N\cap N^\perp$)なので、$g_2=\frac{\varphi(g_2)}{\varphi(g_1)}g_1$ となる。
$\|g\|=1$ となる $g\in N^\perp$ をとり、$h:=\overline{\varphi(g)}\,g$ とおく。$x\in H$ について $x-\frac{\varphi(x)}{\varphi(g)}g\in N$ なので、これは $g$ と直交し、$\langle x,g\rangle=\frac{\varphi(x)}{\varphi(g)}$ である。よって
$$
\langle x,h\rangle=\varphi(g)\langle x,g\rangle=\varphi(x)
$$
である。$\square$
証明の筋は Hilbert空間 の記事の定理「Rieszの表現定理」と同じで、表す元 $h$ は核 $\ker\varphi$ に垂直な唯一の方向にある。$\mathbb{R}^3$ の平面 $\varphi(x)=0$ の法線ベクトルと同じである。完備性は、閉部分空間 $N$ への直交分解 $H=N\oplus N^\perp$ を通して使われている。
有限次元の公式 $h=\sum_k\overline{\varphi(e_k)}e_k$ は、完全正規直交系(Hilbert空間 の記事の定義「完全正規直交系」)についての無限和として成り立つ。
$H$ を Hilbert 空間、$(e_k)_{k\ge1}$ を $H$ の完全正規直交系、$\varphi$ を $H$ 上の有界な線形汎関数とする。このとき
$$
h=\sum_{k=1}^\infty\overline{\varphi(e_k)}\,e_k,\qquad\|\varphi\|^2=\sum_{k=1}^\infty|\varphi(e_k)|^2
$$
であり(級数は $H$ で収束する)、$h$ は thm-rrt-main で $\varphi$ を表す元である。
$h$ を thm-rrt-main で $\varphi$ を表す元とすると、$\langle h,e_k\rangle=\overline{\langle e_k,h\rangle}=\overline{\varphi(e_k)}$ である。Hilbert空間 の記事の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」の 3・4 から $h=\sum_k\langle h,e_k\rangle e_k$、$\|h\|^2=\sum_k|\langle h,e_k\rangle|^2$ であり、$\|\varphi\|=\|h\|$ と合わせて結論を得る。$\square$
この命題は thm-rrt-main を使わずに、級数 $\sum_k\overline{\varphi(e_k)}e_k$ の収束を直接示して証明することもできる(Axl20 8.76)。無限和の係数 $\varphi(e_k)$ が 2 乗総和可能であることは、$\varphi$ の有界性から出てくる。
$\mathbb{R}^3$ の線形汎関数 $\varphi(x)=2x_1-x_2+2x_3$ は $h=(2,-1,2)$ で表され、$\|\varphi\|=\|h\|=3$ である。点 $p=(1,1,1)$ と平面 $P:\ 2x_1-x_2+2x_3=6$ について、次の cor-rrt-distance から距離は $\frac{|\varphi(p)-6|}{\|\varphi\|}=\frac{|3-6|}3=1$ であり、最も近い点は $p-\frac{\varphi(p)-6}{\|h\|^2}h=(1,1,1)+\frac13(2,-1,2)=\bigl(\frac53,\frac23,\frac53\bigr)$ である($2\cdot\frac53-\frac23+2\cdot\frac53=6$)。高校数学の点と平面の距離の公式は、この等式の $\mathbb{R}^3$ の場合である(超平面 の記事の定理「点と超平面の距離、超平面の両側」)。
$H$ を Hilbert 空間、$\varphi$ を $0$ でない有界な線形汎関数、$h$ を $\varphi$ を表す元とし、$c\in F$、$P:=\{x\in H\mid\varphi(x)=c\}$ とする。任意の $p\in H$ について、$P$ の点のうち $p$ に最も近い点は
$$
p_0:=p-\frac{\varphi(p)-c}{\|h\|^2}\,h
$$
ただ 1 つであり、その距離は $\dfrac{|\varphi(p)-c|}{\|\varphi\|}$ である。
$\varphi(p_0)=\varphi(p)-\frac{\varphi(p)-c}{\|h\|^2}\langle h,h\rangle=c$ なので $p_0\in P$ であり、$\|p-p_0\|=\frac{|\varphi(p)-c|}{\|h\|}$ である。$x\in P$ なら $\varphi(x-p_0)=0$ なので $\langle x-p_0,h\rangle=0$ であり、$p-p_0$ は $h$ の定数倍なので $x-p_0$ と直交する。三平方の定理から
$$
\|p-x\|^2=\|p-p_0\|^2+\|p_0-x\|^2\ge\|p-p_0\|^2
$$
であり、等号は $x=p_0$ のときに限る。最後に $\|h\|=\|\varphi\|$ である。$\square$
$\ell^2$ 上の $\varphi(x):=\sum_{n=1}^\infty x_n/n$ は、$u:=(1,\frac12,\frac13,\dots)\in\ell^2$ について $\varphi=\varphi_u$ であり、$\|\varphi\|=\|u\|=\bigl(\sum_n1/n^2\bigr)^{1/2}=\pi/\sqrt6$ である(Basel問題 の定理「平方数の逆数の和」)。$\ell^2$ の標準的な完全正規直交系 $e_k$ について prop-rrt-onb の係数は $\varphi(e_k)=1/k$ である。
区間 $[0,1]$ 上の 2 乗可積分な関数の空間 $L^2([0,1])$(Hilbert空間 の例「2 乗可積分関数の空間」)では、$g\in L^2([0,1])$ について $\varphi(f):=\int_0^1f(t)g(t)\,dt$ は有界な線形汎関数で、$h=\overline g$ で表される。thm-rrt-main は逆に、$L^2([0,1])$ 上の有界な線形汎関数がすべてこの形であることを述べている。
$H$ を Hilbert 空間とし、$\Phi\colon H\to H'$ を $\Phi(h):=\varphi_h=\langle\cdot,h\rangle$ で定める。
1:単射とノルムの保存は lem-rrt-norm、全射は thm-rrt-main である。
2:$\langle x,ah+bg\rangle=\bar a\langle x,h\rangle+\bar b\langle x,g\rangle$ である。
3:1 から $H'$ の元はすべて $\Phi(h)$ の形にただ 1 通りに書けるので、右辺は $H'$ 上の関数として定まる。内積の公理は 2 と $H$ の内積の公理から従い、$\langle\Phi(h),\Phi(h)\rangle_{H'}=\|h\|^2=\|\Phi(h)\|^2$ である。
2 から、$\langle\Phi(h)+\Phi(h'),\Phi(g)\rangle_{H'}=\langle\Phi(h+h'),\Phi(g)\rangle_{H'}=\langle g,h+h'\rangle=\langle\Phi(h),\Phi(g)\rangle_{H'}+\langle\Phi(h'),\Phi(g)\rangle_{H'}$、$\langle a\Phi(h),\Phi(g)\rangle_{H'}=\langle\Phi(\bar ah),\Phi(g)\rangle_{H'}=\langle g,\bar ah\rangle=a\langle\Phi(h),\Phi(g)\rangle_{H'}$ であり、第 1 変数について線形である。共役対称性は $\langle h,g\rangle=\overline{\langle g,h\rangle}$ から従い、$\langle\Phi(h),\Phi(h)\rangle_{H'}=\|h\|^2=\|\Phi(h)\|^2$ から正定値性とノルムの一致が従う。
$F=\mathbb{R}$ なら $\Phi$ は線形な等長同型であり、$H$ と $H'$ を同じものとみなせる。$F=\mathbb{C}$ では $\Phi(ih)=-i\Phi(h)$ となり、$\Phi$ は線形でない。有限次元の内積空間では、この対応で部分空間 $U$ の直交補空間 $U^\perp$ が零化空間 $U^0$ に写る(直交補空間 の記事の節「補空間・零化空間との比較」)。
$H_1,H_2$ を Hilbert 空間、$T\colon H_1\to H_2$ を有界線形写像とする。すべての $x\in H_1$、$y\in H_2$ について
$$
\langle Tx,y\rangle=\langle x,T^*y\rangle
$$
を満たす写像 $T^*\colon H_2\to H_1$ がただ 1 つ存在する。$T^*$ は有界線形写像で、$(T^*)^*=T$、$\|T^*\|=\|T\|$ である。
$y\in H_2$ を固定すると、$x\mapsto\langle Tx,y\rangle$ は線形で、$|\langle Tx,y\rangle|\le\|T\|\,\|x\|\,\|y\|$ から有界である。thm-rrt-main により、この汎関数を表す元 $T^*y\in H_1$ がただ 1 つ存在する。これが等式を満たすただ 1 つの写像である。
線形性:$\langle x,T^*(ay+bz)\rangle=\langle Tx,ay+bz\rangle=\bar a\langle x,T^*y\rangle+\bar b\langle x,T^*z\rangle=\langle x,aT^*y+bT^*z\rangle$ がすべての $x$ で成り立つので、表す元の一意性から $T^*(ay+bz)=aT^*y+bT^*z$ である。
有界性:lem-rrt-norm から $\|T^*y\|=\sup_{\|x\|\le1}|\langle Tx,y\rangle|\le\|T\|\,\|y\|$ なので $\|T^*\|\le\|T\|$ である。
$(T^*)^*=T$:$\langle T^*y,x\rangle=\overline{\langle x,T^*y\rangle}=\overline{\langle Tx,y\rangle}=\langle y,Tx\rangle$ なので、$T^*$ の随伴は $T$ である。したがって $\|T\|=\|(T^*)^*\|\le\|T^*\|$ であり、$\|T^*\|=\|T\|$ である。$\square$
有限次元で正規直交基底をとると、$T^*$ の表現行列は $T$ の表現行列の共役転置である。核と像の関係 $\ker T^*=(\operatorname{im}T)^\perp$ は Hilbert 空間でも同じ証明で成り立つ(直交補空間 の記事の定理「随伴写像の核と像」の 1)。
内積の代わりに、対称とは限らない「内積に似た」形式で汎関数を表したいことがある。偏微分方程式の弱い解の存在証明で使われる次の定理は、Riesz の表現定理から導かれる。
写像 $a\colon H\times H\to F$ が第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形であるとき、$a$ を半双線形形式という($F=\mathbb{R}$ なら双線形形式)。
$H$ を Hilbert 空間、$a$ を $H$ 上の半双線形形式とし、定数 $M,\alpha>0$ があって、すべての $u,v\in H$ について
$$
\lvert a(u,v)\rvert\le M\|u\|\,\|v\|\quad\text{(有界性)},\qquad\operatorname{Re}a(u,u)\ge\alpha\|u\|^2\quad\text{(強圧性)}
$$
が成り立つとする。このとき、任意の有界な線形汎関数 $\varphi\in H'$ に対し、すべての $v\in H$ について
$$
a(v,u)=\varphi(v)
$$
を満たす $u\in H$ がただ 1 つ存在し、$\|u\|\le\|\varphi\|/\alpha$ である。
要点:thm-rrt-main を $v\mapsto a(v,u)$ に使うと、$a(v,u)=\langle v,Au\rangle$ となる有界線形作用素 $A\colon H\to H$ が得られる。強圧性と Cauchy–Schwarz の不等式から
$$
\alpha\|u\|^2\le\operatorname{Re}a(u,u)=\operatorname{Re}\langle u,Au\rangle\le\|u\|\,\|Au\|,\qquad\text{すなわち}\qquad\|Au\|\ge\alpha\|u\|
$$
であり、ここから $A$ は単射で像が閉、さらに像の直交補空間が $\{0\}$ なので $A$ は全単射になる。$\varphi=\langle\cdot,h\rangle$ と表して $u:=A^{-1}h$ とおけばよい。
段 1(作用素に直す).$u\in H$ を固定すると $v\mapsto a(v,u)$ は線形で、有界性から $|a(v,u)|\le M\|u\|\,\|v\|$ である。thm-rrt-main により $a(v,u)=\langle v,Au\rangle$(すべての $v$)となる $Au\in H$ がただ 1 つあり、lem-rrt-norm から $\|Au\|\le M\|u\|$ である。$a(v,cu+c'u')=\bar c\,a(v,u)+\overline{c'}\,a(v,u')=\langle v,cAu+c'Au'\rangle$ なので、表す元の一意性により $A\colon H\to H$ は線形である。
段 2(単射と閉な像).上の不等式 $\|Au\|\ge\alpha\|u\|$ から $A$ は単射である。$Au_n\to y$ とすると、$\|u_n-u_m\|\le\frac1\alpha\|Au_n-Au_m\|$ から $(u_n)$ は Cauchy 列で、完備性からある $u$ に収束する。$A$ は連続なので $y=\lim_nAu_n=Au$ であり、$\operatorname{im}A$ は閉である。
段 3(像は全体).$w\in(\operatorname{im}A)^\perp$ なら $\langle w,Aw\rangle=0$ なので $\alpha\|w\|^2\le\operatorname{Re}a(w,w)=0$、$w=0$ である。直交補空間 の記事の定理「Hilbert 空間での直交補空間」の 1 から $\operatorname{im}A=(\operatorname{im}A)^{\perp\perp}=\{0\}^\perp=H$ である。
段 4(結論).$\varphi$ を thm-rrt-main で $\varphi=\langle\cdot,h\rangle$ と表し、$u:=A^{-1}h$ とおくと $a(v,u)=\langle v,Au\rangle=\langle v,h\rangle=\varphi(v)$ である。$u'$ も同じ等式を満たせば $\langle v,A(u-u')\rangle=0$ がすべての $v$ で成り立つので $A(u-u')=0$、$u=u'$ である。最後に $\alpha\|u\|\le\|Au\|=\|h\|=\|\varphi\|$ である。$\square$
$a$ が共役対称($a(v,u)=\overline{a(u,v)}$)なら、有界性と強圧性から $a$ は $H$ の内積と同値な新しい内積になり、この定理はその内積についての Riesz の表現定理そのものである。Lax–Milgram の定理の要点は、$a$ が対称でなくても表現が得られることにある。
$b\in\ell^2$ に対し、未知数列 $x=(x_1,x_2,\dots)$ の方程式
$$
2x_n+x_{n+1}-x_{n-1}=b_n\qquad(n\ge1,\ x_0:=0)
$$
を考える。左辺を $(Ax)_n$ とおくと、$A=2I+L-R$($L$ は左ずらし $(Lx)_n=x_{n+1}$、$R$ は右ずらし $(Rx)_n=x_{n-1}$)は $\ell^2$ 上の有界線形作用素で $\|A\|\le4$ である。$z:=\langle Rx,x\rangle=\sum_{m\ge1}x_m\overline{x_{m+1}}$ とおくと $\langle Lx,x\rangle=\bar z$ なので
$$
\operatorname{Re}\langle Ax,x\rangle=2\|x\|^2+\operatorname{Re}(\bar z-z)=2\|x\|^2
$$
である。$a(v,u):=\langle v,Au\rangle$ は半双線形形式で、$|a(v,u)|\le4\|u\|\,\|v\|$、$\operatorname{Re}a(u,u)=\operatorname{Re}\overline{\langle Au,u\rangle}=2\|u\|^2$ を満たす。thm-rrt-lax-milgram を $\varphi=\langle\cdot,b\rangle$ に使うと、$\langle v,Au\rangle=\langle v,b\rangle$(すべての $v$)、すなわち $Au=b$ を満たす $u\in\ell^2$ がただ 1 つあり、$\|u\|\le\|b\|/2$ である。$A$ は自己随伴でない($A^*=2I+R-L\ne A$)ので、内積を取り替えるだけでは Riesz の表現定理に帰着しない。
$b=(1,0,0,\dots)$ のとき、解は $u_n=r^n$($r:=\sqrt2-1$)である。$r^2+2r-1=0$ なので $n\ge2$ では $2r^n+r^{n+1}-r^{n-1}=r^{n-1}(r^2+2r-1)=0$、$n=1$ では $2r+r^2=1$ であり、$\|u\|^2=\frac{r^2}{1-r^2}$ から $\|u\|=0.4550\ldots\le\frac12$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 空間の完備性 | $c_{00}$ 上の $x\mapsto\sum_nx_n/n$ | 表す元の存在 |
| 汎関数の有界性 | $\ell^2$ 上の有界でない線形汎関数 | 表す元の存在 |
| 汎関数の有界性(具体例) | $C([-1,1])$ に $\int_{-1}^1f\bar g$ の内積、$f\mapsto f(0)$ | 表す元の存在 |
| ノルムが内積から来ること | $\ell^p$($1< p<2$)上の $a\mapsto\sum_na_nn^{-1/p}$ | 空間自身の元による表示 |
有限個の項以外が $0$ の数列の空間 $c_{00}$ に $\ell^2$ の内積を入れ、$\varphi(x):=\sum_nx_n/n$(有限和)とおく。$u=(1,\frac12,\frac13,\dots)\in\ell^2$ について $\varphi(x)=\langle x,u\rangle$ なので、Cauchy–Schwarz の不等式から $\varphi$ は有界である。しかし $\varphi=\varphi_h$ となる $h\in c_{00}$ はない。あれば $\overline{h_n}=\langle e_n,h\rangle=\varphi(e_n)=\frac1n$ がすべての $n$ で成り立ち、$h$ の項がすべて $0$ でないことになるからである(Hilbert空間 の記事の例「反例:完備でない内積空間 $c_{00}$」と同じ汎関数)。満たす性質は内積空間であることと $\varphi$ の有界性、満たさない性質は空間の完備性である。$c_{00}$ を完備化した $\ell^2$ では $\varphi$ は $u$ で表され、$u\notin c_{00}$ である。証明で使った直交分解 $c_{00}=N\oplus N^\perp$($N=\ker\varphi$)が成り立たないことは 直交補空間 の例「反例:完備でない内積空間」にある。
lem-rrt-norm により $\varphi_h$ はつねに有界なので、有界でない線形汎関数はどの元との内積としても表せない。無限次元のノルム空間には有界でない線形汎関数がつねに存在し(Axl20 6.62)、$\ell^2$ も例外でない。ただしその存在証明は、Zornの補題(選択公理 と同値)による線形代数の意味の基底の存在を使い、具体的な式では与えられない。
完備でない空間では具体的な例がある。$[-1,1]$ 上の実数値連続関数の空間 $C([-1,1])$ に内積 $\langle f,g\rangle=\int_{-1}^1fg$ を入れ、$\varphi(f):=f(0)$ とする。$f_n(x):=\max(0,1-n|x|)$ は $\varphi(f_n)=1$ だが $\|f_n\|^2=2\int_0^{1/n}(1-nx)^2dx=\frac2{3n}\to0$ なので、$\varphi$ は有界でなく、どの $g$ についても $f(0)=\int_{-1}^1fg$ とは書けない。ex-rrt-poly の直後に挙げた $\|q_n\|$ は、$\varphi$ を $n$ 次以下の多項式に制限したときのノルムであり(lem-rrt-norm)、それが次数とともに大きくなっていくのは、制限を外した $\varphi$ が有界でないことと符合している。
$1< p<2$ とし、$p':=p/(p-1)$ とおく。$\ell^p$ は Banach 空間だが、そのノルムはどの内積からも来ない(Hilbert空間 の例「反例:Hilbert 空間でない空間」)。$\ell^p$ の有界な線形汎関数は、$\ell^{p'}$ の元 $b$ によって $a\mapsto\sum_na_nb_n$ とただ 1 通りに表される(Axl20 7.26)。$b_n:=n^{-1/p}$ とすると、$p'/p=1/(p-1)>1$ なので $\sum_nb_n^{p'}=\sum_nn^{-p'/p}<\infty$ であり、$\varphi(a):=\sum_na_nn^{-1/p}$ は $\ell^p$ 上の有界な線形汎関数である。しかし $\varphi(a)=\sum_na_nc_n$ となる $c$ を $\ell^p$ の中にとることはできない。そのような $c$ があれば $c_n=\varphi(e_n)=n^{-1/p}$ であり、$\sum_n|c_n|^p=\sum_n1/n=\infty$ となるからである。表す列は $\ell^{p'}$ に住み、空間 $\ell^p$ 自身とは一致しない。満たす性質は完備性と $\varphi$ の有界性、満たさない性質はノルムが内積から来ること(Hilbert 空間であること)である。
| 有限次元の内積空間 | Hilbert 空間 | 完備でない内積空間 | $\ell^p$($p\ne2$) | |
|---|---|---|---|---|
| 線形汎関数はつねに有界か | はい | 無限次元ならいいえ | 無限次元ならいいえ | いいえ |
| 有界な汎関数を空間の元で表せるか | はい | はい(thm-rrt-main) | 一般には表せない(ex-rrt-c00) | 空間自身の元では表せないことがある(ex-rrt-lp) |
| 表す元の公式 | $\sum_k\overline{\varphi(e_k)}e_k$ | 完全正規直交系で同じ式(prop-rrt-onb) | — | $b_n=\varphi(e_n)$、$b\in\ell^{p'}$ |
有限次元の定理と例は Axl24 6.42・6.44(pp. 205–206)、核の直交補空間を使う証明は同書 6.58(p. 216)、双対基底との関係は Exercises 6C の 14(p. 225)にある。Hilbert 空間の定理は Axl20 8.47(p. 233)、完全正規直交系による証明と表示は 8.76(p. 250)、随伴作用素とその有界性・$\|T^*\|=\|T\|$ は Definition 10.1(p. 281)・10.11(p. 283)、$\ell^p$ の双対は 7.26(p. 207)、有界でない線形汎関数の存在は 6.62(p. 177)にある。本記事の証明はこれらを本記事の記号で書き直したもので、核の直交補空間が 1 次元であること、点と閉超平面の距離、双対空間の内積、Lax–Milgram の定理と例、反例は本文で示した。
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