局所非輪状

同義語:局所非輪状な射局所非輪状性普遍的局所非輪状普遍的局所非輪状性Milnorファイバー(エタール)locally acyclic morphismuniversally locally acycliclocal acyclicity

概要

局所非輪状(locally acyclic)とは、スキームの射 $f\colon X\to S$ と層 $K$ について、$X$ の幾何的点 $\bar{x}$ での狭義局所化を $S$ の狭義局所化の幾何的点 $\bar{t}$ の上で切った Milnor ファイバー $F$ で、茎 $K_{\bar{x}}$ から $R\Gamma(F,K)$ への写像が同型になるという条件である。基底変換のあとでも成り立つとき普遍的局所非輪状という。エタール射は普遍的局所非輪状で、滑らかな射も剰余標数と素な係数で普遍的局所非輪状である(Artin)。固有で局所非輪状な射では特殊化射が同型になる。平方写像 $z\mapsto z^2$ は原点で局所非輪状でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: エタールコホモロジー, 狭義Hensel局所環, エタール射, 滑らかな射, 固有基底変換定理

局所非輪状(locally acyclic)は、スキームの射 $f\colon X\to S$ の各点のまわりで、「$X$ の点の小さな近傍を、$S$ の近くの点の上で切ったもの」のコホモロジーが自明であるという条件である。この切り口は位相幾何の Milnor ファイバーにあたり、エタール位相では狭義 Hensel 化を使って定める。すべての基底変換のあとでも局所非輪状であることを普遍的局所非輪状(universally locally acyclic)という。
滑らかな射は普遍的局所非輪状であり(Artin)、この事実から滑らかな基底変換定理が導かれる。固有で局所非輪状な射では、ファイバーのコホモロジーが特殊化で変わらず、高次順像が局所定数層になる。Deligne は、有限型の射と構成可能層について、基底の稠密な開集合の上では普遍的局所非輪状になることを示した(一般の基底変換定理と対になる結果)。局所非輪状性は、特異点をもつ射についても「滑らかな射のように振る舞う」ことを係数ごとに測る概念であり、Milnor ファイバーのコホモロジーを「消失サイクル」として調べる理論につながる。
この記事では、Milnor ファイバーと局所非輪状性を定義し、定数係数の場合の言い換え(Milnor ファイバーが空でなく連結であること)、エタール射が普遍的局所非輪状であること、準有限な基底変換で保たれることを証明する。平方写像と閉埋め込みが局所非輪状でないことを計算し、固有で局所非輪状な射の特殊化の定理を引用して、固有で滑らかな射の高次順像が局所定数であることを導く。

設定と記号

スキームの幾何的点 $\bar x\colon\operatorname{Spec}\Omega\to X$ は、分離閉体 $\Omega$ からの射である。その像を $x\in X$ とする。$\bar x$ での狭義 Hensel 化を $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}$ と書き(狭義Hensel局所環)、
$$ X_{(\bar x)}:=\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x} $$
を $X$ の $\bar x$ での狭義局所化という。$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}$ はエタール位相での構造層の茎であり(Stacks Tag 04HX)、$X_{(\bar x)}$ はエタール位相での $\bar x$ の「十分小さい近傍」の極限にあたる。
射 $f\colon X\to S$ と幾何的点 $\bar x$ について、$\bar s:=f\circ\bar x$ とおくと、$f$ は局所環の射 $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s}\to\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}$、すなわち狭義局所化の射
$$ f_{(\bar x)}\colon X_{(\bar x)}\longrightarrow S_{(\bar s)} $$
を誘導する(Stacks Tag 04GU の関手性)。狭義 Hensel 局所環 $R$ について、$\operatorname{Spec}R$ の上の大域切断の関手は完全で、閉点での茎をとる関手と一致する(Stacks Tag 03QO)。したがって $X$ 上の下に有界な複体 $K$ について
$$ K_{\bar x}=R\Gamma(X_{(\bar x)},K|_{X_{(\bar x)}}) $$
である。以下、スキーム $T\to X$ の上で $R\Gamma(T,K)$ と書くときは、$K$ を $T$ に引き戻したものの $R\Gamma$ を意味する。

定義

Milnor ファイバー

$f\colon X\to S$ をスキームの射、$\bar x$ を $X$ の幾何的点、$\bar s=f\circ\bar x$ とする。$S_{(\bar s)}$ の幾何的点 $\bar t\colon\operatorname{Spec}\Omega'\to S_{(\bar s)}$ について
$$ F_{\bar x,\bar t}:=X_{(\bar x)}\times_{S_{(\bar s)}}\bar t $$
を、$f$ の $\bar x$ での $\bar t$ 上の Milnor ファイバー(消失サイクルの多様体、variety of vanishing cycles)という。

$\bar t$ は $S$ の点 $\bar s$ に「近い」点($\bar s$ の一般化)を表し、$F_{\bar x,\bar t}$ は $x$ の小さな近傍の、$t$ の上のファイバーにあたる。$\bar t$ が $S_{(\bar s)}$ の閉点の上にあるときは、$F_{\bar x,\bar t}$ は $X_{(\bar x)}$ の閉ファイバーを $\Omega'$ へ係数拡大したものである。$F_{\bar x,\bar t}\to X_{(\bar x)}$ に沿った引き戻しにより、写像
$$ \alpha_{K,\bar x,\bar t}\colon K_{\bar x}=R\Gamma(X_{(\bar x)},K)\longrightarrow R\Gamma(F_{\bar x,\bar t},K) $$
が定まる。

局所非輪状

$f\colon X\to S$ をスキームの射、$K$ を $X$ のエタール層の下に有界な複体とする。

  1. $f$ が $\bar x$ で $K$ に関して局所非輪状であるとは、$S_{(f\circ\bar x)}$ のすべての幾何的点 $\bar t$ について $\alpha_{K,\bar x,\bar t}$ が同型であることをいう。
  2. すべての幾何的点 $\bar x$ でそうであるとき、$f$ は $K$ に関して局所非輪状であるという。
  3. 任意の射 $S'\to S$ による基底変換 $f'\colon X'=X\times_SS'\to S'$ が $K$ の引き戻しに関して局所非輪状であるとき、$f$ は $K$ に関して普遍的局所非輪状(universally locally acyclic、略して ULA)であるという。
  4. すべての幾何的点 $\bar x$ と、$\bar x$ の剰余体の標数と素なすべての整数 $n$ について、$f$ が $\bar x$ で定数層 $\mathbb Z/n$ に関して局所非輪状であるとき、$f$ は単に局所非輪状であるという。任意の基底変換のあとでも局所非輪状であるとき、普遍的局所非輪状であるという。

この定義は Deligne による(Del77 Th. finitude Définition 2.12、p. 242。そこでは $X_{(\bar x)}$ を $X_x$、$F_{\bar x,\bar t}$ を $(X_x)_t$ と書く)。Stacks Tag 0GJP はこの形で定義し、Tag 0GJN で写像 $\alpha$ を定める。定数係数の形は Artin による(SGA4 XV Définition 1.11、p. 181。同 Proposition 1.10(pp. 177–178)の同値な条件 (i)〜(iv) のどれかを満たす射として定義され、(i) は狭義局所化の射 $X_{(\bar x)}\to S_{(\bar s)}$ が「非輪状」であるという条件である)。

定数係数での言い換え

定数層 $M_X$(アーベル群 $M$ の値をとる局所定数関数の層)について、$K=M_X$ とすると $K_{\bar x}=M$ であり、$\alpha$ は $M$ を $F_{\bar x,\bar t}$ の上の定数関数へ送る写像
$$ M\longrightarrow R\Gamma(F_{\bar x,\bar t},M) $$
である。

定数係数の局所非輪状性

$M\neq0$ をアーベル群とする。$f$ が $\bar x$ で $M_X$ に関して局所非輪状であることは、$S_{(f\circ\bar x)}$ のすべての幾何的点 $\bar t$ について次の 2 つが成り立つことと同値である。

  1. Milnor ファイバー $F_{\bar x,\bar t}$ は空でなく、連結である。
  2. $q>0$ で $H^q(F_{\bar x,\bar t},M)=0$ である。

$\alpha$ が同型であることは、コホモロジーの各次数で同型であることと同じである。次数 $0$ では、$H^0(F,M)=\Gamma(F,M_F)$ は $F$ から $M$ への局所定数関数の全体であり、$\alpha$ は $m\in M$ を値 $m$ の定数関数へ送る。次数 $q>0$ では $\alpha$ の源は $0$ なので、同型であることは $H^q(F,M)=0$ と同じである。残りは、次数 $0$ の $\alpha$ が全単射であることが条件 1 と同値であることを示せばよい。
$F$ が空なら $H^0(F,M)=0$ で、$M\neq0$ なので $\alpha$ は単射でない。$F$ が空でないなら、定数関数を送る写像は単射である。$F$ が連結なら、局所定数関数は定数なので $\alpha$ は全射である。$F$ が連結でなければ、空でない開かつ閉な部分集合 $A,B$ で $F=A\sqcup B$ となるものがあり、$m\neq0$ をとって $A$ で $0$、$B$ で $m$ となる関数は局所定数だが定数でないので、$\alpha$ は全射でない。$\square$

条件 1 の「空でない」という部分は、局所環の射 $X_{(\bar x)}\to S_{(\bar s)}$ が全射であること、つまり $S$ で $s$ の一般化になっている点がすべて $X_{(\bar x)}$ に持ち上がることを意味する。Artin はこれを「局所 $(-1)$-非輪状」と呼び、平坦な射はこの条件を満たすと注意している(SGA4 XV Remarques 1.14、pp. 182–183)。

基本的な例

エタール射と狭義局所化

$f\colon X\to S$ が $\bar x$ の像 $x$ でエタールなら、$f_{(\bar x)}\colon X_{(\bar x)}\to S_{(\bar s)}$ は同型である。

$A:=\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s}$、$B:=\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}$ とおく。エタールな射は $x$ で準有限なので、$B$ は $A\otimes_{\mathcal O_{S,s}}\mathcal O_{X,x}$ のある素イデアルでの局所化であり、$A\to B$ は有限な局所環の射である(Stacks Tag 05WR)。$A$ の剰余体を $\kappa_A$ と書く。
$\mathcal O_{X,x}$ は $\mathcal O_{S,s}$ 上平坦なので、$A\otimes_{\mathcal O_{S,s}}\mathcal O_{X,x}$ とその局所化 $B$ は $A$ 上平坦であり、有限生成でもあるので、局所環 $A$ 上の階数有限の自由加群である。$B/\mathfrak m_AB$ は $\kappa_A\otimes_{\mathcal O_{S,s}}\mathcal O_{X,x}=\kappa_A\otimes_{\kappa(s)}\kappa(x)$ の局所化である($f$ は $x$ で不分岐なので $\mathfrak m_s\mathcal O_{X,x}=\mathfrak m_x$)。$\kappa(x)$ は $\kappa(s)$ の有限分離拡大なので、これは分離閉体 $\kappa_A$ の上の有限エタールな代数、すなわち $\kappa_A$ の有限個の直積である。$B$ は局所環なので $B/\mathfrak m_AB$ も局所環であり、直積の局所化として $B/\mathfrak m_AB=\kappa_A$ である。よって $B$ は階数 $1$ の自由 $A$ 加群であり、$1$ の像が $B/\mathfrak m_AB$ を生成するので、Nakayama の補題により $B=A\cdot1$ である。自由加群なので $A\to B$ は単射でもあり、同型である。$\square$

エタール射は普遍的局所非輪状

エタール射 $f\colon X\to S$ は普遍的局所非輪状である。より強く、任意のアーベル群 $M$ について、$f$ は定数層 $M_X$ に関して普遍的局所非輪状である。

エタール射の基底変換はエタールなので、エタール射が $M_X$ に関して局所非輪状であることを示せばよい。lem-la-etale-local により $f_{(\bar x)}$ は同型なので、Milnor ファイバーは
$$ F_{\bar x,\bar t}=X_{(\bar x)}\times_{S_{(\bar s)}}\bar t\cong\bar t=\operatorname{Spec}\Omega' $$
である。分離閉体のスペクトルの上のエタール層はアーベル群と同じで、大域切断は完全関手なので、$H^0(\bar t,M)=M$、$q>0$ で $H^q(\bar t,M)=0$ である。$\bar t$ は 1 点なので空でなく連結であり、prop-la-constant により $f$ は $\bar x$ で $M_X$ に関して局所非輪状である。$\square$

エタール射は「局所的に同型」なので、Milnor ファイバーは 1 点になる。滑らかな射では Milnor ファイバーは 1 点ではないが、係数の位数が剰余標数と素なら、コホモロジーが 1 点と同じになる。

滑らかな射の局所非輪状性

滑らかな射 $f\colon X\to S$ は普遍的局所非輪状である。

定理の位置づけ

この定理は、滑らかな射では Milnor ファイバーのコホモロジーが 1 点のものと同じになることを意味する。係数の位数が剰余標数と素であるという条件は、次の引用で述べるとおり SGA 4 の形に含まれる。

これは Artin の定理である(SGA4 XV Théorème 2.1、p. 192。そこでは剰余標数と素な素数の集合 $\mathbb L$ について「局所非輪状かつ局所 1-非球面的」と述べる)。この記事では証明しない。SGA 4 はこの定理から滑らかな基底変換定理を導く(SGA4 XV の序、p. 168、XVI Corollaire 1.2、pp. 207–208)。Stacks Tag 0GJQ は逆に、滑らかな基底変換定理(Tag 0EYU)から、$S$ を $S_{(\bar s)}$ に置き換えて $H^q(F_{\bar x,\bar t},M)=H^q(\bar t,M)$ を導く。係数の位数が剰余標数と素であることは外せない(下の節「反例の表」の最後の行)。

基底変換と合成

普遍的局所非輪状性は定義から任意の基底変換で保たれる。単なる局所非輪状性も、準有限な基底変換では保たれる。次の可換環の事実を使う:環の射 $A\to B$、$A\to C$ と、$B\otimes_AC$ から分離閉体への射が与えられ、$A\to B$ が対応する素イデアルで準有限なら、狭義 Hensel 化について $B^{\mathrm{sh}}\otimes_{A^{\mathrm{sh}}}C^{\mathrm{sh}}\cong(B\otimes_AC)^{\mathrm{sh}}$ である(Stacks Tag 0GIP。この記事では証明しない)。

準有限な基底変換

デカルト図式 $X'=X\times_SS'$、$f'\colon X'\to S'$、$g\colon S'\to S$、$g'\colon X'\to X$ で、$g$ が局所準有限であるとする。$X'$ の幾何的点 $\bar x'$ の像を $\bar x=g'\circ\bar x'$ とする。$f$ が $\bar x$ で $K$ に関して局所非輪状なら、$f'$ は $\bar x'$ で $g'^{-1}K$ に関して局所非輪状である。

$\bar s'=f'\circ\bar x'$、$\bar s=g\circ\bar s'$ とする。$X'$ の $x'$ での局所環は $\mathcal O_{S',s'}\otimes_{\mathcal O_{S,s}}\mathcal O_{X,x}$ の局所化なので、上の事実を $A=\mathcal O_{S,s}$、$B=\mathcal O_{S',s'}$、$C=\mathcal O_{X,x}$ に使うと
$$ \mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X',\bar x'}\cong\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}\otimes_{\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s}}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S',\bar s'} $$
である。$S'_{(\bar s')}$ の幾何的点 $\bar t'\colon\operatorname{Spec}\Omega'\to S'_{(\bar s')}$ をとり、$S_{(\bar s)}$ への合成を $\bar t$ とする(同じ分離閉体 $\Omega'$ からの射なので $S_{(\bar s)}$ の幾何的点である)。テンソル積の結合性から
$$ F'_{\bar x',\bar t'}=\operatorname{Spec}\bigl(\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X',\bar x'}\otimes_{\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S',\bar s'}}\Omega'\bigr)\cong\operatorname{Spec}\bigl(\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}\otimes_{\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s}}\Omega'\bigr)=F_{\bar x,\bar t} $$
であり、この同型は $X'_{(\bar x')}\to X_{(\bar x)}$ の上にある。$g'^{-1}K$ の $\bar x'$ での茎は $K_{\bar x}$ で、$F'_{\bar x',\bar t'}$ に引き戻した $g'^{-1}K$ は $F_{\bar x,\bar t}$ に引き戻した $K$ と同じなので、$\alpha_{g'^{-1}K,\bar x',\bar t'}$ は $\alpha_{K,\bar x,\bar t}$ と同一視される。後者は仮定により同型である。$\square$

これは Stacks Tag 0GJS の一部である(同所は $g$ が準有限な射の極限や整な射の場合も扱う)。一般の基底変換で局所非輪状性が保たれるとは限らないので、定義で「普遍的」を別に要求する。
合成については、Deligne が次を述べている:$X\xrightarrow{f}S_1\xrightarrow{g}S_2$ で、$g$ が滑らかで、$f$ が $K$ に関して普遍的局所非輪状なら、$g\circ f$ も $K$ に関して普遍的局所非輪状である(Del77 Th. finitude Lemme 2.14、p. 242。証明は同書の Illusie による付録で与えられ、付録の序(p. 252)がそれを述べる)。恒等射 $\mathrm{id}_{S_1}$ は、Milnor ファイバーが 1 点なので定数係数に関して普遍的局所非輪状であり、$f=\mathrm{id}_{S_1}$ とするとこの主張は thm-la-smooth の定数係数の場合にあたる(この章の設定では係数の位数は基底の上で可逆である)。

反例:局所非輪状でない射

以下、$k$ を代数閉体、$S=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$、原点の幾何的点を $\bar0$、$A:=\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar0}$ とする。$n$ を $k$ の標数と素な正の整数とし、$\Lambda=\mathbb Z/n$ とする。
原点の近くの生成点。$k[t]_{(t)}\to A$ は忠実平坦なので単射であり、$t$ は $A$ の中で冪零でない。よって $A[t^{-1}]\neq0$ であり、$A$ の素イデアル $\mathfrak p$ で $t\notin\mathfrak p$ となるものがある。$\kappa(\mathfrak p)$ の分離閉包を $\Omega'$ として、$\bar t\colon\operatorname{Spec}\Omega'\to S_{(\bar0)}$ を幾何的点とすると、$t$ の $\Omega'$ での像 $c$ は $0$ でない。

反例:原点の閉埋め込み

$i\colon\operatorname{Spec}k\to S$ を原点の閉埋め込み、$\bar x$ をその唯一の幾何的点とする。$k$ は分離閉なので $X_{(\bar x)}=\operatorname{Spec}k$ であり、$i_{(\bar x)}$ は $S_{(\bar0)}$ の閉点の包含である。上の $\bar t$ について
$$ F_{\bar x,\bar t}=\operatorname{Spec}\bigl(k\otimes_A\Omega'\bigr)=\operatorname{Spec}\bigl(\Omega'/\mathfrak m_A\Omega'\bigr)=\emptyset $$
である($t\in\mathfrak m_A$ は $\Omega'$ では可逆な $c$ に写るので、$\mathfrak m_A\Omega'=\Omega'$)。prop-la-constant により、$i$ は $\bar x$ で $\Lambda$ に関して局所非輪状でない。$i$ は固有で不分岐だが平坦でなく、$S$ の生成点が $X_{(\bar x)}$ に持ち上がらない。

反例:平方写像

$k$ の標数を $2$ でないとし、$f\colon X=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[z]\to S$ を $t\mapsto z^2$ で定まる射とする。$f$ は有限かつ平坦だが、原点の幾何的点 $\bar x$ で $\Lambda$ に関して局所非輪状でない。原点以外の点では $f$ はエタールなので、局所非輪状である。

$k[z]$ は $k[t]$ 上 $1,z$ を基底とする自由加群なので、$f$ は有限かつ平坦である。$f$ は原点で準有限なので、Stacks Tag 05WR により $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}$ は $B:=A\otimes_{k[t]}k[z]=A[z]/(z^2-t)$ のある素イデアルでの局所化である。$B$ は $A$ 上有限なので、$B$ の極大イデアルは $\mathfrak m_A$ の上にあり、$B/\mathfrak m_AB=k[z]/(z^2)$ の極大イデアル $(z)$ とだけ対応する。よって $B$ は局所環であり、極大イデアルでの局所化は $B$ 自身なので $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar x}=B$ である。
上の幾何的点 $\bar t$ について
$$ F_{\bar x,\bar t}=\operatorname{Spec}\bigl(B\otimes_A\Omega'\bigr)=\operatorname{Spec}\bigl(\Omega'[z]/(z^2-c)\bigr) $$
である。$c\neq0$ で標数が $2$ でないので、$z^2-c$ の根では微分 $2z$ が $0$ にならず、$z^2-c$ は分離的である。分離閉体 $\Omega'$ の中で $z^2-c=(z-a)(z+a)$、$a\neq-a$ と分解するので、中国剰余定理により $\Omega'[z]/(z^2-c)\cong\Omega'\times\Omega'$ である。したがって $F_{\bar x,\bar t}$ は 2 点からなり、連結でない。prop-la-constant により、$f$ は $\bar x$ で $\Lambda$ に関して局所非輪状でない。
原点以外の点 $x$ では、$f$ の微分 $dt=2z\,dz$ は $z\neq0$ で消えないので $f$ はエタールであり、prop-la-etale により局所非輪状である。$\square$

この $f$ は固有でもあり、その順像 $f_*\Lambda$ の茎は原点で $\Lambda$、それ以外で $\Lambda^2$ である(固有基底変換定理の例「平方写像の順像」)。次の節の特殊化の定理で、局所非輪状性の仮定が外せないことをこの例が示す。

固有で局所非輪状な射

$S$ の幾何的点 $\bar s$ と、$S_{(\bar s)}$ の幾何的点 $\bar t$ について、層 $G$ の茎の間には特殊化射 $\mathrm{sp}\colon G_{\bar s}\to G_{\bar t}$ がある($G_{\bar s}=\Gamma(S_{(\bar s)},G)$ を $\bar t$ へ引き戻す。Stacks Tag 0GJ4。導来圏での形は Tag 0GJ8)。$G$ が局所定数層なら特殊化射は同型である。逆に、Noether スキームの上で茎が有限で、すべての特殊化射が全単射な層は、有限な局所定数層である(Stacks Tag 0GJ7。係数環 $\Lambda$ の加群の層については Tag 0GKC)。

固有で局所非輪状な射の特殊化

$f\colon X\to S$ を固有射、$K$ を $X$ 上の下に有界な複体でコホモロジー層が捩れであるものとし、$f$ が $K$ に関して局所非輪状であるとする。$S$ の幾何的点 $\bar s$ と $S_{(\bar s)}$ の幾何的点 $\bar t$ について、特殊化射 $(Rf_*K)_{\bar s}\to(Rf_*K)_{\bar t}$ は同型であり、したがって幾何的ファイバーのコホモロジーについて $R\Gamma(X_{\bar s},K)\cong R\Gamma(X_{\bar t},K)$ である。

仮定の役割

固有性は、順像の茎を幾何的ファイバーのコホモロジーで計算するために使う。局所非輪状性は、特殊化のさいに Milnor ファイバーが余分なコホモロジーを生まないことを保証する。結論は、基底の点を特殊化しても $Rf_*K$ の茎が変わらないことであり、次の系はこれを固有で滑らかな射に適用したものである。

これは Stacks Tag 0GJW である。Del77 の付録(Illusie)2.4(p. 258)は、$Rf_*K$ の作り方が有限な基底変換と交換するという仮定(固有射なら固有基底変換定理から従う)の下で同じ結論を述べ、固有で滑らかな射と局所定数な係数の場合に Artin の特殊化の定理(SGA4 XVI Théorème 2.1、p. 213)が再現されると注意している。この記事では証明しない。証明の要点は、$X_{\bar t}$ の上の $K$ を $X\times_SS_{(\bar s)}$ へ順像で戻したものを閉ファイバー $X_{\bar s}$ に制限すると、局所非輪状性によって $K|_{X_{\bar s}}$ に戻ること(Stacks Tag 0GJU)を示し、両辺のコホモロジーを固有基底変換定理でファイバーの上のコホモロジーと比べることにある(同記事の系「狭義 Hensel 局所環の上のコホモロジー」を使う)。

固有で滑らかな射の高次順像は局所定数

$S$ を Noether スキーム、$f\colon X\to S$ を固有で滑らかな射、$n$ を $S$ 上可逆な正の整数、$F$ を $X$ 上の有限な局所定数層で $\mathbb Z/n$ 加群の層であるものとする。すべての $q$ について $R^qf_*F$ は有限な局所定数層である。特に $S$ が連結なら、幾何的ファイバーのコホモロジー $H^q(X_{\bar s},F)$ は $\bar s$ によらず同型である。

thm-la-smooth により $f$ は局所非輪状であり、$F$ は局所定数でその茎の位数は剰余標数と素なので、$f$ は $F$ に関して局所非輪状である(Stacks Tag 0GJR。定数層の直和と帰納極限に帰着する)。thm-la-specialization により、$R^qf_*F$ のすべての特殊化射は同型である。
茎は有限である。実際、固有射の構成可能層の高次順像は構成可能であり(SGA4 XIV 1.1。XVI Théorème 2.1 の証明、p. 214 がこれを引く)、有限な局所定数層 $F$ は構成可能なので、$R^qf_*F$ の茎は有限群である。固有基底変換定理により、この茎は $H^q(X_{\bar s},F)$ に等しい。
$\Lambda=\mathbb Z/n$ は Noether 環で、$R^qf_*F$ の茎は有限生成な $\Lambda$ 加群、特殊化射はすべて全単射なので、Stacks Tag 0GKC により $R^qf_*F$ は有限型の局所定数層である。$S$ が連結なら局所定数層の茎はすべて同型であり、茎は幾何的ファイバーのコホモロジーなので最後の主張が従う。$\square$

この系は SGA4 XVI Corollaire 2.2(p. 214)と Stacks Tag 0GKD にあたる。滑らかさ(局所非輪状性)は外せない:prop-la-square の平方写像は固有だが、$f_*\Lambda$ は局所定数でない。固有性も外せない:開埋め込み $j\colon\mathbb G_m\to\mathbb A^1_k$ はエタールなので prop-la-etale により普遍的局所非輪状だが、原点の幾何的ファイバーは空で $H^0=0$、生成点の幾何的ファイバーは空でなく $H^0=\Lambda$ であり、ファイバーのコホモロジーは一定でない。

一般的な局所非輪状性

局所非輪状でない点は「特異なファイバー」の近くに集まる。Deligne は、これが基底の小さな部分に限られることを示した。

一般的な普遍的局所非輪状性

$S$ を Noether スキーム、$A$ を Noether 環で、$S$ 上可逆なある整数 $n$ について $nA=0$ となるものとする。$f\colon X\to S$ を有限型の射、$F$ を $X$ 上の $A$ 加群の構成可能層とする。$S$ の稠密な開集合 $U$ があって、$f$ は $U$ の上で $F$ に関して普遍的局所非輪状である。

「一般的」の意味

この定理は、局所非輪状性が成り立たない点が基底の稠密な開集合の補集合、すなわち真の閉集合に収まることを述べる。$U$ は一般に $f$ と $F$ に依存し、$S$ 全体では成り立たないことがある。

これは Del77 Th. finitude Théorème 2.13(p. 242)である(冒頭の設定 p. 233 で $S$・$A$ の仮定を置く)。この記事では証明しない。証明は $X_\eta$ の次元についての帰納法で、有限な部分 $T\subset X$ の外で普遍的局所非輪状になるように $S$ を縮め、$R^if_*F$ が局所定数になる開集合の上で固有な場合の補題(同 Lemme 2.15、p. 243)に持ち込む。系として、$S$ が体のスペクトルなら $U=S$ にとれ、体の上のすべてのスキームは任意の $K$ に関して普遍的局所非輪状である(同 Corollaire 2.16、p. 243)。体の上では $S_{(\bar s)}$ は分離閉体のスペクトル(1 点)なので、Milnor ファイバーは $X_{(\bar x)}$ を分離閉体の拡大へ係数拡大したものにすぎず、$X$ に特異点があっても局所非輪状性は損なわれない。この結果は、構成可能層の高次順像が基底の稠密な開集合の上で基底変換と交換するという一般の基底変換定理(同 Théorème 1.9、p. 236)と対をなす。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
平坦性(生成点の持ち上げ)原点の閉埋め込み $\operatorname{Spec}k\to\mathbb A^1_k$(ex-la-closed-immersion)Milnor ファイバーが空でないこと(局所非輪状性)
不分岐性(エタール性)平方写像 $z\mapsto z^2$(prop-la-square)Milnor ファイバーの連結性(局所非輪状性)
局所非輪状性(特殊化の定理)同じ平方写像(固有)$f_*\Lambda$ が局所定数であること
固有性(特殊化の定理)開埋め込み $\mathbb G_m\to\mathbb A^1_k$(エタール)幾何的ファイバーのコホモロジーが一定であること
係数の位数が剰余標数と素標数 $p$ のアフィン直線と $\mathbb Z/p$分離閉体の拡大で $H^1$ が変わらないこと

最後の行について。体の拡大 $\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k$ は、剰余標数と素な係数について普遍的局所非輪状であり(SGA4 XVI Corollaire 1.5、p. 211。証明は p. 212 で、$K$ を滑らかな $k$ 代数の帰納極限として表し thm-la-smooth に帰着する)、そこから分離閉体の拡大 $k\subset K$ と任意の $k$ スキーム $X$ について $H^q(X,F)\cong H^q(X_K,F_K)$ が従う(同 Corollaire 1.6、p. 211)。同所の Remarque 1.7(pp. 212–213)は、標数 $p$ のアフィン曲線の $H^1(X,\mathbb Z/p)$ ではこれが成り立たないと注意しており、その計算は一般の基底変換定理の命題「$p$ 捩れ係数では一般の基底変換が成り立たない」で行う。

関連項目

参考文献

[1]
Michael Artin, Alexander Grothendieck, Jean-Louis Verdier, Théorie des topos et cohomologie étale des schémas, Tome 3 (SGA 4), Lecture Notes in Mathematics 305, Springer, 1973, 第 XIV 講 1.1(第 XVI 講 p. 214 での引用)。第 XV 講(Artin):序(p. 168)、Proposition 1.10(pp. 177–178)、Définition 1.11(p. 181)、Remarques 1.14(pp. 182–183)、Théorème 2.1(p. 192)。第 XVI 講(Artin):Corollaire 1.2(pp. 207–208)、Corollaire 1.5・1.6(p. 211)、1.5 の証明と Remarque 1.7(pp. 212–213)、Théorème 2.1(p. 213)、Corollaire 2.2 と 2.1 の証明(p. 214)
[2]
Pierre Deligne, Cohomologie étale (SGA 4½), Lecture Notes in Mathematics 569, Springer, 1977, 「Théorèmes de finitude en cohomologie ℓ-adique」(Th. finitude):§1 冒頭の設定(p. 233)、Théorème 1.9(p. 236)、Définition 2.12・Théorème 2.13・Lemme 2.14(p. 242)、Lemme 2.15・Corollaire 2.16(p. 243)。同章の付録(L. Illusie):序(p. 252)、2.4(p. 258)

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