Alexanderの角付き球面(Alexander horned sphere)とは、球体から伸ばした 2 本の角の先を二股に分けて互いに絡ませる操作を無限に繰り返して作る、$\mathbb{R}^3$ の中の $S^2$ と同相な曲面である。それが囲む集合は閉球体と同相で、補集合の有界な成分は開球体だが、有界でない成分は単連結でない。その基本群は、各生成元が次の段の 2 つの生成元の交換子になる自由群の増大列の和で、自明でないのに可換化が自明であり、有限生成でない。このため $\mathbb{R}^3$ の同相写像で標準的な球面に移せず、平面の Schoenflies の定理は 3 次元では成り立たない。
前提知識: 基本群, Seifert–van Kampenの定理, Jordan曲線定理, Schoenfliesの定理, Cantor集合
平面の中の円周と同相な曲線は、平面を 2 つの領域に分け、しかも平面全体の同相写像で標準的な円周に移せる(Schoenfliesの定理)。1 つ次元を上げて、$\mathbb R^3$ の中の 2 次元球面 $S^2$ と同相な曲面 $S$ を考えると、$S$ が $\mathbb R^3$ を 2 つの成分に分けることは今でも正しく、無限遠点を加えた $S^3$ の中で見れば各成分のホモロジーは 1 点と同じである(Jordan曲線定理 の定理「Jordan–Brouwerの分離定理」)。ところが、成分の形まで標準的とは限らない。
Alexander の角付き球面 は、$S^2$ と同相でありながら、外側の成分が単連結でない $\mathbb R^3$ の曲面である。球体から 2 本の角を伸ばし、角の先を二股に分けて互いに絡ませ、その先をまた二股に分けて絡ませる、という操作を無限に繰り返して作る。内側は開球体のままだが、外側には、どこまで小さくしても角の絡み目に引っかかってほどけない輪ができる。外側の基本群は、各生成元が新しい 2 つの生成元の交換子になるような自由群の増大列の和であり、自明でないのに可換化が自明になる。こうして、ホモロジーでは見えない埋め込みの違いを基本群が見分ける。
$D^2$ を閉円板、$I:=[0,1]$ とする。$\mathbb R^3$ の部分集合で閉球体 $D^3$ と同相なものを 球体 という。部分集合 $H\subset\mathbb R^3$ と同相写像 $\varphi\colon D^2\times I\to H$ の組を ハンドル といい、$\varphi(D^2\times\{0\})$ と $\varphi(D^2\times\{1\})$ をその 2 つの 足、$\varphi(\partial D^2\times(0,1))$ を 側面 という。$0$ と $1$ からなる有限列を $s$ と書き、その長さを $\lvert s\rvert$、末尾に $0$ や $1$ を付け足した列を $s0$、$s1$ と書く。長さ $0$ の列を $\emptyset$ とする。
構成はすべて多面体(有限個の凸多面体の和集合)で行い、同相写像も区分的に線形なものだけを使う。まず、1 つのハンドルの中に置く配置の見本を座標で与える。
$R:=[-3,3]^2$、$Q:=R\times[-1,1]\subset\mathbb R^3$ とし、点を $(u,z)$($u=(x,y)\in R$)と書く。$p_0:=(-1,0)$、$p_1:=(1,0)$ を中心とする一辺 $\tfrac12$ の正方形を $D_0,D_1$ とし、$D_i$ の内部に同じ中心の正方形 $D_i'$ をとって、管 $T_i:=D_i'\times[-1,1]$($i=0,1$)をおく。$T_i$ は上下の端面を足とするハンドルである。$\partial Q$ の上の 2 本の折れ線を、底面 $z=-1$ と上面 $z=1$ の部分は $u$ 座標の折れ線で、側面 $y=-3$ の部分は縦の線分で次のように定める。
見本の配置。左は底面 z = −1、中は上面 z = 1 で、どちらも上から見た u 座標で描く。青は折れ線 γ⁻ と円板 Δ⁻、橙は γ⁺ と Δ⁺、黒い小さな正方形は管 T₀, T₁ の切り口。Δ⁻ と Δ⁺ は側面 y = −3 の上をそれぞれ e⁻ = (2, −3)、e⁺ = (1, −3) の上の縦の帯で上下に渡る。右は切り口 z = 0 で、A の子午線 c を射影したもの(実線は底面の部分、破線は上面の部分)と、基点 q、輪 α, β、側面の帯の切り口 J⁻, J⁺
$\Delta^\mp$ は $\partial Q$ の上の長方形を辺で順につないだ円板である。座標から、$\Delta^-\cap\Delta^+=\emptyset$(2 つの折れ線と正方形の和集合どうしの距離は $\tfrac34$ 以上)、$T_i\cap\partial Q=D_i'\times\{\pm1\}$ であり、$T_0$ の 2 つの足は $\Delta^-$ の上、$T_1$ の 2 つの足は $\Delta^+$ の上にあって、管はそれ以外では $\Delta^-\cup\Delta^+$ と交わらない。底面と上面の $\gamma^-$ を $u$ 座標で合わせた閉じた折れ線は、長方形 $[-1,2]\times[-1,1]$ の周に線分 $(2,-1)$–$(2,-3)$ の往復を加えたもので、$p_1$ の周りを 1 回まわる。このために、次の定義の 2 つの輪 $K_s^-\cup H_{s0}$ と $K_s^+\cup H_{s1}$ は絡み合う(lem-ahs-local がこの絡みを基本群で表す)。
$\mathbb R^3$ の中に、球体の増大列 $B_0\subset B_1\subset\cdots$ と、各 $n$ と長さ $n$ の列 $s$ ごとのハンドル $H_s$ を、次の (i)〜(v) を満たすようにとる。
(iv) から、$H_{s0}$ の 2 つの足はどちらも $\partial K_s^-$ の上、$H_{s1}$ の 2 つの足はどちらも $\partial K_s^+$ の上にある。管は $\partial Q$ と足でしか交わらないので、新しいハンドルは $H_s$ の側面とも $B_n$ とも交わらない。また $\Theta_s$ は $H_s$ の側面を $A:=\partial Q\setminus(\Delta^-\cup\Delta^+)$ に移す。こうして $X_0\supset X_1\supset\cdots$ はコンパクト集合の減少列になる。$X_n$ は球体 $B_n$ に $2^n$ 本のハンドルを付けたもので、$X_{n+1}$ は各ハンドルの中ほどを切り取り、切り口の両側に絡み合う輪を付けたものである(Hat02 Example 2B.2 の図)。後で同相写像の極限をとるために、角の付け方にもう 1 つ条件を課す。
(vi) 各足 $D_s^\pm$ の $B_n$ における閉近傍 $N_s^\pm$ があって、$N_s^\pm$ どうしは互いに交わらず、$n\ge1$ では $N_s^\pm$ は足 $D_s^\pm$ が載っている前の段の角の中で $B_{n-1}$ と交わらない。さらに、組 $(N_s^\pm,N_s^\pm\cup K_s^\pm)$ は、連続関数 $\rho\colon\mathbb R^2\to[0,1]$(開単位円板の上で正、その外で $0$)を使った見本
$$
N=\{(u,z)\mid\lvert u\rvert\le2,\ -1\le z\le0\},\qquad N\cup K=\{(u,z)\mid\lvert u\rvert\le2,\ -1\le z\le\rho(u)\}
$$
と、足を $\{\lvert u\rvert\le1,\ z=0\}$ に移す同相写像で同相である。
見本の写像 $(u,z)\mapsto\bigl(u,\,-1+(z+1)(1+\rho(u))\bigr)$ は $N$ から $N\cup K$ への同相写像で、$N$ の底面と側面の上では恒等写像である。これを各足で使うと、$N_s^\pm$ の外では恒等写像になる同相写像
$$
h_{n+1}\colon B_n\to B_{n+1}
$$
が得られる。$g_0:=\mathrm{id}_{B_0}$、$g_{n+1}:=h_{n+1}\circ g_n$ とおくと、$g_n\colon B_0\to B_n$ は同相写像である。段 $n+1$ の足とその近傍 $N_{s0}^\pm,N_{s1}^\pm$ は、$g_{n+1}$ ができた後で好きなだけ小さく選べる。$g_{n+1}^{-1}$ は一様連続なので、次の条件も満たすように選んでおく。
次の事実 (★) を使う。多面体の球体 $Z$ と、その境界の上の互いに交わらない多面体の円板 $E^-,E^+$ について、$\partial Z$ から $E^-,E^+$ の内部を除いた部分は閉じた円環 $S^1\times I$ と同相である(RS82 Corollary 3.13・3.19)。この円環から $\partial I^2\times I$ への同相写像を 2 つの円板の上へ、さらに球体の上へ錐で延ばすと(同 Lemma 1.10)、$Z$ から $I^2\times I$ への同相写像で $E^-,E^+$ を $I^2\times\{0\}$、$I^2\times\{1\}$ に移すものが得られる。$(Q;\Delta^-,\Delta^+)$ はこの形である。
$B_0$ を立方体、$H_\emptyset$ を $B_0$ の上面に 2 つの足をもつ U 字形の多面体(3 つの直方体の和で、直径 $1$ 以下。$\varphi_\emptyset$ は区分的に線形な自然なもの)とすると、段 $0$ の (i)(ii)(v) が成り立つ。ハンドルのパラメータはいつも区分的に線形にとり、$D^2$ を正方形 $I^2$ と見て $D^2\times I$ を立方体 $I^3$ と見る。段 $n$ まで作ったとし、$\lvert s\rvert=n$ とする。$I^3$ の両端の面 $I^2\times\{0\}$、$I^2\times\{1\}$ をそれぞれ底面とし、上面が縁から幅 $\tfrac14$ だけ内側の正方形で高さ $\tfrac1{16}$ の角錐台をとり、それを $\varphi_s$ で移したものを角とする。角錐台は $\partial I^2\times I$ と底面の縁でしか交わらないので、角は $H_s$ の側面と交わらない。立方体から 2 つの角錐台を除いた閉包は、立方体と、角錐台ごとに上面と 4 つの斜面の平面のどれかについて角錐台と反対の側にある閉半空間の和との共通部分である。高さ $\tfrac1{16}$ を幅 $\tfrac14$ より小さくとったので、立方体の中心はこれらの半空間のどれの内部にもあり、中心からの半直線は境界とちょうど 1 回交わる。よってこれは境界の上の錐であり、擬放射射影により多面体の球体である(RS82 Lemma 2.19 と Corollary 2.20 の証明)。その $\varphi_s$ による像 $Q_s$ も多面体の球体、$Q_s\cap K_s^\mp$ は角錐台の境界から底面の内部を除いた部分(上面と 4 つの斜面)の像で多面体の円板である。$Q_s$ と $Q$ に (★) を使うと、$Q_s\cap K_s^\mp$ を $\Delta^\mp$ に移す同相写像 $\Theta$ が得られる。$\Theta^{-1}(T_0\cup T_1)$ は $H_s$ の内部のコンパクト集合なので、$H_s$ の境界の近くで恒等写像になる同相写像 $\nu$($\varphi_s$ で立方体と見て中心へ縮める区分的に線形な写像)で、直径 $2^{-n-2}$ 以下の集合に移せる。角を $\nu$ で移したものに取り替え、$\Theta_s:=\Theta\circ\nu^{-1}$、$H_{si}:=\Theta_s^{-1}(T_i)$ とし、$\varphi_{si}$ を $T_i=D_i'\times[-1,1]$ の積の構造($D_i'$ と $[-1,1]$ を $I^2$ と $I$ に線形に同一視したもの)と $\Theta_s^{-1}$ の合成とすれば、$\varphi_{si}$ は区分的に線形で、(iii)〜(v) が成り立つ。$N_s^\pm$ と角が決まると $h_{n+1}$ と $g_{n+1}$ が決まる。そのあとで管の切り口 $D_i'$ を小さく取り替えれば、$\Theta_s^{-1}$ の一様連続性から新しい足はいくらでも小さくなるので、次の段で (vii) を満たす近傍がとれる。多面体で作ったので、(vi) の局所見本と、prf-ahs-pi1 段 2 で使う $A_s$ の両側の襟は、多面体の襟と球体の標準的な性質からとれる(RS82 Corollary 2.26・3.14・3.15・3.19。外側の襟は、$X_n$ を内部に含む大きな立方体から $X_n$ の内部を除いた閉包が多様体であること(Corollary 3.14)から、その襟としてとる)。
$B:=\bigcap_{n}X_n$ を Alexander の角付き球体 という。thm-ahs-ball の同相写像 $f\colon B_0\to B$ による境界球面の像 $S:=f(\partial B_0)$ を Alexander の角付き球面(Alexander horned sphere)という。
列 $\sigma=(\sigma_1,\sigma_2,\dots)\in\{0,1\}^{\mathbb N}$ について、その最初の $n$ 項を $\sigma|n$ と書く。$H_{\sigma|0}\supset H_{\sigma|1}\supset\cdots$ は空でないコンパクト集合の減少列で、直径は $0$ に近づくので、共通部分はちょうど 1 点である。これを $k_\sigma$ と書き、$\mathcal K:=\{k_\sigma\mid\sigma\in\{0,1\}^{\mathbb N}\}$ とおく。
$g_n$ は $n\to\infty$ で一様収束し、その極限 $f\colon B_0\to\mathbb R^3$ は $B_0$ から $B$ への同相写像である。さらに $B=\bigl(\bigcup_nB_n\bigr)\sqcup\mathcal K$ であり、$\mathcal K$ は Cantor集合 と同相で、$S$ に含まれる。とくに $S$ は $S^2$ と同相である。
$E_s^\pm:=g_n^{-1}(N_s^\pm)\subset B_0$($\lvert s\rvert=n$)とおき、段 $n$ のこれらの和集合を $E^{(n)}$ と書く。$h_{n+1}$ は $N_s^\pm$ の外の点を動かさないので、$g_{n+1}$ と $g_n$ が異なりうるのは $E^{(n)}$ の点だけである。
要点:$E_s^\pm$ は入れ子になって 1 点ずつに縮む。入れ子に入り続ける点の集合 $C$ の外では $g_n(x)$ は途中で止まり、$C$ の点はハンドルの列に沿って $\mathcal K$ の点に移る。
段 1(一様収束).$x\in E_s^\pm$($\lvert s\rvert=n\ge1$)なら、$g_n(x)\in N_s^\pm$、$g_{n+1}(x)\in N_s^\pm\cup K_s^\pm$ である。(vi) により $N_s^\pm$ は前の段の角に含まれ、(iii)(iv) によりそれと $K_s^\pm$ はどちらも 1 つ前の段のハンドル $H_{s'}$($s$ の最後の項を除いた列 $s'$)に含まれる。(v) により $\lvert g_{n+1}(x)-g_n(x)\rvert\le2^{1-n}$ である。よって $(g_n)$ は一様コーシー列で、極限 $f$ は連続である。
段 2(入れ子).$h_{n+1}$ は $N_s^\pm$ を $N_s^\pm\cup K_s^\pm$ の上に移し、ほかの点を動かさないので、$g_{n+1}^{-1}(K_s^\pm)\subset E_s^\pm$ である。$H_{s0}$ の足は $\partial K_s^-$ の上にあり、(vi) により $N_{s0}^\pm\subset K_s^-$ なので $E_{s0}^\pm\subset E_s^-$ である。同様に $E_{s1}^\pm\subset E_s^+$ である。よって $E^{(n+1)}\subset E^{(n)}$ である。$C:=\bigcap_nE^{(n)}$ とおく。同じ段の $E_s^\pm$ は互いに交わらないので、$x\in C$ は各段でただ 1 つの $E_{s_n}^{\varepsilon_n}$ に属し、段 2 の包含から $s_{n+1}$ は $\varepsilon_n=-$ なら $s_n0$、$\varepsilon_n=+$ なら $s_n1$ である。$x$ に列 $\sigma(x)\in\{0,1\}^{\mathbb N}$($\sigma(x)|n=s_n$)を対応させる。
段 3(極限の値).$x\notin C$ なら、ある $n$ で $x\notin E^{(n)}$ であり、$m\ge n$ ではずっと $x\notin E^{(m)}$ なので $g_m(x)=g_n(x)$、すなわち $f(x)=g_n(x)\in B_n$ である。$x\in C$、$\sigma=\sigma(x)$ なら、$m\ge1$ について $g_m(x)\in N_{s_m}^{\varepsilon_m}\subset K_{s_{m-1}}^{\varepsilon_{m-1}}\subset H_{\sigma|m-1}$ である。$k$ を固定すると $m>k$ で $g_m(x)\in H_{\sigma|k}$ なので、$f(x)\in\bigcap_kH_{\sigma|k}=\{k_\sigma\}$ である。
段 4 以降で $f$ が $B$ の上への単射であることを確かめる。コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な単射は像への同相写像なので、これで定理の前半が示される。
段 4(単射).$k_\sigma\in H_{\sigma|n+1}$ で、(iv) により $H_{\sigma|n+1}\cap B_n=\emptyset$ なので、$k_\sigma\notin\bigcup_nB_n$ である。よって段 3 から、$f(C)\subset\mathcal K$ と $f(B_0\setminus C)\subset\bigcup_nB_n$ は交わらない。$x,y\notin C$ で $f(x)=f(y)$ なら、$x,y\notin E^{(n)}$ となる $n$ について $g_n(x)=g_n(y)$ なので $x=y$ である。$x,y\in C$ で $\sigma(x)=\sigma(y)$ なら、$x,y$ はすべての段で同じ $E_s^\pm$ に属し、(vii) により直径が $0$ に近づくので $x=y$ である。$\sigma(x)\ne\sigma(y)$ なら、最初に異なる項を第 $n+1$ 項とすると $H_{\sigma(x)|n+1}$ と $H_{\sigma(y)|n+1}$ は (i) により交わらないので、$k_{\sigma(x)}\ne k_{\sigma(y)}$ である。
段 5(像).$B_n\subset X_m$ がすべての $m$ で成り立ち($m\ge n$ なら $B_n\subset B_m$、$m< n$ なら $B_n\subset X_n\subset X_m$)、$k_\sigma\in H_{\sigma|m}\subset X_m$ なので、$\bigcup_nB_n\cup\mathcal K\subset B$ である。逆に、$y\in B_n$ とすると、$m\ge n+1$ では (vi) により $N_s^\pm$($\lvert s\rvert=m$)は $B_{m-1}\supset B_n$ と交わらないので、$y=g_m(x)$ となる $x$ は $E^{(m)}$ に属さず、$f(x)=g_m(x)=y$ である。$y\in B\setminus\bigcup_nB_n$ なら、各 $n$ で $y\in X_n\setminus B_n$ はただ 1 つの $H_{t_n}$($\lvert t_n\rvert=n$)に属し、$H_{t_{n+1}}\subset H_{t_{n+1}|n}$ と (i) から $t_{n+1}|n=t_n$ となるので、$y=k_\sigma$($\sigma|n=t_n$)である。各 $\sigma$ について、$\sigma$ から決まる入れ子の $E$ の共通部分は空でないので、$k_\sigma=f(x)$ となる $x\in C$ がある。以上で $f(B_0)=B=\bigl(\bigcup_nB_n\bigr)\sqcup\mathcal K$ である。
段 6($S$ と $\mathcal K$).Brouwerの領域不変性定理 により $f(\operatorname{int}B_0)$ は $\mathbb R^3$ の開集合なので $B$ の内部に含まれる。$x\in\partial B_0$ の像が $B$ の内部の点なら、その点の開球近傍に $f^{-1}$ を制限して領域不変性を使うと、$x$ の近傍が $B_0$ に含まれることになり矛盾する。よって $S=f(\partial B_0)$ は $B$ の境界($B$ の閉包から内部を除いた集合)に等しい。$H_{\sigma|n}\setminus X_{n+1}$ は空でなく $B$ と交わらず、$H_{\sigma|n}$ の直径は $0$ に近づくので、$k_\sigma$ は $B$ の境界の点であり、$\mathcal K\subset S$ である。各段の $E_s^\pm\cap C$ は $C$ の開閉集合なので $\sigma\colon C\to\{0,1\}^{\mathbb N}$ は連続な全単射であり、コンパクト性から同相写像である。$f|_C\colon C\to\mathcal K$ も同相写像なので、$\mathcal K$ は $\{0,1\}^{\mathbb N}$、したがって Cantor集合 と同相である(Cantor集合 の命題「直積空間との同相」)。$\square$
$\mathbb R^3\setminus S$ はちょうど 2 つの連結成分 $f(\operatorname{int}B_0)$ と $\mathbb R^3\setminus B$ をもつ。有界な成分 $f(\operatorname{int}B_0)$ は開球体と同相で、とくに単連結である。
$\mathbb R^3\setminus S=f(\operatorname{int}B_0)\sqcup(\mathbb R^3\setminus B)$ である。$f(\operatorname{int}B_0)$ は開球体と同相で連結であり、Brouwerの領域不変性定理 により $\mathbb R^3$ の開集合である。また $B\setminus S$ に等しいので $\mathbb R^3\setminus S$ の閉集合でもあり、したがって 1 つの連結成分である。$\mathbb R^3$ に無限遠点 $\infty$ を加えた $S^3$ の中で、Jordan曲線定理 の定理「Jordan–Brouwerの分離定理」により $S^3\setminus S$ の連結成分はちょうど 2 つである。その一方が $f(\operatorname{int}B_0)$ なので、他方は $(\mathbb R^3\setminus B)\cup\{\infty\}$ である。連結な 3 次元多様体から 1 点を除いても連結なので、$\mathbb R^3\setminus B$ は連結である。$\square$
$\mathbb R^3\setminus B$ は単連結でない。より詳しく、その基本群 $G$ は、階数 $1,2,4,\dots,2^n,\dots$ の自由群の狭義増大列の和集合と同型であり、$G$ の可換化は自明で($G=[G,G]$)、$G$ は有限生成でない。ハンドル $H_\emptyset$ の周りを 1 周する小さな輪は、$\mathbb R^3\setminus B$ の中で 1 点に縮まない。
thm-ahs-pi1 の証明は、1 つのハンドルの中の計算(lem-ahs-local)を準備して、次の節で行う。
$\mathbb R^3$ の同相写像で、$S$ を標準的な球面 $S^2=\{x\mid\lvert x\rvert=1\}$ に移すものはない。
そのような同相写像 $\Phi$ があったとする。$\Phi$ は $\mathbb R^3\setminus S$ の連結成分を $\mathbb R^3\setminus S^2$ の連結成分に移す。$\Phi$ と $\Phi^{-1}$ はコンパクト集合をコンパクト集合に移すので、閉包がコンパクトな成分どうし、すなわち有界な成分どうしが対応する。よって $\Phi(\mathbb R^3\setminus B)=\{x\mid\lvert x\rvert>1\}$ である。右辺は $S^2\times(1,\infty)$ と同相で単連結だが、thm-ahs-pi1 により左辺は単連結でない。$\square$
内側と外側を入れ替えた比較として、標準的な球面では両側の成分がどちらも単連結である。角付き球面では内側は単連結のままで、外側だけが単連結でなくなる。
$Y_n:=\mathbb R^3\setminus X_n$ とおく。$Y_n$ は開集合で、$Y_0\subset Y_1\subset\cdots$、$\bigcup_nY_n=\mathbb R^3\setminus B$ である。$\lvert s\rvert=n$ について
$$
W_s:=H_s\setminus X_{n+1},\qquad A_s:=W_s\cap\partial H_s
$$
とおくと、$Y_{n+1}=Y_n\sqcup\bigcup_{\lvert s\rvert=n}W_s$ である。(iv) により角も新しいハンドルも側面と交わらないので、$A_s$ は $H_s$ の側面、すなわち開いた円環 $S^1\times(0,1)$ である。$A_s$ の中を 1 周する輪($\pi_1(A_s)\cong\mathbb Z$ の生成元を表す輪)を $H_s$ の 子午線 という。$H_{s0}$ と $H_{s1}$ の子午線は $W_s$ の中にとれる。
$W_s$ は弧状連結で、その基本群は、$H_{s0}$ と $H_{s1}$ の子午線が表す 2 元 $a,b$ を基底とする階数 $2$ の自由群である。基点への道と向きを適当に選ぶと、$A_s$ の子午線は $W_s$ の中で交換子 $[a,b]=aba^{-1}b^{-1}$ を表す。
要点:見本では、$W_s$ を縦に押しつぶすと 2 つの穴のあいた正方形になる。$A_s$ の子午線を押しつぶすと、$D_0$ の周りを逆向きに回る 2 つの輪の積になり、その一方は $D_1$ を回る道で共役になっているので、交換子が現れる。
段 1(見本への帰着).$\Theta_s$ は $W_s$ を $W:=Q\setminus(T_0\cup T_1\cup\Delta^-\cup\Delta^+)$ に、$A_s$ を $A$ に、$H_{s0},H_{s1}$ の子午線を $T_0,T_1$ の子午線(側面の輪 $\partial D_i'\times\{0\}$ を少し外へ押し出したもの)に移す。よって見本で示せばよい。
段 2($W$ の基本群).$J^-:=[\tfrac{15}8,\tfrac{17}8]\times\{-3\}$、$J^+:=[\tfrac78,\tfrac98]\times\{-3\}$ とおくと、$\Delta^\mp$ の $\lvert z\rvert<1$ の部分は $J^\mp\times(-1,1)$ である。$(u,z)\in W$ なら $u\notin D_0'\cup D_1'$ であり、$u\in J^\mp$ でもない(そうなら $(u,z)\in\Delta^\mp$)。よって $r_t(u,z):=(u,tz)$($0\le t\le1$)は $W$ を $W$ に移し、$W$ は切り口 $P:=\{(u,0)\mid u\in R\setminus(D_0'\cup D_1'\cup J^-\cup J^+)\}$ に変形レトラクトする。以下 $(u,0)$ を $u$ と書く。基点を $q:=(0,0)$ とし、$\alpha$ を、$q$ から $(-\tfrac23,0)$ へ進み正方形 $[-\tfrac43,-\tfrac23]\times[-\tfrac13,\tfrac13]$ の周を反時計回りに 1 周して戻る輪、$\beta$ を、$q$ から $(\tfrac23,0)$ へ進み正方形 $[\tfrac23,\tfrac43]\times[-\tfrac13,\tfrac13]$ の周を反時計回りに 1 周して戻る輪とする。$U:=P\cap\{x<\tfrac14\}$ は凸集合から $D_0'$ を除いたもの、$V:=P\cap\{x>-\tfrac14\}$ は凸集合から $D_1'$ と境界の線分 $J^\mp$ を除いたもので、それぞれ $p_0$、$p_1$ からの放射状の変形で上の正方形の周に変形レトラクトする。よって $\pi_1(U,q)$、$\pi_1(V,q)$ はそれぞれ $\alpha$、$\beta$ で生成される無限巡回群であり、輪の類は $p_0$ または $p_1$ の周りの回転数で決まる。$U\cap V=P\cap\{\lvert x\rvert<\tfrac14\}$ は凸である。Seifert–van Kampenの定理 により、$\pi_1(P,q)$ は $\alpha,\beta$ を基底とする自由群である。$\alpha,\beta$ は $T_0,T_1$ の子午線を表す。とくに $W$ は弧状連結で、$\pi_1(W,q)$ は $\alpha,\beta$ を基底とする自由群である。
段 3($A$ の子午線).$\Delta'^-$ を、$\Delta^-$ の定義の距離 $\tfrac18$ を $\tfrac14$ に替えた円板とし、$c:=\partial\Delta'^-$ とする。$\Delta^-$ は $\Delta'^-$ の内部にあり、$\Delta'^-\cap\Delta^+=\emptyset$ なので $c\subset A$ である。$\overline{\Delta'^-\setminus\Delta^-}$ と $\overline{\partial Q\setminus(\Delta'^-\cup\Delta^+)}$ はどちらも閉じた円環と同相であり(RS82 Corollary 3.13・3.19)、$A$ はこの 2 つを $c$ で貼り合わせたものから両端の円周を除いた開いた円環である。よって $c$ は $A$ の子午線である。
段 4($c$ を押しつぶす).$c$ は、底面の弧 $c_b$($u$ 座標で $(\tfrac74,-3)$ から $(\tfrac94,-3)$ へ)、側面の縦の線分 $\{(\tfrac94,-3)\}\times[-1,1]$、上面の弧 $c_t$($(\tfrac94,-3)$ から $(\tfrac74,-3)$ へ)、縦の線分 $\{(\tfrac74,-3)\}\times[-1,1]$ をこの順にたどる輪である($c$ の向きをこう定める)。$r_0$ は縦の線分を点に縮めるので、$c$ は $W$ の中で、射影した 2 つの弧をつないだ閉曲線 $c_bc_t\subset P$ とホモトピックである。$c_b$ は、$L_b:=D_0\cup\{p_0\to(-1,-1)\to(2,-1)\to(2,-3)\}$ の $\tfrac14$ 近傍の境界を、$D_0$ の周りを時計回りに回ってたどる。$e:=(2,-2)$ とし、$\lambda_b$ を、折れ線 $e\to(2,-1)\to(-1,-1)\to(-1,-\tfrac13)$ を進み、$\alpha$ の正方形の周を時計回りに 1 周して同じ道を戻る輪とする。$L_b$ の $\tfrac38$ 近傍は $D_1'$ と交わらない円板で、そこから $D_0'$ と $J^-$ を除いた部分では、端点を止めた道の類は $p_0$ の周りの回転数で決まる。$c_b$ と、線分 $\varepsilon:(\tfrac74,-3)\to e$、$\varepsilon':e\to(\tfrac94,-3)$ をつないだ道 $\varepsilon\lambda_b\varepsilon'$ は、どちらも線分 $(\tfrac94,-3)\to(\tfrac74,-3)$ で閉じると回転数が $-1$ になるので、端点を止めてホモトピックである。同じく、$c_t$ は $L_t:=D_0\cup\{(2,-3)\to(2,1)\to(-1,1)\to p_0\}$ の $\tfrac14$ 近傍の境界を $D_0$ の周りを反時計回りに回ってたどり、$\varepsilon'^{-1}\lambda_t\varepsilon^{-1}$ と端点を止めてホモトピックである。ここで $\lambda_t$ は、折れ線 $e\to(2,1)\to(-1,1)\to(-1,\tfrac13)$ を進み、$\alpha$ の正方形の周を反時計回りに 1 周して同じ道を戻る輪である。よって $c$ は $\lambda_b\lambda_t$ と自由ホモトピックである。
段 5(語の計算).$\sigma$ を折れ線 $q\to(0,-2)\to e$ とする。長方形 $[0,2]\times[-2,-1]$ は穴を含まないので、$\sigma\lambda_b\sigma^{-1}$ は、折れ線 $q\to(0,-1)\to(-1,-1)\to(-1,-\tfrac13)$ を進んで正方形を時計回りに回って戻る輪とホモトピックである。これは $U$ の中にあり $p_0$ の周りの回転数が $-1$ なので、$\alpha^{-1}$ を表す。次に、$\tau$ を折れ線 $q\to(0,-2)\to e\to(2,1)\to(-1,1)\to(-1,\tfrac13)$、$\tau'$ を折れ線 $q\to(0,1)\to(-1,1)\to(-1,\tfrac13)$ とする。$\tau\tau'^{-1}$ は長方形 $[0,2]\times[-2,1]$ の周を反時計回りに回る輪とホモトピックで、$V$ の中にあり $p_1$ の周りの回転数が $1$ なので、$\beta$ を表す。$\tau'$ を進んで正方形を反時計回りに回って戻る輪は $U$ の中にあり、$\alpha$ を表す。よって $\sigma\lambda_t\sigma^{-1}$ は $\beta\alpha\beta^{-1}$ を表す。以上から、$c$ は $W$ の中で $\alpha^{-1}\beta\alpha\beta^{-1}=[\alpha^{-1},\beta]=\alpha^{-1}[\alpha,\beta]^{-1}\alpha$ と自由ホモトピックである。
段 6(まとめ).$a:=\alpha$、$b:=\beta$ とおくと、$\pi_1(W_s)$ は $H_{s0},H_{s1}$ の子午線 $a,b$ を基底とする自由群で、$A_s$ の子午線は $[a,b]^{-1}$ の共役を表す。子午線の向きを $c$ と逆にとれば $[a,b]$ の共役であり、$c$ の向きのままなら、$a$ の向きを逆にすればよい($[a^{-1},b]=a^{-1}[a,b]^{-1}a$ による)。共役 $g[a,b]g^{-1}=[gag^{-1},gbg^{-1}]$ は基点への道を取り替えれば消えるので、$A_s$ の子午線はちょうど $[a,b]$ を表す。$\square$
基点 $p\in Y_0$ を固定し、各 $s$ について $p$ から $H_s$ の近くへの道を $Y_{\lvert s\rvert}$ の中に選んで、$H_s$ の子午線($A_s$ の輪を外側へ少し押し出したもの)を基点 $p$ の元 $x_s$ と見なす。lem-ahs-local の道の選び方を合わせておく。
段 1($Y_0$).$X_0$ は標準的なソリッドトーラスなので、$S^3=\mathbb R^3\cup\{\infty\}$ から $X_0$ を除くと開いたソリッドトーラスになり、その芯は $X_0$ と 1 回絡む円周で、$X_0$ の子午線とホモトピックである。その基本群は $x_\emptyset$ で生成される無限巡回群である。3 次元多様体から 1 点を除いても基本群は変わらない(1 点の周りの小さな開球体とそこから 1 点を除いた $S^2\times(0,1)$ がどちらも単連結なので、Seifert–van Kampenの定理 による)。よって $\pi_1(Y_0)$ は $x_\emptyset$ を基底とする階数 $1$ の自由群である。
段 2(帰納法).$\pi_1(Y_n)$ が $\{x_s\mid\lvert s\rvert=n\}$ を基底とする自由群だと仮定する。$Y_n$ に $W_s$ を 1 つずつ付け加える。$A_s$ の両側に細い襟を付けて開集合に太らせると、$Y_n$ 側と $W_s$ 側はそれぞれ $Y_n$、$W_s$ に変形レトラクトし、共通部分は円環 $A_s$ と同じホモトピー型になる。Seifert–van Kampenの定理 により、付け加えた後の基本群は、$\pi_1(Y_n)$ と $\pi_1(W_s)=\langle a,b\rangle$ に「$x_s=[a,b]$」という関係を課したもの($\pi_1(A_s)\cong\mathbb Z$ 上の融合積)である。この表示から $x_s$ を消去すると、$\{x_t\mid t\ne s\}\cup\{a,b\}$ を基底とする自由群になる。$a,b$ は $H_{s0},H_{s1}$ の子午線 $x_{s0},x_{s1}$ である。すべての $s$ について行うと、$\pi_1(Y_{n+1})$ は $\{x_t\mid\lvert t\rvert=n+1\}$ を基底とする自由群で、包含写像の誘導する準同型 $\iota_n$ は
$$
\iota_n(x_s)=[x_{s0},x_{s1}]\qquad(\lvert s\rvert=n)
$$
を満たす。
段 3($\iota_n$ は単射).$w=x_{s_1}^{e_1}\cdots x_{s_k}^{e_k}$($e_i=\pm1$、$k\ge1$)を簡約語とする。$x_s^{+1}$ は $x_{s0}x_{s1}x_{s0}^{-1}x_{s1}^{-1}$ に、$x_s^{-1}$ は $x_{s1}x_{s0}x_{s1}^{-1}x_{s0}^{-1}$ に移る。隣り合う 2 つの文字の $s$ が異なれば、対応するブロックの文字は共通しないので打ち消し合わない。$s$ が同じなら、$w$ は簡約なので符号も同じであり、ブロックの境目は $x_{s1}^{-1}x_{s0}$ または $x_{s0}^{-1}x_{s1}$ となって打ち消し合わない。よって $\iota_n(w)$ は長さ $4k$ の簡約語で、単位元でない。
段 4(極限).$\mathbb R^3\setminus B$ の中の輪とホモトピーの像はコンパクトなので、開集合の増大列 $(Y_n)$ のどれか 1 つに含まれる。よって、どの元もある $\pi_1(Y_n)$ から来ており、$\pi_1(Y_n)$ の元が $\mathbb R^3\setminus B$ で単位元なら、ある $m\ge n$ で $\pi_1(Y_m)$ の単位元である。段 3 により各 $\iota_n$ は単射なので、$G=\pi_1(\mathbb R^3\setminus B,p)$ は自由群の増大列 $\pi_1(Y_0)\subset\pi_1(Y_1)\subset\cdots$ の和集合と同型であり、とくに $x_\emptyset\ne1$ である。
段 5(可換化と有限生成性).$G$ の元はある $\pi_1(Y_n)$ の基底の積で、各基底 $x_s$ は $\pi_1(Y_{n+1})$ の中で交換子 $[x_{s0},x_{s1}]$ に等しいので、$G=[G,G]$ である。$\iota_n$ の像は交換子部分群に含まれるので、可換化 $\mathbb Z^{2^{n+1}}$ が自明でない $\pi_1(Y_{n+1})$ 全体にはならず、増大列は狭義である。$G$ が有限生成なら、生成元がすべてある $\pi_1(Y_n)$ の像に入り、$G$ は階数 $2^n$ の自由群と同型になって可換化が $\mathbb Z^{2^n}$ になるが、これは $G=[G,G]$ に反する。$\square$
$\mathbb R^3\setminus B$ と標準的な球体の外側 $\{x\mid\lvert x\rvert>1\}$ は、ホモロジー群が等しい。どちらも $S^3$ の中の球面の補集合の成分(ホモロジーは 1 点と同じ。Jordan曲線定理 の定理「Jordan–Brouwerの分離定理」)から 1 点を除いた開集合で、除いた点の周りの小さな球体について Mayer–Vietoris 完全系列を使うと、どちらも $S^2$ と同じホモロジーをもつからである。とくに 1 次元ホモロジーは $0$ で、これは thm-ahs-pi1 の $G$ の可換化が自明であることと合っている。2 つの空間を区別するのは基本群であり、$G$ は可換化が自明な自明でない群、すなわち自明でない完全群の例になっている。
見本の折れ線 $\gamma^-,\gamma^+$ を、底面でも上面でも同じ線分 $p_0\to(-1,-3)$、$p_1\to(1,-3)$ と、その端点の上の側面の縦の線分に取り替えて、同じ構成を行う。得られる集合 $B'$ も、thm-ahs-ball と同じ証明で球体と同相である(その証明は見本の形を使わない)。ところが $\mathbb R^3\setminus B'$ は単連結である。実際、prf-ahs-local の段 1〜3 は同じ議論で成り立ち、段 4 では上面の弧 $c_t$ が底面の弧 $c_b$ をちょうど逆向きにたどるので、$A_s$ の子午線は $W_s$ の中で 1 点に縮む。すると prf-ahs-pi1 段 2 の関係は $x_s=1$ になり、$\pi_1(Y_{n+1})$ は $\{x_t\mid\lvert t\rvert=n+1\}$ を基底とする自由群のまま、$\iota_n$ はすべての $x_s$ を単位元に送る。段 4 と同じく、$\mathbb R^3\setminus B'$ の基本群の元はある $\pi_1(Y_n)$ から来て、$\pi_1(Y_{n+1})$ で単位元になるので、$\mathbb R^3\setminus B'$ は単連結である。角付き球面の外側が単連結でないのは、各段の 2 つの輪が絡み合っているためである。
$S^n$ の中の $S^{n-1}$ と同相な集合 $\Sigma$ が局所平坦であれば(各点 $y\in\Sigma$ に近傍 $U$ と同相写像 $(U,U\cap\Sigma)\cong(\mathbb R^n,\mathbb R^{n-1})$ があれば)、$S^n$ の同相写像で標準的な $S^{n-1}$ に移せる(Brown による。証明は 一般化されたSchoenfliesの定理 にある)。角付き球面 $S\subset S^3=\mathbb R^3\cup\{\infty\}$ が局所平坦なら、この結果により $(\mathbb R^3\setminus B)\cup\{\infty\}$ は開球体になり、$\mathbb R^3\setminus B$ は単連結になって thm-ahs-pi1 に反する。よって角付き球面は局所平坦でない。角付き球面の病理は、球面としての形ではなく、空間への入り方の局所的な乱れにある。
cor-ahs-not-standard は、Schoenfliesの定理 の仮定を 1 つ外すと結論が成り立たなくなることを示している。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 次元が 2(Schoenfliesの定理) | 角付き球面 $S\subset\mathbb R^3$ | 空間の同相写像で標準的な球面に移せる |
| 局所平坦(rem-ahs-locally-flat の Brown の結果) | 角付き球面 $S\subset S^3$ | 補集合の 2 つの成分がどちらも開球体と同相 |
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