箱位相(box topology)とは、位相空間の族の直積集合に、各座標で任意の開集合を同時に指定した箱を開基として入れる位相である。有限積では直積位相と一致するが、無限積では真に細かくなり得る。射影は連続な開写像であり、実数直線の可算箱積では座標ごとの収束が全体の収束を導かない。可算選択公理のもとでは第1可算性も失われる。選択公理のもと、二点以上を持つTychonoff空間の無限箱積は連結でない。
箱位相は直積集合に入れる位相であり、箱積はその位相を入れた空間を指す。以下では文脈上混乱がないとき、箱位相を入れた空間そのものも箱位相と呼ぶ。標準的な定義と直積位相との比較は Mun00 §19も参照できる。
箱全体は $X$ 上の位相の開基をなす。さらに、二つの箱の共通部分も箱である。
各 $U_i=X_i$ とすれば $X$ 自身が箱なので、箱全体は $X$ を覆う。二つの箱 $B=\prod_iU_i$ と $C=\prod_iV_i$ に対して
$$
B\cap C=\prod_{i\in I}(U_i\cap V_i)
$$
であり、各 $U_i\cap V_i$ は $X_i$ の開集合である。したがって $B\cap C$ も箱である。特に $x\in B\cap C$ なら、$x$ を含み $B\cap C$ に含まれる箱として $B\cap C$ 自身を取れる。これは開基の二条件を満たす。
直積位相の基本開集合は有限個の座標だけを制限するのに対し、箱位相の箱はすべての座標を同時に制限できる。この違いは有限積では消えるが、無限積では収束や連続性を変える。
$I$ が有限集合なら、箱位相は同じ直積集合上の直積位相と一致する。特に $\mathbb R^2$ では、開矩形 $U\times V$ が両方の位相の開基になる。
$\mathbb N=\{1,2,3,\ldots\}$ とし、$\mathbb R^{\mathbb N}$ を実数直線の可算直積とする。原点を含む箱
$$
B:=\prod_{n\geq1}\left(-\frac1n,\frac1n\right)
$$
は箱位相で開であるが、直積位相では開でない。
$B$ の各成分は開区間なので、$B$ は箱である。一方、原点を含む直積位相の基本開集合は有限個の座標しか制限しない。したがって、制限されていない座標 $m$ があり、第 $m$ 成分だけを $1$ とする点を含む。この点は $B$ に属さないので、原点を含み $B$ に含まれる直積位相の基本開集合は存在しない。よって $B$ は直積位相で開でない。
$x_k=(1/k,1/k,\ldots)$ とする。各座標では $x_k$ は $0$ に収束するので、直積位相では $x_k\to0$ である。しかし上の箱 $B$ に対し、$x_k$ の第 $k$ 成分は $1/k\notin(-1/k,1/k)$ である。したがってどの $x_k$ も $B$ に属さず、箱位相では $x_k$ は $0$ に収束しない。
同じ直積集合 $X=\prod_{i\in I}X_i$ 上の直積位相を $\tau_{\mathrm p}$、箱位相を $\tau_{\Box}$ とする。このとき
$$
\tau_{\mathrm p}\subset\tau_{\Box}
$$
である。$I$ が有限なら両者は一致する。
さらに、$p=(p_i)\in X$ が存在し、相異なる添字 $i_1,i_2,\ldots$ と、$p_{i_n}$ を含む真の開集合 $U_{i_n}\subsetneq X_{i_n}$ があるなら、$\tau_{\mathrm p}\subsetneq\tau_{\Box}$ である。
直積位相の基本開集合は、有限個の座標で開集合を指定し、残りの座標を $X_i$ とした箱である。したがって直積位相のすべての開集合は箱位相でも開であり、$\tau_{\mathrm p}\subset\tau_{\Box}$ である。
$I$ が有限なら、任意の箱が有限個の全座標だけを制限する直積位相の基本開集合になるので、逆の包含も成り立つ。
最後の仮定のもとで、$W_{i_n}=U_{i_n}$ とし、それ以外の $i$ では $W_i=X_i$ として $W=\prod_iW_i$ とおく。$W$ は $p$ を含む箱である。$p$ を含む直積位相の基本開集合 $C$ は有限個の座標しか制限しないので、ある $n$ について第 $i_n$ 成分を制限しない。すると $U_{i_n}\subsetneq X_{i_n}$ であるため $C\not\subset W$ となる。したがって $W$ は直積位相で開でなく、包含は真である。
$X_j$ の開集合 $U$ に対し、$\pi_j^{-1}(U)$ は第 $j$ 成分を $U$、他の成分を全体空間とする箱だから開である。よって $\pi_j$ は連続である。
箱 $C=\prod_iU_i$ を取る。$C=\emptyset$ なら $\pi_j(C)=\emptyset$ は開である。$C\neq\emptyset$ なら一点 $c\in C$ を取る。任意の $u\in U_j$ に対し、$c$ の第 $j$ 成分だけを $u$ に置き換えた点は $C$ に属するので、$\pi_j(C)=U_j$ である。したがって箱の像は開である。一般の開集合は箱の合併であり、射影は合併と可換するから、その像も開である。この証明に選択公理は要らない。
以下では、Tychonoff空間を完全正則性条件と $T_1$ をともに満たす空間という意味で用いる。完全正則性条件だけを指す流儀とは区別する。
選択公理を仮定する。$I$ を無限集合とし、各 $X_i$ を二点以上を持つTychonoff空間とする。このとき箱積 $\mathop{\Box}_{i\in I}X_i$ は連結空間にならない。
選択公理により、相異なる添字 $i_1,i_2,\ldots$ と、各 $n$ について相異なる二点 $a_n,b_n\in X_{i_n}$ を選ぶ。$T_1$ 性により $\{b_n\}$ は閉集合である。完全正則性条件から、連続関数 $f_n\colon X_{i_n}\to[0,1]$ で
$$
f_n(a_n)=0,\qquad f_n(b_n)=1
$$
となるものを選べる。残りの座標からも点を選び、$i_n$ 成分が $a_n$ である点 $a\in\prod_iX_i$ と、$i_n$ 成分が $b_n$ である点 $b\in\prod_iX_i$ を作る。
箱積の部分集合
$$
E:=\left\{x\in\prod_iX_i\ \middle|\ \sup_{n\geq1}n f_n(x_{i_n})<\infty\right\}
$$
を考える。$x\in E$ とし、$M=\sup_n n f_n(x_{i_n})$ とおく。各 $i_n$ 成分を
$$
f_n^{-1}\left([0,f_n(x_{i_n})+1/n)\right)
$$
に制限し、他の成分を全体空間とした箱は $x$ を含み、その各点 $y$ で $n f_n(y_{i_n})< M+1$ が成り立つ。よってこの箱は $E$ に含まれ、$E$ は開である。
$x\notin E$ なら $\sup_n n f_n(x_{i_n})=\infty$ である。各 $i_n$ 成分を
$$
f_n^{-1}\left((f_n(x_{i_n})-1/n,1]\right)
$$
に制限した箱では、各点 $y$ について $n f_n(y_{i_n})>n f_n(x_{i_n})-1$ となる。この右辺は上に有界でないので、その箱は $E$ の補集合に含まれる。したがって $E$ の補集合も開である。
$a\in E$ であり、$b\notin E$ なので、$E$ は空でも全体でもない開かつ閉集合である。ゆえに箱積は連結でない。
この証明は非自明な開かつ閉集合を構成しており、道の不存在だけを示す議論ではない。したがって弧状連結空間であることと連結であることを取り違えていない。$T_1$ を含まない完全正則性の条件だけに弱めると結論は偽である。実際、無限集合に密着位相を入れた空間は完全正則性条件を満たすが、そのような空間の箱積も密着位相を持つため連結である。
箱位相を入れた $[0,1]^{\mathbb N}$ がコンパクトでないことは、コンパクト空間の「箱位相では積のコンパクト性が崩れる」の注意が閉離散部分空間を用いて示している。本記事はこの証明を繰り返さない。無限直積では Tychonoff の定理(Tychonoffの定理)が箱位相で成り立たない($[0,1]^{\mathbb N}$ の箱位相はコンパクトでない)。証明は コンパクト空間 の記事の注意を参照。
可算選択公理のもとで、箱位相を入れた $\mathbb R^{\mathbb N}$ は第1可算(第1可算公理)でないので、距離化可能空間でない。
可算選択公理を仮定する。$\mathbb R^{\mathbb N}$ に箱位相を入れると、原点は可算な基本近傍系を持たない。
原点の可算な基本近傍系 $(N_k)_{k\geq1}$ があると仮定する。各 $k$ について、原点を含む箱 $C_k=\prod_nU_{k,n}\subset N_k$ を取る。$U_{k,k}$ は $0$ の開近傍なので、$0<\varepsilon_k$ で $(-\varepsilon_k,\varepsilon_k)\subset U_{k,k}$ となるものを取れる。
箱
$$
V:=\prod_{k\geq1}(-\varepsilon_k/2,\varepsilon_k/2)
$$
は原点の近傍である。しかし各 $k$ について、$C_k$ は第 $k$ 成分に $\varepsilon_k/2$ を持ち他の成分が $0$ である点を含み、この点は $V$ に属さない。したがって $N_k\not\subset V$ であり、$(N_k)$ は基本近傍系でない。これは仮定に反する。
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