長方形を正方形に分ける(squaring the rectangle)とは、長方形を、辺が長方形の辺に平行で、重ならず隙間もない有限個の正方形に分けることである。横 $W$、縦 $H$ の長方形が一辺 $c$ の同じ大きさの正方形に分けられるのは $\frac Wc$ と $\frac Hc$ がどちらも正の整数のときに限り、したがって同じ大きさの正方形に分けられるのは辺の比 $\frac WH$ が有理数のときに限る。大きさがすべて違う 2 個以上の正方形に分けたときは、いちばん小さい正方形は長方形の周に触れない。このことから、そのような分割には 5 個以上の正方形が要る。例として、横 $33$、縦 $32$ の長方形と横 $69$、縦 $61$ の長方形は、大きさがすべて違う 9 個の正方形に分けられる。
前提知識: 整数の割り算と互除法, 有理数, 無理数の証明
方眼紙に描いた長方形は、方眼の 1 目の正方形で隙間なく埋まる。では、もっと大きい正方形で埋めるとどうなるか。大きさの違う正方形を混ぜてよいとしたらどうか。まず小さな長方形で試してみる。
一辺 $2$ の正方形を、横に $6\mathbin{÷}2=3$ 個、縦に $4\mathbin{÷}2=2$ 段並べると、ちょうど埋まる。個数は $3\times2=6$ 個で、面積の和は
$$
6\times2^2=24=6\times4
$$
である(図 1)。一辺 $1$ の正方形なら $6\times4=24$ 個で埋まる。
一辺 $3$ の正方形では埋められない。縦の $4$ が $3$ で割り切れないので、縦に何段か並べると $3$ か $6$ にしかならず、$4$ にならないからである(この理由は thm-sqr-equal の証明で正確に述べる)。
長方形から、短い方の辺を一辺とする正方形をできるだけ多く切り取る。これをくり返す。
(1) 横 $7$、縦 $5$。$7=1\times5+2$ なので、一辺 $5$ の正方形を $1$ 個切り取り、横 $2$、縦 $5$ の長方形が残る。
(2) 横 $2$、縦 $5$。$5=2\times2+1$ なので、一辺 $2$ の正方形を $2$ 個切り取り、横 $2$、縦 $1$ の長方形が残る。
(3) 横 $2$、縦 $1$。$2=2\times1+0$ なので、一辺 $1$ の正方形を $2$ 個切り取ると、何も残らない。
こうして横 $7$、縦 $5$ の長方形は、一辺 $5,2,2,1,1$ の $5$ 個の正方形に分かれた(図 2)。面積の和は
$$
5^2+2^2+2^2+1^2+1^2=25+4+4+1+1=35=7\times5
$$
で、長方形の面積と一致する。(1)〜(3) の割り算は、$7$ と $5$ の最大公約数を求める互除法(整数の割り算と互除法)の割り算そのもので、最後に残る正方形の一辺 $1$ が最大公約数である。
横 6、縦 4 の長方形を一辺 2 の正方形 6 個で埋めた図
横 7、縦 5 の長方形から一辺 5、2、2、1、1 の正方形を順に切り取った図
ex-sqr-7x5 では、同じ大きさの正方形が 2 組($2$ と $2$、$1$ と $1$)あった。大きさがすべて違う正方形で長方形を埋めることはできるだろうか。試してみると、2 個や 3 個ではうまくいかないことがすぐ分かる。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| いちばん大きい正方形を切り取る割り算 | 正方形分割の 1 つの作り方 | 互除法、連分数 |
| 縦と横の比が整数の比 | 同じ大きさの正方形に分けられる | 辺の比が有理数(通約可能) |
| 一辺の 2 乗の和が縦×横 | 分割の面積の確かめ | — |
| いちばん小さいものに注目する | いちばん小さい正方形の位置 | 極端なものを調べる議論 |
以下、長方形を座標平面に置き、$0\le x\le W$、$0\le y\le H$ の部分とする(横 $W$、縦 $H$)。正方形の「内部」とは、正方形から 4 つの辺を除いた部分のことである。
長方形 $R$ と、有限個の正方形 $Q_1,Q_2,\dots,Q_n$ が次の 3 つの条件を満たすとき、$Q_1,\dots,Q_n$ を $R$ の 正方形分割 といい、$n$ をその 個数(位数)という。
(R1) どの $Q_i$ も $R$ に含まれ、$Q_i$ の辺は $R$ の辺に平行である。
(R2) 異なる 2 つの正方形 $Q_i,Q_j$ は内部に共通の点をもたない(重なってよいのは辺と頂点だけ)。
(R3) $Q_1,\dots,Q_n$ を合わせると $R$ 全体になる。
正方形の一辺の長さがどの 2 つも違うとき、その正方形分割は 大きさがすべて違う という。大きさがすべて違う 2 個以上の正方形に分けられる長方形を 完全長方形(perfect rectangle)という(Wei26)。
条件 (i) で辺を平行にしたのは、この記事ではそういう分け方だけを考えるからである。条件 (ii) と (iii) は「重ならず、隙間もない」ことを言っている。
正方形分割を調べるときに何度も使う事実を、補題として準備する。長方形の 4 つの辺のうち、下の辺 $y=0$($0\le x\le W$)を 底辺 と呼ぶ。正方形の 4 つの辺のうち下の辺を、その正方形の 底の辺 と呼ぶ。
長方形 $R$ の正方形分割で、底辺と共通の点をもつ正方形は、底の辺が $R$ の底辺の上にある。それらの正方形の底の辺を左から順に並べると、$R$ の底辺を隙間なく、重なりなく区切る。つまり、区切りの点を $0=p_0< p_1<\dots< p_k=W$ として、底の辺はちょうど $p_0$ から $p_1$、$p_1$ から $p_2$、…、$p_{k-1}$ から $p_k$ までの $k$ 本である。上の辺・左の辺・右の辺についても同じことが成り立つ。
要点:底辺の点を含む正方形は底辺に触れるので、底の辺を合わせると底辺全体になる。2 つの底の辺が重なると、2 つの正方形が底辺のすぐ上で重なってしまう。
段 1(底辺に触れる正方形の位置).正方形 $Q$ が底辺の点 $(x,0)$ を含むとする。条件 (i) から $Q$ は $R$ に含まれるので、$Q$ の点の $y$ 座標はどれも $0$ 以上である。$Q$ の辺は座標軸に平行なので、$Q$ の中で $y$ 座標がいちばん小さい点の集まりが底の辺である。$Q$ は $y$ 座標が $0$ の点 $(x,0)$ を含むので、底の辺の $y$ 座標は $0$、つまり底の辺は $R$ の底辺の上にあり、$(x,0)$ はその底の辺の点である。
段 2(隙間がない).底辺の点 $(x,0)$ はどれも、条件 (iii) からどれかの正方形に含まれ、段 1 からその正方形の底の辺の上にある。よって、底辺に触れる正方形の底の辺を合わせると、底辺全体 $0\le x\le W$ になる。
段 3(重ならない).底辺に触れる 2 つの正方形の底の辺が、長さが正の区間 $c< x< d$ で重なったとする。2 つの正方形はどちらも底辺から上に伸びているので、$c< x< d$、$0< y<\varepsilon$($\varepsilon$ は 2 つの正方形の一辺のうち小さい方)の部分は両方の正方形の内部に入り、条件 (ii) に反する。よって底の辺どうしは端点でしか重ならない。
段 4(並べ方).段 2・3 から、底の辺は底辺を端点以外で重ならない区間に分ける。左端が $0$ の区間から始めて、区間の右端 $p_1$ から次の区間が始まる($p_1$ の少し右の点を含む区間は、段 3 から左端が $p_1$ より左にはなく、段 2 から $p_1$ より右に離れてもいない)。これをくり返すと $0=p_0< p_1<\dots< p_k=W$ の形になる。ほかの 3 つの辺は、長方形を回して底辺にすれば同じである。
ex-sqr-7x5 の図 2 の分割で、底辺に触れる正方形は一辺 $5,1,1$ の 3 個で、$5+1+1=7$ が横の長さに等しい。上の辺に触れるのは $5,2$ で $5+2=7$、左の辺に触れるのは $5$ だけで $5$、右の辺に触れるのは $2,2,1$ で $2+2+1=5$ が縦の長さに等しい。
ex-sqr-6x4 で、一辺 $2$ の正方形では埋まり、一辺 $3$ では埋まらなかった。違いは、$6$ と $4$ がどちらも $2$ で割り切れるかどうかである。
横 $W$、縦 $H$ の長方形について、次が成り立つ($W,H,c$ は正の実数)。
(1) 一辺 $c$ の同じ大きさの正方形に分けられるのは、$\dfrac Wc$ と $\dfrac Hc$ がどちらも正の整数のとき、かつそのときに限る。そのときの個数は $\dfrac Wc\cdot\dfrac Hc$ である。
(2) 同じ大きさの正方形に分けられるのは、辺の比 $\dfrac WH$ が有理数のとき、かつそのときに限る。
$\dfrac{3.5}{2.5}=\dfrac75$ は有理数なので、thm-sqr-equal (2) の証明のとおり $c=\dfrac{3.5}7=0.5$ とおくと、$\dfrac{3.5}{0.5}=7$、$\dfrac{2.5}{0.5}=5$ で、一辺 $0.5$ の正方形 $7\times5=35$ 個に分けられる。一辺 $0.25$ でも $\dfrac{3.5}{0.25}=14$、$\dfrac{2.5}{0.25}=10$ なので、$140$ 個に分けられる。一辺 $0.7$ では $\dfrac{3.5}{0.7}=5$ は整数だが $\dfrac{2.5}{0.7}=\dfrac{25}7$ は整数でないので、分けられない。
$\dfrac{\sqrt2}1=\sqrt2$ は無理数である(無理数の証明)。よって thm-sqr-equal (2) から、この長方形は同じ大きさの正方形には分けられない。一辺 $c$ の正方形に分けられたとすると、$\sqrt2=kc$、$1=lc$ から $\sqrt2=\dfrac kl$ となって、$\sqrt2$ が有理数になってしまう。
ex-sqr-sqrt2 の長方形は、大きさの違う正方形を混ぜてよいとしても、有限個の正方形には分けられない。一般に「長方形が有限個の正方形(大きさは何でもよい)に分けられるのは、辺の比が有理数のとき、かつそのときに限る」ことが知られている。BTB11 の問題 19 の答えは、この定理を Dehn(1903 年)と Brooks・Smith・Stone・Tutte(1940 年)の論文に帰している。この記事では証明しない。
ex-sqr-7x5 の切り取り方を横 $\sqrt2$、縦 $1$ に当てはめると、残る長方形の辺の比はいつまでも無理数のままなので、切り取りは終わらない。1 回切り取ると、辺の比 $x$($x>1$)の長方形は、$x$ から整数 $q$ を引いた $x-q$ を短い方の辺とする長方形になり、辺の比は $x-q$ かその逆数 $\dfrac1{x-q}$ になる。$x$ が無理数なら、$x-q$ も $\dfrac1{x-q}$ も無理数だからである。
大きさがすべて違う正方形で長方形を埋める例を、先に 1 つ見ておく。作り方は ex-sqr-69x61 で説明する。
図 3 は、横 $33$、縦 $32$ の長方形を、一辺
$$
18,\ 15,\ 14,\ 10,\ 9,\ 8,\ 7,\ 4,\ 1
$$
の $9$ 個の正方形に分けたものである(BTB11 の問題 12 の答え)。大きさはすべて違う。面積の和は
$$
18^2+15^2+14^2+10^2+9^2+8^2+7^2+4^2+1^2=324+225+196+100+81+64+49+16+1=1056
$$
で、$33\times32=1056$ と一致する。lem-sqr-border のとおり、底辺に触れる $14,10,9$ の和は $33$、上の辺に触れる $18,15$ の和は $33$、左の辺に触れる $18,14$ の和は $32$、右の辺に触れる $15,8,9$ の和は $32$ である。
いちばん小さい一辺 $1$ の正方形は、長方形の周のどこにも触れていない。そのまわりを、一辺 $7$(上)、$8$(右)、$9$(下)、$10$(左)の 4 つの正方形が囲んでいる。
横 33、縦 32 の長方形を大きさの違う 9 個の正方形に分けた図。いちばん小さい一辺 1 の正方形は内部にある
ex-sqr-33x32 で、いちばん小さい正方形が周に触れていなかったのは偶然ではない。
長方形を、大きさがすべて違う 2 個以上の正方形に分けたとする。このとき、いちばん小さい正方形は長方形の周(4 つの辺)と共通の点をもたない。
方針を先に述べる。いちばん小さい正方形 $S$ が周に触れたとすると、$S$ の両隣には $S$ より大きい正方形(または長方形の辺)が壁のように立ち、$S$ の上に幅 $S$ の「井戸」ができる。井戸に入る正方形は $S$ より小さくなければならず、$S$ がいちばん小さいことに反する。
いちばん小さい正方形を $S$、その一辺を $s$ とし、$S$ が長方形 $R$ の周と共通の点をもつと仮定して矛盾を導く。
段 1(向きをそろえる).長方形を $90^\circ$ ずつ回したり裏返したりしても、正方形分割は正方形分割のままである。そこで、$S$ が底辺と共通の点をもつとしてよい。lem-sqr-border から、$S$ の底の辺は底辺の上にある。$S$ の左下の頂点を $(x_0,0)$ とすると、$S$ は $x_0\le x\le x_0+s$、$0\le y\le s$ の部分である。
段 2(長方形は $S$ より高く、広い).分割は 2 個以上の正方形からなるので、$S$ 以外の正方形 $Q$ がある。$Q$ の一辺を $q$ とすると、大きさがすべて違い $S$ がいちばん小さいので $q>s$ である。$Q$ は $R$ に含まれるので $q\le H$ かつ $q\le W$ である。よって $H>s$、$W>s$ である。
段 3(左右の壁).$S$ の左側を調べる。$x_0=0$ なら、$S$ の左には長方形の左の辺があり、これを 左の壁 とし、その高さを $H$ とする。$x_0>0$ なら、lem-sqr-border から、底辺の区切りで $S$ の底の辺のすぐ左にある底の辺をもつ正方形 $T$ がある。$T$ の右の辺は直線 $x=x_0$ の上にあり、一辺 $t$ は $S$ と違うので $t>s$ である。つまり $T$ は $x_0-t\le x\le x_0$、$0\le y\le t$ の部分で、これを左の壁とし、その高さを $t$ とする。右側も同じで、$x_0+s=W$ なら長方形の右の辺(高さ $H$)、そうでなければ $S$ の底の辺のすぐ右の底の辺をもつ正方形 $U$(一辺 $u>s$、$x_0+s\le x\le x_0+s+u$、$0\le y\le u$)を 右の壁 とする。左右の壁の高さのうち低い方を $m$ とすると、段 2 と $t>s$、$u>s$ から $m>s$ である。
段 4(井戸の中の正方形).$S$ の真上の部分
$$
\Omega:\quad x_0< x< x_0+s,\qquad s< y< m
$$
を考える(図 4・図 5 の黄色の部分)。$m\le H$ なので、$\Omega$ は $R$ に含まれる。正方形の辺は有限個の線分なので、$\Omega$ の中に、どの正方形の辺の上にもない点 $P(p_x,p_y)$ がとれる。条件 (iii) から $P$ はどれかの正方形 $V$ に含まれ、$P$ は $V$ の辺の上にないので $V$ の内部にある。$p_y>s$ なので $P$ は $S$ に含まれず、$V\ne S$ である。$V$ を $\ell\le x\le\ell+v$、$k\le y\le k+v$ とする($v$ は一辺)。$P$ が $V$ の内部にあるので、$\ell< p_x<\ell+v$、$k< p_y< k+v$ である。
段 5($V$ は井戸からはみ出せない).$\ell< x_0$ と仮定する。左の壁が長方形の左の辺($x_0=0$)なら、$\ell<0$ となり $V$ が $R$ からはみ出すので条件 (i) に反する。左の壁が $T$ なら、$x_0-t$ と $\ell$ の大きい方より大きく $x_0$ より小さい $x$ をとると、点 $(x,p_y)$ は
いちばん小さい正方形 S が角にある場合。左は長方形の辺、右は S より大きい正方形 U が壁になり、S の上に幅 s の井戸 Ω ができる
いちばん小さい正方形 S が底辺の途中にある場合。両隣の大きい正方形 T と U が壁になり、S の上に幅 s の井戸 Ω ができる
図 4 は $S$ が長方形の角にある場合、図 5 は底辺の途中にある場合である。どちらの場合も、$S$ の上の井戸 $\Omega$ は幅がちょうど $s$ で、両側の壁は $S$ より高い。井戸を埋める正方形は幅 $s$ 以下でなければならず、$S$ 自身は井戸の下にあるので、$S$ より小さい正方形が必要になる。
この定理から、大きさがすべて違う正方形で長方形を埋めるには、ある程度の個数が必要なことが分かる。
長方形を、大きさがすべて違う 2 個以上の正方形に分けるには、5 個以上の正方形が必要である。
大きさがすべて違う $n$ 個($n\ge2$)の正方形に分けたとし、いちばん小さい正方形 $S$ を $x_0\le x\le x_0+s$、$y_0\le y\le y_0+s$ とする。thm-sqr-smallest から、$S$ は周と共通の点をもたないので、$S$ と周の距離より小さい正の数 $\eta$ をとると、次の 4 点は $R$ の中にある。
$$
L\left(x_0-\eta,\ y_0+\frac s2\right),\quad M\left(x_0+s+\eta,\ y_0+\frac s2\right),\quad D\left(x_0+\frac s2,\ y_0-\eta\right),\quad N\left(x_0+\frac s2,\ y_0+s+\eta\right)
$$
4 点はどれも $S$ の外にあるので、それぞれ $S$ 以外の正方形に含まれる。この 4 点を含む正方形が 4 つとも違うことを示せば、$S$ と合わせて $n\ge5$ となる。
2 点が同じ正方形 $V$ に含まれたとする。$V$ の辺は軸に平行なので、$V$ は 2 点の $x$ 座標の間の $x$ と、$y$ 座標の間の $y$ をもつ点をすべて含む。
実際には 5 個から 8 個でも分けられず、大きさがすべて違う正方形による長方形の分割は 9 個が最小である。Wei26 の文中の一覧では、個数 8 のものは 0 通り、個数 9 のものは 2 通りである。全部ではない 2 個以上の正方形をどう集めても長方形にならないもの(単純なもの)は、個数 10 のものが 6 通り、11 のものが 22 通りある(この一覧は OEIS A002839 を引いたもので、回転・裏返しで重なるものは 1 通りと数える)。この記事では 9 個が最小であることは証明しない。
thm-sqr-smallest から、いちばん小さい正方形は内部にあり、4 つの大きい正方形に囲まれる。そこで、いちばん小さい正方形と、その隣の 1 つの正方形の一辺を文字でおき、隣り合う辺の長さが合うようにほかの正方形の一辺を順に決めていく。最後に長方形の向かい合う辺の長さが等しいという式を解けば、分割が決まる(BTB11 §1.2 の方法)。図はだいたいの形でよく、正方形がゆがんで描かれていてもかまわない。
図 6 の並べ方で、いちばん小さい正方形の一辺を $s$、そのすぐ下の正方形の一辺を $a$ とおく。辺の長さが合うことから、ほかの正方形の一辺が次のように決まる。
(1) $s$ と $a$ の左にある正方形:右の辺が $s$ の左の辺と $a$ の左の辺を合わせたものなので、一辺は $a+s$。
(2) $s$ の右、$a$ の上にある正方形:$a$ の上の辺が、$s$ の底の辺とこの正方形の底の辺を合わせたものなので、一辺は $a-s$。
(3) $a+s$ と $a$ の下にある正方形:上の辺が $a+s$ と $a$ の底の辺を合わせたものなので、一辺は $(a+s)+a=2a+s$。
(4) 左下の正方形:右の辺が $a+s$ と $2a+s$ の左の辺を合わせたものなので、一辺は $(a+s)+(2a+s)=3a+2s$。
(5) 左上の正方形:底の辺が $3a+2s$、$a+s$、$s$ の上の辺を合わせたものなので、一辺は $(3a+2s)+(a+s)+s=4a+4s$。
(6) 右下の正方形:左の辺が $a-s$、$a$、$2a+s$ の右の辺を合わせたものなので、一辺は $(a-s)+a+(2a+s)=4a$。
(7) 右上の正方形:底の辺が $a-s$ と $4a$ の上の辺を合わせたものなので、一辺は $(a-s)+4a=5a-s$。
長方形の左の辺は $4a+4s$ と $3a+2s$、右の辺は $5a-s$ と $4a$ でできているので、左右の辺の長さが等しいことから
$$
(4a+4s)+(3a+2s)=(5a-s)+4a,\qquad 7a+6s=9a-s,\qquad \boxed{2a=7s}
$$
である。いちばん小さい整数の解は $s=2$、$a=7$ で、9 個の正方形の一辺は
$$
s=2,\ a-s=5,\ a=7,\ a+s=9,\ 2a+s=16,\ 3a+2s=25,\ 4a=28,\ 5a-s=33,\ 4a+4s=36
$$
となり、すべて違う。長方形は横 $(4a+4s)+(5a-s)=9a+3s=69$、縦 $7a+6s=61$ である。上の辺 $36+33=69$ と下の辺 $25+16+28=69$ も等しく、面積の和は
$$
2^2+5^2+7^2+9^2+16^2+25^2+28^2+33^2+36^2=4209=69\times61
$$
で一致する。
横 69、縦 61 の長方形の 9 個の正方形。一辺を文字 a と s で書き、かっこの中は a が 7、s が 2 のときの値
ex-sqr-69x61 の $s$ と $a$ の関係 $2a=7s$ を満たせば、$s=2k$、$a=7k$($k>0$)のどれでも同じ形の分割になる。形は同じで、大きさだけが $k$ 倍になる。
図 3 で、いちばん小さい正方形の一辺を $s$、そのすぐ上の正方形(図 3 の $7$)の一辺を $a$ とおく。$s$ の右の正方形(図 3 の $8$)は、$a$ の右の辺と $s$ の右の辺を合わせた長さなので一辺 $a+s$、$s$ の下の正方形(図 3 の $9$)は、上の辺が $s$ と $a+s$ の底の辺を合わせたものなので一辺 $a+2s$、$s$ の左の正方形(図 3 の $10$)は、右の辺が $s$ と $a+2s$ の左の辺を合わせたものなので一辺 $a+3s$、その上の正方形(図 3 の $4$)は、$a+3s$ の上の辺のうち、$a$ の底の辺と接していない部分が底の辺になる。$a$ の底の辺のうち $a+3s$ と接するのは、$s$ の上に乗っていない長さ $a-s$ の部分なので、一辺は $(a+3s)-(a-s)=4s$。左下(図 3 の $14$)は右の辺が $4s$ と $a+3s$ の和で $a+7s$、右上(図 3 の $15$)は底の辺が $a$ と $a+s$ の和で $2a+s$、左上(図 3 の $18$)は底の辺が $a+7s$ と $4s$ の和で $a+11s$ である。左の辺 $(a+11s)+(a+7s)=2a+18s$ と右の辺 $(2a+s)+(a+s)+(a+2s)=4a+4s$ が等しいことから $2a=14s$、$a=7s$ である。$s=1$ とすると $a=7$ で、一辺は $1,7,8,9,10,4,14,15,18$ になり、図 3 と一致する。横は $(a+11s)+(2a+s)=33$、縦は $2a+18s=32$ である。
| 横 33、縦 32 | 横 69、縦 61 | |
|---|---|---|
| 正方形の一辺 | $18,15,14,10,9,8,7,4,1$ | $36,33,28,25,16,9,7,5,2$ |
| 面積の和 | $1056=33\times32$ | $4209=69\times61$ |
| いちばん小さい正方形 | $1$ | $2$ |
| それを囲む 4 つ | $7,8,9,10$ | $5,7,9,36$ |
| 文字でおいたときの式 | $a=7s$ | $2a=7s$ |
| 上の段から読んだ並び | $(18,15)(7,8)(14,4)(10,1)(9)$ | $(36,33)(5,28)(25,9,2)(7)(16)$ |
最後の行の読み方は 正方形を異なる正方形に分ける で説明する。
thm-sqr-smallest の条件を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。thm-sqr-equal の条件を外した例も並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 大きさがすべて違う | 横 $2$、縦 $1$ を一辺 $1$ の $2$ 個に分ける | いちばん小さい正方形が周に触れない |
| 2 個以上 | 正方形を、その正方形 $1$ 個に分ける | いちばん小さい正方形が周に触れない |
| 外形が長方形 | 一辺 $2$ と $1$ の正方形を、底をそろえて並べた図形 | いちばん小さい正方形が周に触れない |
| 辺の比が有理数 | 横 $\sqrt2$、縦 $1$ の長方形 | 同じ大きさの正方形に分けられる |
横 $2$、縦 $1$ の長方形は、一辺 $1$ の正方形 $2$ 個に分けられる(thm-sqr-equal (1) で $c=1$)。いちばん小さい正方形は $2$ 個とも一辺 $1$ で、どちらも長方形の周に触れている。thm-sqr-smallest の証明の段 3 で、隣の正方形 $T$ の一辺が $s$ より大きいと言えたのは、大きさがすべて違うからである。ここでは隣が同じ大きさで、井戸ができない。
一辺 $1$ の正方形は、それ自身 $1$ 個の正方形分割をもつ。大きさがすべて違うという条件は(比べる相手がないので)満たしているが、ただ 1 つの正方形が周全体に触れている。thm-sqr-smallest の証明の段 2 で $H>s$ を示すのに、$S$ 以外の正方形があることを使った。
一辺 $2$ の正方形 $0\le x\le2$、$0\le y\le2$ と、一辺 $1$ の正方形 $2\le x\le3$、$0\le y\le1$ を合わせた図形(図 7)は、大きさの違う 2 個の正方形に分かれている。いちばん小さい一辺 $1$ の正方形は、図形の周に触れている。一辺 $1$ の正方形の上には壁が左側(一辺 $2$ の正方形)にしかなく、右側が開いているので、井戸ができない。
一辺 2 と一辺 1 の正方形を底をそろえて並べた図形。小さい方の正方形が周に触れている
ex-sqr-sqrt2 のとおり、横 $\sqrt2$、縦 $1$ の長方形は同じ大きさの正方形に分けられない。thm-sqr-equal (2) の「辺の比が有理数」を外すと、結論が成り立たない。
大きさがすべて違う正方形で正方形そのものを埋める問題に取り組んだ Brooks・Smith・Stone・Tutte の 4 人は、この問題と、グラフ理論(平面グラフ)や電気回路との深いつながりを見つけた(BTB11 §1.5.1)。ex-sqr-69x61 の「文字でおく方法」は、BTB11 §1.2 の問題 9 に引かれた Tutte の言葉でも、完全長方形を作る方法として説明されている。
BTB11 §1.2.2 は、分割と電気回路の意外な関係が Stein の本で説明されていて、その関係から「長方形がどんな正方形(大きさは何でもよい)にでも分けられるなら、同じ大きさの正方形にも分けられる」という定理が導かれることを紹介している。thm-sqr-equal (2) と合わせると、長方形が正方形に分けられるのは辺の比が有理数のとき、かつそのときに限る(rem-sqr-dehn。この記事では証明しない)。
ex-sqr-7x5 の切り取り方で出てくる商 $1,2,2$ は、$\dfrac75=1+\dfrac1{2+\dfrac12}$ という 連分数 の展開の数でもある。辺の比が有理数なら連分数の展開は有限で終わり、切り取りも有限回で終わる。
横 $4.2$、縦 $1.8$ の長方形を、同じ大きさの正方形に分けたい。(1) 分けられることを示せ。(2) 使える正方形の一辺のうち、いちばん大きいものと、そのときの個数を求めよ。
(1) $\dfrac{4.2}{1.8}=\dfrac{42}{18}=\dfrac73$ は有理数なので、thm-sqr-equal (2) から分けられる。
(2) thm-sqr-equal (1) から、一辺 $c$ は $\dfrac{4.2}c=k$、$\dfrac{1.8}c=l$ がどちらも正の整数になるものである。$\dfrac kl=\dfrac{4.2}{1.8}=\dfrac73$ なので、$k=7j$、$l=3j$($j$ は正の整数)と書け、$c=\dfrac{4.2}{7j}=\dfrac{0.6}j$ である。いちばん大きいのは $j=1$ の $c=0.6$ で、個数は $7\times3=21$ 個である。
長方形を、大きさがすべて違う正方形に分けたとする。2 番目に小さい正方形も、長方形の周と共通の点をもたないことを示せ(BTB11 の問題 17)。
cor-sqr-five から正方形は 5 個以上ある。いちばん小さい正方形を $S$(一辺 $s$)、2 番目に小さい正方形を $S'$(一辺 $s'$、$s'>s$)とし、$S'$ が周に触れたとする。thm-sqr-smallest の証明の段 1 のように向きをそろえ、$S'$ を $x_0\le x\le x_0+s'$、$0\le y\le s'$ とする。
thm-sqr-smallest から $S$ は周に触れないので、$S'$ の底の辺の両隣の底の辺をもつ正方形 $T$、$U$ は $S$ ではなく、一辺は $s'$ より大きい。長方形の高さも、$s'$ より大きい正方形(5 個以上あるので存在する)の一辺以上なので $s'$ より大きい。よって証明の段 3 と同じ壁ができ、$S'$ の上に井戸 $\Omega$(幅 $s'$)ができる。段 4・5 と同じ議論で、$\Omega$ の中の、どの正方形の辺の上にもない点 $P$ を内部に含む正方形 $V$ は、$V\ne S'$ で一辺が $s'$ より小さい。$s'$ より小さい正方形は $S$ しかないので $V=S$ である。
そこで、$0<\delta<\dfrac{s'-s}2$ となる $\delta$ をとる。$\Omega$ の中で、$x$ 座標が $x_0$ と $x_0+\delta$ の間にあり、どの辺の上にもない点 $P_1$ と、$x$ 座標が $x_0+s'-\delta$ と $x_0+s'$ の間にあり、どの辺の上にもない点 $P_2$ をとる。どちらも $S$ に含まれるので、$S$ の横の幅は $(x_0+s'-\delta)-(x_0+\delta)=s'-2\delta$ 以上である。ところが $s'-2\delta>s$ なので、一辺 $s$ の $S$ に矛盾する。
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