補集合

概要

補集合(complement)とは、集合論において、ある定められた全体集合の中で指定された集合に含まれない要素全体からなる集合のことである。一般に集合 $A$ の補集合は $A^c$ や $\bar{A}$ などと表記され、論理学における「否定」に対応する役割を持つ。広義には、ある集合から別の集合の要素を除いた差集合(相対補集合)を指すこともあるが、単に補集合と呼ぶ場合は全体集合に対する絶対補集合を指すことが一般的であり、De Morganの法則をはじめとする集合演算の双対性において中心的な役割を果たす。

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定義

集合を扱う際、考察の対象となる領域を限定した全体集合 $U$ を固定し、その部分集合について議論を行うことが一般的である。

絶対補集合

全体集合 $U$ の部分集合 $A$ に対して、$U$ の要素であって $A$ に属さないもの全体の集合を、$A$補集合(absolute complement)といい、以下の記号などで表す。
$$A^c = \{ x \in U \mid x \notin A \}$$
記法としては $A^c$ のほか、$\bar{A}, A', \complement_U A, U \setminus A$ などが用いられる。

この定義は、直感的には「$A$ 以外のものすべて」という意味を持つ。しかし、何をもって「すべて」とするかが文脈に依存するため、$U$ の設定が不可欠である。
また、全体集合を前提とせず、2つの集合間の関係として定義される概念も存在する。

相対補集合(差集合)

集合 $B$ から集合 $A$ に属する要素を取り除いた集合を、$B$ に対する $A$相対補集合(relative complement)または差集合といい、以下のように定義する。
$$B \setminus A = \{ x \in B \mid x \notin A \}$$
これは $B - A$ と表記されることも多い。

絶対補集合は、全体集合 $U$ に対する相対補集合 $U \setminus A$ とみなすことができる。

基本的性質

補集合は、集合演算において代数的な性質(ブール代数)の基礎をなす重要な操作である。

補集合の性質

全体集合 $U$ の部分集合 $A$ について、以下が成立する。

  1. 補集合の補集合(二重否定):
    $$(A^c)^c = A$$
  2. 全体と空集合:
    $$U^c = \emptyset, \quad \emptyset^c = U$$
  3. 排中律と矛盾律:
    $$A \cup A^c = U, \quad A \cap A^c = \emptyset$$

これらの性質は、論理学における否定演算 $\neg P$ と極めて類似しており、集合論と論理学の対応関係(集合の包含関係と論理の含意など)を支えている。

De Morganの法則

補集合に関する最も強力かつ頻繁に使用される定理として、De Morganの法則が挙げられる。これは、和集合(または共通部分)の補集合を取る操作が、それぞれの補集合の共通部分(または和集合)へと反転する現象を記述したものである。

De Morganの法則

$A, B \subset U$ に対して以下が成り立つ。

  1. $(A \cup B)^c = A^c \cap B^c$
  2. $(A \cap B)^c = A^c \cup B^c$
    これは3つ以上の集合や、一般に任意の族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda \in \Lambda}$ に対しても拡張される:
    $$\left( \bigcup_{\lambda \in \Lambda} A_{\lambda} \right)^c = \bigcap_{\lambda \in \Lambda} A_{\lambda}^c, \quad \left( \bigcap_{\lambda \in \Lambda} A_{\lambda} \right)^c = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} A_{\lambda}^c$$

この法則により、複雑な集合演算の式を簡略化したり、「かつ」と「または」の条件を入れ替えて否定命題を作ったりすることが容易になる。

具体例

補集合の概念は、数体系や確率論など、数学の至る所で現れる。

数体系における例
  • 偶数と奇数:
    全体集合を整数全体 $U = \mathbb{Z}$ とし、$A$ を偶数全体の集合とすると、補集合 $A^c$ は奇数全体の集合となる。
  • 有理数と無理数:
    全体集合を実数全体 $U = \mathbb{R}$ とし、$Q$ を有理数全体の集合とすると、$Q^c$ は無理数全体の集合となる。
  • 不等式の範囲:
    $U = \mathbb{R}$ において、$x \ge 5$ を満たす集合 $A = [5, \infty)$ の補集合は、$x < 5$ を満たす集合 $A^c = (-\infty, 5)$ である。

確率論においては、補集合は「余事象」として解釈される。

確率論における余事象

ある試行における全事象を $\Omega$、ある事象を $A \subset \Omega$ とする。
事象 $A$ が起こらないという事象は $A^c$(または $\bar{A}$)で表され、その確率は以下で計算できる。
$$P(A^c) = 1 - P(A)$$
これは、「少なくとも1回当たる確率」などを計算する際に、直接計算するよりも「1回も当たらない確率(補集合)」を計算して全体から引く方が容易である場合によく用いられる。

注意点

初等的な数学では全体集合 $U$ が暗黙の了解として省略されることが多いが、厳密な議論では $U$ の明示が必須である。

全体集合の重要性

例えば「$x < 3$ の補集合」と言った場合、

  • $U = \mathbb{N}$(自然数)ならば $\{3, 4, 5, \dots\}$
  • $U = \mathbb{R}$(実数)ならば $[3, \infty)$
    となり、結果が全く異なる。

関連項目