完備束

同義語:complete lattice

概要

完備束(complete lattice)とは、空集合や無限集合を含むすべての部分集合が上限と下限をもつ半順序集合のことであり、冪集合、拡張実数、群の部分群全体、位相空間の閉集合全体などがその例である。共通部分で閉じた部分集合族(閉包系)は完備束をなし、閉包系と閉包作用素は一対一に対応し、すべての完備束は単項下集合のなす閉包系と順序同型である。完備束上の単調写像は不動点をもち(Knaster–Tarski)、逆にすべての単調写像が不動点をもつ束は完備束である(Davis)。完備でない束では、上限をもたない増加列とその上界の中の減少列のあいだの隙間を使って、不動点をもたない単調写像が作れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 束, 上限と下限, 単調写像

完備束とは、どんな部分集合をとってもその上限と下限が存在する半順序集合である。束では二元(したがって有限個の元)の上限と下限だけが要求されるのに対し、完備束では無限個の元の族や空集合についても上限と下限が求められる。集合 $X$ の部分集合全体、群の部分群全体、位相空間の閉集合全体のように、「条件を満たす部分集合の全体」を包含で並べたものの多くは完備束になる。
完備束が重要なのは、その上の単調写像が必ず不動点をもつからである(Knaster–Tarskiの定理)。しかもこの性質は完備束を特徴づける。束であって、その上のすべての単調写像が不動点をもつなら、その束は完備である。この記事では、完備束の例、共通部分で閉じた部分集合族(閉包系)と閉包作用素による構成、すべての完備束がその形で表されること、そして不動点による特徴づけを、両方向とも証明する。最小不動点と最大不動点の公式、不動点全体が完備束になることは Knaster–Tarskiの定理 が扱う。

定義

完備束

半順序集合 $(L,\le)$ が完備束(complete lattice)であるとは、$L$ の任意の部分集合 $S$(空集合と $L$ 自身を含む)が上限 $\bigvee S$ と下限 $\bigwedge S$ をもつことをいう。

空集合のどの元も上界の条件を空虚に満たすので、$\bigvee\emptyset$ は $L$ の最小元、$\bigwedge\emptyset$ は $L$ の最大元である。これらを $\bot$、$\top$ と書く。特に完備束は空でなく、最小元と最大元をもつ束(有界束)である。定義は 束 の定義「分配束・完備束・有界束・部分束」と同じである(BS12 I §4 Definition 4.1、p. 14)。
上限と下限の片方だけを確かめれば足りる。半順序集合 $L$ の任意の部分集合が上限をもてば、$S$ の下界全体の上限が $S$ の下限になるので、$L$ は完備束である(Knaster–Tarskiの定理 の命題「上限だけからの完備性」、BS12 I §4 Theorem 4.2、p. 14)。双対に、任意の部分集合が下限をもてば完備束である。$\bigwedge\emptyset=\top$ だけは空でない部分集合から得られないので、「最大元をもち、空でない任意の部分集合が下限をもつ」と言い換えることもできる。

例

完備束の例
  1. 冪集合:集合 $X$ の部分集合全体 $\mathcal{P}(X)$ は包含について完備束で、上限は合併、下限は共通部分である(空な族の共通部分は $X$ と約束する)。
  2. 拡張実数と閉区間:$[-\infty,\infty]=\mathbb{R}\cup\{-\infty,\infty\}$ は通常の順序で完備束である。$S\subseteq[-\infty,\infty]$ について、$\infty\in S$ か $S\cap\mathbb{R}$ が上に有界でなければ上限は $\infty$、そうでなく $S\cap\mathbb{R}\neq\emptyset$ なら実数の完備性による $\mathbb{R}$ での上限が上限であり、$S\subseteq\{-\infty\}$ なら上限は $-\infty$ である。上限だけで足りるので完備束である。同じ理由で閉区間 $[a,b]$ も完備束である。
  3. 整除の順序:$\mathbb{N}=\{0,1,2,\ldots\}$ に $m\mid n$ で順序を入れる。どの $n$ も $0$ を割り切るので $0$ が最大元、$1$ が最小元である。$S\subseteq\mathbb{N}$ に対し、$S$ が生成する $\mathbb{Z}$ のイデアルを $d\mathbb{Z}$($d\ge0$)とすると、$d$ は $S$ の各元を割り切り、$d$ は $S$ の有限個の元の整数係数の 1 次結合なので $S$ の公約数はすべて $d$ を割り切る。よって $d=\gcd S$ が $S$ の下限であり($S=\emptyset$ なら $d=0=\top$)、$(\mathbb{N},\mid)$ は完備束である。無限個の素数全体の上限は、それらすべての公倍数が $0$ だけなので $0$ である。
反例:完備でない束
  1. 実数全体 $\mathbb{R}$ は束だが、$\mathbb{R}$ 自身が上限をもたない(最大元がない)。
  2. $L=\mathbb{Q}\cap[0,1]$ は最小元 $0$ と最大元 $1$ をもつ全順序集合(したがって束)だが、$S=\{q\in L\mid q^2< 1/2\}$ は $L$ に上限をもたない。上界の集合は $\{q\in L\mid q^2> 1/2\}$ であり、これに最小元はない($1/\sqrt2$ は無理数である)。
  3. 正の整数全体に整除の順序を入れたもの($0$ を除いたもの)は束だが、素数全体の集合が上界をもたないので完備束でない。例 3 の $0$ は、この上限を補う元として働いている。
  4. 自然数の有限部分集合と余有限部分集合の全体は有界束だが完備束でない(束 の例「部分束でも完備性は失われる」)。

閉包系と閉包作用素

部分群全体や閉集合全体が完備束になる理由は共通している。条件を満たす部分集合の任意個の共通部分が、また条件を満たすことである。

閉包系

集合 $X$ の部分集合族 $\mathcal{C}\subseteq\mathcal{P}(X)$ が閉包系(closure system、Moore 族)であるとは、$\mathcal{C}$ の任意の部分族 $\mathcal{A}$ について $\bigcap\mathcal{A}\in\mathcal{C}$ となることをいう。ここで空な部分族の共通部分は $X$ と約束するので、特に $X\in\mathcal{C}$ である。

閉包系は完備束

閉包系 $\mathcal{C}\subseteq\mathcal{P}(X)$ は包含について完備束であり、部分族 $\mathcal{A}\subseteq\mathcal{C}$ の下限と上限は
$$ \bigwedge\mathcal{A}=\bigcap\mathcal{A},\qquad\bigvee\mathcal{A}=\bigcap\Bigl\{M\in\mathcal{C}\ \Bigm|\ \bigcup\mathcal{A}\subseteq M\Bigr\} $$
で与えられる。

下限。 $D:=\bigcap\mathcal{A}$ は閉包系の定義により $\mathcal{C}$ に属し、$\mathcal{A}$ の各元に含まれるので下界である。$M\in\mathcal{C}$ が $\mathcal{A}$ の下界なら、$M$ は $\mathcal{A}$ の各元に含まれるので $M\subseteq D$ である。よって $D$ は最大の下界である。
上限。 $N$ を右辺とする。$N$ は $\mathcal{C}$ の部分族の共通部分なので $\mathcal{C}$ に属する(部分族が空なら $N=X\in\mathcal{C}$)。共通部分をとる各 $M$ が $\bigcup\mathcal{A}$ を含むので $\bigcup\mathcal{A}\subseteq N$、すなわち $N$ は $\mathcal{A}$ の上界である。$M\in\mathcal{C}$ が $\mathcal{A}$ の上界なら $\bigcup\mathcal{A}\subseteq M$ なので、$M$ は共通部分をとる族に属し、$N\subseteq M$ である。よって $N$ は最小の上界である。$\square$

閉包系の上限は合併そのものではなく、合併を含む最小の元である。この「最小の元」をとる操作を写像として取り出したものが閉包作用素である。

閉包作用素

集合 $X$ 上の写像 $C\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が閉包作用素(closure operator)であるとは、任意の $A,B\subseteq X$ について次を満たすことをいう(BS12 I §5 Definition 5.1、p. 18)。

  1. $A\subseteq C(A)$(拡大性)。
  2. $C(C(A))=C(A)$(冪等性)。
  3. $A\subseteq B$ ならば $C(A)\subseteq C(B)$(単調性)。
    $C(A)=A$ となる $A$ を $C$ の閉集合という。
閉包作用素と閉包系の対応

集合 $X$ について、次が成り立つ。

  1. $C$ が閉包作用素なら、その閉集合全体 $\mathcal{C}_C$ は閉包系であり、各 $A\subseteq X$ について $C(A)$ は $A$ を含む最小の閉集合である。
  2. $\mathcal{C}$ が閉包系なら、$C_{\mathcal{C}}(A):=\bigcap\{M\in\mathcal{C}\mid A\subseteq M\}$ は閉包作用素であり、その閉集合全体はちょうど $\mathcal{C}$ である。
  3. $C\mapsto\mathcal{C}_C$ と $\mathcal{C}\mapsto C_{\mathcal{C}}$ は、$X$ 上の閉包作用素の全体と閉包系の全体の間の互いに逆な全単射である。

1. $\mathcal{A}\subseteq\mathcal{C}_C$ とし $D:=\bigcap\mathcal{A}$ とおく。各 $A\in\mathcal{A}$ について $D\subseteq A$ なので、単調性から $C(D)\subseteq C(A)=A$ であり、$C(D)\subseteq D$ となる。拡大性から $D\subseteq C(D)$ なので $C(D)=D$、すなわち $D\in\mathcal{C}_C$ である($\mathcal{A}=\emptyset$ のときも $D=X$ で、$X\subseteq C(X)\subseteq X$ から成り立つ)。次に、冪等性から $C(A)$ は閉集合で、拡大性から $A$ を含む。$M$ が $A$ を含む閉集合なら、単調性から $C(A)\subseteq C(M)=M$ である。よって $C(A)$ は $A$ を含む最小の閉集合である。
2. $C:=C_{\mathcal{C}}$ と書く。$C(A)$ は $\mathcal{C}$ の部分族の共通部分なので $\mathcal{C}$ に属し、共通部分をとる各元が $A$ を含むので $A\subseteq C(A)$ である。$A\subseteq B$ なら、$B$ を含む $M\in\mathcal{C}$ は $A$ も含むので、$C(B)$ の共通部分をとる族は $C(A)$ の族に含まれ、$C(A)\subseteq C(B)$ である。$C(A)\in\mathcal{C}$ は $C(A)$ を含むので、$C(C(A))\subseteq C(A)$ であり、拡大性と合わせて冪等性が従う。閉集合については、$M\in\mathcal{C}$ なら $M$ 自身が共通部分をとる族に属するので $C(M)\subseteq M$、拡大性から $C(M)=M$ である。逆に $C(A)=A$ なら $A=C(A)\in\mathcal{C}$ である。
3. 2 は $\mathcal{C}_{C_{\mathcal{C}}}=\mathcal{C}$ を述べている。1 から、閉包作用素 $C$ について $C(A)$ は $A$ を含む最小の閉集合であり、最小元はそれを含む族の共通部分に等しいので $C(A)=C_{\mathcal{C}_C}(A)$ である。$\square$

thm-cl-moore と合わせると、閉包作用素 $C$ の閉集合全体は完備束で、上限は $\bigvee_iA_i=C\bigl(\bigcup_iA_i\bigr)$、下限は共通部分である(BS12 I §5 Theorem 5.2、p. 18)。単調写像 の Galois 接続 $f\dashv g$ から作る $g\circ f$ も閉包作用素の性質をもつ。

閉包系と閉包作用素の例
  1. 群 $G$ の部分群全体は閉包系で、閉包作用素は「$A$ が生成する部分群」である。二つの部分群 $H,K$ の上限は $H\cup K$ ではなく、$H\cup K$ が生成する部分群である。環のイデアル全体、ベクトル空間の部分空間全体も同様である。
  2. 位相空間の閉集合全体は閉包系で、閉包作用素は閉包である。$\mathbb{R}^n$ の凸集合全体も閉包系で、閉包作用素は凸包である。
  3. 集合 $A$ 上の同値関係全体は $A\times A$ の部分集合として閉包系であり、完備束である(BS12 I §4 Theorem 4.5、p. 15)。上限は合併を含む最小の同値関係である。
  4. 位相空間の開集合全体も完備束であるが(BS12 I §4 の例 (2)、p. 15)、閉包系ではない。上限は合併でよいが、下限は共通部分の内部になる。$\mathbb{R}$ の開区間 $(-1/n,1/n)$($n\ge1$)の共通部分は $\{0\}$ で開集合でなく、開集合全体の中での下限はその内部 $\emptyset$ である。

閉包系は完備束の例を作るだけでなく、すべての完備束を表す。

完備束は閉包系として表される

$L$ を完備束とし、$x\in L$ に対し ${\downarrow}x:=\{y\in L\mid y\le x\}$ とおく。このとき $\mathcal{D}:=\{{\downarrow}x\mid x\in L\}$ は $L$ 上の閉包系であり、$x\mapsto{\downarrow}x$ は $L$ から $(\mathcal{D},\subseteq)$ への順序同型である。対応する閉包作用素は $C(A)={\downarrow}\bigl(\bigvee A\bigr)$ である(BS12 I §5 Theorem 5.3、p. 19)。

$L$ の元の族 $(x_i)_{i\in I}$ について、$y\le x_i$ がすべての $i$ で成り立つことと、$y\le\bigwedge_ix_i$ は同値である。よって $\bigcap_i{\downarrow}x_i={\downarrow}\bigl(\bigwedge_ix_i\bigr)\in\mathcal{D}$ であり、$I=\emptyset$ のときも $\bigcap\emptyset=L={\downarrow}\top$ となる。したがって $\mathcal{D}$ は閉包系である。
$x\le y$ なら推移律から ${\downarrow}x\subseteq{\downarrow}y$ であり、逆に ${\downarrow}x\subseteq{\downarrow}y$ なら $x\in{\downarrow}x$ から $x\le y$ である。よって $x\mapsto{\downarrow}x$ は順序埋め込みであり、$\mathcal{D}$ の定義から全射なので順序同型である。最後に、$A\subseteq L$ を含む $\mathcal{D}$ の元 ${\downarrow}x$ は、$A$ の各元が $x$ 以下であること、すなわち $\bigvee A\le x$ と同値なので、その最小のものは ${\downarrow}\bigvee A$ である。thm-cl-correspondence の 2 から $C(A)={\downarrow}\bigvee A$ となる。$\square$

したがって、順序同型を除けば、完備束とは閉包系のことである。

不動点による特徴づけ

完備束 $L$ 上の単調写像 $f\colon L\to L$ は不動点をもつ。これが Knaster–Tarski の定理の存在の部分である。Tarski はその逆を問い、Davis が肯定的に答えた(Dav55 §1、p. 311)。以下、選択公理を含む ZFC公理系 で議論する。

不動点による完備性の特徴づけ

($\mathsf{ZFC}$)束 $L$ について、次は同値である。

  1. $L$ は完備束である。
  2. $L$ から $L$ への任意の単調写像は不動点をもつ。
    1 ⇒ 2 は Tar55 Theorem 1(pp. 286–287)、2 ⇒ 1 は Dav55 Theorem 2(p. 313)である。

2 ⇒ 1 の証明では、完備でない束の中に、上限をもたない増加列と、その上界の中を下っていく減少列の組を作る。二つの列のあいだに元が一つもない(隙間がある)ことが要点である。

上限をもたない整列した増加列

($\mathsf{ZFC}$)束 $L$ が完備束でなければ、順序数 $\lambda$ と、$L$ の元の族 $(t_\alpha)_{\alpha< \lambda}$ で、$\alpha< \beta$ なら $t_\alpha\le t_\beta$ を満たし、$\{t_\alpha\mid\alpha< \lambda\}$ が $L$ に上限をもたないものが存在する($\lambda=0$ でもよく、そのとき $L$ は最小元をもたない)。

任意の部分集合が上限をもてば $L$ は完備束なので(Knaster–Tarskiの定理 の命題「上限だけからの完備性」)、上限をもたない部分集合 $S$ がある。整列可能定理により $S=\{s_\gamma\mid\gamma< \kappa\}$($\kappa$ は順序数)と番号を付け、$\alpha\le\kappa$ に対し $S_\alpha:=\{s_\gamma\mid\gamma< \alpha\}$ とおく。$S_\kappa=S$ は上限をもたないので、上限をもたない $S_\alpha$ を与える最小の $\alpha$ がある。それを $\lambda$ とする。
$\lambda$ は後続順序数でない。実際 $\lambda=\beta+1$ なら、$S_\beta$ は上限 $t$ をもち、$u$ が $S_{\beta+1}=S_\beta\cup\{s_\beta\}$ の上界であることは $t\le u$ かつ $s_\beta\le u$、すなわち $t\vee s_\beta\le u$ と同値なので、$t\vee s_\beta$ が $S_{\beta+1}$ の上限になって $\lambda$ の選び方に反する。
$\alpha< \lambda$ について $t_\alpha:=\bigvee S_\alpha$ とおくと、$\alpha< \beta$ なら $S_\alpha\subseteq S_\beta$ なので $t_\alpha\le t_\beta$ である。$\{t_\alpha\}_{\alpha< \lambda}$ の上界全体が $S_\lambda$ の上界全体と一致することを示す。$u$ が各 $t_\alpha$ 以上なら、$\gamma< \lambda$ について $\lambda$ が後続順序数でないことから $\gamma+1< \lambda$ であり、$s_\gamma\le t_{\gamma+1}\le u$ となる。逆に $u$ が $S_\lambda$ の上界なら、各 $S_\alpha$ の上界なので $t_\alpha\le u$ である。上界の集合が同じなので上限の有無も同じであり、$S_\lambda$ が上限をもたないことから $\{t_\alpha\}$ も上限をもたない。$\lambda=0$ のときは族が空で、空集合が上限(最小元)をもたないことを意味する。$\square$

上界の中の減少列と隙間

($\mathsf{ZFC}$)束 $L$ の族 $(t_\alpha)_{\alpha< \lambda}$ が lem-cl-increasing-family の性質をもつとし、その上界全体を $U$ とする。このとき順序数 $\mu$ と、$U$ の元の族 $(d_\beta)_{\beta< \mu}$ で、$\beta< \beta'$ なら $d_{\beta'}\le d_\beta$ を満たし、すべての $\beta< \mu$ について $x\le d_\beta$ となる $x\in U$ が存在しないものがある。

$U$ について二つのことを確かめる。(a) $u,v\in U$ なら、各 $t_\alpha$ は $u$ と $v$ の下界なので $t_\alpha\le u\wedge v$ であり、$u\wedge v\in U$ である。(b) $U$ は最小元をもたない。最小元があれば、それは最小の上界、すなわち上限になってしまう。
$L$ の整列順序 $\lhd$ を一つ固定する。超限再帰で、次の手順を続けられる限り $d_\beta$ を定める。$(d_\gamma)_{\gamma< \beta}$ が定まったとき、$X_\beta:=\{x\in U\mid\text{すべての }\gamma< \beta\text{ で }x\le d_\gamma\}$ とおく。$X_\beta=\emptyset$ なら止めて $\mu:=\beta$ とする。$X_\beta\neq\emptyset$ なら、その $\lhd$ に関する最小元を $x_\beta$ とする。(b) により $x_\beta$ は $U$ の最小元でないので、$x_\beta\not\le u$ となる $u\in U$ があり、そのうち $\lhd$ に関して最小のものを $u_\beta$ とする。そして $d_\beta:=x_\beta\wedge u_\beta$ とおく。
(a) により $d_\beta\in U$ であり、$d_\beta\le x_\beta\le d_\gamma$($\gamma< \beta$)なので族は減少する。また $d_\beta\le u_\beta$ かつ $x_\beta\not\le u_\beta$ なので $d_\beta\neq x_\beta$、すなわち $d_\beta< x_\beta$ である。$\beta< \beta'$ で両方が定まれば、$x_{\beta'}\in X_{\beta'}$ から $x_{\beta'}\le d_\beta< x_\beta$ となるので $x_{\beta'}\neq x_\beta$ である。したがって $\beta\mapsto x_\beta$ は単射である。
$\mathcal{P}(L)$ の整列順序の順序型を $\theta$ とすると、Cantorの定理により $\theta$ から $L$ への単射はない。よって手順は $\theta$ に達する前に止まり、ある $\mu< \theta$ で $X_\mu=\emptyset$ となる。これは主張の性質そのものである($U=\emptyset$ なら $\mu=0$ で止まる)。$\square$

特徴づけの両方向

1 ⇒ 2. $L$ を完備束、$f$ を単調写像とし、$P:=\{x\in L\mid f(x)\le x\}$、$p:=\bigwedge P$ とおく。$x\in P$ なら $p\le x$ なので $f(p)\le f(x)\le x$ であり、$f(p)$ は $P$ の下界である。よって $f(p)\le p$、すなわち $p\in P$ である。単調性から $f(f(p))\le f(p)$ なので $f(p)\in P$ であり、$p\le f(p)$ となる。反対称律から $f(p)=p$ である。
2 ⇒ 1. 対偶を示す。$L$ が完備束でないとし、lem-cl-increasing-family の族 $(t_\alpha)_{\alpha< \lambda}$、その上界全体 $U$、lem-cl-gap の族 $(d_\beta)_{\beta< \mu}$ をとる。$x\in L$ に対し $f(x)$ を次のように定める。

  • $x\notin U$ のとき:$A(x):=\{\alpha< \lambda\mid t_\alpha\not\le x\}$ は空でない。その最小元を $\alpha(x)$ とし、$f(x):=t_{\alpha(x)}$ とおく。
  • $x\in U$ のとき:lem-cl-gap により $B(x):=\{\beta< \mu\mid x\not\le d_\beta\}$ は空でない。その最小元を $\beta(x)$ とし、$f(x):=d_{\beta(x)}$ とおく。
    $f$ は不動点をもたない。$x\notin U$ なら $f(x)=t_{\alpha(x)}\not\le x$ なので $f(x)\neq x$ であり、$x\in U$ なら $x\not\le d_{\beta(x)}=f(x)$ なので $f(x)\neq x$ である。
    $f$ が単調であることを示す。$x\le y$ とする。
  1. $x,y\notin U$ のとき:$t_\alpha\not\le y$ なら $t_\alpha\not\le x$($t_\alpha\le x\le y$ になってしまうので)だから $A(y)\subseteq A(x)$、よって $\alpha(x)\le\alpha(y)$ であり、族が増加することから $f(x)\le f(y)$。
  2. $x,y\in U$ のとき:$x\not\le d_\beta$ なら $y\not\le d_\beta$ だから $B(x)\subseteq B(y)$、よって $\beta(y)\le\beta(x)$ であり、族が減少することから $f(x)=d_{\beta(x)}\le d_{\beta(y)}=f(y)$。
  3. $x\notin U$、$y\in U$ のとき:$f(x)$ はある $t_\alpha$ で、$f(y)\in U$ はすべての $t_\alpha$ の上界なので $f(x)\le f(y)$。
  4. $x\in U$、$y\notin U$ となることはない。$U$ は上集合だからである($t_\alpha\le x\le y$)。
    よって $f$ は不動点をもたない単調写像であり、2 が成り立たない。$\square$

1 ⇒ 2 の証明で得た $p$ は最小不動点であり、最大不動点も双対に得られ、不動点全体も完備束をなす。これらは Knaster–Tarskiの定理 の定理「Knaster–Tarski の定理」と定理「不動点全体は完備束」にある。

有理数の区間上の不動点をもたない単調写像

$L=\mathbb{Q}\cap[0,1]$ と $c=1/\sqrt2=0.70710\ldots$ について、2 ⇒ 1 の構成を具体的に書く。$a_n$ を $c$ の小数第 $n$ 位までの切り捨て($a_0=0$、$a_1=0.7$、$a_2=0.70$、$a_3=0.707,\ldots$)、$b_n:=a_n+10^{-n}$($b_0=1$、$b_1=0.8$、$b_2=0.71,\ldots$)とおく。$(a_n)$ は広義に増加し、$(b_n)$ は広義に減少し($a_{n+1}\le a_n+9\cdot10^{-n-1}$ による)、$c$ は無理数なので $a_n< c< b_n$ である。$x\in L$ に対し
$$ f(x)=\begin{cases}a_{\min\{n\mid a_n> x\}}&(x< c),\\ b_{\min\{n\mid b_n< x\}}&(x> c)\end{cases} $$
と定める。$L$ は全順序なので $a_n\not\le x$ は $a_n> x$ と同じであり、これは定理の証明の $f$ を、$t_n=a_n$、$d_n=b_n$ として作ったものである($x> c$ となる $x$ の全体が上界の集合 $U$)。たとえば $f(0.5)=0.7$、$f(0.7)=0.707$、$f(0.8)=0.71$ である。$f$ は単調で、$x< c$ なら $f(x)> x$、$x> c$ なら $f(x)< x$ なので不動点をもたない。$L$ は最小元と最大元をもつが、$c$ のところの「隙間」のために完備でない。

部分構造と上限

完備束 $L$ の部分集合 $M$ が誘導された順序で完備束であっても、$M$ の中で計算した上限・下限が $L$ でのものと一致するとは限らない。$M$ の任意の部分集合について $L$ での上限と下限が $M$ に属するとき、$M$ を $L$ の完備部分束という(BS12 I §4 Definition 4.3、p. 15)。

  • 閉包系 $\mathcal{C}\subseteq\mathcal{P}(X)$ では下限は $\mathcal{P}(X)$ と同じ共通部分だが、上限は合併より大きくなりうる(部分群の例)。開集合全体では逆に、上限は合併と一致し下限が異なる。
  • 拡張実数の部分集合 $M=(-1,1)\cup\{-2,2\}$ は完備束であるが、$M$ での $(-1,1)$ の上限は $2$ で、$[-\infty,\infty]$ での上限 $1$ と異なる(BS12 I §4、p. 15 の例)。
  • 完備束上の単調写像の不動点全体は完備束だが、完備部分束とは限らない(Knaster–Tarskiの定理 の例「反例:不動点の族の外側の上限が不動点でない」)。
    外す条件反例成り立たなくなること
    完備性(最大元をもつが隙間がある)$\mathbb{Q}\cap[0,1]$ と上の写像 $f$単調写像の不動点の存在
    完備性(最大元がない)$\mathbb{N}$ と $n\mapsto n+1$単調写像の不動点の存在
    写像の単調性$[0,1]$ で $x< 1/2$ なら $1$、そうでなければ $0$ とする写像完備束上の写像の不動点の存在
    束であること$\{\bot,a,b\}$($\bot< a$、$\bot< b$)すべての単調写像が不動点をもてば完備であること
    共通部分で閉じること$\mathbb{R}$ の開集合全体下限が共通部分で与えられること
    完備部分束であること$(-1,1)\cup\{-2,2\}\subseteq[-\infty,\infty]$部分集合の中の上限と外の上限の一致
    4 行目の $\{\bot,a,b\}$ は $a,b$ の上限をもたないので束でない。一方、有限で最小元をもつので、その上の単調写像は $\bot$ からの反復で不動点に達する(単調写像 の命題「有限で最小元をもつ半順序集合の不動点」)。したがって thm-cl-fixpoint-characterization の 2 ⇒ 1 は、束であるという仮定なしには成り立たない。

関連項目

参考文献

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