Serre の交叉重複度公式(Serre's intersection multiplicity formula)とは、非特異な代数多様体の中で固有に交わる部分多様体 $V,W$ の交わりの既約成分 $Z$ での交叉重複度を、$Z$ での局所環 $A$ 上の $\operatorname{Tor}_j^A(A/I_V,A/I_W)$ の長さの交代和で定める公式である。$A$ は正則局所環なので和は有限である。一方が局所的に正則列で切られ他方が Cohen–Macaulay なら高次の Tor は消えて素朴な長さ $\ell(A/(I_V+I_W))$ に一致し、平面曲線では交点数を再現する。1 点で交わる 2 枚の平面の和と別の平面の交わりでは長さが $3$ だが公式の値は $2$ であり、Serre はこの重複度が正の整数であることを示した。
Serre の交叉重複度公式(Serre's intersection multiplicity formula)とは、非特異な代数多様体 $X$ の中で固有に交わる二つの部分多様体 $V,W$ について、交わりの既約成分 $Z$ での交叉重複度を
$$
i(Z;V,W)=\sum_{j\ge0}(-1)^j\,\ell_A\operatorname{Tor}_j^A(A/I_V,\,A/I_W)
$$
で定める公式である。ここで $A$ は $Z$ の生成点での $X$ の局所環、$I_V,I_W$ は $V,W$ を定めるイデアル、$\ell_A$ は長さである。Tor の公式(Tor formula)ともいう。
平面曲線の交点数は $\dim_k\mathcal{O}_P/(f,g)$、つまり $j=0$ の項 $\operatorname{Tor}_0=A/(I_V+I_W)$ の長さだけで定まる。高次元でも同じ素朴な定義を使うと、たとえば $\mathbb{A}^4$ の中で 1 点で交わる 2 枚の平面の和と、その点を通る別の平面との交わりで、期待される値 $2$ でなく $3$ が出てしまう。Serre は高次の Tor を符号つきで足すことでこれを補正し、得られる整数が正で、交叉理論に必要な性質をもつことを示した。
この記事では、公式の各項が有限であることと Euler 標数の加法性を示し、一方が局所的に正則列で切られ、他方が Cohen–Macaulay のときには高次の Tor が消えて公式が素朴な長さと一致することを証明する。平面曲線では交点数を再現すること、上の 2 枚の平面の例で $\operatorname{Tor}_1$ が長さ $1$ をもつことも計算する。以下、$k$ は代数閉体である。
$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の非特異代数多様体とする。閉部分多様体 $V,W\subset X$ が固有に交わるとは、$V\cap W$ のすべての既約成分 $Z$ が $\dim Z=\dim V+\dim W-n$ をみたすことをいう。$Z$ をそのような成分とし、$A:=\mathcal{O}_{X,Z}$ を $Z$ の生成点での $X$ の局所環、$\mathfrak{m}$ をその極大イデアル、$I_V,I_W\subset A$ を $V,W$ のイデアルとする。$X$ が非特異なので $A$ は正則局所環であり(大域次元 の定理「正則局所環の局所化」)、$\dim A=n-\dim Z$ である(Stacks Varieties, Lemma 33.20.3 (4))。
上の設定で、$Z$ に沿う $V$ と $W$ の交叉重複度を
$$
i(Z;V,W):=\sum_{j\ge0}(-1)^j\,\ell_A\operatorname{Tor}_j^A(A/I_V,A/I_W)
$$
で定める。$V$ や $W$ が既約とは限らない閉集合でも、$V\cap W$ のすべての既約成分が上の次元をもつなら、同じ式で定める。より一般に、正則局所環 $A$ 上の有限生成加群 $M,N$ で $\ell_A(M\otimes_AN)< \infty$ なるものについて、$\chi^A(M,N):=\sum_j(-1)^j\ell_A\operatorname{Tor}_j^A(M,N)$ とおく。
$A$ を正則局所環、$M,N$ を有限生成 $A$ 加群で $\ell_A(M\otimes_AN)< \infty$ とする。このとき各 $\operatorname{Tor}_j^A(M,N)$ は有限の長さをもち、$j>\dim A$ では $0$ である。def-serre-tor の設定では $\ell_A(A/(I_V+I_W))< \infty$ が成り立つので、$i(Z;V,W)$ は整数として定まる。
$A$ は Noether 環なので $M$ は有限生成自由加群による分解をもち、$\operatorname{Tor}_j^A(M,N)$ はその分解に $N$ をテンソルした複体のホモロジーとして有限生成である。$a\in\operatorname{Ann}M$ の掛け算は $M$ 上で $0$ なので、関手性から $\operatorname{Tor}_j(M,N)$ 上の $a$ 倍も $0$ であり、$N$ についても同じである。よって $\operatorname{Tor}_j(M,N)$ の台は $\operatorname{Supp}M\cap\operatorname{Supp}N=\operatorname{Supp}(M\otimes_AN)$ に含まれる。$\ell(M\otimes N)< \infty$ なのでこの台は $\{\mathfrak{m}\}$ に含まれ、台が $\{\mathfrak{m}\}$ に含まれる有限生成加群は有限の長さをもつ。正則局所環の大域次元は $\dim A$ に等しい(大域次元 の定理「正則局所環の全加群上界」)ので、$j>\dim A$ で $\operatorname{Tor}_j=0$ である。
def-serre-tor の設定では、$I_V+I_W$ を含む $A$ の素イデアルは、$Z$ を含み $V\cap W$ に含まれる既約閉集合に対応する。$Z$ は $V\cap W$ の既約成分なので、それは $Z$ 自身、すなわち $\mathfrak{m}$ だけである。よって $A/(I_V+I_W)$ は有限の長さをもつ。$\square$
$A$ を正則局所環、$N$ を有限生成 $A$ 加群、$0\to M'\to M\to M''\to0$ を有限生成 $A$ 加群の完全列で $\ell(M\otimes_AN)< \infty$ とする。このとき $\chi^A(M,N)=\chi^A(M',N)+\chi^A(M'',N)$ である。
$\operatorname{Supp}M',\operatorname{Supp}M''\subset\operatorname{Supp}M$ なので、三つの $\chi$ はどれも定まる。Tor の長完全列
$$
\cdots\to\operatorname{Tor}_1(M'',N)\to\operatorname{Tor}_0(M',N)\to\operatorname{Tor}_0(M,N)\to\operatorname{Tor}_0(M'',N)\to0
$$
は lem-serre-tor-finite により有限の長さの加群からなる有限の長さの完全列である。有限の長さの加群の完全列では長さの交代和が $0$ なので(長さの加法性)、主張が従う。$\square$
$A$ を Noether 局所環、$M$ を有限生成 $A$ 加群、$g_1,\dots,g_c\in\mathfrak{m}$ を $A$ 上の正則列とし、各 $g_i$ の掛け算が $M/(g_1,\dots,g_{i-1})M$ 上で単射であるとする。このとき $j\ge1$ で
$$
\operatorname{Tor}_j^A(M,A/(g_1,\dots,g_c))=0
$$
であり、$A$ が正則で $\ell(M/(g)M)< \infty$ なら $\chi^A(M,A/(g))=\ell_A(M/(g)M)$ である。
$c=1$ のときを先に見る。$g$ は $A$ の非零因子なので $0\to A\xrightarrow{g}A\to A/(g)\to0$ は $A/(g)$ の自由分解である。$M$ をテンソルすると $0\to M\xrightarrow{g}M\to0$ となり、$\operatorname{Tor}_1(M,A/(g))=\{u\in M\mid gu=0\}$、$\operatorname{Tor}_j=0$($j\ge2$)である。仮定から $g$ 倍は $M$ 上で単射なので $\operatorname{Tor}_1=0$ である。
一般の場合、$g=(g_1,\dots,g_c)$ の Koszul複体 $K(g;A)$ を考える。$g$ が $A$ 上の正則列なので、Koszul複体 の定理「正則列のKoszulホモロジー」により $K(g;A)$ は正の次数でホモロジーをもたず、$H_0=A/(g)$ だから、$K(g;A)$ は $A/(g)$ の有限生成自由分解である。Tor は片方の自由分解で計算できるので、$\operatorname{Tor}_j^A(M,A/(g))=H_j(K(g;A)\otimes_AM)=H_j(K(g;M))$ である。$g$ の各元が順に単射に作用するという仮定から、同じ定理により $j\ge1$ で $H_j(K(g;M))=0$ である。残るのは $\operatorname{Tor}_0=M/(g)M$ だけなので、後半が従う。$\square$
def-serre-tor の設定で $V,W$ が既約(閉部分多様体)であるとし、$I_W$ が $A$ の正則列 $g_1,\dots,g_c$ で生成され($W$ は $Z$ の生成点で局所完全交叉)、$\mathcal{O}_{V,Z}=A/I_V$ が Cohen–Macaulay環 であるとする。このとき
$$
i(Z;V,W)=\ell_A\bigl(A/(I_V+I_W)\bigr)
$$
である。とくに $W$ が $Z$ の生成点で一つの方程式 $g$ で定まる(超曲面の)ときは、$V$ についての仮定なしに $i(Z;V,W)=\ell_A(\mathcal{O}_{V,Z}/g\,\mathcal{O}_{V,Z})$ である。
$B:=A/I_V=\mathcal{O}_{V,Z}$ とする。$\dim B=\dim V-\dim Z$(Stacks Varieties, Lemma 33.20.3 (4))であり、固有に交わることから $\dim B=n-\dim W$ である。同様に $\dim A/I_W=n-\dim V$、$\dim A=n-\dim Z$ で、$A/I_W$ は $c$ 個の正則列の商なので(正則局所環 の定理「正則元による商の次元」を繰り返す)$c=\dim A-\dim A/I_W=n-\dim W=\dim B$ である。$B/(g)B=A/(I_V+I_W)$ は lem-serre-tor-finite により有限の長さをもつので、$g$ の像は $B$ のパラメータ系であり、$B$ が Cohen–Macaulay なので $B$ 上の正則列である(Cohen–Macaulay環 の定理「パラメータ系による判定」)。thm-serre-tor-regular を $M=B$ に使えばよい。
$c=1$ のとき、$B$ は整域で、$g\in I_V$ なら $V\subset W$ となって $V\cap W=V$ の成分 $V$ の次元が $\dim V+\dim W-n=\dim V-1$ に等しいことになり矛盾する。よって $g\notin I_V$ で、$g$ は $B$ の非零因子である。Cohen–Macaulay の仮定なしに thm-serre-tor-regular の $c=1$ の場合が使える。$\square$
$V,W$ の両方が $Z$ の生成点で Cohen–Macaulay なら、局所完全交叉の仮定がなくても高次の Tor は消え、$i(Z;V,W)=\ell_A(A/(I_V+I_W))$ が成り立つ(Stacks Intersection Theory, Lemma 43.16.1(Tag 0B02)。この記事では証明しない)。$V$ だけが Cohen–Macaulay でなければ、$W$ が正則でも一致しないことがある(節「長さでは足りない例」)。
$f,g\in k[x,y]$ が点 $P$ を通る共通成分をもたないとし、$A=\mathcal{O}_P$ を平面の $P$ での局所環とする。このとき $\operatorname{Tor}_j^A(A/(f),A/(g))=0$($j\ge1$)であり、
$$
\chi^A\bigl(A/(f),A/(g)\bigr)=\dim_kA/(f,g)=I(P,f\cap g)
$$
である。
$P\notin Z(f)\cap Z(g)$ なら両辺とも $0$ なので、$f,g\in\mathfrak{m}$ としてよい。$A$ は一意分解整域 $k[x,y]$ の局所化なので一意分解整域であり、仮定から $f$ と $g$ は $A$ で共通の素因子をもたない。$gh\in(f)$ なら、$f$ の各素因子はその重複度ぶん $gh$ を割り、$g$ を割らないので $h$ を割る。よって $f\mid h$ で、$g$ は $A/(f)$ の非零因子である。thm-serre-tor-regular を $c=1$、$M=A/(f)$ で使えばよい。最後の等号は 交点数(平面曲線) の定義「交点数」である。$\square$
cor-serre-tor-plane は $f,g$ に平方因子があっても成り立つ。こうして Serre の公式は平面曲線の交点数を再現し、とくに Bézoutの定理 と両立する。
$X=\mathbb{A}^4$(座標 $x_1,\dots,x_4$)、$V=V_1\cup V_2$、$V_1=Z(x_1,x_2)$、$V_2=Z(x_3,x_4)$、$W=Z(x_1-x_3,\,x_2-x_4)$ とする。$V$ と $W$ は原点 $O$ だけで交わり、$\dim O=0=2+2-4$ である。$A$ を原点での局所環、$I:=(x_1,x_2)\cap(x_3,x_4)=(x_1x_3,x_1x_4,x_2x_3,x_2x_4)$、$g_1=x_1-x_3$、$g_2=x_2-x_4$ とする。
素朴な長さは $3$。 $A/(I+(g_1,g_2))$ で $x_3=x_1$、$x_4=x_2$ と置くと、$I$ は $(x_1^2,x_1x_2,x_2^2)$ になり、$k[x_1,x_2]_{(x_1,x_2)}/(x_1,x_2)^2$ の長さは $3$ である。
Euler 標数は $2$。 $(x_1,x_2)+(x_3,x_4)=\mathfrak{m}$ なので完全列
$$
0\to A/I\to A/(x_1,x_2)\oplus A/(x_3,x_4)\to A/\mathfrak{m}\to0
$$
がある。$g_1,g_2$ は $A$ 上の正則列で($A/(g_1)$ は整域で $g_2$ はその $0$ でない元)、$A/(x_1,x_2)\cong k[x_3,x_4]_{(x_3,x_4)}$ の上では $-x_3,-x_4$、$A/(x_3,x_4)$ の上では $x_1,x_2$ として作用し、どちらでも正則列である。thm-serre-tor-regular により $\chi(A/(x_1,x_2),A/(g))=\chi(A/(x_3,x_4),A/(g))=\ell(A/\mathfrak{m})=1$ である。$A/\mathfrak{m}=k$ については $g_i$ が $0$ として作用するので、Koszul 複体 $K(g;k)$ の微分はすべて $0$ で、$\operatorname{Tor}_j(k,A/(g))$ の長さは $j=0,1,2$ で $1,2,1$、$\chi=1-2+1=0$ である。lem-serre-tor-additive から
$$
\chi(A/I,A/(g))=1+1-0=2
$$
である。これは $V_1$、$V_2$ がそれぞれ $W$ と原点で横断的に交わる(交叉重複度 $1$)ことの和になっている。
$\operatorname{Tor}_1$ は長さ $1$。 $g_1$ は $A/I$ の非零因子である:$(x_1-x_3)h\in I$ なら、$(x_1,x_2)$ を法として $-x_3h\in(x_1,x_2)$ で、$(x_1,x_2)$ は素イデアルで $x_3$ を含まないので $h\in(x_1,x_2)$、同様に $h\in(x_3,x_4)$、よって $h\in I$ である。したがって $\operatorname{Tor}_2=H_2(K(g;A/I))=\{h\mid g_1h=g_2h=0\}=0$ である。$2=3-\ell(\operatorname{Tor}_1)+0$ から $\ell\operatorname{Tor}_1^A(A/I,A/(g))=1$ である。
とくに $A/I$ は Cohen–Macaulay でない。$A/I$ は 2 次元で、$A/(I+(g_1,g_2))$ は有限の長さをもつから $g_1,g_2$ の像は $A/I$ のパラメータ系であり、$A/I$ が Cohen–Macaulay なら $A/I$ 上の正則列になって(Cohen–Macaulay環 の定理「パラメータ系による判定」)、thm-serre-tor-regular から $\operatorname{Tor}_1=0$ となるはずだからである。
この例は Har77 Appendix A, Example 1.1.1(p. 428)、Stacks Example 43.14.4(Tag 0B2S)にある。$V$ の原点での重複度も $2$ である(点の重複度 の例「1 点で交わる 2 枚の平面」)。
$X$ を非特異代数多様体、$V,W$ を固有に交わる閉部分多様体、$Z$ を $V\cap W$ の既約成分とすると、$i(Z;V,W)>0$ である。
cor-serre-tor-cm の超曲面の場合は、射影空間での次数の公式とつながる。$X=\mathbb{P}^n$、$W=H$ を $d$ 次超曲面、$V$ を $H$ に含まれない $1$ 次元以上の射影多様体とすると、$i(Z;V,H)=\ell(\mathcal{O}_{V,Z}/g)$ は 有理同値 の補題「超曲面との交わりの次数」の 2 により、斉次座標環で測った交叉重複度に等しく、射影多様体の次数 の定理「超曲面との交わりの次数(Bézout の定理の一般化)」により $\sum_Zi(Z;V,H)\deg Z=d\deg V$ となる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-serre-tor-positivity の「固有に交わる」 | $X=\mathbb{A}^2$、$V=W=L$ を直線、$Z=L$ | $i(Z;V,W)>0$(実際は $1-1=0$) |
| thm-serre-tor-regular の「$g$ が $M$ 上でも正則列」 | ex-serre-tor-two-planes の $M=A/I$ | 高次の Tor が消え、$\chi$ が長さに等しい(実際は $\chi=2$、長さ $3$) |
| cor-serre-tor-plane の「共通成分をもたない」 | $f=g=y$、$P=(0,0)$ | $\dim_kA/(f,g)$ が有限($A/(y)$ は 1 次元で長さは無限) |
1 行目では $Z=L$ は 1 次元で、$\dim V+\dim W-n=0$ に合わない。$A=\mathcal{O}_{X,L}$ は直線の方程式 $t$ を一意化元とする離散付値環で、$0\to A\xrightarrow{t}A\to A/(t)\to0$ に $A/(t)$ をテンソルすると微分が $0$ になるので、$\operatorname{Tor}_0=\operatorname{Tor}_1=A/(t)$ はともに長さ $1$ である。2 行目では $g$ は $A$ 上の正則列だが、$A/I$ 上では正則列でない(cor-serre-tor-cm の言葉では $V$ が Cohen–Macaulay でない)。
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