2圏(2-category)とは、対象と 1射に加えて平行な 1射の間の 2射をもち、2射を垂直と水平の 2 通りに交換法則を満たすように合成できる構造であり、Hom が圏で合成が関手である圏、すなわち $\mathbf{Cat}$ で豊穣された圏と同じものである。小さい圏・関手・自然変換のなす $\mathbf{Cat}$ が典型例で、交換法則から恒等 1射の自己 2射は可換になる。2圏の中では随伴を単位・余単位と三角恒等式で定義でき、右随伴は可逆な 2射を除いて一意で、同値はつねに随伴同値に取り替えられる。結合法則を同型までゆるめたものが双圏である。
2圏(2-category)とは、対象と対象の間の射(1射)に加えて、平行な 1射の間の「射の間の射」(2射)をもち、2射を縦と横の 2 通りに合成できる構造のことである。典型例は、小さい圏・関手・自然変換のなす $\mathbf{Cat}$ である。関手 $F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の間の自然変換は、圏の間の射の間の射にほかならない。言い換えると、2圏とは、射の集合 $\operatorname{Hom}(a,b)$ が集合ではなく圏になっていて、合成が関手になっている圏、すなわち $\mathbf{Cat}$ で豊穣された豊穣圏である。
2圏の言葉を使うと、随伴や同値のような関手と自然変換の概念を、群の準同型と共役、豊穣関手と豊穣自然変換などにそのまま持ち込める。この記事では、2圏の定義と交換法則、$\mathbf{Cat}$ が 2圏であること、Eckmann–Hilton の議論を述べ、2圏の中の随伴について右随伴の一意性と、同値を随伴同値に取り替えられることを証明する。最後に、合成の結合法則を同型までゆるめた 双圏 を導入する。
2圏(厳密 2圏)$\mathcal K$ は次のデータからなる。
1射とその合成だけを見ると、2圏の対象と 1射は通常の圏をなす。これを $\mathcal K$ の 台の圏 という。2射を捨てるので、$\mathcal K$ のほうが情報が多い。この定義は「$\mathbf{Cat}$ で豊穣された圏」と同じものである(HTT09 §1.1.1、p. 4、Mac98 §XII.3、pp. 275–276)。
合成関手が関手であるという条件を、2射の言葉で書き直す。2射 $\alpha\colon f\Rightarrow f'$ を 1射 $g$ と水平合成したもの $1_g*\alpha$ を $g\alpha$、$\alpha*1_h$ を $\alpha h$ と書いて ひげ付け(whiskering)という。
定義の 3 の合成関手の代わりに、1射の合成と 2射の水平合成 $*$ が写像として与えられ、1射の合成が結合的・単位的、水平合成が結合的で恒等 1射の恒等 2射を単位にもつとする。このとき合成 $\circ$ が関手であることは、次の 2 条件と同値である。
直積圏の合成は成分ごとなので、$\circ$ が恒等射を保つことは 1、合成を保つことは 2 そのものである。
直積圏 $\mathcal K(b,c)\times\mathcal K(a,b)$ では、恒等射は $(1_g,1_f)$ で、合成は成分ごとの $(\beta',\alpha')\cdot(\beta,\alpha)=(\beta'\cdot\beta,\alpha'\cdot\alpha)$ である。$\circ$ が恒等射を保つことは 1 そのものであり、合成を保つこと
$$\circ\bigl((\beta',\alpha')\cdot(\beta,\alpha)\bigr)=\circ(\beta',\alpha')\cdot\circ(\beta,\alpha)$$
は 2 そのものである。$\square$
交換法則は、2 行 2 列に並べた 4 つの 2射を「先に縦に合成してから横に合成しても、先に横に合成してから縦に合成しても同じ」という主張である。次の補題は、交換法則を 2射の「すべらせ」として使う形である。
$\alpha\colon p\Rightarrow p'\colon b\to c$、$\beta\colon q\Rightarrow q'\colon a\to b$ について
$$
\alpha*\beta=(\alpha q')\cdot(p\beta)=(p'\beta)\cdot(\alpha q).
$$
また、ひげ付けは垂直合成を保ち($g(\alpha'\cdot\alpha)=(g\alpha')\cdot(g\alpha)$)、$g(f\alpha)=(gf)\alpha$、$(g\alpha)h=g(\alpha h)$、$1_b\alpha=\alpha$ が成り立つ。
交換法則を $\alpha=\alpha\cdot1_p$、$\beta=1_{q'}\cdot\beta$ に当てると $\alpha*\beta=(\alpha*1_{q'})\cdot(1_p*\beta)$ である。$\alpha=1_{p'}\cdot\alpha$、$\beta=\beta\cdot1_q$ に当てると $\alpha*\beta=(1_{p'}*\beta)\cdot(\alpha*1_q)$ である。ひげ付けの規則は、交換法則で $1_g=1_g\cdot1_g$ とおくこと、水平合成の結合法則と $1_g*1_f=1_{gf}$、単位法則から従う。$\square$
以下では、lem-tc-slide とひげ付けの規則を断らずに使う。
2圏の間の 2関手 $F\colon\mathcal K\to\mathcal L$ は、対象・1射・2射をそれぞれ対象・1射・2射に写し、域と余域、恒等、垂直合成、水平合成をすべて保つものである。2関手 $F,G\colon\mathcal K\to\mathcal L$ の間の 2自然変換 $\theta\colon F\Rightarrow G$ は、各対象 $a$ に 1射 $\theta_a\colon Fa\to Ga$ を与え、すべての 2射 $\alpha\colon f\Rightarrow f'\colon a\to b$ について $\theta_b(F\alpha)=(G\alpha)\theta_a$ となるものである。
2圏・2関手・2自然変換は、さらにその上の構造(修正)と合わせて 3 段の構造をなす(Mac98 §XII.4、p. 278)。
小さい圏を対象、関手を 1射、自然変換を 2射とし、$\mathbf{Cat}(\mathcal C,\mathcal D)$ を関手圏 $[\mathcal C,\mathcal D]$、合成関手を、自然変換 $\alpha\colon F\Rightarrow F'\colon\mathcal C\to\mathcal D$、$\beta\colon G\Rightarrow G'\colon\mathcal D\to\mathcal E$ について
$$
(\beta*\alpha)_c:=\beta_{F'c}\circ G(\alpha_c)=G'(\alpha_c)\circ\beta_{Fc}\qquad(c\in\mathcal C)
$$
で定めると、$\mathbf{Cat}$ は 2圏になる。
2 つの式が等しいことは、$\beta$ の自然性を射 $\alpha_c\colon Fc\to F'c$ に当てたものである。$\beta*\alpha$ が $GF$ から $G'F'$ への自然変換であることは、射 $u\colon c\to c'$ について
$$
(\beta*\alpha)_{c'}\circ GF(u)=\beta_{F'c'}\circ G(\alpha_{c'}\circ F(u))=\beta_{F'c'}\circ GF'(u)\circ G(\alpha_c)=G'F'(u)\circ\beta_{F'c}\circ G(\alpha_c)
$$
となることから分かる($\alpha$ の自然性、$\beta$ の自然性の順に使った)。$[\mathcal C,\mathcal D]$ が圏であることは 関手圏 の命題「成分ごとの演算は圏を定める」による。
prop-tc-interchange の 2 条件を確かめる。$(1_G*1_F)_c=1_{GFc}$ は明らかである。交換法則は成分で
$$
\bigl((\beta'\cdot\beta)*(\alpha'\cdot\alpha)\bigr)_c=\beta'_{F''c}\circ\beta_{F''c}\circ G(\alpha'_c)\circ G(\alpha_c),\qquad\bigl((\beta'*\alpha')\cdot(\beta*\alpha)\bigr)_c=\beta'_{F''c}\circ G'(\alpha'_c)\circ\beta_{F'c}\circ G(\alpha_c)
$$
を比べることになり、$\beta_{F''c}\circ G(\alpha'_c)=G'(\alpha'_c)\circ\beta_{F'c}$($\beta$ の自然性)から等しい。
結合法則:関手の合成は結合的である。$\gamma\colon H\Rightarrow H'\colon\mathcal E\to\mathcal F$ について
$$
\bigl((\gamma*\beta)*\alpha\bigr)_c=\gamma_{G'F'c}\circ H(\beta_{F'c})\circ HG(\alpha_c)=\gamma_{G'F'c}\circ H\bigl((\beta*\alpha)_c\bigr)=\bigl(\gamma*(\beta*\alpha)\bigr)_c
$$
である。単位法則:$1_{\mathrm{id}}*\alpha$ の成分は $\mathrm{id}(\alpha_c)=\alpha_c$、$\beta*1_{\mathrm{id}}$ の成分は $\beta_c$ である。$\square$
交換法則そのものは 自然変換 の記事の命題「水平合成と交換法則」にもある。同じ構成で、局所的に小さい圏・関手・自然変換も 2圏 $\mathbf{CAT}$ をなす。ただし対象の集まりは集合とは限らないので、大きさの扱いには宇宙などの規約が要る。
群を対象、群準同型を 1射とし、準同型 $f,f'\colon G\to H$ の間の 2射 $h\colon f\Rightarrow f'$ を、すべての $x\in G$ で $hf(x)h^{-1}=f'(x)$ を満たす元 $h\in H$ とする(HTT09 Example 1.1.1.1、p. 2)。垂直合成は $H$ での積 $h'\cdot h:=h'h$ で、水平合成は $k\colon f_2\Rightarrow f_2'\colon H\to K$ について
$$
k*h:=k\,f_2(h)=f_2'(h)\,k
$$
とする。この構造が 2圏の公理を満たすことは、群の積の計算で確かめられる。2 つの準同型が共役であることと、この 2圏の中で同型な 1射であることは同じである。
2 つの式が等しいのは $kf_2(y)k^{-1}=f_2'(y)$ を $y=h$ に当てたものだからである。$k f_2(h)$ が $f_2f$ から $f_2'f'$ への 2射であることは
$$kf_2(h)\,f_2f(x)\,f_2(h)^{-1}k^{-1}=k\,f_2\bigl(hf(x)h^{-1}\bigr)\,k^{-1}=k\,f_2f'(x)\,k^{-1}=f_2'f'(x)$$
から分かる。交換法則は、$k'\colon f_2'\Rightarrow f_2''$、$h'\colon f'\Rightarrow f''$ について $(k'k)f_2(h'h)=k'kf_2(h')f_2(h)$ と $(k'*h')(k*h)=k'f_2'(h')kf_2(h)$ を比べることになり、$kf_2(h')=f_2'(h')k$ から等しい。結合法則・単位法則も積の計算で確かめられる。
交換法則は強い条件で、恒等 1射の上の 2射には可換性を強制する。
$\mathcal K$ を 2圏、$a$ を対象とし、$\Omega_a$ を 2射 $1_a\Rightarrow1_a$ の全体とする。$\alpha,\beta\in\Omega_a$ について
$$
\alpha\cdot\beta=\alpha*\beta=\beta\cdot\alpha
$$
が成り立つ。とくに $\Omega_a$ は垂直合成について可換モノイドである。
単位法則により $1_a\circ-$ は恒等関手なので、$1_{1_a}*\beta=\beta$、同様に $\alpha*1_{1_a}=\alpha$ である。交換法則から
$$
\alpha*\beta=(\alpha\cdot1_{1_a})*(1_{1_a}\cdot\beta)=(\alpha*1_{1_a})\cdot(1_{1_a}*\beta)=\alpha\cdot\beta,
$$
$$
\alpha*\beta=(1_{1_a}\cdot\alpha)*(\beta\cdot1_{1_a})=(1_{1_a}*\beta)\cdot(\alpha*1_{1_a})=\beta\cdot\alpha
$$
である。$\square$
$\mathbf{Cat}$ で $a$ を圏 $\mathcal C$ とすると、$\Omega_a$ は恒等関手の自己自然変換のなすモノイドで、この命題によりつねに可換である。ex-tc-examples の 2 で 2射を整数としたのは、2射のモノイドが可換でなければこの構造が 2圏にならないからである。
随伴関手 は単位と余単位と三角恒等式で特徴づけられる(随伴関手 の記事の命題「単位・余単位から随伴を復元する」)。この特徴づけは関手と自然変換の合成しか使わないので、どの 2圏でも意味をもつ。
2圏 $\mathcal K$ の 1射 $f\colon a\to b$、$g\colon b\to a$ と 2射 $\eta\colon1_a\Rightarrow gf$、$\varepsilon\colon fg\Rightarrow1_b$ が 三角恒等式
$$
(\varepsilon f)\cdot(f\eta)=1_f,\qquad(g\varepsilon)\cdot(\eta g)=1_g
$$
を満たすとき、組 $(f,g,\eta,\varepsilon)$ を 随伴 といい、$f\dashv g$ と書く。$f$ を左随伴、$g$ を右随伴、$\eta$ を単位、$\varepsilon$ を余単位という。
$\mathcal K=\mathbf{Cat}$ ではこれは通常の随伴関手と同じものである(Mac98 §XII.4、p. 276)。2関手は合成と恒等を保つので三角恒等式を保ち、随伴を随伴に写す。
$(f,g,\eta,\varepsilon)$ と $(f,g',\eta',\varepsilon')$ を同じ $f\colon a\to b$ の随伴とする。
$$
\theta:=(g'\varepsilon)\cdot(\eta'g)\colon g\Rightarrow g',\qquad\theta':=(g\varepsilon')\cdot(\eta g')\colon g'\Rightarrow g
$$
は互いに逆の 2射である。とくに右随伴は可逆な 2射を除いて一意である。
$\theta'\cdot\theta=(g\varepsilon')\cdot(\eta g')\cdot(g'\varepsilon)\cdot(\eta'g)$ を変形する。lem-tc-slide を $\alpha=\eta\colon1_a\Rightarrow gf$、$\beta=g'\varepsilon\colon g'fg\Rightarrow g'$ に当てると
$$
(\eta g')\cdot(g'\varepsilon)=\eta*(g'\varepsilon)=(gfg'\varepsilon)\cdot(\eta g'fg)
$$
である。同じ補題を $\alpha=\varepsilon'\colon fg'\Rightarrow1_b$、$\beta=\varepsilon\colon fg\Rightarrow1_b$ に当てると $\varepsilon'\cdot(fg'\varepsilon)=\varepsilon'*\varepsilon=\varepsilon\cdot(\varepsilon'fg)$ なので、左から $g$ でひげ付けして $(g\varepsilon')\cdot(gfg'\varepsilon)=(g\varepsilon)\cdot(g\varepsilon'fg)$ を得る。$\alpha=\eta$、$\beta=\eta'\colon1_a\Rightarrow g'f$ に当てると $(\eta g'f)\cdot\eta'=\eta*\eta'=(gf\eta')\cdot\eta$ なので、右から $g$ でひげ付けして $(\eta g'fg)\cdot(\eta'g)=(gf\eta'g)\cdot(\eta g)$ を得る。以上を合わせると
$$
\theta'\cdot\theta=(g\varepsilon)\cdot g\bigl((\varepsilon'f)\cdot(f\eta')\bigr)g\cdot(\eta g)=(g\varepsilon)\cdot(\eta g)=1_g
$$
となる。2 つ目の等号で $(f,g',\eta',\varepsilon')$ の三角恒等式を、3 つ目で $(f,g,\eta,\varepsilon)$ の三角恒等式を使った。$g$ と $g'$ の役割を入れ替えれば $\theta\cdot\theta'=1_{g'}$ も同様に示される。$\square$
$\mathbf{Cat}$ ではこれは右随伴関手の一意性(随伴関手 の記事の命題「随伴の一意性」)であり、上の証明はそれを関手の成分を使わずに書いたものになっている。
2圏 $\mathcal K$ の 1射 $f\colon a\to b$ が 同値 であるとは、1射 $g\colon b\to a$ と可逆な 2射 $\eta\colon1_a\Rightarrow gf$、$\varepsilon\colon fg\Rightarrow1_b$ があることをいう。このとき $a$ と $b$ は 同値 であるという。$\eta,\varepsilon$ が可逆で、さらに三角恒等式を満たすとき、$(f,g,\eta,\varepsilon)$ を 随伴同値 という。
$\mathbf{Cat}$ の同値は圏同値そのものであり、$\mathcal V\text{-}\mathbf{CAT}$ の同値は 圏同値(豊穣圏) である。ex-tc-groups の 2圏では、群の同型 $f$ はそれだけで同値である。
$(f,g,\eta,\varepsilon)$ が同値の組なら、
$$
\tilde\varepsilon:=\varepsilon\cdot(f\eta^{-1}g)\cdot(\varepsilon^{-1}fg)\colon fg\Rightarrow fgfg\Rightarrow fg\Rightarrow1_b
$$
とおくと、$(f,g,\eta,\tilde\varepsilon)$ は随伴同値である。
$\tilde\varepsilon$ は可逆な 2射の合成なので可逆である。
1 つ目の三角恒等式. $(\tilde\varepsilon f)\cdot(f\eta)=(\varepsilon f)\cdot(f\eta^{-1}gf)\cdot(\varepsilon^{-1}fgf)\cdot(f\eta)$ である。lem-tc-slide を $\alpha=\varepsilon^{-1}\colon1_b\Rightarrow fg$、$\beta=f\eta\colon f\Rightarrow fgf$ に当てると $(\varepsilon^{-1}fgf)\cdot(f\eta)=(fgf\eta)\cdot(\varepsilon^{-1}f)$ である。また $\alpha=\eta^{-1}\colon gf\Rightarrow1_a$、$\beta=\eta\colon1_a\Rightarrow gf$ に当てると
$$
(\eta^{-1}gf)\cdot(gf\eta)=\eta^{-1}*\eta=\eta\cdot\eta^{-1}=1_{gf}
$$
である。よって
$$
(\tilde\varepsilon f)\cdot(f\eta)=(\varepsilon f)\cdot f\bigl((\eta^{-1}gf)\cdot(gf\eta)\bigr)\cdot(\varepsilon^{-1}f)=(\varepsilon f)\cdot(\varepsilon^{-1}f)=1_f
$$
となる。
2 つ目の三角恒等式. $\psi:=(g\tilde\varepsilon)\cdot(\eta g)\colon g\Rightarrow g$ は可逆である。$\psi\cdot\psi=\psi$ を示せば、両辺に $\psi^{-1}$ を合成して $\psi=1_g$ を得る。すべらせの補題を $\alpha=\eta$、$\beta=g\tilde\varepsilon$ に当てると $(\eta g)\cdot(g\tilde\varepsilon)=(gfg\tilde\varepsilon)\cdot(\eta gfg)$、$\alpha=\beta=\tilde\varepsilon$ に当てると $\tilde\varepsilon\cdot(fg\tilde\varepsilon)=\tilde\varepsilon\cdot(\tilde\varepsilon fg)$、$\alpha=\beta=\eta$ に当てると $(\eta gf)\cdot\eta=(gf\eta)\cdot\eta$ である。これらを順に使うと
$$
\psi\cdot\psi=(g\tilde\varepsilon)\cdot(g\tilde\varepsilon fg)\cdot(gf\eta g)\cdot(\eta g)=(g\tilde\varepsilon)\cdot g\bigl((\tilde\varepsilon f)\cdot(f\eta)\bigr)g\cdot(\eta g)=(g\tilde\varepsilon)\cdot(\eta g)=\psi
$$
となる。3 つ目の等号で 1 つ目の三角恒等式を使った。$\square$
したがって、2圏の 1射が同値であることと、単位と余単位が可逆な右随伴をもつことは同値である。$\mathbf{Cat}$ では、これは 圏同値 の記事の命題「随伴同値への取り替え」と同じ式である。
1射の合成が等式としては結合的でなく、可逆な 2射を除いてだけ結合的である例は多い。それを扱うのが双圏である。
双圏(bicategory)$\mathcal B$ は、対象、対象の組ごとの圏 $\mathcal B(a,b)$(対象が 1射、射が 2射)、合成関手 $\circ\colon\mathcal B(b,c)\times\mathcal B(a,b)\to\mathcal B(a,c)$、各対象の 1射 $1_a$ と、可逆な 2射の族
$$
\mathsf a_{h,g,f}\colon(hg)f\Rightarrow h(gf),\qquad\mathsf l_f\colon1_bf\Rightarrow f,\qquad\mathsf r_f\colon f1_a\Rightarrow f
$$
からなる。$\mathsf a,\mathsf l,\mathsf r$ は $f,g,h$ について自然であり、4 つの 1射 $k,h,g,f$ について五角形の等式
$$
\mathsf a_{k,h,gf}\cdot\mathsf a_{kh,g,f}=(k\,\mathsf a_{h,g,f})\cdot\mathsf a_{k,hg,f}\cdot(\mathsf a_{k,h,g}\,f)
$$
と、三角形の等式 $(g\,\mathsf l_f)\cdot\mathsf a_{g,1_b,f}=\mathsf r_g\,f$ を満たすとする。
$\mathsf a,\mathsf l,\mathsf r$ がすべて恒等 2射である双圏が 2圏である。五角形と三角形の等式は、モノイダル圏 の結合同型と単位同型に課す等式と同じ形をしている。
どの双圏も、適切な意味で同値な 2圏に取り替えられる(HTT09 §1.1.1、p. 4。この記事では証明しない)。これはモノイダル圏を厳格モノイダル圏に取り替える定理(モノイダル圏 の定理「Mac Laneの厳格化定理」)の 2 次元版にあたる。そのため、多くの議論は厳密な 2圏で行ってよい。一方、次元を一つ上げると、厳密な 3圏と、結合法則を高次の同型でゆるめた 3圏とは同値にならない(HTT09 §1.1.1、p. 5)。この違いが、高次の圏を単体的集合などで組み立てる ∞圏 の理論の出発点の一つになっている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 交換法則(prop-tc-eckmann-hilton) | 対象と 1射が 1 つずつで、2射が 3 次対称群 $S_3$ の元、垂直合成も水平合成も $S_3$ の積である構造 | $1_a$ の自己 2射は可換 |
| 1射が恒等 1射(prop-tc-eckmann-hilton を一般の 1射の自己 2射にする) | $\mathbf{Cat}$ で、一点圏 $\mathbf 1$ から一対象圏 $BS_3$ への関手 $x$ の自己自然変換 | 自己 2射のモノイドは可換 |
| 三角恒等式(thm-tc-adjoint-unique の 2 つ目の組) | 体 $k$ 上のベクトル空間の圏で、$f=g=\mathrm{id}$(単位・余単位は恒等)と、$g'=$ 零ベクトル空間への定値関手、$\eta',\varepsilon'$ は零写像からなる自然変換 | $g\cong g'$ |
| $\eta$ が可逆(thm-tc-adjoint-equivalence) | アーベル化 $L\colon\mathbf{Grp}\to\mathbf{Ab}$ と包含 $i$ の随伴 $L\dashv i$(余単位は可逆、単位は可逆でない) | $L$ は同値 |
各行で外した条件と、成り立たなくなる結論を確かめる。3・4 行目の圏は小さくないので、2圏 $\mathbf{CAT}$ の中で考える。
1 行目:垂直合成も水平合成も群の積なので、それぞれ結合的で単位をもつ。交換法則の両辺は $b'b\,a'a$ と $b'a'\,ba$ で、$S_3$ が非可換なので一般には異なる。prop-tc-eckmann-hilton の結論の可換性も成り立たない。
2 行目:$\mathbf 1$ の射は恒等射だけなので、$x\Rightarrow x$ の自然変換は $BS_3$ の射、すなわち $S_3$ の元と 1 対 1 に対応し、自然性の条件は自動的に成り立つ。垂直合成は群の積なので非可換である。$\mathbf{Cat}$ は 2圏なので、prop-tc-eckmann-hilton は恒等 1射に限った主張であることが分かる(恒等関手 $\mathrm{id}_{BS_3}$ の自己自然変換は $S_3$ の中心の元で、可換である)。
3 行目:零空間 $0$ への定値関手 $g'$ について、各 $V$ の唯一の線形写像 $V\to0$、$0\to V$ は自然変換 $\eta'\colon\mathrm{id}\Rightarrow g'$、$\varepsilon'\colon g'\Rightarrow\mathrm{id}$ をなす。$(\varepsilon'f)\cdot(f\eta')$ の成分は $V\to0\to V$ の零写像で、$V\ne0$ なら恒等写像でない。$g=\mathrm{id}$ と $g'$ は、$k\ne0$ を $0$ に写すので同型でない。
4 行目:$L\dashv i$ の余単位 $L(i(A))\to A$ は可換群 $A$ のアーベル化が $A$ 自身であることから同型である。$L$ が同値なら充満忠実で $\operatorname{Hom}(S_3,S_3)\to\operatorname{Hom}(\mathbb Z/2,\mathbb Z/2)$ が全単射になるが、左辺は 6 個の内部自己同型を含み、右辺は 2 元集合なので矛盾する。
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