Mikhlinの乗数定理

同義語:Mikhlin multiplier theorem

概要

Mikhlinの乗数定理(Mikhlin multiplier theorem)とは、Fourier 変換の側で $m$ を掛ける作用素 $T_m f=\mathcal F^{-1}(m\hat f)$ が $L^p(\mathbb R^n)$($1<p<\infty$)で有界になるための十分条件を、$m$ の偏導関数の減り方 $|\partial^\alpha m(\xi)|\le B|\xi|^{-|\alpha|}$($|\alpha|\le n+1$)で与える定理である。$m$ を二進の環に分けると $T_m$ が特異積分作用素になり、$L^p$ 有界性と弱 $(1,1)$ 型評価が従う。次数 $0$ の斉次な表象は条件を満たし、Riesz 変換の $L^p$ 有界性や $\|\partial_j\partial_k u\|_p\le C\|\Delta u\|_p$ が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Fourier変換, Plancherelの定理, 特異積分作用素, Marcinkiewiczの補間定理

Mikhlinの乗数定理(Mikhlin multiplier theorem)は、Fourier 変換の側で関数 $m$ を掛ける作用素 $T_mf:=\mathcal F^{-1}(m\,\widehat f)$(Fourier 乗数作用素)が $L^p(\mathbb R^n)$($1< p<\infty$)で有界になるための十分条件を、$m$ の微分の減り方で与える定理である。条件は、$m$ が原点の外で滑らかで、各階の偏導関数が $|\partial^\alpha m(\xi)|\le B|\xi|^{-|\alpha|}$ を満たすことである。$m(\xi)=\xi_j/|\xi|$ のような次数 $0$ の斉次関数はこの条件を満たし、Riesz 変換や 2 階の偏微分を Laplace 作用素で抑える評価 $\|\partial_j\partial_ku\|_p\le C\|\Delta u\|_p$ がここから従う。
$L^2$ では、Plancherelの定理 により $T_m$ が有界であることと $m$ が有界であることは同じである。$p\ne2$ では有界な $m$ だけでは足りず、$m$ の滑らかさが要る。この記事では、$m$ を二進の環に分けて各片の核を評価し、$T_m$ が 特異積分作用素 になることを示して、Calderón–Zygmund の定理から $L^p$ 有界性を導く。この記事で証明するのは、偏導関数の条件を階数 $n+1$ まで仮定した形である。

定義

$\mathbb R^n$ 上の Fourier 変換は Fourier変換 の定義と同じく $\widehat f(\xi)=\int f(x)e^{-2\pi ix\cdot\xi}\,dx$ とし、$L^2(\mathbb R^n)$ 上のユニタリ作用素への延長を $\mathcal F$ と書く(Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」)。$L^p$ のノルムを $\|\cdot\|_p$ と書く。多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ について $|\alpha|:=\alpha_1+\dots+\alpha_n$、$\partial^\alpha:=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$ とする。

Fourier 乗数作用素

$m\in L^\infty(\mathbb R^n)$ とする。$f\in L^2(\mathbb R^n)$ に対し
$$ T_mf:=\mathcal F^{-1}(m\,\mathcal Ff) $$
と定め、$T_m$ を $m$ の Fourier 乗数作用素、$m$ をその表象または乗数という。$1\le p\le\infty$ について、定数 $C$ があってすべての $f\in L^2\cap L^p$ で $\|T_mf\|_p\le C\|f\|_p$ となるとき、$m$ を $L^p$ 乗数という。

$\mathcal F$ がユニタリなので $\|T_mf\|_2=\|m\,\mathcal Ff\|_2\le\|m\|_\infty\|f\|_2$ であり、すべての $m\in L^\infty$ は $L^2$ 乗数である。逆に、$m$ が本質的に有界でなければ、$\mathcal Ff$ を $|m|$ の大きい集合の上に集めた $f\in L^2$ によって比 $\|T_mf\|_2/\|f\|_2$ はいくらでも大きくなる。$1\le p<\infty$ で $m$ が $L^p$ 乗数なら、$L^2\cap L^p$ は $L^p$ で稠密なので(Lp空間 の命題「単関数の稠密性」)、$T_m$ は $L^p$ 上の有界作用素にただ一通りに延びる。
$T_m$ は平行移動と交換する。実際 $\tau_af(x):=f(x-a)$ とすると $\mathcal F(\tau_af)(\xi)=e^{-2\pi ia\cdot\xi}\mathcal Ff(\xi)$ であり、この因子は $m$ を掛ける操作と交換する。$K\in L^1$ で $m=\widehat K$ なら、Fourier変換 の命題「畳み込み定理」により $f\in L^1\cap L^2$ について $T_mf=K*f$ である。Mikhlin の乗数定理が扱うのは、$m$ が原点で連続でない場合も含め、核 $K$ が積分可能とは限らない場合である。

乗数の例
  1. $n=1$、$m(\xi)=-i\operatorname{sgn}\xi$。これは Hilbert 変換の表象である(特異積分作用素 の命題「切り落とした Hilbert 変換」の後の段落)。
  2. $m(\xi)=-i\xi_j/|\xi|$($j=1,\dots,n$)。$T_m$ を第 $j$ Riesz 変換という。$n=1$ では 1 と同じである。
  3. $m(\xi)=\xi_j\xi_k/|\xi|^2$。Schwartz 関数 $u$ について、Fourier変換 の微分の公式 $\widehat{\partial_ju}(\xi)=2\pi i\xi_j\widehat u(\xi)$ から $\widehat{\partial_j\partial_ku}=-4\pi^2\xi_j\xi_k\widehat u$、$\widehat{\Delta u}=-4\pi^2|\xi|^2\widehat u$ なので、$\partial_j\partial_ku=T_m(\Delta u)$ である。
  4. $m(\xi)=|\xi|^{i\gamma}$($\gamma\in\mathbb R$)。$|m|=1$ である。

1〜3 の表象は $\xi\ne0$ で滑らかで、正の数 $t$ について $m(t\xi)=m(\xi)$(次数 $0$ の斉次関数)を満たす。4 は $m(t\xi)=t^{i\gamma}m(\xi)$ を満たす。どれも各半直線 $\{t\xi\mid t>0\}$ の上で絶対値が一定なので無限遠で $0$ に近づかず、$m=\widehat K$ となる $K\in L^1$ はない($L^1$ 関数の Fourier 変換は無限遠で $0$ に近づく。Fourier変換 の命題「有界性・連続性・無限遠での減衰」)。

主定理

Mikhlin の乗数定理

$m\colon\mathbb R^n\setminus\{0\}\to\mathbb C$ は $C^{n+1}$ 級で、定数 $B\ge0$ について
$$ |\partial^\alpha m(\xi)|\le B\,|\xi|^{-|\alpha|}\qquad(\xi\ne0,\ |\alpha|\le n+1) $$
を満たすとする($\alpha=0$ の場合は $|m|\le B$)。このとき $1< p<\infty$ について、$n$ と $p$ だけで決まる定数 $C_{n,p}$ があり、すべての $f\in L^2\cap L^p$ で
$$ \|T_mf\|_p\le C_{n,p}\,B\,\|f\|_p $$
である。さらに $n$ だけで決まる定数 $C_n$ があり、$f\in L^1\cap L^2$、$\lambda>0$ について $|\{x\mid|T_mf(x)|>\lambda\}|\le C_nB\|f\|_1/\lambda$ である(弱 $(1,1)$ 型)。

証明の組み立て

証明は次の節で行う。表象の微分の条件を、二進の環に分けた各片の核の減衰(lem-mk-pieces)に変え、核の減衰から大きさの条件と Hörmander の条件(lem-mk-kernel)を出す。これで $T_m$ が特異積分作用素になり(prop-mk-sio)、あとは Calderón–Zygmund の理論が引き受ける。

斉次な表象

$m$ が $\mathbb R^n\setminus\{0\}$ 上 $C^{n+1}$ 級で、ある $\gamma\in\mathbb R$ について $m(t\xi)=t^{i\gamma}m(\xi)$($t>0$、$\xi\ne0$)を満たせば、$m$ は $1< p<\infty$ で $L^p$ 乗数である。とくに ex-mk-examples の 1〜4 はすべて $L^p$ 乗数であり、Schwartz 関数 $u$ について $\|\partial_j\partial_ku\|_p\le C_{n,p}\|\Delta u\|_p$ が成り立つ。

$m(t\xi)=t^{i\gamma}m(\xi)$ の両辺を $\xi$ で $\alpha$ 回偏微分すると $t^{|\alpha|}(\partial^\alpha m)(t\xi)=t^{i\gamma}\partial^\alpha m(\xi)$ なので、$|\partial^\alpha m(\xi)|=|\xi|^{-|\alpha|}\,|\partial^\alpha m(\xi/|\xi|)|$ である。単位球面はコンパクトで $\partial^\alpha m$ はその上で連続なので、$B:=\max_{|\alpha|\le n+1}\max_{|\eta|=1}|\partial^\alpha m(\eta)|$ とおけば thm-mk-main の仮定が成り立つ。最後の評価は ex-mk-examples の 3 による(Schwartz 関数 $\Delta u$ は $L^2\cap L^p$ に属する)。$\square$

$n=1$ の Hilbert 変換については、特異積分作用素 の系「切り落とした Hilbert 変換の一様な $L^p$ 評価」が同じ結論を核の側から与えている。Mikhlin の乗数定理は、表象の微分の条件だけからこの種の評価を一度に与える。

証明の準備:二進分解

隆起関数 の例「球の上の隆起関数」で $c=0$、$r_1=1$、$r_2=2$ とした $C^\infty$ 級関数を $\phi$ とする。$0\le\phi\le1$、$|\xi|\le1$ で $\phi=1$、$|\xi|\ge2$ で $\phi=0$ であり、$\phi$ は $|\xi|$ について減少する(同じ記事の滑らかな階段関数 $g$ は、$g(t)=1/\bigl(1+h(1-t)/h(t)\bigr)$($0< t< 1$)から増加である)。
$$ \psi(\xi):=\phi(\xi)-\phi(2\xi) $$
とおくと、$\psi$ は $C^\infty$ 級、$0\le\psi\le1$ で、$\frac12\le|\xi|\le2$ の外では $0$ である。$\xi\ne0$ なら、和が打ち消し合って
$$ \sum_{j=-M}^{N}\psi(2^{-j}\xi)=\phi(2^{-N}\xi)-\phi(2^{M+1}\xi)\in[0,1] $$
であり、$M,N\to\infty$ で $1$ に近づく。$j\in\mathbb Z$ について
$$ m_j(\xi):=m(\xi)\,\psi(2^{-j}\xi),\qquad K_j(x):=\int_{\mathbb R^n}m_j(\xi)e^{2\pi ix\cdot\xi}\,d\xi $$
とおく。$m_j$ は $C^{n+1}$ 級で、環 $2^{j-1}\le|\xi|\le2^{j+1}$ の外では $0$ である。以下 $c_n$ は $n$ だけで決まる定数を表し、現れるたびに値が変わってよい。

各片の核の評価

$K_j$ は $C^1$ 級で、すべての $x$ について
$$ |K_j(x)|\le c_nB\,2^{jn}\min\{1,(2^j|x|)^{-n-1}\},\qquad|\nabla K_j(x)|\le c_nB\,2^{j(n+1)}\min\{1,(2^j|x|)^{-n-1}\} $$
である。

要点:$m_j$ の各階の偏導関数は $B2^{-j|\alpha|}$ 程度で、台の体積は $2^{jn}$ 程度である。部分積分で $x_l^{n+1}K_j(x)$ を $\partial_l^{n+1}m_j$ の積分に書き換えると、$|x|$ が大きいところでの減衰が出る。

詳しい証明を開く

表象の評価。$|\alpha|\le n+1$ とする。Leibniz の公式で $\partial^\alpha m_j=\sum_{\beta+\gamma=\alpha}\binom\alpha\beta\,\partial^\beta m(\xi)\,2^{-j|\gamma|}(\partial^\gamma\psi)(2^{-j}\xi)$ である。台の上では $|\xi|\ge2^{j-1}$ なので $|\partial^\beta m(\xi)|\le B|\xi|^{-|\beta|}\le2^{|\beta|}B2^{-j|\beta|}$ であり、$\partial^\gamma\psi$ は有界なので、$|\partial^\alpha m_j|\le c_nB2^{-j|\alpha|}$ である。$\xi_lm_j$ については $\partial^\alpha(\xi_lm_j)=\xi_l\partial^\alpha m_j+\alpha_l\partial^{\alpha-e_l}m_j$($e_l$ は第 $l$ 単位ベクトル、$\alpha_l=0$ なら第 2 項はない)と $|\xi_l|\le2^{j+1}$ から $|\partial^\alpha(\xi_lm_j)|\le c_nB2^{j(1-|\alpha|)}$ である。台の体積は $|B(0,1)|2^{(j+1)n}$ 以下である。

核の評価。$m_j$ は台がコンパクトな連続関数なので積分は絶対収束し、$|K_j(x)|\le\|m_j\|_1\le c_nB2^{jn}$ である。$\partial_{\xi_l}e^{2\pi ix\cdot\xi}=2\pi ix_le^{2\pi ix\cdot\xi}$ と部分積分(台がコンパクトなので境界の項は出ない)を $n+1$ 回くり返すと $(2\pi ix_l)^{n+1}K_j(x)=(-1)^{n+1}\int\partial_l^{n+1}m_j(\xi)\,e^{2\pi ix\cdot\xi}\,d\xi$ なので $|2\pi x_l|^{n+1}|K_j(x)|\le\|\partial_l^{n+1}m_j\|_1\le c_nB2^{-j(n+1)}2^{jn}$ である。$|x_l|\ge|x|/\sqrt n$ となる $l$ を選べば $|K_j(x)|\le c_nB2^{jn}(2^j|x|)^{-n-1}$ を得る。積分記号の下で微分すると(被積分関数とその $x$ での偏導関数は台の上で一様に有界)、$K_j$ は $C^1$ 級で $\partial_{x_l}K_j(x)=\int2\pi i\xi_lm_j(\xi)e^{2\pi ix\cdot\xi}\,d\xi$ である。これは $m_j$ を $2\pi i\xi_lm_j$ に替えた同じ形の積分で、上の評価に $2^j$ が 1 つ余分に付く。$\square$

以下で使う積分の評価を先にまとめておく。$v_n:=|B(0,1)|$ とする。$r>0$ について、殻 $2^ir\le|z|<2^{i+1}r$($i\ge0$)に分けると
$$ \int_{|z|\ge r}|z|^{-n-1}\,dz\le\sum_{i\ge0}(2^ir)^{-n-1}v_n(2^{i+1}r)^n=\frac{2^{n+1}v_n}r,\qquad \int_{\mathbb R^n}\min\{1,|w|^{-n-1}\}\,dw\le v_n+2^{n+1}v_n $$
である。

核が Calderón–Zygmund 核であること

核の大きさと Hörmander の条件

$x\ne0$ で $K(x):=\sum_{j\in\mathbb Z}K_j(x)$ は絶対収束し、$\mathbb R^n\setminus\{0\}$ の各コンパクト集合の上で一様に収束する。さらに $n$ だけで決まる定数 $c_n$ があり、$A:=c_nB$ について次が成り立つ。とくに $K$ は定数 $A$ の Calderón–Zygmund 核である(特異積分作用素 の定義「Calderón–Zygmund 核」)。
$$ \sum_j|K_j(x)|\le\frac A{|x|^n}\quad(x\ne0),\qquad\int_{|x|\ge2|y|}|K(x-y)-K(x)|\,dx\le A\quad(y\ne0). $$

大きさ。 $r:=|x|$ とする。lem-mk-pieces から、$2^jr\le1$ の $j$ の和は $c_nB\sum_{2^j\le1/r}2^{jn}\le2c_nBr^{-n}$、$2^jr>1$ の $j$ の和は $c_nBr^{-n-1}\sum_{2^j>1/r}2^{-j}\le2c_nBr^{-n}$ である。$\mathbb R^n\setminus\{0\}$ のコンパクト集合の上では $|x|\ge r_1$ となる $r_1>0$ があり、lem-mk-pieces から各項は $|K_j(x)|\le c_nB\,2^{jn}\min\{1,(2^jr_1)^{-n-1}\}$ と $x$ によらない数で抑えられ、上と同じ計算でその和は有限である。よって 一様収束 の定理「Weierstrassの優級数判定法」により、級数はコンパクト集合の上で一様に収束する。
Hörmander の条件。 $y\ne0$ を固定し、$j$ ごとに 2 通りに評価する。$|x|\ge2|y|$ なら $|x-y|\ge|y|$ なので、置換 $z=x-y$ と上の積分の評価から
$$ \int_{|x|\ge2|y|}|K_j(x-y)-K_j(x)|\,dx\le2\int_{|z|\ge|y|}|K_j(z)|\,dz\le2c_nB2^{-j}\int_{|z|\ge|y|}|z|^{-n-1}\,dz\le\frac{c_nB}{2^j|y|} $$
である。一方、線分に沿った平均値の定理から $|K_j(x-y)-K_j(x)|\le|y|\int_0^1|\nabla K_j(x-sy)|\,ds$ であり、$x$ について積分して Tonelliの定理 を使うと
$$ \int|K_j(x-y)-K_j(x)|\,dx\le|y|\,\|\nabla K_j\|_1\le|y|\,c_nB2^{j(n+1)}\int\min\{1,(2^j|z|)^{-n-1}\}\,dz\le c_nB\,2^j|y| $$
である($w=2^jz$ と置換した)。$|K(x-y)-K(x)|\le\sum_j|K_j(x-y)-K_j(x)|$ なので、Tonelli の定理により左辺の積分は $c_nB\sum_j\min\{2^j|y|,(2^j|y|)^{-1}\}\le4c_nB$ 以下である($2^j|y|\le1$ の部分と $>1$ の部分がそれぞれ公比 $\frac12$ の等比級数で $2$ 以下)。$\square$

$T_m$ は特異積分作用素

コンパクト集合 $S$ の外で $0$ となる $f\in L^2$ について、ほとんどすべての $x\notin S$ で
$$ T_mf(x)=\int_{\mathbb R^n}K(x-y)f(y)\,dy $$
である。したがって $T_m$ は、lem-mk-kernel の核 $K$ の特異積分作用素(特異積分作用素 の定義「特異積分作用素」)であり、$\|T_m\|\le B$ である。

要点:$m$ を有限個の片の和 $m^{(N)}:=\sum_{|j|\le N}m_j$ で近似する。各片では $T_{m_j}f=K_j*f$ であり、$N\to\infty$ で左辺は $L^2$ で $T_mf$ に、右辺は $S$ の外の各点で $\int K(x-y)f(y)\,dy$ に近づく。

詳しい証明を開く

$S$ は有界なので $f\in L^1\cap L^2$ である(Hölderの不等式)。

各片。lem-mk-pieces から $K_j$ は有界で可積分である。$\tilde m_j(\xi):=m_j(-\xi)$ とおくと $K_j=\widehat{\tilde m_j}$ で、$\tilde m_j$ と $K_j$ はともに可積分かつ連続なので、Fourier変換 の定理「Fourier反転公式」から $\tilde m_j(\xi)=\int K_j(x)e^{2\pi ix\cdot\xi}\,dx$、すなわち $\widehat{K_j}=m_j$ である。$K_j*f$ は $L^1$ に属し(同じ記事の命題「畳み込み定理」)、$K_j$ が有界なので $|K_j*f|\le\|K_j\|_\infty\|f\|_1$ で有界でもあり、$L^1\cap L^2$ に属する。畳み込み定理から $\widehat{K_j*f}=m_j\widehat f$ なので、Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 2 から $\mathcal F(K_j*f)=m_j\mathcal Ff=\mathcal F(T_{m_j}f)$、よって $T_{m_j}f=K_j*f$ である。

$L^2$ での極限。$m^{(N)}=m\sum_{|j|\le N}\psi(2^{-j}\cdot)$ は $|m^{(N)}|\le|m|\le B$ を満たし、$\xi\ne0$ で $m$ に収束する。$\|T_{m^{(N)}}f-T_mf\|_2=\|(m^{(N)}-m)\mathcal Ff\|_2$ は優収束定理(優関数 $4B^2|\mathcal Ff|^2$)で $0$ に近づくので、部分列をとればほとんど至るところ $T_{m^{(N)}}f\to T_mf$ である(Lp空間 の系「各点収束する部分列」)。

各点での極限。各片の結果から、ほとんど至るところ $T_{m^{(N)}}f=\sum_{|j|\le N}K_j*f$ であり、右辺はすべての点で定義される。$x\notin S$、$\delta:=\operatorname{dist}(x,S)>0$ とすると、$\sum_{|j|\le N}K_j*f(x)=\int\sum_{|j|\le N}K_j(x-y)f(y)\,dy$ で、$y\in S$ で被積分関数は $\sum_j|K_j(x-y)||f(y)|\le A\delta^{-n}|f(y)|$(lem-mk-kernel)で抑えられる。優収束定理により、これは $N\to\infty$ で $\int K(x-y)f(y)\,dy$ に近づく。2 つの極限を合わせると、ほとんどすべての $x\notin S$ で主張の等式が成り立つ。$\|T_m\|\le\|m\|_\infty\le B$ は定義の後で述べた。$\square$

二進分解から Calderón–Zygmund の定理へ

$B=0$ なら $T_m=0$ である。$B>0$ なら $m/B$ は $B=1$ で仮定を満たし、$T_m=BT_{m/B}$ である。prop-mk-sio により $T_{m/B}$ は、作用素ノルム $1$ 以下で、核が $n$ だけで決まる定数 $c_n$ の Calderón–Zygmund 核である特異積分作用素である。特異積分作用素 の定理「特異積分作用素の有界性(Calderón–Zygmund)」を当てると、1 から弱 $(1,1)$ 型の評価が、2 から $1< p<\infty$ での $\|T_{m/B}f\|_p\le C_{n,p}\|f\|_p$ が得られる。その定数は $n,p$、核の定数、作用素ノルムの上界で決まる(同じ定理の証明の定数の式はこれらについて増加である)ので、$n,p$ だけで決まる。$\square$

Calderón–Zygmund の理論の中で、$L^2$ での有界性と弱 $(1,1)$ 型評価から $1< p<2$ の評価を出す段は、Marcinkiewiczの補間定理 の議論(分布関数による $L^p$ ノルムの表示)そのものであり、$p>2$ は随伴作用素(表象 $\overline m$ も同じ条件を満たす)に帰着する。

条件を外したときの反例

端点 $p=1$ と $p=\infty$

$n=1$、$m(\xi)=-i\operatorname{sgn}\xi$(ex-mk-examples の 1)は thm-mk-main の仮定を $B=1$ で満たす。$f:=1_{[0,1]}$ とすると、ほとんどすべての $x$ で
$$ T_mf(x)=\frac1\pi\log\Bigl|\frac x{x-1}\Bigr| $$
である。$x>2$ では $\log\frac x{x-1}=-\log\bigl(1-\frac1x\bigr)\ge\frac1x$ なので $T_mf\notin L^1$ であり、$x\downarrow1$ で $T_mf(x)\to\infty$ なので $T_mf\notin L^\infty$ である。$f\in L^1\cap L^2\cap L^\infty$ なので、$m$ は $L^1$ 乗数でも $L^\infty$ 乗数でもない。

$T_mf$ の式の証明を開く

特異積分作用素 の切り落とした Hilbert 変換 $H_{\varepsilon,R}f=K_{\varepsilon,R}*f$ を使う。同じ記事の命題「切り落とした Hilbert 変換」の証明により、$f\in L^1\cap L^2$ について $\mathcal F(H_{\varepsilon,R}f)=\widehat{K_{\varepsilon,R}}\,\mathcal Ff$、$|\widehat{K_{\varepsilon,R}}|\le6/\pi$ であり、$\varepsilon\to0$、$R\to\infty$ で $\widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)\to-i\operatorname{sgn}\xi$ である(Cauchyの主値 の系「Dirichlet の正弦積分」)。優収束定理により $\varepsilon=1/k$、$R=k$ の列で $H_{\varepsilon,R}f\to T_mf$($L^2$)であり、部分列はほとんど至るところ収束する。一方 $x\notin\{0,1\}$ を固定すると、$\varepsilon<\min\{|x|,|x-1|\}$、$R>|x|+1$ なら、$x\notin[0,1]$ では $H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\int_0^1\frac{dy}{x-y}=\frac1\pi\log\bigl|\frac x{x-1}\bigr|$、$0< x< 1$ では $H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\bigl(\log\frac x\varepsilon-\log\frac{1-x}\varepsilon\bigr)=\frac1\pi\log\frac x{1-x}$ である。$\square$

複素数のパラメータの Gauss 関数

$\operatorname{Re}z>0$ とし、$z^{-1/2}$ を主枝($z>0$ で正)とする。すべての $x\in\mathbb R^n$ で
$$ \int_{\mathbb R^n}e^{-\pi z|\xi|^2}e^{2\pi ix\cdot\xi}\,d\xi=\bigl(z^{-1/2}\bigr)^ne^{-\pi|x|^2/z} $$
である。

被積分関数は座標ごとの積なので $n=1$ でよい。$z>0$ のときは Gauss積分 の系「Gauss関数のFourier変換」で $a=\pi z$ とおいた式である(被積分関数の $e^{-\pi z\xi^2}$ が偶関数なので指数の符号はどちらでもよい)。両辺は $\operatorname{Re}z>0$ で $z$ の正則関数である(左辺は、$\operatorname{Re}z\ge c>0$ で被積分関数とその $z$ での導関数が $(1+\xi^2)e^{-\pi c\xi^2}$ の定数倍で抑えられるので、積分記号の下で微分できる)。正の実軸の上で一致するので、一致の定理 により $\operatorname{Re}z>0$ 全体で一致する。$\square$

振動する表象 $e^{i\pi|\xi|^2}$

$m(\xi):=e^{i\pi|\xi|^2}$ は滑らかで $|m|=1$ だが、$|\partial_jm(\xi)|=2\pi|\xi_j|$ は $|\xi|\to\infty$ で大きくなり、$|\alpha|=1$ の条件 $|\partial^\alpha m(\xi)|\le B|\xi|^{-1}$ を満たさない。この $m$ は $p\ne2$ のどの $L^p$ 乗数でもない。
$\lambda>0$ について $f_\lambda(x):=e^{-\pi|x|^2/\lambda}$ とおく。lem-mk-complex-gauss から $\widehat{f_\lambda}(\xi)=\lambda^{n/2}e^{-\pi\lambda|\xi|^2}$ であり、$m\widehat{f_\lambda}=\lambda^{n/2}e^{-\pi(\lambda-i)|\xi|^2}$ は可積分なので、$T_mf_\lambda$ は逆向きの積分で計算でき、
$$ T_mf_\lambda(x)=\lambda^{n/2}(\lambda-i)^{-n/2}e^{-\pi|x|^2/(\lambda-i)},\qquad|T_mf_\lambda(x)|=\frac{\lambda^{n/2}}{(\lambda^2+1)^{n/4}}e^{-\pi\lambda|x|^2/(\lambda^2+1)} $$
である($\operatorname{Re}\frac1{\lambda-i}=\frac\lambda{\lambda^2+1}$)。$\int e^{-\pi c|x|^2}dx=c^{-n/2}$ を使って $L^p$ ノルムを計算すると
$$ \frac{\|T_mf_\lambda\|_p}{\|f_\lambda\|_p}=\lambda^{\frac n2-\frac np}(\lambda^2+1)^{\frac n{2p}-\frac n4} $$
である。$1\le p<2$ なら、$\lambda\to+0$ でこの比は $\infty$ に発散する。$2< p\le\infty$ なら、$g_\lambda:=T_{\overline m}f_\lambda$ とおくと、同じ計算($i$ を $-i$ に替える)で $|g_\lambda|=|T_mf_\lambda|$、かつ $|m|=1$ から $T_mg_\lambda=f_\lambda$ なので、$\|T_mg_\lambda\|_p/\|g_\lambda\|_p$ は上の比の逆数で、$\lambda\to+0$ で $\infty$ に発散する($p=\infty$ でも $\frac1p=0$ として同じ式が成り立つ)。ここで $(\lambda-i)^{-n/2}$ は lem-mk-complex-gauss の $(z^{-1/2})^n$($z=\lambda-i$)を表す。

外す条件反例成り立たなくなること
$1< p$ex-mk-endpoints($p=1$)$L^1$ 乗数であること
$p<\infty$ex-mk-endpoints($p=\infty$)$L^\infty$ 乗数であること
$\alpha=0$ の条件 $\lvert m\rvert\le B$$n=1$、$m(\xi)=\log\lvert\xi\rvert$($\lvert m'\rvert=\lvert\xi\rvert^{-1}$、$\lvert m''\rvert=\lvert\xi\rvert^{-2}$ なので $\lvert\alpha\rvert=1,2$ の条件は $B=1$ で満たす)$L^2$ 乗数であること($m$ が有界でない。def-mk-multiplier の後の段落)
$\lvert\alpha\rvert\ge1$ の条件ex-mk-schrodinger の $m(\xi)=e^{i\pi\lvert\xi\rvert^2}$$p\ne2$ での $L^p$ 乗数であること

3 行目の $m$ は $L^\infty$ に属さないので def-mk-multiplier の意味の乗数ではないが、式 $\mathcal F^{-1}(m\,\mathcal Ff)$ で定めた作用素は、$\mathcal Ff$ を $[a,a+1]$($a\ge1$)の指示関数とする $f$ で $\|T_mf\|_2\ge(\log a)\|f\|_2$ となり、どの $L^2$ 評価も成り立たない。

補足

Fourier 乗数作用素は、平行移動と交換する作用素の典型である(def-mk-multiplier の後の段落)。Mikhlin の乗数定理は、そのような作用素のうち $L^p$ でも有界なものを、表象の滑らかさから見分ける規準を与える。$p=2$ では表象の有界性だけで足り、$p\ne2$ では ex-mk-schrodinger のように絶対値が $1$ の表象でも有界にならないことがあるので、滑らかさの条件は本質的である。
偏微分方程式では、cor-mk-homogeneous の評価 $\|\partial_j\partial_ku\|_p\le C\|\Delta u\|_p$ が、Laplace 作用素の像から 2 階のすべての偏導関数を $L^p$ ノルムで抑える評価の典型である。$p=2$ では、$|\xi_j\xi_k|\le|\xi|^2$ と Plancherel の定理だけで定数 $1$ の評価が出る。

関連項目

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