Riemann球面(Riemann sphere)とは、複素平面 $\mathbb{C}$ に無限遠点 $\infty$ を 1 点付け加えた $\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ に、$\infty$ の近くでは $w=1/z$ を座標とする複素構造を入れたコンパクトな Riemann 面である。立体射影により 2 次元球面 $S^2$ と同相であり、複素射影直線 $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ と双正則である。$\hat{\mathbb{C}}$ 上の正則関数は定数に限る一方、$\hat{\mathbb{C}}$ から自身への定数でない正則写像はちょうど定数でない有理関数であり、次数 $d$ の有理関数はすべての値を重複度込みでちょうど $d$ 回とる。
複素平面 $\mathbb{C}$ の上では、$1/z$ は $z=0$ で値を持たず、有理関数 $p(z)/q(z)$ は分母の零点で定義できない。そこで $\mathbb{C}$ に「無限遠点」$\infty$ を 1 点だけ付け加え、$1/0=\infty$、$1/\infty=0$ と約束すると、$z\mapsto1/z$ は $0$ と $\infty$ を入れ替える全単射になり、有理関数は極で値 $\infty$ をとる連続写像になる。付け加える点が 1 つだけであることは、$\mathbb{C}$ のどの方向へ遠ざかっても同じ点 $\infty$ に近づくことを意味する。この様子は、球面を平面に投影する立体射影で北極を $\infty$ に対応させると目に見える形になる。
こうして得られる $\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ に、$\infty$ の近くでは $w=1/z$ を座標とする複素構造を入れたものが Riemann 球面である。同じものが、$\mathbb{C}$ の一点コンパクト化、2 次元球面 $S^2$、複素射影直線 $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ という 3 つの姿をとる。Riemann 球面は最も基本的なコンパクトなリーマン面であり、その上の有理型関数はちょうど有理関数で、定数でない正則写像 $\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ はどの値も同じ回数(重複度込み)だけとる。この「コンパクトだから数が釣り合う」という現象が、留数定理・因子・種数 の理論の出発点になる。
$\infty$ を $\mathbb{C}$ に属さない 1 つの記号とし、$\hat{\mathbb{C}}:=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ とおく。部分集合 $U\subset\hat{\mathbb{C}}$ が開集合であることを、次のいずれかが成り立つことと定める。
(R1) $\infty\notin U$ であり、$U$ は $\mathbb{C}$ の開集合である。
(R2) $\infty\in U$ であり、$U\cap\mathbb{C}$ は $\mathbb{C}$ の開集合で、ある $R>0$ について $\{z\in\mathbb{C}\mid\lvert z\rvert>R\}\subset U$ である。
この位相空間 $\hat{\mathbb{C}}$ を拡張複素平面(extended complex plane)という。
条件 (ii) の開集合は、$\hat{\mathbb{C}}\setminus U$ が $\mathbb{C}$ の有界閉集合、すなわちコンパクト集合(コンパクト空間)であるものと言い換えられる。したがってこの位相は $\mathbb{C}$ の一点コンパクト化の位相である。$\mathbb{C}$ の点列 $(z_n)$ が $\infty$ に収束することは $\lvert z_n\rvert\to\infty$ と同値であり、$\infty$ の近さは「絶対値の大きさ」だけで測られ、偏角の方向を区別しない。
拡張複素平面 $\hat{\mathbb{C}}$ の 2 つの開集合 $U_0:=\mathbb{C}$、$U_\infty:=\hat{\mathbb{C}}\setminus\{0\}$ の上に、写像
$$
z\colon U_0\to\mathbb{C},\quad z(p)=p,\qquad\qquad w\colon U_\infty\to\mathbb{C},\quad w(p)=\frac1p\ (p\neq\infty),\quad w(\infty)=0
$$
を考える。$U_0\cap U_\infty=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の座標変換は $w\circ z^{-1}(z)=1/z$、$z\circ w^{-1}(w)=1/w$ であり、どちらも $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の正則関数である。この 2 つの座標を含む複素構造を入れた $\hat{\mathbb{C}}$ を Riemann 球面(Riemann sphere)という。
$\hat{\mathbb{C}}$ がこの 2 つの座標で実際に Riemann 面になることは、下の thm-riemann-sphere-riemann-surface で確かめる。定義から、$\infty$ のまわりで関数や写像が正則であるとは、座標 $w=1/z$ で書き直したものが $w=0$ のまわりで正則であることをいう。たとえば $\hat{\mathbb{C}}$ の $\infty$ の近傍で定義された複素数値関数 $f$ が $\infty$ で正則であるとは、$g(w):=f(1/w)$($g(0):=f(\infty)$)が $w=0$ の近傍で正則であることである。
2 次元球面 $S^2:=\{(x_1,x_2,x_3)\in\mathbb{R}^3\mid x_1^2+x_2^2+x_3^2=1\}$ の北極を $N:=(0,0,1)$、南極を $S:=(0,0,-1)$ とする。$\mathbb{C}$ を平面 $x_3=0$ と $x_1+ix_2\leftrightarrow(x_1,x_2,0)$ で同一視する。$P\in S^2\setminus\{N\}$ に対し、$N$ と $P$ を通る直線が平面 $x_3=0$ と交わる点を $\varphi(P)$ とし、$\varphi(N):=\infty$ とおく。こうして得られる写像 $\varphi\colon S^2\to\hat{\mathbb{C}}$ を、北極からの立体射影(stereographic projection)という。
この定義は Bec25 Definition 3.3.1 と同じである。文献によって、Riemann 球面を $\hat{\mathbb{C}}$ のほか $\mathbb{C}_\infty$、$\mathbb{C}^+$、$\mathbb{P}^1$、$\mathbb{C}\mathrm{P}^1$ とも書く。Bec25 Definition 3.2.4 は拡張複素平面、Riemann 球面、複素射影直線を同じものの名前として並べており、Hit18 §3.3 は $\mathbb{C}^+$ を「extended plane」と呼ぶ。
立体射影 $\varphi\colon S^2\to\hat{\mathbb{C}}$ は
$$
\varphi(x_1,x_2,x_3)=\frac{x_1+ix_2}{1-x_3}\quad(x_3\neq1),\qquad\varphi(N)=\infty
$$
で与えられる全単射であり、逆写像は
$$
\varphi^{-1}(w)=\left(\frac{2\operatorname{Re}w}{\lvert w\rvert^2+1},\ \frac{2\operatorname{Im}w}{\lvert w\rvert^2+1},\ \frac{\lvert w\rvert^2-1}{\lvert w\rvert^2+1}\right)\quad(w\in\mathbb{C}),\qquad\varphi^{-1}(\infty)=N
$$
である。さらに $\varphi$ は同相写像であり、$P=(x_1,x_2,x_3)\neq N$ について
$$
\lvert\varphi(P)\rvert^2=\frac{1+x_3}{1-x_3}
$$
が成り立つ。とくに南半球 $x_3<0$ は単位円板の内部 $\lvert w\rvert<1$ に、赤道 $x_3=0$ は単位円 $\lvert w\rvert=1$ に、北半球から $N$ を除いた部分は $\lvert w\rvert>1$ に移り、$\varphi(S)=0$ である。
要点:$N$ と $P$ を通る直線 $N+t(P-N)$ の第 3 成分が $0$ になるのは $t=1/(1-x_3)$ のときだから、$\varphi(P)=(x_1+ix_2)/(1-x_3)$ である。$x_1^2+x_2^2=(1-x_3)(1+x_3)$ から $\lvert\varphi(P)\rvert^2=(1+x_3)/(1-x_3)$ が出て、これが $x_3$ の増加関数であることから、半球の対応と、$N$ と $\infty$ の近傍どうしの対応が分かる。
$P=(x_1,x_2,x_3)\in S^2\setminus\{N\}$ とすると $x_3<1$ である。$N$ と $P$ を通る直線は $r(t)=N+t(P-N)=(tx_1,\ tx_2,\ 1+t(x_3-1))$($t\in\mathbb{R}$)で、第 3 成分が $0$ になるのは $t=1/(1-x_3)$ のときだけだから、$\varphi(P)=(x_1+ix_2)/(1-x_3)$ である。$x_1^2+x_2^2=1-x_3^2$ を使うと
$$\lvert\varphi(P)\rvert^2=\frac{x_1^2+x_2^2}{(1-x_3)^2}=\frac{(1-x_3)(1+x_3)}{(1-x_3)^2}=\frac{1+x_3}{1-x_3}$$
を得る。右辺は $x_3$ について狭義に単調増加で、$x_3=-1,0$ で $0,1$ になるから、半球についての主張が従う。
次に $w\in\mathbb{C}$、$s:=\lvert w\rvert^2$ とし、$\psi(w)$ を主張の右辺で定める。$\psi(w)$ の成分の 2 乗和は $\bigl(4s+(s-1)^2\bigr)/(s+1)^2=1$ だから $\psi(w)\in S^2$ で、第 3 成分は $1$ より小さいので $\psi(w)\neq N$ である。$1-\frac{s-1}{s+1}=\frac{2}{s+1}$ より $\varphi(\psi(w))=\frac{2w/(s+1)}{2/(s+1)}=w$ である。逆に $P\neq N$ で $s=\lvert\varphi(P)\rvert^2=\frac{1+x_3}{1-x_3}$ とすると $s+1=\frac{2}{1-x_3}$、$s-1=\frac{2x_3}{1-x_3}$ なので、$\psi(\varphi(P))$ の第 3 成分は $x_3$、第 1 成分は $\frac{2x_1}{1-x_3}\cdot\frac{1-x_3}{2}=x_1$、第 2 成分も同様に $x_2$ である。よって $\varphi$ は $S^2\setminus\{N\}$ から $\mathbb{C}$ への全単射で、$N\mapsto\infty$ と合わせて全単射 $S^2\to\hat{\mathbb{C}}$ になる。
最後に連続性を示す。$S^2\setminus\{N\}$ 上の $\varphi$ と $\mathbb{C}$ 上の $\psi$ は、分母の消えない有理式で書けるので連続である。$N$ と $\infty$ での連続性を見るため、$R>0$ を任意にとり、$c_R:=\frac{R^2-1}{R^2+1}$ とおく。$\lvert\varphi(P)\rvert^2=\frac{1+x_3}{1-x_3}$ は $x_3$ の増加関数なので、$P\neq N$ について $\lvert\varphi(P)\rvert>R$ と $x_3>c_R$ は同値である。$S^2$ 上で $\lvert P-N\rvert^2=x_1^2+x_2^2+(x_3-1)^2=2-2x_3$ だから、$\{P\in S^2\mid x_3>c_R\}$ は $N$ を中心とする半径 $\sqrt{2-2c_R}$ の開球と $S^2$ の交わりであり、$R\to\infty$ のとき半径は $0$ に近づく。したがって $\varphi$ は、$N$ の近傍の基本系 $\{P\mid x_3>c_R\}$ を $\infty$ の近傍の基本系 $\{\lvert w\rvert>R\}\cup\{\infty\}$ にちょうど写す。これで $\varphi$ の $N$ での連続性と $\varphi^{-1}$ の $\infty$ での連続性が示され、$\varphi$ は連続な全単射で逆写像も連続、すなわち同相写像である。
この命題は Bec25 Proposition 3.3.3 にあたる。$\varphi$ が同相写像であることは、一般次元の立体射影について n次元球面 の記事の命題「Euclid 空間の一点コンパクト化」でも示されている。
北極 N から球面上の点 P を通る直線を引き、平面 x3=0 と交わる点を φ(P) とする。北半球の点は単位円の外、南半球の点は内に移る
北極と南極を通る切り口で見た立体射影。単位円より上の点は円の外へ、下の点は円の内へ移り、北極に近いほど遠くへ移る
立体射影 $\varphi$ は、$S^2$ 上の円全体から $\hat{\mathbb{C}}$ の円全体への全単射を引き起こす。$S^2$ 上の円 $\gamma$ の像 $\varphi(\gamma)$ が $\infty$ を含む(すなわち直線と $\infty$ からなる)のは、$\gamma$ が北極 $N$ を通るとき、かつそのときに限る。
$\gamma=S^2\cap H$ とし、平面 $H$ を単位法ベクトル $(a_1,a_2,a_3)$ と実数 $k$ で $H=\{a_1x_1+a_2x_2+a_3x_3=k\}$ と書く。原点から $H$ への距離は $\lvert k\rvert$ だから、$\gamma$ が 2 点以上を含むことは $\lvert k\rvert<1$ と同値である。
点 $w=u+iv\in\mathbb{C}$ が $\varphi(\gamma)$ に属することは、$\varphi^{-1}(w)\in H$ と同値である。prop-riemann-sphere-stereographic-formula の式を代入し、$s=u^2+v^2$ として分母 $s+1$ を払うと、条件は次の式になる。これを $(\ast)$ と呼ぶ。
$$
(a_3-k)(u^2+v^2)+2a_1u+2a_2v-(a_3+k)=0
$$
$N\in H$ は $a_3=k$ と同値である。$a_3=k$ のとき $(\ast)$ は直線 $a_1u+a_2v=k$ を表し、$a_3\neq k$ のとき $(\ast)$ は中心 $-(a_1+ia_2)/(a_3-k)$、半径 $\sqrt{1-k^2}/\lvert a_3-k\rvert$ の円を表す。これで、$S^2$ 上の円が $\hat{\mathbb{C}}$ の円に写ることと、$\infty$ を含む条件が示される。
$a_3=k$ のとき、$(\ast)$ は $a_1u+a_2v=k$ となる。ここで $(a_1,a_2)\neq(0,0)$ である(もし $a_1=a_2=0$ なら $a_3=\pm1$ で $\lvert k\rvert=1$ となり $\lvert k\rvert<1$ に反する)から、これは直線であり、$\varphi(\gamma)$ はこの直線に $\varphi(N)=\infty$ を加えたものである。$a_3\neq k$ のとき、$(\ast)$ を $a_3-k$ で割って平方完成すると
$$\left\lvert w+\frac{a_1+ia_2}{a_3-k}\right\rvert^2=\frac{a_1^2+a_2^2+a_3^2-k^2}{(a_3-k)^2}=\frac{1-k^2}{(a_3-k)^2}$$
となり、右辺は正だから $\varphi(\gamma)$ は円である。
$\mathbb{C}$ の円 $\lvert w-c\rvert=r$ は $u^2+v^2-2(\operatorname{Re}c)u-2(\operatorname{Im}c)v+\lvert c\rvert^2-r^2=0$、直線は $Bu+Cv+D=0$($(B,C)\neq(0,0)$)と書けるので、どちらも実数 $A,B,C,D$ で $A(u^2+v^2)+Bu+Cv+D=0$、$B^2+C^2>4AD$ の形に書ける(円では $B^2+C^2-4AD=4r^2$)。$(A-D)^2+B^2+C^2>(A+D)^2\geq0$ だから、$\lambda>0$ を $\lambda^2\bigl((A-D)^2+B^2+C^2\bigr)=4$ となるようにとれる。
$a_1:=\lambda B/2$、$a_2:=\lambda C/2$、$a_3:=\lambda(A-D)/2$、$k:=-\lambda(A+D)/2$ とおくと、$(a_1,a_2,a_3)$ は単位ベクトルで、$1-k^2=\frac{\lambda^2}{4}\bigl(B^2+C^2-4AD\bigr)>0$ より $\lvert k\rvert<1$ である。さらに $a_3-k=\lambda A$、$2a_1=\lambda B$、$2a_2=\lambda C$、$-(a_3+k)=\lambda D$ だから、$(\ast)$ の左辺は $\lambda\bigl(A(u^2+v^2)+Bu+Cv+D\bigr)$ に等しい。よって、この平面 $H$ による円 $S^2\cap H$ の像は与えられた円(直線なら $\infty$ を加えたもの)である。
この定理は Bec25 Theorem 3.3.4 にあたる。立体射影は曲線の交わる角も保つ(Hit18 Theorem 3.3.5。この記事では証明しない)。
球面上の 2 つの円とその像。北極を通らない赤い円は平面上の円(破線)に、北極を通る青い円は平面上の直線(破線)に移る
図の赤い円は平面 $0.6x_1-0.8x_2=0.6$ による切り口で、北極を通らないので、像は中心 $1-\frac43i$、半径 $\frac43$ の円である。青い円は平面 $0.6x_2+0.8x_3=0.8$ による切り口で、北極を通るので、像は直線 $\operatorname{Im}w=\frac43$ である。どちらも $(\ast)$ に数値を代入すれば確かめられる。
複素射影直線 $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ は、$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ を「$0$ でない複素数倍で移り合う」同値関係で割った集合で、$(a_0,a_1)$ の類を $[a_0:a_1]$ と書く(射影空間)。開集合 $V_0:=\{a_0\neq0\}$、$V_1:=\{a_1\neq0\}$ の上の座標 $\phi_0([a_0:a_1])=a_1/a_0$、$\phi_1([a_0:a_1])=a_0/a_1$ はどちらも $\mathbb{C}$ への同相写像で、座標変換は $t\mapsto1/t$ である(射影空間 の記事の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」)。この 2 つの座標で $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ は Riemann 面になる。
(i) と (ii) の要点:(i) は $\hat{\mathbb{C}}$ が $S^2$ と同相であること(prop-riemann-sphere-stereographic-formula)から、(ii) は $w$ が $\infty$ の近傍 $\{\lvert p\rvert>R\}\cup\{\infty\}$ を $0$ の近傍 $\{\lvert w\rvert<1/R\}$ にちょうど写すことから従う。
(i):prop-riemann-sphere-stereographic-formula により $\hat{\mathbb{C}}$ は $S^2$ と同相である。$S^2$ は $\mathbb{R}^3$ の有界閉集合だからコンパクトで、$\mathbb{R}^3$ の部分空間として Hausdorff かつ可算な開基をもち、連結である(n次元球面 の記事の命題「球面の基本的な位相的性質」)。これらの性質は同相写像で保たれる。
(ii):$U_0=\mathbb{C}$ は def-riemann-sphere-extended-plane の条件 (i) により開集合で、$z$ は恒等写像だから同相写像である。$U_\infty=\hat{\mathbb{C}}\setminus\{0\}$ は、$U_\infty\cap\mathbb{C}=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ が開集合で $\{\lvert p\rvert>1\}\subset U_\infty$ だから、同じ定義の条件 (ii) により開集合である。$w$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上では同相写像 $p\mapsto1/p$ であり、$\infty\mapsto0$ を合わせて全単射 $U_\infty\to\mathbb{C}$ になる。さらに $R>0$ について $w$ は $\{\lvert p\rvert>R\}\cup\{\infty\}$ を $\{\lvert w\rvert<1/R\}$ にちょうど写し、前者は $\infty$ の近傍の基本系、後者は $0$ の近傍の基本系をなすので、$w$ と $w^{-1}$ は $\infty$ と $0$ でも連続である。座標変換 $1/z$、$1/w$ が $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上で正則であることは定義で見た。(i) と合わせて、$\hat{\mathbb{C}}$ は連結な Hausdorff 第二可算空間に正則な座標変換をもつ座標の族を与えたもの、すなわちコンパクトな Riemann 面である(リーマン面 の定義)。
この定理により、「一点コンパクト化 $\hat{\mathbb{C}}$」「球面 $S^2$」「射影直線 $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$」は同じ Riemann 面の 3 つの姿とみなせる。球面の上の複素構造は、$\varphi$ で $\hat{\mathbb{C}}$ から移したものである。位相空間として $\mathbb{C}\mathrm{P}^1$ が $S^2$ と同相であることは、射影空間 の記事の命題「射影直線と球面」でも示されている。
| 一点コンパクト化 $\hat{\mathbb{C}}$ | 球面 $S^2$ | 射影直線 $\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ | |
|---|---|---|---|
| 点 | 複素数と $\infty$ | 単位ベクトル $(x_1,x_2,x_3)$ | 原点を通る複素直線 $[a_0:a_1]$ |
| $\infty$ にあたる点 | $\infty$ | 北極 $N$ | $[0:1]$ |
| $0$ にあたる点 | $0$ | 南極 $S$ | $[1:0]$ |
| 座標 | $z$ と $1/z$ | $\varphi$ と $1/\varphi$ | $a_1/a_0$ と $a_0/a_1$ |
| 見やすいこと | 関数の極での値 | 円・角・コンパクト性 | 行列の作用・斉次座標 |
$J\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ を $J(z)=1/z$($z\neq0,\infty$)、$J(0)=\infty$、$J(\infty)=0$ で定める。$J$ は $J\circ J=\mathrm{id}$ を満たす全単射である。座標で書くと、$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上では $z\mapsto1/z$、$0$ の近くでは $w\circ J\circ z^{-1}(z)=w(1/z)=z$、$\infty$ の近くでは $z\circ J\circ w^{-1}(w)=w$ であり、どれも正則だから、$J$ は $\hat{\mathbb{C}}$ の双正則な自己同型である。
立体射影で球面に移すと、$J$ は $x_1$ 軸のまわりの $180^\circ$ 回転 $(x_1,x_2,x_3)\mapsto(x_1,-x_2,-x_3)$ になる。つまり $1/\varphi(P)=\varphi(x_1,-x_2,-x_3)$ である。
$P=(x_1,x_2,x_3)\neq N,S$ に対し $x_1^2+x_2^2=(1-x_3)(1+x_3)$ を使うと
$$\frac1{\varphi(P)}=\frac{1-x_3}{x_1+ix_2}=\frac{(1-x_3)(x_1-ix_2)}{x_1^2+x_2^2}=\frac{x_1-ix_2}{1+x_3}=\varphi(x_1,-x_2,-x_3)$$
であり、$N\leftrightarrow S$ も $0\leftrightarrow\infty$ に対応する。
$n\geq1$ とし、$F_n(z)=z^n$ を $F_n(\infty):=\infty$ で $\hat{\mathbb{C}}$ に延ばす。$\infty$ のまわりの座標 $w$ で書くと、$w\circ F_n\circ w^{-1}(w)=1/(1/w)^n=w^n$ だから、$F_n$ は $\infty$ で正則で、$\infty$ の近くでは $w\mapsto w^n$ の形をしている。つまり $F_n$ は $0$ と $\infty$ の両方で「$n$ 対 $1$ に巻きつく」写像であり、$0$ と $\infty$ 以外の値 $c$ は、$c$ の $n$ 乗根としてちょうど $n$ 回とられる。一般の $n$ 次多項式 $a_nz^n+\cdots+a_0$($a_n\neq0$)も、$w$ で書くと $w^n/(a_n+a_{n-1}w+\cdots+a_0w^n)$ となり、$\infty$ で正則で $\infty$ を $n$ 重にとる。
$\tan z=\sin z/\cos z$ は $\mathbb{C}$ 上の有理型関数で、極は $z=\frac{\pi}{2}+n\pi$($n\in\mathbb{Z}$)である。有理型関数 の記事の命題「有理型関数と Riemann 球面への正則写像」により、極で値 $\infty$ をとると約束すれば $\tan\colon\mathbb{C}\to\hat{\mathbb{C}}$ は正則写像になり、$\tan\frac{\pi}{2}=\infty$ である。実数 $x\to\frac{\pi}{2}$ で $\tan x$ は左からは $+\infty$ 側、右からは $-\infty$ 側へ向かうが、$\hat{\mathbb{C}}$ では同じ 1 点 $\infty$ に近づく。ただし $\tan$ は $\infty$ まで連続に延ばすことすらできない。$n\to\infty$ のとき $n\pi\to\infty$、$\frac{\pi}{2}+n\pi\to\infty$ だが、$\tan(n\pi)=0$、$\tan(\frac{\pi}{2}+n\pi)=\infty$ で、値が $0$ と $\infty$ に分かれるからである。
$f\colon\hat{\mathbb{C}}\to\mathbb{C}$ が $\hat{\mathbb{C}}$ の各点で正則ならば、$f$ は定数である。
$f$ を $\mathbb{C}$ に制限したものは $\mathbb{C}$ 全体で正則、すなわち整関数である。$\infty$ で正則であることから、$g(w):=f(1/w)$($g(0)=f(\infty)$)は $w=0$ の近傍で正則、とくに連続である。そこで $r>0$ を $g$ が閉円板 $\lvert w\rvert\leq r$ 上で連続となるようにとると、この閉円板はコンパクトだから、ある $M_1$ について $\lvert g(w)\rvert\leq M_1$($\lvert w\rvert\leq r$)であり、これは $\lvert z\rvert\geq1/r$ で $\lvert f(z)\rvert\leq M_1$ ということである。一方、閉円板 $\lvert z\rvert\leq1/r$ 上で $f$ は連続だから、ある $M_2$ で押さえられる。よって $f$ は $\mathbb{C}$ 上で $\max\{M_1,M_2\}$ で押さえられる有界な整関数であり、Liouvilleの定理(複素解析) により定数である。$f(\infty)=\lim_{z\to\infty}f(z)$ もその定数に等しい。
同じ結論は Liouvilleの定理(複素解析) の記事の命題「Riemann 球面を経由する言い換え」でも、開写像定理を使う別の道筋で得られている。$\mathbb{C}$ の上では $f(z)=z$ のような定数でない正則関数がいくらでもあるから、この定理は $\hat{\mathbb{C}}$ のコンパクト性($\infty$ での正則性)を本質的に使っている。
$\hat{\mathbb{C}}$ への写像を考えると、事情はまったく変わる。値に $\infty$ を許せば、有理関数が $\hat{\mathbb{C}}$ の上で定義できる。
$p,q$ を複素係数の多項式で、$q\neq0$ かつ $p$ と $q$ が共通の根をもたないものとする。$F=p/q$ を $\hat{\mathbb{C}}$ から $\hat{\mathbb{C}}$ への写像として次のように定める。$z\in\mathbb{C}$ について、$q(z)\neq0$ なら $F(z)=p(z)/q(z)$、$q(z)=0$ なら(このとき $p(z)\neq0$ である)$F(z)=\infty$ とする。$m:=\deg p$、$n:=\deg q$ として($p=0$ のときは $m:=0$ とする)、$F(\infty)$ は $m>n$ なら $\infty$、$m< n$ なら $0$、$m=n$ なら $p$ と $q$ の最高次の係数の比とする。こうして得られる写像を有理関数といい、$\deg F:=\max\{m,n\}$ を $F$ の次数という。
$F(\infty)$ の定め方は $\lim_{z\to\infty}p(z)/q(z)$ の値そのものである。$p/q=p'/q'$ がどちらも共通の根をもたない表し方なら、$pq'=p'q$ と多項式の既約分解の一意性から $p'=cp$、$q'=cq$($c\in\mathbb{C}\setminus\{0\}$)となるので、次数は表し方によらない。次数 $0$ の有理関数は定数である。
正則写像 $F$ が点で値を何重にとるかを、次のように測る。
$F\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ を定数でない正則写像、$z_0\in\hat{\mathbb{C}}$、$w_0:=F(z_0)$ とする。$z_0$ のまわりの座標を $\zeta=z-z_0$($z_0\in\mathbb{C}$ のとき)または $\zeta=1/z$($z_0=\infty$ のとき)、$w_0$ のまわりの座標を $\omega=w-w_0$($w_0\in\mathbb{C}$ のとき)または $\omega=1/w$($w_0=\infty$ のとき)とし、$F$ をこれらで書いた正則関数 $\omega=G(\zeta)$ の $\zeta=0$ での零点の位数を、$F$ の $z_0$ での重複度といい $m_{z_0}(F)$ と書く。
これは 零点の位数 の記事の定義「分岐指数」の $e_{z_0}(F)$ にほかならず、座標の取り方によらない。$z_0,w_0\in\mathbb{C}$ なら $m_{z_0}(F)$ は $F(z)-w_0$ の $z_0$ での零点の位数であり、$m_{z_0}(F)\geq2$ となるのは $F'(z_0)=0$ のときに限る。$F$ が定数でなければ $G$ は恒等的に $0$ ではないので、重複度は正の整数である。
$F\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ を定数でない正則写像とする。このとき $F$ は次数 $d\geq1$ の有理関数であり、各 $w\in\hat{\mathbb{C}}$ について
$$
\sum_{z\in F^{-1}(w)}m_z(F)=d
$$
が成り立つ。すなわち $F$ はすべての値を、重複度込みでちょうど $d$ 回とる。逆に、定数でない有理関数は正則写像 $\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ である。
。$F$ は定数でないので恒等的に $\infty$ ではない。有理型関数 の記事の命題「有理型関数と Riemann 球面への正則写像」により $F$ は $\hat{\mathbb{C}}$ 上の有理型関数であり、同じ記事の定理「Riemann 球面上の有理型関数」により、共通の根をもたない多項式 $p,q$($q\neq0$)で $\mathbb{C}$ 上 $F=p/q$ と書ける($q(z)=0$ の点では両辺とも $\infty$)。$F(\infty)$ は $F$ の連続性から $\lim_{z\to\infty}p(z)/q(z)$ に等しく、def-riemann-sphere-rational-function の値と一致する。$m:=\deg p$、$n:=\deg q$、$d:=\max\{m,n\}$ とおく。$d=0$ なら $F$ は定数になるので $d\geq1$ である。逆向きの主張は、同じ定理の後半(有理関数は $\hat{\mathbb{C}}$ 上の有理型関数である)と前の命題による。
有限の値 $w$ をとる回数。$w\in\mathbb{C}$ とし、$r:=p-wq$ とおく。$F$ は定数 $w$ ではないので $r\neq0$ で、$\deg r\leq d$ である。$z_0\in\mathbb{C}$ で $r(z_0)=0$ なら $q(z_0)\neq0$ である($q(z_0)=0$ なら $p(z_0)=0$ となり、共通の根をもたないことに反する)。よって $\mathbb{C}$ の中で $F(z_0)=w$ となる点は $r$ の根とちょうど一致し、そこで $F-w=r/q$、$q(z_0)\neq0$ だから $m_{z_0}(F)$ は $r$ の根 $z_0$ の重複度に等しい。代数学の基本定理 により $r$ は 1 次式の積に分解するので、$\mathbb{C}$ の中の $w$ 点の重複度の和は $\deg r$ である。
$\infty$ では座標 $u=1/z$ で見る。多項式 $s\neq0$ に対し $s^\sharp(u):=u^{\deg s}s(1/u)$ とおくと、$s^\sharp$ は多項式で $s^\sharp(0)$ は $s$ の最高次の係数だから $0$ でない。これを使うと
$$
F(1/u)-w=\frac{r(1/u)}{q(1/u)}=u^{\,n-\deg r}\,\frac{r^\sharp(u)}{q^\sharp(u)}
$$
であり、$r^\sharp(0)q^\sharp(0)\neq0$ である。したがって $n>\deg r$ なら $F(\infty)=w$ で $m_\infty(F)=n-\deg r$、$n\leq\deg r$ なら $F(\infty)\neq w$ である。以上から $w$ 点の重複度の総和は $\deg r+\max\{0,\,n-\deg r\}=\max\{\deg r,\,n\}$ である。$m\leq n$ なら $\deg r\leq d=n$ だからこれは $n=d$ に等しく、$m>n$ なら $p$ の最高次の項が $wq$ で打ち消されないので $\deg r=m=d$ となり、やはり $d$ に等しい。
値 $\infty$ をとる回数。同じ計算を $1/F=q/p$ に行えばよく、$\mathbb{C}$ の中の極の重複度の和は $n$、$\infty$ の重複度は $\max\{0,\,m-n\}$ で、総和は $d$ である。
$F$ が定数 $0$ でないので $p\neq0$ である。$\mathbb{C}$ の中で $F(z_0)=\infty$ となる点は $q$ の根で、そこでは $p(z_0)\neq0$ だから、座標 $1/w$ で書いた $1/F=q/p$ の零点の位数、すなわち $m_{z_0}(F)$ は $q$ の根 $z_0$ の重複度に等しい。その和は $n$ である。$\infty$ では $1/F(1/u)=u^{\,m-n}q^\sharp(u)/p^\sharp(u)$ だから、$m>n$ なら $F(\infty)=\infty$ で $m_\infty(F)=m-n$、$m\leq n$ なら $F(\infty)\neq\infty$ である。総和は $n+\max\{0,\,m-n\}=d$ である。
$\mathbb{C}$ の中だけで数えると、$w$ 点の個数は $\deg r$ であり $d$ より少ないことがある。足りない分がちょうど $\infty$ での重複度で補われる、というのが証明の要点である。たとえば $F(z)=z/(z-1)$($d=1$)では $F(z)=1$ となる $z\in\mathbb{C}$ はないが、$F(\infty)=1$ である。
$F(z)=\dfrac{z^2+1}{z-1}$ は分子と分母が共通の根をもたない($z=1$ で分子は $2$)ので、次数 $2$ の有理関数である。零点は $\pm i$(各 1 位)、極は $z=1$(1 位)と $\infty$($F(1/u)=\frac{1+u^2}{u(1-u)}$ より 1 位)で、零点と極はどちらも重複度込みで $2$ 個ある。
$w\in\mathbb{C}$ について、$F(z)=w$ は $z^2-wz+(1+w)=0$ と同値である($z=1$ はこの式を満たさない)。判別式は $w^2-4w-4$ だから、$w\neq2\pm2\sqrt2$ なら相異なる 2 点、$w=2\pm2\sqrt2$ なら重根 $z=1\pm\sqrt2$ の 1 点で重複度 $2$ である。実際 $F'(z)=\dfrac{z^2-2z-1}{(z-1)^2}$ は $z=1\pm\sqrt2$ で $0$ になり、$F(1\pm\sqrt2)=2\pm2\sqrt2$(複号同順)である。どの $w$ についても重複度の和は $2$ になっている。
定数でない正則写像 $F\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ は全射であり、零点の個数と極の個数(どちらも $\infty$ を含め、重複度込みで数える)は等しく、どちらも $\deg F$ に等しい。
thm-riemann-sphere-rational-maps を $w=0$ と $w=\infty$ に使えば後半を得る。どの $w$ についても重複度の和が $d\geq1$ だから $F^{-1}(w)$ は空でなく、$F$ は全射である。
この系は、コンパクトな Riemann 面上の主因子の次数が $0$ であるという一般的な事実(因子 の記事の定理「コンパクトなリーマン面上の主因子の次数」)の最も簡単な場合である。
$F\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ について、次は同値である。
(R1) $F$ は双正則写像である。
(R2) $F$ は次数 $1$ の有理関数である。
(R3) 複素数 $a,b,c,d$ で $ad-bc\neq0$ となるものがあり、$F(z)=\dfrac{az+b}{cz+d}$($z\in\mathbb{C}$、$cz+d\neq0$)、$F(-d/c)=\infty$($c\neq0$ のとき)、$F(\infty)=a/c$($c=0$ のときは $\infty$)である。
要点:全単射ならどの値も 1 点でしかとらないので、ほとんどの点で重複度が $1$ であることと thm-riemann-sphere-rational-maps から次数は $1$ である。次数 $1$ の有理関数を $(az+b)/(cz+d)$ と書いたとき、$ad-bc\neq0$ は分子と分母が比例しないことと同値であり、逆写像も同じ形の $(dz-b)/(-cz+a)$ になる。
(i)⇒(ii):$F$ は全単射だから定数でなく、thm-riemann-sphere-rational-maps により次数 $k\geq1$ の有理関数 $p/q$ であって、各値の逆像はただ 1 点 $z_1$ で $m_{z_1}(F)=k$ である。$F'=(p'q-pq')/q^2$ は恒等的に $0$ ではない($0$ なら $F$ は $\mathbb{C}$ 上で定数になる)ので、$F'$ の零点と $q$ の零点は有限個である。そこでそれ以外の $z_0\in\mathbb{C}$ をとると $F'(z_0)\neq0$ だから $m_{z_0}(F)=1$、よって $k=1$ である。
(ii)⇒(iii):次数 $1$ の有理関数は、共通の根をもたない $p=az+b$、$q=cz+d$($\max\{\deg p,\deg q\}=1$)で $p/q$ と書ける。$q\neq0$ より $(c,d)\neq(0,0)$ だから、$ad-bc=0$ なら $(a,b)$ は $(c,d)$ の定数倍で、$p$ は $q$ の定数倍となり、$F$ は定数になって次数 $1$ に反する。よって $ad-bc\neq0$ である。$\infty$ と $-d/c$ での値は def-riemann-sphere-rational-function から読み取れる。
(iii)⇒(i):$ad-bc\neq0$ なら $p=az+b$ と $q=cz+d$ は比例しない。共通の根 $z_0$ をもつと、$(x,y)=(z_0,1)$ が連立 1 次方程式 $ax+by=0$、$cx+dy=0$ の $0$ でない解になるので、係数の行列式 $ad-bc$ は $0$ となって矛盾する。よって $F$ は次数 $1$ の有理関数で、thm-riemann-sphere-rational-maps により正則写像であり、各値をちょうど 1 回とるので全単射である。逆写像は $(dz-b)/(-cz+a)$ で与えられ($F$ に代入して確かめられる)、その係数から作る $da-bc$ も $0$ でないので、同じ理由で正則である。
(iii) の形の写像を Möbius 変換という。この系により、$\hat{\mathbb{C}}$ の双正則な自己同型はちょうど Möbius 変換である。自己同型全体がなす群の構造は、Möbius変換の項目で扱う。
上の結論は、どれも $\hat{\mathbb{C}}$ がコンパクトであること($\infty$ まで含めて正則性を課すこと)に支えられている。$\mathbb{C}$ の上に戻ると、次のように崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\infty$ での正則性($\hat{\mathbb{C}}$ の代わりに $\mathbb{C}$) | $f(z)=z$ | 正則関数は定数である |
| $\infty$ での有理型性($\hat{\mathbb{C}}$ の代わりに $\mathbb{C}$) | $e^z$ | 有理型関数は有理関数である、定数でなければ各値を有限回だけとる |
| 定数でないこと | 定数写像 $F\equiv c$ | 全射である、各値を $\deg F$ 回とる |
$e^z$ は $\mathbb{C}$ 上で正則だから、$\mathbb{C}$ 上の有理型関数である。しかし有理関数ではない。実際、$e^z=p(z)/q(z)$($q\neq0$、$q(z)\neq0$ となる $z$ で)と書けたとすると、$e^{2\pi ik}=1$($k\in\mathbb{Z}$)より多項式 $p-q$ は $z=2\pi ik$(ただし $q(2\pi ik)\neq0$ のもの。$q$ の根は有限個なので無限個残る)で $0$ になり、$p=q$、すなわち $e^z\equiv1$ となって矛盾する。よって $e^z$ は「$\mathbb{C}$ 上の有理型関数」を満たすが「有理関数」を満たさず、「有理型関数は有理関数」という含意は $\hat{\mathbb{C}}$ を $\mathbb{C}$ に取り替えると崩れる。とくに $e^z$ は $\infty$ で有理型に延びず(延びれば thm-riemann-sphere-rational-maps により有理関数になる)、値 $1$ を無限回とる。
$\hat{\mathbb{C}}$ 上の正則 1 次微分形式(リーマン面上の微分形式 の記事の定義「正則1形式」)は $0$ だけである。
$\omega$ を正則 1 次微分形式とし、座標 $z$ で $\omega=f(z)\,dz$($f$ は整関数)と書く。$\infty$ のまわりの座標 $w=1/z$ では $dz=-w^{-2}\,dw$ だから、$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上で $\omega=-f(1/w)w^{-2}\,dw$ であり、$\omega$ が $\infty$ で正則であることは、$g(w):=-f(1/w)/w^2$ が $w=0$ まで正則に延びることを意味する。とくに $g$ は $0$ の近くで有界で、ある $r>0$、$M$ について $0<\lvert w\rvert\leq r$ で $\lvert f(1/w)\rvert\leq M\lvert w\rvert^2$、すなわち $\lvert z\rvert\geq1/r$ で $\lvert f(z)\rvert\leq M/\lvert z\rvert^2$ である。閉円板 $\lvert z\rvert\leq1/r$ の上では $f$ は連続だから有界であり、したがって整関数 $f$ は $\mathbb{C}$ 全体で有界で、Liouvilleの定理(複素解析) により定数であり、$\lvert z\rvert\to\infty$ で $f(z)\to0$ だからその定数は $0$ である。ゆえに $\omega=0$ である。
複素トーラス $\mathbb{C}/\Lambda$ の上では $dz$ が $0$ でない正則 1 次微分形式を与えるので、この命題は Riemann 球面と複素トーラスを区別する。Riemann 球面の種数は $0$ であり(種数 の記事の例「Riemann球面」)、この命題はそれと対応している。種数 の記事の節「代数曲線の種数」が述べるとおり、滑らかな射影曲線では正則 1 次微分形式の空間の次元が種数に一致する。
$\hat{\mathbb{C}}$ では $a+\infty=\infty$($a\in\mathbb{C}$)、$a\cdot\infty=\infty$($a\neq0$)、$a/\infty=0$($a\in\mathbb{C}$)、$a/0=\infty$($a\neq0$)と約束すると便利だが(Bec25 Definition 3.2.4)、$\infty-\infty$、$0\cdot\infty$、$0/0$、$\infty/\infty$ は定めない。したがって $\hat{\mathbb{C}}$ は体ではない。
$z\to\infty$ のとき $z$ と $-z$ はどちらも $\infty$ に近づくが $z+(-z)=0$ であり、$z$ と $z+1$ では差が $1$ になる。このように $\infty-\infty$ に値を決めても加法は $\infty$ で連続にならず、四則を $\hat{\mathbb{C}}$ 全体に連続に延ばすことはできない。$\hat{\mathbb{C}}$ の上で自然に意味をもつのは、四則そのものではなく、有理関数や Möbius 変換のような「$\infty$ まで込めた写像」である。
$\hat{\mathbb{C}}$ は平面 $\mathbb{R}^2=\mathbb{C}$ に無限遠点を 1 点だけ加えたもので、射影幾何で平面に無限遠直線を加える実射影平面とは別物である。
実数直線に 1 点 $\infty$ を加えた $\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ は、同じ構成で円周 $S^1$(実射影直線)になり、$+\infty$ と $-\infty$ を区別しない。これは $\hat{\mathbb{C}}$ の中の実軸と $\infty$ からなる「円」にあたる。一方、実平面 $\mathbb{R}^2$ に射影幾何のやり方で無限遠点を加えると、平行線の方向ごとに 1 点、全体で無限遠直線が加わって実射影平面になる。両者は位相的にも異なる。$\hat{\mathbb{C}}\cong S^2$ は向き付け可能だが、実射影平面は向き付け不可能である(射影空間 の記事の定理「ホモロジー群と向き付け」)。
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