重心座標(barycentric coordinates)とは、非共線な三点を基準に平面の点を係数和1のアフィン結合で一意に表す三数である。三数は頂点と点が作る符号付き面積の比に等しく、正負から点の内外を判定できる。重心は比で1:1:1、内心は辺長を使ってa:b:cとなる。辺上の分点比、Cevaの定理、三点の面積比の行列式、三角形上の一次補間にもつながる。
平面上の一直線上にない三点 $A,B,C$ を固定すると、同じ平面のどの点 $P$ も、三点に重みを付けた
$$
P=\lambda_A A+\lambda_B B+\lambda_C C,\qquad
\lambda_A+\lambda_B+\lambda_C=1
$$
という形で一意に表せる。この三つの重みが三角形 $ABC$ に関する重心座標(barycentric coordinates)である。頂点を基準にするため、座標原点をどこへ置くかに依存しない。係数の符号を見れば三角形の内外が分かり、係数を符号付き面積としても計算できる。比だけを使う三角形幾何の記法では $(\lambda_A:\lambda_B:\lambda_C)$ と書く。
「重心」という名前が付くが、重心一つだけの座標ではない。内心、辺の上の点、三角形の外の点も同じ三数で扱う。辺の比を掛け合わせる Ceva の定理や、行列式で面積比を計算する方法が一つの言葉にまとまる。ただし、比の和が零になる三数は通常の平面の点を表さない。正規化した三数と同次比を区別することが重要である。古典的な三角形での使い方は Chen16 第7章、三角形中心の座標は KimberlingETC の記法と対応する。
$A,B,C$ を実アフィン平面の非共線な三点とする。式 $P=\lambda_A A+\lambda_B B+\lambda_C C$ は、任意の原点 $O$ を選んで位置ベクトルについて計算する意味で書く。係数の和が $1$ なので、原点を $O'$ に替えて三つの位置ベクトルから同じベクトルを引いても、両辺から同じベクトルを引くことになる。従ってこの表示は原点に依存しない。
非共線な三点 $A,B,C$ に対して、平面の点 $P$ を
$$
P=\lambda_A A+\lambda_B B+\lambda_C C,\qquad
\lambda_A+\lambda_B+\lambda_C=1
$$
と表す一意な三数 $(\lambda_A,\lambda_B,\lambda_C)$ を、$P$ の三角形 $ABC$ に関する重心座標という。$A,B,C$ の順序を変えれば、座標の順序も同じように変える。
非共線な $A,B,C$ を固定すると、平面の任意の $P$ に対し、和が $1$ の重心座標がただ一組存在する。
$B-A$ と $C-A$ は一次独立である。もし従属なら三点は一直線上にあるからである。平面の任意の差ベクトル $P-A$ は一意な実数 $s,t$ により
$$
P-A=s(B-A)+t(C-A)
$$
と書ける。整理すると $P=(1-s-t)A+sB+tC$ であり、係数の和は $1$ である。逆に和が $1$ の表示が二組あれば、差を取って $(s-s')(B-A)+(t-t')(C-A)=0$ となる。二つの差ベクトルの独立性から $s=s'$、$t=t'$、残りの係数も等しい。
座標は基準三角形に依存する。同じ $P$ でも $A,B,C$ を別の非共線な三点に替えれば三数は変わる。一方、三角形全体を平行移動・回転・拡大縮小・剪断する可逆なアフィン変換で移し、$P$ も一緒に移せば、三数は変わらない。これを後で証明する。
頂点 $A,B,C$ の座標はそれぞれ $(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ である。三本の中線の交点 $G$ は
$$
G=\frac{A+B+C}{3}
$$
だから $(1/3,1/3,1/3)$ で表される。同次比では $(1:1:1)$ と書く。
$BC$ の中点は $(0,1/2,1/2)$ である。従って $G$ は $A$ とこの中点を結ぶ線上にあり、同じ議論を三頂点で繰り返すと三本の中線が $G$ で交わる。この計算は三角形の重心(高校数学)の存在を座標で確認している。
三角形幾何では $(u:v:w)$ と書くことが多い。零でない実数 $c$ を三成分すべてに掛けた $(cu:cv:cw)$ は同じ比である。ただし、普通の平面の点に戻すには $u+v+w\ne0$ が必要で、そのとき
$$
P=\frac{uA+vB+wC}{u+v+w},\qquad
(\lambda_A,\lambda_B,\lambda_C)
=\left(\frac{u}{u+v+w},\frac{v}{u+v+w},\frac{w}{u+v+w}\right)
$$
となる。$(2:2:2)$ と $(1:1:1)$ は同じ点を表し、正規化するとどちらも $(1/3,1/3,1/3)$ になる。一方、$(1:-1:0)$ のように三成分の和が零なら、この割り算はできない。射影平面ではそのような比を無限遠点として扱うが、この記事の通常のアフィン平面上の点には含めない。
$P=(u:v:w)$ が普通の点を表し、$u+v+w\ne0$ とする。$P$ が直線 $BC$ 上にあることと $u=0$ は同値である。さらに $v+w\ne0$ で $D=(0:v:w)$ と書けば、$v,w\ne0$ のとき有向線分の比は
$$
\frac{\overline{BD}}{\overline{DC}}=\frac{w}{v}
$$
である。$v,w>0$ なら $D$ は辺 $BC$ の内部にある。
直線 $BC$ 上の点は $D=(1-t)B+tC$ と一意に書ける。重心座標の一意性から $u=0$ であり、逆も従う。$D=(vB+wC)/(v+w)$ に対して $t=w/(v+w)$ だから、$\overline{BD}=t\,\overline{BC}$、$\overline{DC}=(1-t)\,\overline{BC}$ となり、比は $w/v$ である。有向線分を使えば $D$ が延長上にあっても式が保たれる。$v,w>0$ なら $0< t<1$ である。
頂点 $A$ と点 $D=(0:v:w)$ を結ぶ直線には、$(u:tv:tw)$ の形の点が乗る。三つの頂点から対辺へ引いた線を考えると、辺上の分点比と一つの同次三数が対応する。この見方で Ceva の定理の比の積が $1$ になる理由が分かる。ただし同次三数の和が零なら通常の平面上で三線の交点とは限らないので、無限遠での平行な場合を区別する。
$D,E,F$ をそれぞれ辺 $BC,CA,AB$ の内部の点とする。三線 $AD,BE,CF$ が一点で交わることと
$$
\frac{BD}{DC}\cdot\frac{CE}{EA}\cdot\frac{AF}{FB}=1
$$
は同値である。
三線の交点 $P$ を $(u:v:w)$ と書く。$D$ が辺 $BC$ の内部にあるので $v,w$ は同符号、$E$ が辺 $CA$ の内部にあるので $u,w$ も同符号である。従って全成分を正に選べ、$P$ は内部にある。$AD$ 上では $D=(0:v:w)$、同様に $E=(u:0:w)$、$F=(u:v:0)$ である。辺上の比の命題より、三つの比は順に $w/v$、$u/w$、$v/u$ であり、積は $1$ になる。
逆に三つの正の比を $d=BD/DC$、$e=CE/EA$、$f=AF/FB$ とし、$def=1$ とする。$(u:v:w)=(ed:1:d)$ と置くと $w/v=d$、$u/w=e$、$v/u=f$ である。三数は正なので和は零でなく、一つの内部点 $P$ を表す。辺上の比から $D,E,F$ はそれぞれ $P$ と対応する頂点を結ぶ直線に乗る。従って三線は $P$ で交わる。
この証明は内部の分点だけを対象にした。三点を辺の延長上にも許す有向比の形では、積が $1$ でも対応する同次三数の和が零となり、三線が平行になる場合がある。その場合は通常の平面内の一点で交わるとは言わない。内部という仮定が、三数を正に選べることと交点の存在を保証している。
三点 $U,V,W$ の符号付き面積を $[UVW]$ と書き、向き $A\to B\to C$ を正に取る。直交座標を一つ選んだとき
$$
[UVW]=\frac12\det(V-U,W-U)
$$
である。向きを逆にすると符号が反転するが、面積の比は座標の回転や平行移動に依存しない。$[ABC]\ne0$ は三頂点が非共線であることに等しい。
三角形 $ABC$ に関する任意の点 $P$ の正規化した重心座標は
$$
\lambda_A=\frac{[PBC]}{[ABC]},\qquad
\lambda_B=\frac{[APC]}{[ABC]},\qquad
\lambda_C=\frac{[ABP]}{[ABC]}
$$
である。従って $[PBC]+[APC]+[ABP]=[ABC]$ が平面上のすべての $P$ について成り立つ。
$P=\lambda_A A+\lambda_B B+\lambda_C C$ と書く。$X\mapsto[XBC]$ は $X$ のアフィン関数であり、$X=A$ で $[ABC]$、$X=B,C$ で $0$ になる。係数の和が $1$ なので
$$
[PBC]=\lambda_A[ABC]+\lambda_B[BBC]+\lambda_C[CBC]
=\lambda_A[ABC].
$$
同様に $X\mapsto[AXC]$ と $X\mapsto[ABX]$ を考えれば、残る二式も得る。三式を足して係数和 $1$ を使うと面積の和が $[ABC]$ になる。
点 $P$ が内部にあるなら三つの小三角形 $PBC,APC,ABP$ はどれも $ABC$ と同じ向きを持つので、比は普通の面積比になる。外部ではいくつかの面積が負になる。絶対値の付いた普通の面積を三つ並べても、一般には和が $[ABC]$ にならない。内外を一つの式で扱うには符号が必要である。Kimberling のKimberlingETCは三角形中心の同次重心座標をこれらの符号付き面積の比で説明している。
$A=(0,0)$、$B=(2,0)$、$C=(0,2)$ とし、$P=(1/2,1/2)$ を取る。$P=(1/2)A+(1/4)B+(1/4)C$ なので、$(\lambda_A,\lambda_B,\lambda_C)=(1/2,1/4,1/4)$ である。$[ABC]=2$ に対して $[PBC]=1$、$[APC]=[ABP]=1/2$ となる。
一方 $Q=(2,2)$ は $Q=(-1)A+1B+1C$ なので、座標は $(-1,1,1)$ である。$[QBC]=-2$、$[AQC]=2$、$[ABQ]=2$ で、符号付き和はやはり $2$ になる。絶対値の和は $6$ となり、元の面積とは異なる。
三角形の閉じた領域は、三頂点の凸結合全体である。重心座標の和は常に $1$ なので、凸結合である条件は三係数がすべて非負であることだけになる。この条件は各辺を直線として見たときの半平面の条件とも一致する。
$P$ の重心座標を $(\lambda_A,\lambda_B,\lambda_C)$ とする。
写像 $(s,t)\mapsto A+s(B-A)+t(C-A)$ は可逆なアフィン写像である。標準三角形の点 $(s,t)$ は $s\ge0$、$t\ge0$、$s+t\le1$ のとき、かつそのときに限り閉三角形に入る。対応する重心座標は $(1-s-t,s,t)$ なので、三つの非負条件と一致する。不等号をすべて狭義にすれば内部を得る。$BC$ 上では $1-s-t=0$ で残り二つが非負となる。閉三角形に入らない場合、係数和は $1$ だから少なくとも一つが負である。
この命題で用いる座標は正規化後のものである。同次比 $(u:v:w)$ は全成分に負数を掛けても同じ点を表すので、比のまま「正か負か」を判定してはいけない。まず $u+v+w$ で割って和を $1$ にしてから符号を見る。たとえば $(-1:-1:-1)$ は重心の別表記であり、外部の点ではない。
重心 $G$ の比が $(1:1:1)$ になるのは、三頂点に等しい重みを置くためである。内心 $I$ の比は一般にこれと異なり、辺の長さを $a=|BC|$、$b=|CA|$、$c=|AB|$ とすると $(a:b:c)$ になる。両者が一致するのは正三角形の場合である。
三角形 $ABC$ の内心 $I$ の重心座標は
$$
\left(\frac{a}{a+b+c},\frac{b}{a+b+c},\frac{c}{a+b+c}\right)
$$
であり、同次比は $(a:b:c)$ である。
内心から三辺へ下ろした垂線の長さはすべて内接円の半径 $r$ である。内心は三角形の内部にあるので、三つの面積は正で、
$$
[IBC]=\frac12 ar,\qquad [AIC]=\frac12 br,\qquad
[ABI]=\frac12 cr.
$$
面積比の定理を使うと、内心の三係数の比は $a:b:c$ になる。係数和を $1$ に正規化すれば表示式を得る。この同次比は KimberlingETC の $X(1)$ の barycentrics と一致する。
内心について「三辺までの距離が等しいから重みも等しい」と考えると重心と混同する。面積は底辺の長さと高さの積なので、等しい高さに対しては底辺の長さが重みになる。逆に、等しい面積比の点が重心である。この違いは、正三角形以外では目で見て確かめられる。
基準三角形 $ABC$ に対して三点 $P_1,P_2,P_3$ の重心座標をそれぞれ $(\lambda_{iA},\lambda_{iB},\lambda_{iC})$ とする。三点の成分を行に並べた $3\times3$ 行列を $M$ と置くと、二つの三角形の符号付き面積比は $\det M$ となる。これは三角形の形に依存しない。
$$
\frac{[P_1P_2P_3]}{[ABC]}
=\det\begin{pmatrix}
\lambda_{1A}&\lambda_{1B}&\lambda_{1C}\\
\lambda_{2A}&\lambda_{2B}&\lambda_{2C}\\
\lambda_{3A}&\lambda_{3B}&\lambda_{3C}
\end{pmatrix}.
$$
特に行列式が $0$ であることと、$P_1,P_2,P_3$ が共線であることは同値である。
平面の直交座標を選び、点 $X=(x,y)$ に行ベクトル $(x,y,1)$ を対応させる。三点を行に並べた行列の行列式は、符号付き面積の $2$ 倍である。係数和が各行で $1$ だから、$P_i$ の同次行ベクトルは $A,B,C$ の同次行ベクトルを重心座標で線形結合したものとなる。従って
$$
\begin{pmatrix}x_1&y_1&1\\x_2&y_2&1\\x_3&y_3&1\end{pmatrix}
=M
\begin{pmatrix}x_A&y_A&1\\x_B&y_B&1\\x_C&y_C&1\end{pmatrix}.
$$
行列式の積の公式を使い、両辺を $2[ABC]\ne0$ で割れば式を得る。左辺の行列式が零である条件は三点の共線性だから、最後の主張も従う。
この命題は Routhの定理 の大学数学での見方に使われる。Ceva 線が作る交点を重心座標で計算すると、囲まれた三角形の面積が座標行列の行列式になる。ここでは Routh の式そのものを再証明せず、式を組み立てる道具を与える。
面積比の行列式には向きが残る。$\det M>0$ なら $P_1P_2P_3$ の向きは $ABC$ と同じで、$\det M<0$ なら逆である。普通の面積比は $|\det M|$ になる。$\det M=0$ の場合は三点が共線なので、囲む面積は零である。各点の座標を個別に求めた後で面積を計算でき、三点の実際の直交座標に戻す必要がない。なお $P_i$ の並びを入れ替えると、行列の行も入れ替わり、行列式と符号付き面積の符号がともに反転する。
重心座標は、三角形の三頂点で与えた数値を内部へ線形に広げる道具でもある。頂点での値を $h_A,h_B,h_C\in\mathbb R$ とすると、点 $P$ の値を
$$
h(P)=\lambda_A(P)h_A+\lambda_B(P)h_B+\lambda_C(P)h_C
$$
と定められる。各 $\lambda$ は $P$ の位置についてアフィン関数なので、$h$ もアフィン関数である。
任意の三実数 $h_A,h_B,h_C$ に対して、$h(A)=h_A$、$h(B)=h_B$、$h(C)=h_C$ を満たす平面上のアフィン関数 $h$ は一つだけ存在する。それは上の重心座標による式で与えられる。特に $P$ が閉三角形内なら
$$
\min(h_A,h_B,h_C)\le h(P)\le\max(h_A,h_B,h_C)
$$
である。
表示式は三頂点の座標がそれぞれ $(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ だから指定値を取る。アフィン関数 $g$ は係数和 $1$ の結合を保つので、同じ三値を取るなら
$$
g(P)=g(\lambda_AA+\lambda_BB+\lambda_CC)
=\lambda_Ah_A+\lambda_Bh_B+\lambda_Ch_C=h(P)
$$
となり、一意である。閉三角形内では三係数が非負で和が $1$ なので、$h(P)$ は三つの値の凸結合となり、最小値と最大値の間にある。
たとえば $A=(0,0)$、$B=(1,0)$、$C=(0,1)$ で頂点の値が $0,2,3$ なら、$P=(x,y)$ の座標は $(1-x-y,x,y)$ だから $h(P)=2x+3y$ となる。$x,y\ge0$ かつ $x+y\le1$ の三角形内では $0\le h(P)\le3$ がすぐ分かる。辺 $BC$ 上では $\lambda_A=0$ なので、値は $B$ と $C$ の間を一次式で変化する。隣り合う二つの三角形が辺を共有するとき、両側で共有頂点の値を合わせれば、辺上の補間値も一致する。この性質が三角形分割による区分的な線形近似の基礎になる。
$T$ を可逆なアフィン変換とする。アフィン変換は係数和が $1$ の結合を保ち、
$$
T(\lambda_AA+\lambda_BB+\lambda_CC)
=\lambda_AT(A)+\lambda_BT(B)+\lambda_CT(C)
$$
となる。$T(A),T(B),T(C)$ は再び非共線だから、一意性により $T(P)$ の新しい三角形に関する重心座標は $P$ の元の三数と同じである。長さや角度は一般のアフィン変換で変わるが、重心座標は変わらない。この性質が面積比、辺上の比、共線性を一緒に扱える理由である。
三角形だけでなく、$n$ 次元アフィン空間でアフィン独立な $n+1$ 点 $V_0,\ldots,V_n$ を選べば、任意の点 $P$ は
$$
P=\sum_{i=0}^{n}\lambda_iV_i,\qquad
\sum_{i=0}^{n}\lambda_i=1
$$
と一意に書ける。証明は $V_1-V_0,\ldots,V_n-V_0$ がベクトル空間の基底であることから、三角形の場合と同じである。すべての $\lambda_i\ge0$ という条件は、頂点の凸包である $n$ 次元単体の内部または境界を表す。この拡張では三角形の面積比に代わって、符号付き $n$ 次元体積の比が係数になる。有限要素法では各 $\lambda_i$ を頂点で $1$、他の頂点で $0$ になるアフィン関数として使い、頂点の値から単体内部の線形補間を作る。
ただし四点以上がアフィン独立でない配置では、係数和が $1$ でも表示は一意ではない。たとえば平面内の四角形の四頂点に対して、一般には同じ点を異なる四つの重みで表せる。「重心座標の一意性」は頂点が単体を作る場合の性質であり、任意の多角形の頂点へ無条件に拡張できるわけではない。
重心座標の存在・一意性と、それを使った判定の命題は、いくつかの条件に支えられている。以下では $A=(0,0)$、$B=(1,0)$、$C=(0,1)$ を基準に取る場合が多い。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A,B,C$ が非共線 | $A=(0,0)$、$B=(1,0)$、$C=(2,0)$ と $P=(0,1)$、$B$ | 表示が存在し、一意である |
| 係数和が $1$ | 係数 $(0,1,1)$(和 $2$)を二つの原点で計算 | 表示が原点の選び方によらない |
| 同次比の和が $0$ でない | $(1:-1:0)$ | 同次比が平面の点を表す |
| 正規化してから符号を見る | $(-1:-1:-1)$ | 同次比の成分がすべて負なら外部の点 |
| 符号付きの面積 | $Q=(2,2)$ と通常の(絶対値の)面積 | 三つの小三角形の面積の和が $[ABC]$ |
| Ceva の分点が辺の内部 | $D=(-1,2)$、$E=(0,2)$、$F=(1/2,0)$ | 比の積が $1$ なら三線が一点で交わる |
| 頂点がアフィン独立 | 正方形の四頂点と中心 $(1/2,1/2)$ | 係数和 $1$ の表示が一意 |
同次比の二行と面積の行は本文で確かめた。残りを確かめる。
共線な三点。 $A,B,C$ はどれも $x$ 軸上にあるので、係数和が $1$ の結合もすべて $x$ 軸上にあり、$P=(0,1)$ は表せない。また $B=0A+1B+0C=\tfrac12A+0B+\tfrac12C$ と二通りに書け、一意性も破れる。証明で使った「$B-A$ と $C-A$ が一次独立」が成り立たない。
係数和が $1$ でない結合。 原点を $(0,0)$ に置くと $0A+1B+1C=(1,1)$ である。原点を $(1,0)$ に移すと、位置ベクトルは $A=(-1,0)$、$B=(0,0)$、$C=(-1,1)$ で、$B+C=(-1,1)$、これを元の座標に戻すと点 $(0,1)$ となる。同じ係数から異なる点が出るので、この式は点を定めない。係数和 $1$ のときは、原点の移動で両辺から同じベクトルが引かれるため、この食い違いが起きない。
辺の延長上の分点。 同次比 $(1:1:-2)$ は和が $0$ で、平面の点を表さない。これに対応する分点は $D=(0:1:-2)$、$E=(1:0:-2)$、$F=(1:1:0)$ で、座標では $D=(-1,2)$、$E=(0,2)$、$F=(1/2,0)$ である。辺上の比の命題から有向比は $\overline{BD}/\overline{DC}=-2$、$\overline{CE}/\overline{EA}=-1/2$、$\overline{AF}/\overline{FB}=1$ で、積は $1$ である。しかし三直線 $AD$、$BE$、$CF$ の方向はそれぞれ $(-1,2)$、$E-B=(-1,2)$、$F-C=(1/2,-1)$ で、すべて平行である。$B=(1,0)$ は直線 $y=-2x$($AD$)上にないので $AD$ と $BE$ は異なる平行線で、三線は一点で交わらない。
アフィン独立でない四点。 正方形の頂点 $(0,0)$、$(1,0)$、$(0,1)$、$(1,1)$ について、中心は $\tfrac12(1,0)+\tfrac12(0,1)$ とも $\tfrac12(0,0)+\tfrac12(1,1)$ とも書け、どちらも係数和は $1$ である。
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