偶関数と奇関数(even and odd functions)とは、原点について対称な集合の上の関数で、すべての $x$ について $f(-x)=f(x)$ となるものを偶関数、$f(-x)=-f(x)$ となるものを奇関数という。どんな関数も $f(x)=\frac{f(x)+f(-x)}2+\frac{f(x)-f(-x)}2$ と偶関数と奇関数の和にただ 1 通りに分かれ、$e^x=\cosh x+\sinh x$ や $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ はその例である。微分すると偶奇が入れ替わり、収束する冪級数では偶関数は偶数次の項だけ、奇関数は奇数次の項だけをもつ。対称な区間の上では偶関数の部分と奇関数の部分が積分による内積について直交し、Fourier 級数の余弦の部分と正弦の部分はこの分解にあたる。
$y=x^2$ のグラフは $y$ 軸について対称で、$y=x^3$ のグラフは原点について対称である。高校では、このような関数を偶関数・奇関数と呼び、グラフの対称性として学ぶ(グラフの平行移動と対称移動)。積分では、$-a$ から $a$ までの奇関数の積分が $0$ になることを計算に使う(対称性を用いた積分)。
大学では、偶関数・奇関数を「裏返し」$f(x)\mapsto f(-x)$ という線形写像で見る。偶関数は裏返しで変わらない関数、奇関数は裏返しで符号が変わる関数である。この見方から次のことが分かる。
実数の集合 $D$ が 原点について対称 であるとは、$x\in D$ ならば $-x\in D$ となることをいう。$\mathbb{R}$、$[-a,a]$、$(-a,a)$、$\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は原点について対称であり、$[0,1]$ や $[-1,2]$ はそうでない。
$D\subset\mathbb{R}$ を原点について対称な集合とし、$f\colon D\to\mathbb{C}$ を関数とする。
値は実数でも複素数でもよい。名前は冪関数から来ている。$x^n$ は $n$ が偶数なら偶関数、奇数なら奇関数である。$D$ 上の複素数値関数の全体を $\mathcal{F}(D)$ と書き、その中の偶関数の全体を $\mathcal{E}(D)$、奇関数の全体を $\mathcal{O}(D)$ と書く。$\mathcal{F}(D)$ は値ごとの和と定数倍で $\mathbb{C}$ 上のベクトル空間になり、$R\colon\mathcal{F}(D)\to\mathcal{F}(D)$ は線形写像で、$R(Rf)=f$ を満たす。
$D$ を原点について対称な集合とする。
1:$f,g$ が偶関数、$c\in\mathbb{C}$ なら $(f+cg)(-x)=f(x)+cg(x)$ である。奇関数でも同じである。2:$f(x)=f(-x)=-f(x)$ から $2f(x)=0$ である。3:$x=0$ とすると $f(0)=-f(0)$ である。4:たとえば $f$ が偶関数、$g$ が奇関数なら $(fg)(-x)=f(x)\cdot(-g(x))=-(fg)(x)$ であり、ほかの場合も同じである。5:$f$ が奇関数で $g$ が奇関数なら $g(f(-x))=g(-f(x))=-g(f(x))$ であり、$g$ が偶関数なら同じ計算で符号が付かない。$f$ が偶関数なら $g(f(-x))=g(f(x))$ である。$\square$
たとえば $\sin x$ は奇関数、$\cos x$ は偶関数なので、$\sin^2x$ と $\cos(\sin x)$ は偶関数、$\sin(\sin x)$ と $x\cos x$ は奇関数である。$\lvert x\rvert$ は偶関数なので、$e^{\lvert x\rvert}$ も偶関数である。
$D$ を原点について対称な集合とする。任意の $f\colon D\to\mathbb{C}$ は、偶関数 $f_{\mathrm e}$ と奇関数 $f_{\mathrm o}$ の和 $f=f_{\mathrm e}+f_{\mathrm o}$ にただ 1 通りに書ける。それは
$$
f_{\mathrm e}(x)=\frac{f(x)+f(-x)}2,\qquad f_{\mathrm o}(x)=\frac{f(x)-f(-x)}2
$$
である。さらに次が成り立つ。
存在:$f_{\mathrm e}(-x)=\frac{f(-x)+f(x)}2=f_{\mathrm e}(x)$、$f_{\mathrm o}(-x)=\frac{f(-x)-f(x)}2=-f_{\mathrm o}(x)$ なので、$f_{\mathrm e}$ は偶関数、$f_{\mathrm o}$ は奇関数であり、足すと $f$ になる。
一意性:$f=g+h=g'+h'$($g,g'$ は偶関数、$h,h'$ は奇関数)とすると、$g-g'=h'-h$ は偶関数でも奇関数でもある(prop-eof-basic の 1)。prop-eof-basic の 2 から $g=g'$、$h=h'$ である。
1:$P_{\mathrm e}=\frac12(\mathrm{id}+R)$、$P_{\mathrm o}=\frac12(\mathrm{id}-R)$ であり、$R$ が線形で $RR=\mathrm{id}$ だから、$P_{\mathrm e}P_{\mathrm e}=\frac14(\mathrm{id}+2R+RR)=\frac12(\mathrm{id}+R)=P_{\mathrm e}$、$P_{\mathrm e}P_{\mathrm o}=\frac14(\mathrm{id}-RR)=0$ であり、残りも同じ計算である。直和であることは存在と一意性の言いかえである。
2:$x\mapsto-x$ は連続で微分可能なので、$f$ が連続・微分可能なら $Rf$ もそうである。微分可能なら合成関数の微分から $(Rf)'(x)=-f'(-x)$、すなわち $(Rf)'=-R(f')$ である。よって
$$
(f_{\mathrm e})'=\tfrac12\bigl(f'-R(f')\bigr)=(f')_{\mathrm o},\qquad(f_{\mathrm o})'=\tfrac12\bigl(f'+R(f')\bigr)=(f')_{\mathrm e}
$$
である。区間 $[-a,a]$ 上で $f$ が Riemann 積分可能なら(複素数値なら実部と虚部それぞれに次の議論を使う)、分割を $x\mapsto-x$ で裏返すと各小区間での上限と下限が入れ替わらずに移るので、$Rf$ も積分可能で $\int_{-a}^aRf=\int_{-a}^af$ である。よって $f_{\mathrm e}$、$f_{\mathrm o}$ も積分可能である。$\square$
分解は、$\mathbb{R}^n$ のベクトルを 2 つの部分空間の成分に分けるのと同じ形をしている。一般に、線形写像 $T$ で $T^2=\mathrm{id}$ となるもの(線形な対合)はベクトル空間を固有値 $1$ と $-1$ の固有空間の直和に分ける。証明は上と同じで、$\frac12$ が使えることだけを使う(対合 の定理「線形な対合による直和分解」)。
$I$ を $0$ を含み原点について対称な開区間($I=\mathbb{R}$ でもよい)とする。
1:thm-eof-decomposition の 2 で、$f$ が偶関数なら $f=f_{\mathrm e}$、$f_{\mathrm o}=0$ なので $(f')_{\mathrm e}=(f_{\mathrm o})'=0$ であり、$f'=(f')_{\mathrm o}$ は奇関数である。奇関数でも同じである。
2:$x\in I$ を固定し、$F(-x)=\int_0^{-x}f(t)\,dt$ で $t=-s$ と置換すると $dt=-ds$ で、$s$ は $0$ から $x$ まで動くので
$$
F(-x)=-\int_0^xf(-s)\,ds
$$
である。$f$ が偶関数なら右辺は $-F(x)$、奇関数なら $F(x)$ である。
3:微分積分学の基本定理により $F'=f$ であり、区間の上で導関数が等しい 2 つの関数は定数の差しかないので、原始関数は $F+C$ に限る。$f$ が奇関数なら $F$ は偶関数で、定数も偶関数なので $F+C$ は偶関数である。$f$ が偶関数なら $F$ は奇関数なので、$F+C$ が奇関数であることは定数 $C$ が奇関数であること、すなわち $C=0$ と同値である(prop-eof-basic の 2)。$\square$
$r>0$ とし、$f(x)=\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ が $(-r,r)$ で収束するとする。$f$ が偶関数であることと、すべての奇数 $n$ で $a_n=0$ であることは同値である。$f$ が奇関数であることと、すべての偶数 $n$ で $a_n=0$ であることは同値である。
すべての奇数 $n$ で $a_n=0$ なら、各項 $a_nx^n$ は偶関数なので部分和も偶関数で、その極限 $f$ も偶関数である。逆に $f$ が偶関数とする。冪級数は収束区間の内側で何回でも微分でき、$a_n=f^{(n)}(0)/n!$ である(冪級数 の系「何回でも微分できることと係数の公式」)。thm-eof-derivative の 1 をくり返し使うと、$f^{(n)}$ は $n$ が偶数なら偶関数、奇数なら奇関数である。prop-eof-basic の 3 から、奇数 $n$ で $f^{(n)}(0)=0$、すなわち $a_n=0$ である。奇関数の場合も同じである。$\square$
$a>0$ とし、$[-a,a]$ 上の連続な複素数値関数 $f,g$ に対して $\langle f,g\rangle:=\int_{-a}^af(x)\overline{g(x)}\,dx$、$\|f\|:=\sqrt{\langle f,f\rangle}$ とおく(実数値の関数では 積分で定める内積 の定義「積分による関数の内積」と同じものである)。
$a>0$ とし、$f$ を $[-a,a]$ 上の連続な複素数値関数とする。
1:$g$ が奇関数なら $\overline g$ も奇関数なので、$f\overline g$ は奇関数である(prop-eof-basic の 4)。連続な奇関数 $h$ について $\int_{-a}^ah=0$ である(対称性を用いた積分 の命題「偶関数・奇関数と、区間を裏返す置換」。複素数値なら実部と虚部に使う)。
2:$\|f_{\mathrm e}+f_{\mathrm o}\|^2=\|f_{\mathrm e}\|^2+\langle f_{\mathrm e},f_{\mathrm o}\rangle+\langle f_{\mathrm o},f_{\mathrm e}\rangle+\|f_{\mathrm o}\|^2$ であり、1 から中の 2 項は $0$ である。
3:$f-g=f_{\mathrm o}+(f_{\mathrm e}-g)$ で、$f_{\mathrm e}-g$ は偶関数なので、2 と同じ計算で主張の等式を得る。$\|f_{\mathrm e}-g\|^2=0$ なら連続関数 $\lvert f_{\mathrm e}-g\rvert^2$ の積分が $0$ なので $g=f_{\mathrm e}$ である(積分で定める内積 の定理「関数の内積は内積である」と同じ論法)。$\square$
1 の実数値の場合は 積分で定める内積 の命題「偶関数と奇関数の直交」である。2 は「ピタゴラスの定理」であり、3 は、偶関数の全体という部分空間への正射影が $f_{\mathrm e}$ であることを言っている。区間が原点について対称でないと、1 は成り立たない。$[0,1]$ では $\int_0^1 1\cdot x\,dx=\frac12\ne0$ である。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ を $2\pi$ 周期で $[-\pi,\pi]$ 上 Riemann 積分可能な関数とし、
$$
a_n(f):=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\,dx,\qquad b_n(f):=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\,dx
$$
とおく。このとき $a_n(f)=a_n(f_{\mathrm e})$、$b_n(f_{\mathrm e})=0$、$b_n(f)=b_n(f_{\mathrm o})$、$a_n(f_{\mathrm o})=0$ である。すなわち、$f$ の Fourier 級数の余弦の項の和は $f_{\mathrm e}$ の Fourier 級数、正弦の項の和は $f_{\mathrm o}$ の Fourier 級数である。
$f_{\mathrm e}$、$f_{\mathrm o}$ は $2\pi$ 周期で、thm-eof-decomposition の 2 から積分可能である。$f_{\mathrm o}(x)\cos nx$ と $f_{\mathrm e}(x)\sin nx$ は奇関数である(prop-eof-basic の 4)。積分可能な奇関数 $h$ について、thm-eof-decomposition の 2 の証明で見たように $\int_{-\pi}^{\pi}h=\int_{-\pi}^{\pi}Rh=-\int_{-\pi}^{\pi}h$ なので $\int_{-\pi}^{\pi}h=0$ である。よって $a_n(f_{\mathrm o})=b_n(f_{\mathrm e})=0$ であり、積分の線形性から $a_n(f)=a_n(f_{\mathrm e})+a_n(f_{\mathrm o})=a_n(f_{\mathrm e})$、同様に $b_n(f)=b_n(f_{\mathrm o})$ である。$\square$
とくに偶関数の Fourier 級数は余弦だけ、奇関数の Fourier 級数は正弦だけである(Fourier級数、Leb26d §4.4.2)。区間 $[0,L]$ だけで与えられた関数を偶関数・奇関数に延長して、余弦だけ・正弦だけの級数で表す方法は 半区間展開 で扱う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 定義域が原点について対称 | $[-1,2]$ 上の $f(x)=x^2$ | 偶奇分解($x=2$ で $f(-x)$ が定義されない) |
| 原始関数の定数を $0$ にとる | $\cos x$ の原始関数 $\sin x+1$ | 偶関数の原始関数が奇関数になること |
| 積分の区間が原点について対称 | $[0,1]$ 上の $1$(偶)と $x$(奇) | 偶関数と奇関数の直交(内積は $\frac12$) |
| 係数体の標数が $2$ でない | $\mathbb{F}_2$ に値をとる関数 | 偶奇分解の存在 |
1 行目:$[-1,2]$ は原点について対称でなく、$2$ は入るが $-2$ は入らない。$f_{\mathrm e}(2)=\frac{f(2)+f(-2)}2$ は意味をもたず、偶関数・奇関数という言葉そのものが定義されない。$[-1,1]$ に制限すれば $f$ は偶関数である。
2 行目:$G(x)=\sin x+1$ は $G'=\cos x$ を満たすが、$G(0)=1\ne0$ なので奇関数でない(prop-eof-basic の 3)。
3 行目:$\int_0^11\cdot x\,dx=\frac12\ne0$ である。$1$ は偶関数、$x$ は奇関数だが、$[0,1]$ での内積は $0$ にならない。
4 行目:2 元体 $\mathbb{F}_2=\{0,1\}$ では $-1=1$ なので、$D=\{-1,1\}$ 上の $\mathbb{F}_2$ 値の関数では偶関数の条件 $f(-x)=f(x)$ と奇関数の条件 $f(-x)=-f(x)$ が同じになる。$f(1)=1$、$f(-1)=0$ の関数は $f(-1)\ne f(1)$ なのでどちらでもなく、偶関数と奇関数の和はすべて偶関数なので、$f$ はその形に書けない。分解の式の $\frac12$ が使えないことが原因である(対合 の例「反例:標数 2 の体の上の対合」と同じ現象)。
裏返し $R$ は $R^2=\mathrm{id}$ を満たすので、$\{\mathrm{id},R\}$ は 2 元の群をなし、関数の空間に作用している(群の作用)。偶関数は $R$ が $1$ 倍で、奇関数は $-1$ 倍で働く関数である。$1$ と $-1$ は 2 元の群の 2 つの指標の値であり、$P_{\mathrm e}=\frac12(\mathrm{id}+R)$、$P_{\mathrm o}=\frac12(\mathrm{id}-R)$ は指標で重みを付けた平均である(巡回群の指標と直交関係)。
同じことは $n$ 回で元に戻る対称性でも成り立つ。$\omega:=e^{2\pi i/n}$ とし、$\mathbb{C}$ 上の関数 $f$ に対して $f_j(z):=\frac1n\sum_{k=0}^{n-1}\omega^{-jk}f(\omega^kz)$($j=0,1,\dots,n-1$)とおくと、$f=\sum_jf_j$ かつ $f_j(\omega z)=\omega^jf_j(z)$ である。前者は $\sum_{j=0}^{n-1}\omega^{-jk}$ が $k=0$ で $n$、$1\le k\le n-1$ で $0$ であることから、後者は和の添字を $k+1\mapsto k$ とずらすことから分かる。$n=2$、$\omega=-1$ のとき $f_0=f_{\mathrm e}$、$f_1=f_{\mathrm o}$ であり、多項式に使えば係数を $n$ 個おきにまとめる 1の冪根による振り分けの公式 になる。
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