極大単調作用素(maximal monotone operator)とは、実 Hilbert 空間 $H$ の部分空間で定義された線形作用素 $A$ で、$(Av,v)\ge0$ を満たし、すべての $f\in H$ について $u+Au=f$ が解けるものである。定義域は稠密で $A$ は閉であり、すべての $\lambda>0$ で $I+\lambda A$ はノルム 1 以下の逆をもつ。閉で稠密に定義された作用素では、極大単調であることは $A$ と随伴 $A^*$ がともに単調であることと同値で、対称な単調作用素では自己共役性と同値になるが、2 つの極大単調作用素の和は極大単調とは限らない。Hille–吉田の定理により、発展方程式 $u'+Au=0$ を解く作用素の基本の枠組みである。
微分作用素のように、Hilbert 空間 $H$ 全体では定義できない線形作用素 $A$ を扱うとき、方程式 $u+Au=f$ がすべての $f\in H$ について解けるかどうかが、理論の分かれ目になる。$A$ が単調、すなわち $(Av,v)\ge0$ を満たすなら、解はあっても高々 1 つで $|u|\le|f|$ と評価できる。そのうえで解がいつも存在するとき、$A$ を 極大単調作用素 という。熱方程式の $-\Delta$ のような作用素がこの性質をもち(Hille–吉田の定理 の例「熱方程式」)、Hille–吉田の定理 によって発展方程式 $u'+Au=0$ は各初期値 $u(0)=u_0\in D(A)$ に対してただ 1 つの解をもつ。
「極大」という名は、この条件が単調性を保ったままグラフをそれ以上広げられないことと結びついていることによる。この記事では、実 Hilbert 空間の線形作用素について極大単調作用素を定義し、定義域の稠密性・閉性・すべての $\lambda>0$ での $I+\lambda A$ の可逆性を証明する。次に、グラフの包含についての極大性との関係を示す。主定理として、閉で稠密に定義された作用素が極大単調であることを、$A$ とその随伴 $A^*$ がともに単調であることで特徴づけ、系として対称な単調作用素では極大単調性と自己共役性が同値であること、$A$ と $A^*$ の極大単調性が同値であることを導く。レゾルベントから作る有界な近似(吉田近似)の性質も証明する。最後に、和が極大単調でない例、対称で単調なのに随伴が単調でない例などを表にまとめる。
以下、$H$ を実 Hilbert 空間とし、内積を $(\cdot,\cdot)$、ノルムを $|\cdot|$ と書く。作用素 $A$ とは、部分空間 $D(A)\subset H$(定義域)の上で定義された線形写像 $A\colon D(A)\to H$ のことで、$R(A):=A(D(A))$ を値域、$\{(v,Av)\mid v\in D(A)\}\subset H\times H$ をグラフという。グラフが閉集合のとき $A$ を閉作用素という。$D(A)$ が稠密なとき、随伴 $A^*$ を 自己共役作用素 の記事と同じく、$v\mapsto(w,Av)$ が $D(A)$ 上で有界になる $w$ 全体を $D(A^*)$ とし、$(A^*w,v)=(w,Av)$($v\in D(A)$)で定める。
作用素 $A\colon D(A)\to H$ が、すべての $v\in D(A)$ で $(Av,v)\ge0$ を満たすとき 単調(monotone)であるという。単調な $A$ がさらに $R(I+A)=H$、すなわち
$$
\text{すべての } f\in H \text{ に対して } u+Au=f \text{ を満たす } u\in D(A) \text{ がある}
$$
を満たすとき、$A$ を 極大単調作用素(maximal monotone operator)という。
線形な $A$ では、単調作用素 の定義「単調作用素」の条件 $(Au-Av,u-v)\ge0$ は $(Aw,w)\ge0$($w=u-v$)と同じである。この定義は Hille–吉田の定理 の定義「単調作用素・極大単調作用素」の実 Hilbert 空間の場合であり、複素 Hilbert 空間では条件を $\mathrm{Re}\,(Av,v)\ge0$ に替える。$A$ が単調であることを「$A$ が増大的(accretive)」「$-A$ が散逸的(dissipative)」と言うこともある。
$A$ を極大単調作用素とする。
はじめに、$\lambda>0$ と $u\in D(A)$ について、単調性と Cauchy–Schwarz の不等式から
$$
|u|^2\le|u|^2+\lambda(Au,u)=\bigl(u+\lambda Au,u\bigr)\le|u+\lambda Au|\,|u|
$$
なので $|u|\le|u+\lambda Au|$ である。よって $I+\lambda A$ は単射で、値域の上で逆写像はノルムを増やさない。
1:$f\in H$ がすべての $v\in D(A)$ と直交するとする。$v_0+Av_0=f$ となる $v_0\in D(A)$ をとると、$0=(f,v_0)=|v_0|^2+(Av_0,v_0)\ge|v_0|^2$ なので $v_0=0$、したがって $f=0$ である。直交補空間が $\{0\}$ なので、Hilbert空間 の系「稠密な部分空間の判定」により $D(A)$ は稠密である。
2:$J_1=(I+A)^{-1}$ は冒頭の評価から $H$ 上の有界線形作用素である。$u_n\in D(A)$、$u_n\to u$、$Au_n\to g$ とすると、$u_n=J_1(u_n+Au_n)\to J_1(u+g)$ なので $u=J_1(u+g)$、すなわち $u\in D(A)$ かつ $u+Au=u+g$ である。よって $Au=g$ で、$A$ は閉である。
3:ある $\lambda_0>0$ で $I+\lambda_0A$ が全射なら、$\lambda>\lambda_0/2$ でも $I+\lambda A$ が全射であることを示す。$f\in H$ について、$u+\lambda Au=f$ は
$$
u=J_{\lambda_0}\Bigl[\frac{\lambda_0}{\lambda}f+\Bigl(1-\frac{\lambda_0}{\lambda}\Bigr)u\Bigr]
$$
と同値である(両辺に $I+\lambda_0A$ を施して $\lambda/\lambda_0$ 倍すればよい)。右辺の写像は $\|J_{\lambda_0}\|\le1$ により Lipschitz 定数 $|1-\lambda_0/\lambda|<1$ の縮小写像なので、Banachの不動点定理 により不動点 $u$ がある。$u$ は $J_{\lambda_0}$ の値なので $D(A)$ に属する。$\lambda_0=1$ から始めると $\lambda>1/2$ で全射、それを $\lambda_0=2/3$ に使うと $\lambda>1/3$ で全射、と帰納的に $\lambda_0=(2/3)^k$ について全射であり、すべての $\lambda>0$ が覆われる。$\square$
$J_\lambda$ を $A$ の レゾルベント という(レゾルベント の $R(\mu,-A)$ と $J_\lambda=\mu R(\mu,-A)$、$\mu=1/\lambda$ の関係にある)。
$H\times H$ の部分集合 $G$ が、すべての $(x,y),(x',y')\in G$ で $(y-y',x-x')\ge0$ を満たすとき、$G$ を単調な集合という。作用素のグラフが単調な集合であることは、作用素が単調であることにほかならない。
1:$v+Av=x+y$ となる $v\in D(A)$ をとると $x-v=Av-y$ なので、仮定から $0\le(y-Av,x-v)=-|y-Av|^2$ である。よって $y=Av$、$x=v$ である。
2:まず $R(I+A)$ は閉である。実際、$(I+A)u_n\to g$ なら prf-mm-basic 冒頭の評価 $|u_n-u_m|\le|(I+A)(u_n-u_m)|$ から $u_n\to u$、$Au_n\to g-u$ となり、閉性から $u\in D(A)$、$(I+A)u=g$ である。$R(I+A)\neq H$ と仮定し、$R(I+A)$ に直交する $f\neq0$ をとる。すべての $u\in D(A)$ で $(Au,f)=-(u,f)$ である。$f\in D(A)$ なら $u=f$ として $(Af,f)=-|f|^2< 0$ となり単調性に反するので、$f\notin D(A)$ である。そこで $D(B):=D(A)\oplus\mathbb{R}f$ 上で $B(u+tf):=Au+tf$ と定めると
$$
\bigl(B(u+tf),u+tf\bigr)=(Au,u)+t(Au,f)+t(f,u)+t^2|f|^2=(Au,u)+t^2|f|^2\ge0
$$
なので $B$ は $A$ を真に拡張する単調な作用素であり、仮定に反する。$\square$
1 は非線形な写像にも当てはまるので、Hilbert 空間全体で定義された連続な単調作用素 $A\colon H\to H$ も、単調作用素 の系「Hilbert空間でのMintyの定理」により $R(I+A)=H$ であり、グラフを広げられない。非線形の、あるいは集合値の作用素について、グラフが単調な集合のなかで極大であることを「極大単調」と呼ぶことにすれば、1 により $R(I+A)=H$ を満たす単調な写像はその意味でも極大単調である。
$B\colon H\to H$ を有界線形作用素で $(Bv,v)\ge0$($v\in H$)を満たすものとすると、$B$ は極大単調である。
$((I+B)v,v)\ge|v|^2$ から $|(I+B)v|\ge|v|$ なので、$R(I+B)$ は閉である(prf-mm-graph の 2 と同じ議論)。$w$ が $R(I+B)$ に直交すれば $0=((I+B)w,w)\ge|w|^2$ なので $w=0$ であり、$R(I+B)=H$ である。
$B$ が自己共役なら $B$ は 正作用素 なので、ex-mm-bounded は正作用素がどれも極大単調であることを含む。この例では自己共役性を課していない。実 Hilbert 空間では $(Bv,v)\ge0$ でも自己共役とは限らず、$\mathbb R^2$ の 90 度の回転 $J$ について $B=I+J$ は $(Bv,v)=|v|^2$ を満たすが $B^*=I-J\ne B$ である。
$H=\ell^2$、$a_n\ge0$ とし、$D(A)=\{x\mid\sum_na_n^2x_n^2< \infty\}$、$(Ax)_n=a_nx_n$ とおくと、$A$ は極大単調で自己共役である。
$(Ax,x)=\sum a_nx_n^2\ge0$。$f\in\ell^2$ に対し $x_n=f_n/(1+a_n)$ とおくと $|x_n|\le|f_n|$、$a_n|x_n|\le|f_n|$ なので $x\in D(A)$ で $(I+A)x=f$ である。自己共役性は 自己共役作用素 の例「掛け算作用素と対角作用素」による。
$H=\ell^2(\mathbb{N};\mathbb{R}^2)$($\sum_n|x_n|^2< \infty$ を満たす $\mathbb{R}^2$ の点列 $x=(x_n)_{n\ge1}$ の空間)とし、$\Theta(a,b):=(-b,a)$(90 度の回転)とおく。$D(A)=\{x\mid\sum_nn^2|x_n|^2< \infty\}$ 上で $(Ax)_n:=n\Theta x_n$ と定めると、$A$ と $-A$ はともに極大単調である。
$(\Theta y,y)=0$ なので $(Ax,x)=\sum_nn(\Theta x_n,x_n)=0$ である(級数は Cauchy–Schwarz の不等式で絶対収束する)。$\Theta^2=-I$ なので $(I+n\Theta)(I-n\Theta)=(1+n^2)I$、よって $(I+n\Theta)^{-1}=(I-n\Theta)/(1+n^2)$ であり、$|(I+n\Theta)^{-1}y|=|y|/\sqrt{1+n^2}$ である。$f\in H$ に対し $x_n:=(I+n\Theta)^{-1}f_n$ とおくと $n|x_n|\le|f_n|$ なので $x\in D(A)$ で $(I+A)x=f$ である。$-A$ は $\Theta$ を $-\Theta$ に替えて同じである。
単調性だけでは、閉で稠密に定義されていても極大単調とは限らない(下の表の 2 行目)。欠けているのは随伴の単調性である。
$A$ を閉で稠密に定義された作用素とする。$A$ が極大単調であることと、$A$ と $A^*$ がともに単調であることは同値である。
$\Rightarrow$:$A$ は単調である。$w\in D(A^*)$、$\lambda>0$ とし、$f:=w+\lambda A^*w$ とおく。$v\in D(A)$ について $(f,v)=(w,v)+\lambda(w,Av)=(w,v+\lambda Av)$ である。thm-mm-basic の 3 により任意の $h\in H$ は $h=v+\lambda Av$($v=J_\lambda h$)と書けるので、$(f,J_\lambda h)=(w,h)$ である。$h=w$ とすると
$$
|w|^2=(f,J_\lambda w)\le|f|\,|J_\lambda w|\le|f|\,|w|
$$
なので $|w|\le|w+\lambda A^*w|$ である。両辺を 2 乗して展開すると $0\le2\lambda(A^*w,w)+\lambda^2|A^*w|^2$ であり、$\lambda$ で割って $\lambda\to0$ とすると $(A^*w,w)\ge0$ を得る。
$\Leftarrow$:prf-mm-graph の 2 と同じく、$A$ が閉で単調なので $R(I+A)$ は閉である。$f$ が $R(I+A)$ に直交するとすると、すべての $v\in D(A)$ で $(f,Av)=-(f,v)$ であり、右辺は $v$ について有界なので $f\in D(A^*)$、$A^*f=-f$ である。$A^*$ の単調性から $0\le(A^*f,f)=-|f|^2$、よって $f=0$ である。したがって $R(I+A)=H$ である。$\square$
$A$ を稠密に定義された対称な単調作用素とする(自己共役作用素 の定義「対称作用素と自己共役作用素」)。$A$ が極大単調であることと、$A$ が自己共役であることは同値である。
$\Leftarrow$:自己共役作用素は閉であり(自己共役作用素 の補題「随伴の閉性と対称作用素の閉包」)、$A^*=A$ は単調なので thm-mm-adjoint による。
$\Rightarrow$:$J:=J_1$ とする。$u,v\in H$ について $x=Ju$、$y=Jv$ とおくと $u=x+Ax$、$v=y+Ay$ なので、対称性から $(Ju,v)=(x,y)+(x,Ay)=(x,y)+(Ax,y)=(u,Jv)$ である。$w\in D(A^*)$ をとり $f:=w+A^*w$ とおくと、$v\in D(A)$ について $(f,v)=(w,v+Av)$ であり、$v=Jh$ を代入して $(f,Jh)=(w,h)$、すなわち $(Jf,h)=(w,h)$($h\in H$)を得る。よって $w=Jf\in D(A)$ である。対称性から $A\subset A^*$ なので、$D(A^*)=D(A)$ かつ $A^*=A$ である。$\square$
thm-mm-adjoint を $A^*$ に当てると、随伴についても同じ型の同値が得られる。
$A$ を閉で稠密に定義された作用素とする。$A$ が極大単調であることと、$A^*$ が極大単調であることは同値である。
要点:閉で稠密に定義された $A$ について、$A^*$ も閉で稠密に定義され $A^{**}=A$ である(グラフを $H\times H$ の直交補空間で表す)。これを使って thm-mm-adjoint を $A$ と $A^*$ の両方に当てる。
段 1($A^*$ は閉で稠密に定義され、$A^{**}=A$).$H\times H$ に内積 $((a,b),(c,d)):=(a,c)+(b,d)$ を入れ、$V(a,b):=(-b,a)$ とおく。$V$ はこの内積を保つ全単射で $V^2=-I$ である。$(w,z)\in H\times H$ が $V$ によるグラフの像 $\{(-Av,v)\mid v\in D(A)\}$ に直交することは、すべての $v\in D(A)$ で $(w,Av)=(z,v)$ となること、すなわち $w\in D(A^*)$ かつ $A^*w=z$ であることと同値である($D(A)$ は稠密なので $z$ は $w$ で決まる)。よって $A^*$ のグラフは $\{(-Av,v)\mid v\in D(A)\}^\perp$ であり、直交補空間なので閉集合である(自己共役作用素 の補題「随伴の閉性と対称作用素の閉包」の 1 と同じ結論)。$A$ は閉なので $\{(-Av,v)\}$ は閉部分空間であり、直交補空間の直交補空間はもとの集合に戻る。
稠密性:$z\in H$ が $D(A^*)$ に直交すれば、すべての $w\in D(A^*)$ で $((z,0),(w,A^*w))=(z,w)=0$ なので、$(z,0)$ は $A^*$ のグラフの直交補空間、すなわち $\{(-Av,v)\mid v\in D(A)\}$ に属する。$(z,0)=(-Av,v)$ なら $v=0$、$z=0$ である。よって $D(A^*)$ は稠密である。
$A^{**}=A$:上と同じ議論を $A^*$ に当てると、$A^{**}$ のグラフは $V$ による $A^*$ のグラフの像の直交補空間である。$V$ は内積を保つ全単射なので部分集合 $S$ について $V(S^\perp)=(VS)^\perp$ であり、$V^2=-I$ から、$V$ による $A^*$ のグラフの像は$$V\bigl(\{(-Av,v)\mid v\in D(A)\}^\perp\bigr)=\{V^2(v,Av)\mid v\in D(A)\}^\perp=\{(v,Av)\mid v\in D(A)\}^\perp$$であり、$A^{**}$ のグラフはその直交補空間、すなわち $A$ のグラフ(閉)である。
段 2(同値).$A$ が極大単調なら、thm-mm-adjoint の $\Rightarrow$ により $A^*$ は単調であり、$A^{**}=A$ も単調である。$A^*$ は閉で稠密に定義されているので、thm-mm-adjoint の $\Leftarrow$ を $A^*$ に当てて $A^*$ は極大単調である。逆に $A^*$ が極大単調なら、thm-mm-adjoint の $\Rightarrow$ を $A^*$ に当てて $A^{**}=A$ は単調であり、$A^*$ も単調なので、thm-mm-adjoint の $\Leftarrow$ により $A$ は極大単調である。$\square$
これは Bre11 Remark 8(pp. 193–194)に述べられている同値である。$A$ が閉でないと、$A^*$ が極大単調でも $A$ は極大単調とは限らない(下の表の 1 行目)。
$A$ を極大単調作用素、$B\colon H\to H$ を有界線形作用素で単調なものとすると、$D(A)$ 上の $A+B$ は極大単調である。
$A+B$ は単調で、$A$ が閉で $B$ が有界なので閉、$D(A)$ は稠密である(thm-mm-basic)。$v\mapsto(w,Bv)$ は有界なので、$v\mapsto(w,(A+B)v)$ が有界であることと $w\in D(A^*)$ は同値であり、$(A+B)^*=A^*+B^*$ である。thm-mm-adjoint の $\Rightarrow$ により $A^*$ は単調で、$(B^*w,w)=(w,Bw)\ge0$ なので $(A+B)^*$ も単調である。thm-mm-adjoint の $\Leftarrow$ により $A+B$ は極大単調である。$\square$
極大単調作用素 $A$ のレゾルベント $J_\lambda$ を使って $A_\lambda:=\frac1\lambda(I-J_\lambda)$ とおいたものを $A$ の 吉田近似 という(吉田耕作(Kôsaku Yosida)による)。凸関数を滑らかにする Moreau–吉田正則化 とは別のもので、こちらは作用素を有界な作用素で近似する。
$A$ を極大単調作用素、$\lambda>0$ とする。
要点:$v=J_\lambda v+\lambda A_\lambda v$ と $A$ の単調性から $(A_\lambda v,v)\ge\lambda|A_\lambda v|^2$ が出る。$D(A)$ の上では $A_\lambda=J_\lambda A$ で、$\|J_\lambda\|\le1$ と $D(A)$ の稠密性から各点の収束が出る。
1:$J_\lambda v\in D(A)$ で $J_\lambda v+\lambda AJ_\lambda v=v$ なので、$AJ_\lambda v=\frac1\lambda(v-J_\lambda v)=A_\lambda v$ である。$v\in D(A)$ なら $A_\lambda v=\frac1\lambda(v-J_\lambda v)$ は $D(A)$ に属し、前半から $A(A_\lambda v)=\frac1\lambda(Av-AJ_\lambda v)=\frac1\lambda(Av-A_\lambda v)$ である。すなわち $A_\lambda v+\lambda A(A_\lambda v)=Av$ であり、$A_\lambda v=J_\lambda Av$ である。
2:$v=J_\lambda v+\lambda A_\lambda v$ と 1 から$$(A_\lambda v,v)=\lambda|A_\lambda v|^2+(AJ_\lambda v,J_\lambda v)\ge\lambda|A_\lambda v|^2$$である($A$ の単調性)。右辺は $0$ 以上で、Cauchy–Schwarz の不等式から $\lambda|A_\lambda v|^2\le|A_\lambda v|\,|v|$、すなわち $|A_\lambda v|\le|v|/\lambda$ である。
3:1 の後半と $\|J_\lambda\|\le1$(thm-mm-basic の 3)による。
4:$v\in D(A)$ なら、3 から $|v-J_\lambda v|=\lambda|A_\lambda v|\le\lambda|Av|\to0$ である。一般の $v\in H$ と $\varepsilon>0$ について、$D(A)$ の稠密性(thm-mm-basic の 1)から $|v-v_1|\le\varepsilon$ となる $v_1\in D(A)$ をとると、$\|J_\lambda\|\le1$ から$$|J_\lambda v-v|\le|J_\lambda(v-v_1)|+|J_\lambda v_1-v_1|+|v_1-v|\le2\varepsilon+\lambda|Av_1|$$なので、$\limsup_{\lambda\to0}|J_\lambda v-v|\le2\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意なので $J_\lambda v\to v$ である。$v\in D(A)$ なら、1 の後半とこれを $Av$ に当てて $A_\lambda v=J_\lambda Av\to Av$ である。$\square$
2 により $A_\lambda$ は有界で単調なので、ex-mm-bounded により極大単調でもある。$\|A_\lambda\|\le1/\lambda$ は、$A$ が有界でなければ $\lambda\to0$ で発散しうる。たとえば ex-mm-rotation の $A$ では、各ブロックで $J_\lambda=(I-\lambda n\Theta)/(1+\lambda^2n^2)$ なので $A_\lambda$ はブロックごとに $(\lambda n^2I+n\Theta)/(1+\lambda^2n^2)$ であり、そのノルムは $n/\sqrt{1+\lambda^2n^2}$ である($aI+b\Theta$ のノルムは $\sqrt{a^2+b^2}$)。$n\to\infty$ の上限をとると $\|A_\lambda\|=1/\lambda$ である。吉田近似は作用素ノルムでは $A$ に近づかず、$D(A)$ の各点でだけ近づく。以上は Bre11 Proposition 7.2(pp. 182–183)である。
極大単調作用素の主な使い道は発展方程式 $u'+Au=0$ であり、その解の存在と一意性、および吉田近似による構成は Hille–吉田の定理 の定理「Hilbert 空間での Hille–吉田の定理」と節「吉田近似」で扱う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-mm-adjoint・cor-mm-adjoint-maximal の $A$ の閉性 | $H=\ell^2$、有限個の成分だけが $0$ でない数列の部分空間 $c_{00}$ 上の $A=0$ | $A$ は稠密に定義され、$A$ も $A^*=0$($D(A^*)=H$)も単調で、$A^*$ は極大単調(ex-mm-bounded)だが、$R(I+A)=c_{00}\neq H$ |
| thm-mm-adjoint の $A^*$ の単調性 | ex-mm-symadj の作用素 $C$ | $C$ は閉で稠密に定義された対称な単調作用素だが、$C^*$ は単調でなく、$C$ は極大単調でない |
| prop-mm-sum の $B$ の有界性 | ex-mm-rotation の $A$ と $B=-A$ | $A,B$ はともに極大単調だが、$A+B$ は $D(A)$ 上の $0$ で、$R(I+A+B)=D(A)\neq H$ |
| cor-mm-selfadjoint の対称性 | ex-mm-rotation の $A$ | 極大単調だが $A^*=-A\neq A$ で、自己共役でない |
| thm-mm-basic の $R(I+A)=H$ | $M\neq H$ を閉部分空間として $D(A)=M$ 上の $A=0$ | 単調で閉だが、$D(A)$ は稠密でなく、$I+\lambda A$ は全射でない |
$H=\ell^2$、$D_0=\{x\mid\sum_nn^2x_n^2< \infty\}$ とし、$D(C)=\{x\in D_0\mid\sum_nx_n=0\}$ 上で $(Cx)_n=nx_n$ と定める。$C$ は閉で稠密に定義された対称な単調作用素だが、$y=(1/n)_{n\ge1}-\frac12e_1$ について $y\in D(C^*)$、$C^*y=-\frac12e_1$、$(C^*y,y)=-\frac14< 0$ である。
$x\in D_0$ なら Cauchy–Schwarz の不等式で $\sum|x_n|\le(\sum n^2x_n^2)^{1/2}(\sum n^{-2})^{1/2}$ なので、$L(x):=\sum x_n$ は収束し、$|L(x)|\le c\,|Cx|$($c^2=\sum n^{-2}$)である。閉性:$x^{(j)}\to x$、$Cx^{(j)}\to z$ なら各成分で $z_n=nx_n$ なので $x\in D_0$、$Cx=z$ で、$|L(x^{(j)})-L(x)|\le c\,|Cx^{(j)}-Cx|\to0$ から $L(x)=0$ である。稠密性:標準基底 $e_k$ について、$k$ を含まない $m$ 個の添字の集合 $S$ をとり $x=e_k-\frac1m\sum_{n\in S}e_n$ とおくと $x\in D(C)$、$|x-e_k|=1/\sqrt m$ なので、$e_k$ は $D(C)$ の閉包に入り、$D(C)$ は稠密である。対称性と単調性は $(Cx,x')=\sum nx_nx'_n$ による。最後に、$x\in D(C)$ について $(y,Cx)=\sum_nx_n-\frac12x_1=-\frac12x_1=(-\frac12e_1,x)$ なので $y\in D(C^*)$、$C^*y=-\frac12e_1$ で、$(C^*y,y)=-\frac12y_1=-\frac14$ である。thm-mm-adjoint により $C$ は極大単調でなく、$y\notin D_0$($n\ge2$ で $ny_n=1$)なので $C^*\neq C$ である。
極大単調作用素の定義と thm-mm-basic は Bre11 §7.1(定義と Proposition 7.1、pp. 181–182)に証明つきである。和が極大単調とは限らないことは同書 Remark 1(p. 182)、cor-mm-selfadjoint の $\Rightarrow$ は同書 Proposition 7.6(p. 193、証明つき)、随伴が単調とは限らないことと thm-mm-adjoint・cor-mm-adjoint-maximal の同値は同書 Remark 8(pp. 193–194)に、証明なしで述べられている。prop-mm-yosida は同書 Proposition 7.2(pp. 182–183)に証明つきである。prop-mm-graph・thm-mm-adjoint・cor-mm-adjoint-maximal・prop-mm-sum の証明と表の例は、この記事で与えたものである。
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