対称群(symmetric group)とは、集合の置換全体が写像の合成についてなす群である。$n$ 元集合の対称群 $S_n$ は位数 $n!$ をもち、互換、さらに隣接互換だけで生成される。共役類は巡回型、したがって $n$ の分割によって分類される。集合への群作用は対称群への準同型と同じ情報であり、Cayleyの定理により全ての群はある対称群の部分群として実現できる。対称群は抽象的な対称性を具体的な並べ替えへ翻訳する普遍的な群である。
集合 $X$ を保ったまま要素を並べ替える操作を全て集めると、二つの操作を続けて行う合成、何もしない恒等置換、操作を元へ戻す逆置換が揃う。これらは群をなし、$X$ の対称群と呼ばれる。
対称群の重要性は「対称性」という抽象語を具体的な写像へ変える点にある。群 $G$ が集合 $X$ に作用するとは、各 $g\in G$ を $X$ の置換へ対応させ、その積を置換の合成へ対応させることである。逆に全ての群は自分自身を並べ替えるので、ある対称群の部分群になる。対称群は群論の一例ではなく、全ての群が姿を現す共通の舞台である。
集合 $X$ の置換全体を $S_X$ または $\operatorname{Sym}(X)$ と書く。写像の合成を積とすると、$S_X$ は群をなし、$X$ の 対称群という。$X=\{1,\ldots,n\}$ のとき $S_X$ を $S_n$ と書き、$n$ 次対称群という。
群の公理は写像合成から直接従う。合成は結合的で、恒等写像 $1_X$ が単位元、全単射 $\sigma$ の逆写像 $\sigma^{-1}$ が逆元になる。
符号準同型 $\operatorname{sgn}:S_n\to\{\pm1\}$ の核
$$
A_n=\ker(\operatorname{sgn})
$$
を 交代群という。これは偶置換全体からなり、$n\ge2$ では $S_n$ の指数2の正規部分群である。
$S_n$ は「$n$ 個の名前を付け替える全ての方法」を収める。対象にラベル $1,\ldots,n$ を付けて議論しても、その数学的性質がラベルの選び方に依存してはならない。対称群はラベル変更の全体であり、不変量とはこの作用で変わらない量である。
対称群には非常に多くの部分群がある。それぞれが「許される並べ替えだけ」を選び出し、正多角形の回転・反転、方程式の根の置換、グラフの自己同型などを記述する。抽象群を対称群の部分群として見ると、群の元は具体的に何かを動かす操作になる。
$S_n$ の元は巡回型によって共役類へ分かれる。共役 $\tau\sigma\tau^{-1}$ は置換 $\sigma$ が動かすラベルを $\tau$ で一斉に付け替える操作なので、「どの長さの巡回が何個あるか」だけが残る。
$S_1$ は自明群である。$S_2=\{1,(12)\}$ は巡回群 $C_2$ と同型。$S_3$ は
$$
1,(12),(13),(23),(123),(132)
$$
の6元からなり、正三角形の全対称性を表す位数6の二面体群と同型である。$S_3$ は $(12)(23)\ne(23)(12)$ なので非可換であり、最小の非可換群である。
正 $n$ 角形の回転と反転は頂点集合を置換するので $S_n$ の部分群をなす。得られる二面体群の位数は $2n$ である。$n\ge4$ では $2n< n!$ だから、頂点の任意の置換が図形の剛体対称性として実現するわけではない。
頂点集合 $V$ を持つグラフの自己同型は $S_V$ の部分群である。完全グラフ $K_n$ ではどの置換も隣接関係を保つため $\operatorname{Aut}(K_n)=S_n$。道グラフでは向きを反転する置換しか非自明な自己同型がなく、対称群の部分群が構造の対称性を測る。
$X$ から自身への写像全体は合成についてモノイドをなすが、定値写像などは逆元を持たない。対称群に入るのは可逆な自己写像、すなわち置換だけである。対称群を「自己写像全体」と取り違えると群の逆元公理が破れる。
$n$ 元集合の対称群の位数は
$$
|S_n|=n!
$$
である。
置換 $\sigma$ の値を順に決める。$\sigma(1)$ には $n$ 通り、$\sigma(2)$ には既に使った像を除いて $n-1$ 通り、以下同様に $\sigma(n)$ には1通りある。積の法則から全単射の総数は $n(n-1)\cdots1=n!$ である。
$S_n$ は互換全体で生成される。さらに隣接互換
$$
s_i=(i\ i+1)\qquad(1\le i< n)
$$
だけでも生成される。
任意の置換は互いに素な巡回置換の積へ分解され、$k$-巡回は $k-1$ 個の互換の積に書けるので、互換全体が $S_n$ を生成する。
任意の互換 $(i\ j)$($i< j$)は
$$
(i\ j)=s_i s_{i+1}\cdots s_{j-2}s_{j-1}s_{j-2}\cdots s_{i+1}s_i
$$
と隣接互換の積に書ける。右辺は $i$ を隣接交換で $j$ まで運び、$j$ を元の位置へ戻し、他の元を最終的に固定する。従って隣接互換だけで全互換、ゆえに $S_n$ を生成する。
$S_n$ の二つの置換が共役であることと、巡回型が一致することは同値である。従って $S_n$ の共役類は $n$ の分割と一対一に対応する。
$\tau(a_1\cdots a_k)\tau^{-1}=(\tau(a_1)\cdots\tau(a_k))$ なので、共役は各巡回のラベルを付け替えるだけで巡回長を保つ。従って共役なら巡回型は一致する。
逆に $\sigma,\rho$ の巡回型が同じとする。対応する同じ長さの巡回を一つずつ組にし、$\sigma$ の各巡回に並ぶ元を $\rho$ の対応する巡回の同じ位置の元へ送る置換 $\tau$ を作る。このとき各元上で $\tau\sigma=\rho\tau$、従って $\rho=\tau\sigma\tau^{-1}$ である。
任意の群 $G$ は対称群 $S_G$ の部分群と同型である。$G$ が有限で $|G|=n$ なら、$G$ は $S_n$ の部分群と同型である。
各 $g\in G$ に左移動
$$
L_g:G\to G,\qquad L_g(x)=gx
$$
を対応させる。$L_g$ は逆写像 $L_{g^{-1}}$ を持つ置換であり、$L_gL_h=L_{gh}$ だから
$$
L:G\to S_G,\qquad g\mapsto L_g
$$
は群準同型である。$L_g=L_h$ なら単位元 $e$ で評価して $g=L_g(e)=L_h(e)=h$ なので単射。従って像 $L(G)$ は $G$ と同型な部分群である。
群 $G$ の集合 $X$ への左作用を与えることと、群準同型
$$
\rho:G\to S_X
$$
を与えることは同値である。
作用から $\rho(g)(x)=g\cdot x$ と置く。作用律 $(gh)\cdot x=g\cdot(h\cdot x)$ により $\rho(gh)=\rho(g)\rho(h)$、単位元の作用により $\rho(e)=1_X$ だから準同型である。逆に準同型 $\rho$ から $g\cdot x=\rho(g)(x)$ と定めれば、準同型性が作用律を与える。二つの構成は互いに逆である。
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