Minkowski時空の導入の動機付け

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 Newton力学においてある慣性系 $S$ の直交座標系を $\{t,x,y,z\}$ ($t$ は絶対時間) とする。
$S$ に対して、$x$ 方向に速度 $v$ で等速運動する慣性系 $X'$ の直交座標系を $\{t',x',y',z'\}$ とする。
$t=t'=0$ において、両者の原点が一致しているとすると、二つの座標系間の座標変換は
$$ \begin{align} t&=t',\\ x&=x'+vt',\\ y&=y',\ z=z', \end{align} $$
で与えられる。これはGalilei変換と呼ばれる(ものの特別な場合である)。

 慣性系 $S$ における光速を $c$ とする。両系の原点が一致した瞬間に原点において光が全方向に発されたとする。このとき、慣性系 $S$ において光線の軌道 $(x(t),y(t),z(t))$ を考えると光速は $(dx/dt)^2+(dy/dt)^2+(dz/dt)^2=c^2$ であるから、$-(cdt)^2+dx^2+dy^2+dz^2=0$ を満たす。光速度不変の原理によれば、慣性系 $S'$ においても光線の軌道は $-(cdt')^2+dx'^2+dy'^2+dz'^2=0$ を満たさなければならない。しかし、上のGalilei変換は明らかにこれを満たさない。従って、特殊相対性理論においては互いに等速運動する慣性系間の座標変換としてGalilei変換を採用することはできない。

 ある慣性系において等速直線運動する粒子は別の慣性系でもそうであるべきという考察から、慣性系間の座標変換は線形変換と仮定する。線形変換でかつ $-(cdt)^2+dx^2+dy^2+dz^2=-(cdt')^2+dx'^2+dy'^2+dz'^2$ となる変換の成す群がPoincare群である。Galilei変換が3次元Euclid空間の等長変換となっていたことを参考にすると、Poincare群が等長変換となっている4次元時空、すなわちMinkowski時空を考え、慣性系間の座標変換をPoincare変換とする理論を建設すると都合が良さそうである。

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