完全数とは、自分自身を除く約数の和が自分自身に等しくなる数である。偶数の完全数はメルセンヌ素数と対応している。奇数の完全数が存在するかどうかは未解決だが、奇数の完全数が満足すべき条件については多くの結果が知られている。
完全数 (perfect number) とは、
$$6=1+2+3$$
のように、自分自身を除く約数の和が自分自身に等しくなる数である。$\sigma$ 関数を用いると、$N$ が完全数であるとは $\sigma(N)-N=N$ つまり
$$\sigma(N)=2N \label{eq1}\tag{1}$$
が成り立つということができる。
約数総和関数
の性質から、
$$\prod_{i=1}^r \frac{1-\frac{1}{p_i^{e_i+1}}}{1-\frac{1}{p_i}}=2 \label{eq2}\tag{2}$$
とも同値である。
$$6, 28, 496, \ldots$$
は完全数であることが古くから知られていた。すでにEuclidが偶数の完全数を求める方法を発見している。$2^p-1$ が素数(つまりメルセンヌ素数)で、$N=2^{p-1}(2^p-1)$ のとき、
$$\sigma(N)=(2^{p-1}+\cdots +1)2^p=2N$$
より $N$ は完全数である。また、Eulerは逆に $N$ が偶数の完全数ならば $N=2^{m-1}(2^m-1)$ かつ $2^m-1$ は素数となることを証明している(証明は
約数総和関数:定理4
を参照)。つまり偶数の完全数はメルセンヌ素数と対応している。
一方、奇数の完全数は存在するかどうかもわかっていない。Eulerは偶数の完全数に関する上記の定理に対応して、奇数の完全数がどのような形をとらなければならないかも示している(証明は 約数総和関数:定理5 を参照)。
$N$ が奇数の完全数ならば
$$N=p^\alpha M^2, p\not\mid M$$
かつ $p\equiv\alpha\equiv 1\Mod{4}$ である。
このことから $N$ が奇数の完全数ならば
$$N=p^\alpha M^2=p^\alpha q_1^{2b_1} q_2^{2b_2} \cdots q_s^{2b_s}, p\equiv\alpha\equiv 1\Mod{4}\label{eq3} \tag{3}$$
と素因数分解できることがわかる。
また、
約数関数: 定理1
より $\sigma(N)$ は乗法的関数だから、
$$\sigma(N)=\sigma(p^\alpha) \sigma(q_1^{2b_1}) \sigma(q_2^{2b_2}) \cdots \sigma(q_s^{2b_s})$$
となるので、\eqref{eq1} より $\sigma(p^\alpha)$ および各 $\sigma(q_i^{2b_i})$ はいずれも $\sigma(N)=2N$ を割り切るが、
$\sigma(q_i^{2b_i})$ は奇数だから、$\sigma(p^\alpha)/2$ および各 $\sigma(q_i^{2b_i})$ はいずれも $N$ を割り切ることがわかる。
Stern (1886)
は $N$ が奇数の完全数ならば $N\equiv 1\Mod{4}$ となることを示した。
$N$ が奇数の完全数ならば $N\equiv 1\Mod{12}$ または $N\equiv 9\Mod{36}$ となることは
Touchard (1953)
によってJacobiの$\theta$関数の理論を用いて証明され、その後 Satyanarayana (1959), Raghavachari (1966), Holdener (2002)により独立に初等的に証明された(証明は
約数総和関数:定理6
を参照)。
$N$ が奇数の完全数ならば $N\equiv 1\Mod{12}$ または $N\equiv 9\Mod{36}$ となる (Touchard, 1953)。
やや強く、$N$ が奇数の完全数ならば $N\equiv 1\Mod{12}, N\equiv 81\Mod{324},$ または $N\equiv 117\Mod{468}$ である (Roberts, 2008)。
$\omega(N)$ を $N$ の相異なる素因数の個数、$\Omega(N)$ を $N$ の重複も含めた素因数の個数とする。
$N$ が奇数の完全数とする。
Nielsen (2015)
は $\omega(N)\geq 10$ を示した。また、
Nielsen (2007)
は $N$ が $3$ で割り切れないとき $\omega(N)\geq 12$ となることを示している。
一方、
Ochem and Rao (2012)
は重複も含めると $N$ は少なくとも$101$個の素因数を持たなければならないことが知られている。
なお、$\Omega(N)$ と $\omega(N)$ の間には、次のような関係が成り立つ。
これらのことから、素因数の指数の平均値は $103/41=2.512\cdots$ 以上でならなければならないことがわかる。
Ochem and Rao (2012)
は奇数の完全数は $10^{1500}$ より大きくなければならないことを示した。
一方、奇数の完全数は無限個か有限個かもわかっていないが、素因数の個数が限られた奇数の完全数は有限個であることが知られている。これについては後の節を参照。