時空(spacetime)とは、連結な Lorentz 多様体(符号数 $(-,+,\dots,+)$ の非退化計量 $g$ をもつ多様体)に時間的向き付け、すなわち各点の 2 つの時間錐のどちらが未来かの連続な選択を与えたものである。非零接ベクトルは $g(v,v)$ の符号により時間的・空間的・光的に分類され、未来向き時間的曲線・因果曲線の存在で関係 $p\ll q$、$p\le q$ と時間的未来 $I^+(p)$・因果的未来 $J^+(p)$ が定まる。$\le$ は前順序であるが、閉時間的曲線があれば反対称でない。Minkowski 時空・Schwarzschild 時空・de Sitter 時空が代表例であり、一般相対論の舞台として因果構造・特異点定理の基礎になる。
前提知識: 多様体, 擬リーマン多様体, リーマン接続, 連結空間
以下、多様体はすべて $C^\infty$ 級・Hausdorff・第2可算公理を満たすものとし、次元は $n\ge2$ とする。点 $p$ における接空間を $T_pM$、$M$ 上の滑らかなベクトル場全体を $\mathfrak{X}(M)$ と書く。
$n\ge2$ 次元の多様体 $M$ 上の Lorentz 計量(Lorentzian metric)とは、各点 $p\in M$ の接空間 $T_pM$ 上の非退化な対称双線形形式 $g_p$ を滑らかに与える $(0,2)$ 型のテンソル場 $g$ であって、各 $g_p$ の符号数が $(-,+,\dots,+)$、すなわち $T_pM$ の基底 $e_0,e_1,\dots,e_{n-1}$ で
$$
g_p(e_0,e_0)=-1,\qquad g_p(e_i,e_i)=1\ (1\le i\le n-1),\qquad g_p(e_\mu,e_\nu)=0\ (\mu\neq\nu)
$$
を満たすもの(正規直交基底)が存在するものをいう。組 $(M,g)$ を Lorentz 多様体(Lorentzian manifold)という。Lorentz 多様体は擬リーマン多様体の特別な場合であり、リーマン接続・リーマン曲率テンソル・測地線などは擬リーマン多様体の場合と同じ定義で用いる。
Lorentz 多様体 $(M,g)$ の点 $p$ における非零な接ベクトル $v\in T_pM$ を、$g_p(v,v)$ の符号に応じて次のように分類する。
Lorentz 多様体 $(M,g)$ の各点 $p$ において、$T_pM$ の時間的ベクトル全体はちょうど2つの連結成分に分かれる(prop-spacetime-time-cone)。各成分を $p$ における時間錐(time cone)という。
$(M,g)$ が時間的向き付け可能(time-orientable)であるとは、$M$ 上の連続な時間的ベクトル場 $T$(各点 $p$ で $T_p$ が時間的)が存在することをいう。そのような $T$ を1つ選ぶことを時間的向き付け(time orientation)を選ぶといい、各点 $p$ で $T_p$ を含む時間錐を $p$ における未来錐、もう一方を過去錐という。$T$ と $T'$ が各点で同じ時間錐に属するとき、両者は同じ時間的向き付けを定めるとみなす。
時間的向き付けを選んだ Lorentz 多様体において、非零な因果的ベクトル $v\in T_pM$ は、$g_p(v,T_p)<0$ のとき未来向き(future-directed)、$g_p(v,T_p)>0$ のとき過去向き(past-directed)であるという($g_p(v,T_p)\neq0$ であることは prop-spacetime-orthogonal-complement から従う。時間的な $v$ については、未来向きであることは $v$ が未来錐に属することと同値である。prop-spacetime-time-cone)。
時空(spacetime)とは、連結な時間的向き付け可能 Lorentz 多様体 $(M,g)$ に時間的向き付けを1つ選んで固定したものをいう。一般相対論では通常 $\dim M=4$ をとるが、数学的には任意の $n\ge2$ で定式化する。
文献により、次元を $4$ に固定する流儀(HE73 §3.1、ONe83 Ch. 12)、$C^\infty$ より弱い微分可能性を許す流儀、連結性を課さない流儀(本サイトの参考書「因果階層」)がある。本記事および Totally Vicious時空の記事で連結性を用いる箇所はその旨を明示する。
時空 $(M,g)$ における区分的に滑らかな曲線 $\gamma\colon[a,b]\to M$ が未来向き時間的曲線(future-directed timelike curve)であるとは、各 $s\in[a,b]$ における接ベクトル(区分点では左右両方の片側接ベクトル)が非零かつ未来向きの時間的ベクトルであることをいう。「時間的」を「因果的」に置き換えたものを未来向き因果曲線(future-directed causal curve)という。曲線の向きを逆にしたもの($s\mapsto\gamma(a+b-s)$)を過去向きという。
$p,q\in M$ に対し、$p$ から $q$ への未来向き時間的曲線が存在するとき $p\ll q$ と書き、$p=q$ であるか $p$ から $q$ への未来向き因果曲線が存在するとき $p\le q$ と書く。
Lorentz 多様体は、各点の接空間に「光円錐」の構造を持つ多様体である。リーマン多様体が「距離」の滑らかな一般化であるのに対し、Lorentz 多様体は「因果関係(どの事象がどの事象に影響しうるか)」の滑らかな一般化である。各点の接空間は、時間的ベクトルの2つの錐(未来錐・過去錐)、その境界をなす光的ベクトルの集合(光円錐)、および光円錐の外側の空間的ベクトルの領域に分かれる。時間的向き付けは「どちらの錐が未来か」を全域で連続に選ぶことであり、これがあってはじめて「$p$ から $q$ へ信号を送れる」という関係 $p\le q$ が定義できる。一般相対論では、重力とは計量 $g$ の曲がりであり、それは光や物質の伝播可能な方向、すなわち因果構造そのものを変形させる。
$M=\mathbb{R}^n$、座標 $(t,x^1,\dots,x^{n-1})$ に対し
$$
g=-dt^2+(dx^1)^2+\cdots+(dx^{n-1})^2
$$
とおく。各点で $\partial_t,\partial_{x^1},\dots,\partial_{x^{n-1}}$ が正規直交基底なので $g$ は Lorentz 計量であり、$T:=\partial_t$ は大域的な連続時間的ベクトル場である。$\mathbb{R}^n$ は連結なので、$(\mathbb{R}^n,g)$ に $\partial_t$ を未来向きとする時間的向き付けを与えたものは時空である。これを Minkowski 時空(Minkowski spacetime)といい、$\mathbb{L}^n$ と書く。特殊相対論の舞台であり、リーマン曲率テンソルは恒等的に $0$ である。
原点 $o$ の時間的未来は
$$
I^+(o)=\{(t,x)\in\mathbb{R}\times\mathbb{R}^{n-1}\mid t>|x|\}
$$
である。実際、$\gamma(s)=(t(s),x(s))$ を $o$ から出る未来向き時間的曲線とすると、各 $s$ で $-t'(s)^2+|x'(s)|^2<0$ かつ $t'(s)>0$(未来向き:$g(\gamma',\partial_t)=-t'<0$)なので $t'(s)>|x'(s)|$ であり、$s>0$ に対し
$$
t(s)=\int_0^st'(\sigma)\,d\sigma>\int_0^s|x'(\sigma)|\,d\sigma\ge\Bigl|\int_0^sx'(\sigma)\,d\sigma\Bigr|=|x(s)|
$$
を得る。逆に $t>|x|$ なら線分 $s\mapsto(st,sx)$($0\le s\le1$)が $o$ から $(t,x)$ への未来向き時間的曲線である。同様に $J^+(o)=\{t\ge|x|\}$ であり、$J^+(o)$ は閉集合、$I^+(o)$ はその内部である。
定数 $m>0$ を固定し、$M:=\{(t,r,\theta,\phi)\mid t\in\mathbb{R},\ r>2m,\ (\theta,\phi)\in S^2\}=\mathbb{R}\times(2m,\infty)\times S^2$ 上に
$$
g=-\Bigl(1-\frac{2m}{r}\Bigr)dt^2+\Bigl(1-\frac{2m}{r}\Bigr)^{-1}dr^2+r^2\bigl(d\theta^2+\sin^2\theta\,d\phi^2\bigr)
$$
を与える。$r>2m$ では $1-2m/r>0$ なので、$\partial_t$ は時間的、$\partial_r$ と球面 $S^2$ に接する方向は空間的で互いに直交し、$g$ は Lorentz 計量である。$M$ は連結で $\partial_t$ が大域的な時間的ベクトル場なので、$\partial_t$ を未来向きとして時空になる。これを(外部領域の)Schwarzschild 時空という。Einstein 方程式の真空解(リッチテンソルが恒等的に $0$)であり、球対称な星やブラックホールの外側の重力場を記述する(ONe83 Ch. 13、Wal84 Ch. 6)。この計量はWarped積多様体 $B\times_rS^2$($B=\mathbb{R}\times(2m,\infty)$)の形をしており、曲率の計算はその記事で扱う。
$H>0$ を固定し、$M=\mathbb{R}\times S^3$ 上に
$$
g=-dt^2+H^{-2}\cosh^2(Ht)\,g_{S^3}
$$
($g_{S^3}$ は単位球面 $S^3$ の標準リーマン計量)を与える。各点で $\partial_t$ は時間的、$S^3$ に接する方向は空間的で $\partial_t$ に直交するので $g$ は Lorentz 計量であり、$\partial_t$ により時間的に向き付けられた連結な時空になる。これを de Sitter 時空という。正の宇宙定数を持つ Einstein 方程式の解で、断面曲率が一定 $H^2$ の Lorentz 多様体(球面の Lorentz 版)である(HE73 §5.2、ONe83 Ch. 4)。これも Warped 積 $\mathbb{R}\times_{H^{-1}\cosh(Ht)}S^3$ の形をしている。
$M=\mathbb{R}\times S^1$、座標 $(x,\theta)$($\theta$ は $2\pi$ を周期とする)に対し
$$
g=dx^2-d\theta^2
$$
とおく。$\partial_\theta$ が時間的、$\partial_x$ が空間的なので $g$ は Lorentz 計量で、$\partial_\theta$ を未来向きとして時空になる。任意の点 $p=(x_0,\theta_0)$ に対し、曲線 $s\mapsto(x_0,\theta_0+s)$($0\le s\le2\pi$)は $p$ から $p$ に戻る未来向き時間的曲線、すなわち閉時間的曲線であり、$p\ll p$ が成り立つ。さらに任意の2点 $p,q$ に対し $p\ll q$ かつ $q\ll p$ が成り立つ(Totally Vicious時空の記事で証明する)。したがってこの時空の因果的順序 $\le$ は反対称性を満たさない(rem-spacetime-preorder-not-partial-order)。
$(M,h)$ をリーマン多様体(各点で $h_p$ が正定値)とすると、任意の非零 $v\in T_pM$ に対し $h_p(v,v)>0$ なので時間的ベクトルが1つも存在せず、符号数の条件 $(-,+,\dots,+)$ を満たさない。したがってリーマン多様体は Lorentz 多様体ではなく、時空でもない。たとえば標準計量を持つ $\mathbb{R}^n$ と Minkowski 時空 $\mathbb{L}^n$ は、ともに「$\mathbb{R}^n$ 上の定数係数の計量」でありながら、符号数のただ一点の違いによって、光円錐・因果構造・未来と過去の区別を持つか持たないかという質的に別の対象になる。
$\varphi(x):=\pi x/2$ とおき、$\mathbb{R}^2$(座標 $(t,x)$)上に
$$
g:=-(\cos\varphi\,dt+\sin\varphi\,dx)^2+(-\sin\varphi\,dt+\cos\varphi\,dx)^2
$$
を与える。各点で $e(x):=\cos\varphi\,\partial_t+\sin\varphi\,\partial_x$ と $e'(x):=-\sin\varphi\,\partial_t+\cos\varphi\,\partial_x$ は $g(e,e)=-1$、$g(e',e')=1$、$g(e,e')=0$ を満たす正規直交基底なので、$g$ は Lorentz 計量である。展開すると $g=-\cos(\pi x)\,dt^2-2\sin(\pi x)\,dt\,dx+\cos(\pi x)\,dx^2$ であり、係数は $x$ について周期 $2$ を持つので、$g$ は商多様体 $M:=\mathbb{R}^2/\bigl((t,x)\sim(t,x+2)\bigr)\cong\mathbb{R}\times S^1$ 上の Lorentz 計量 $\bar g$ を定める。$M$ は連結である。
$(M,\bar g)$ は時間的向き付け可能でない。実際、連続な時間的ベクトル場 $\bar T$ が $M$ 上に存在したとし、その $\mathbb{R}^2$ への持ち上げを $T$ とすると、$T$ は $x$ について周期 $2$ の連続な時間的ベクトル場である。関数 $\psi(x):=g(T_{(0,x)},e(x))$ を考えると、$e(x)$ は時間的なので、$T_{(0,x)}$ が時間的であることと prop-spacetime-orthogonal-complement により $\psi(x)\neq0$ である($\psi(x)=0$ なら $T_{(0,x)}$ は $e(x)$ の直交補空間に属し、空間的になる)。$\psi$ は $[0,2]$ 上で連続かつ零点を持たないので符号が一定である。ところが $e(2)=\cos\pi\,\partial_t+\sin\pi\,\partial_x=-e(0)$ かつ $T_{(0,2)}=T_{(0,0)}$ なので $\psi(2)=-\psi(0)$ となり、矛盾する。
この例は「Lorentz 多様体(連結)」という性質を満たすが「時間的向き付け可能」という性質を満たさず、Lorentz 多様体であることが時空であることを含意しないことを示す。時間錐は各点で2つあるが、$x$ 方向に一周すると未来錐と過去錐が入れ替わってしまい、未来を大域的に選べない。
$(M,g)$ を Lorentz 多様体、$p\in M$、$u\in T_pM$ を時間的ベクトルとする。このとき $u$ の直交補空間
$$
u^\perp:=\{v\in T_pM\mid g_p(u,v)=0\}
$$
は $n-1$ 次元であり、その上で $g_p$ は正定値である。すなわち $u$ に直交する非零ベクトルは必ず空間的である。したがって、非零な因果的ベクトル $v$ と時間的ベクトル $u$ に対し $g_p(u,v)\neq0$ である。
$g_p$ は非退化なので、線形写像 $T_pM\to\mathbb{R}$、$v\mapsto g_p(u,v)$ は零写像でなく、その核 $u^\perp$ は $n-1$ 次元である。$u$ は時間的なので $g_p(u,u)<0$ であり $u\notin u^\perp$ である。ゆえに $T_pM=\mathbb{R}u\oplus u^\perp$($g_p$-直交直和)である。
$e_0:=u/\sqrt{-g_p(u,u)}$ とおくと $g_p(e_0,e_0)=-1$ である。$u^\perp$ 上の $g_p$ の制限は対称双線形形式なので、$u^\perp$ の基底 $e_1,\dots,e_{n-1}$ で $g_p(e_i,e_j)=0$($i\neq j$)かつ $g_p(e_i,e_i)\in\{-1,0,1\}$ となるものがとれる(対称双線形形式の対角化)。すると $e_0,e_1,\dots,e_{n-1}$ は $T_pM$ の $g_p$-直交基底であり、$g_p$ の符号数が $(-,+,\dots,+)$ であることと Sylvester の慣性法則により、負の対角成分はちょうど1個、零の対角成分は0個である。$g_p(e_0,e_0)=-1$ が唯一の負の成分なので $g_p(e_i,e_i)=1$($1\le i\le n-1$)となる。よって $v=\sum_{i=1}^{n-1}v^ie_i\in u^\perp$ に対し $g_p(v,v)=\sum_{i=1}^{n-1}(v^i)^2$ であり、$v\neq0$ なら正である。
最後の主張:非零な因果的ベクトル $v$ が $g_p(u,v)=0$ を満たすと $v\in u^\perp$、$v\neq0$ より $g_p(v,v)>0$ となり、$v$ が因果的($g_p(v,v)\le0$)であることに反する。$\square$
$(M,g)$ を Lorentz 多様体、$p\in M$ とし、$e_0,\dots,e_{n-1}$ を $T_pM$ の正規直交基底とする。$v=\sum_\mu v^\mu e_\mu$ に対し $v':=(v^1,\dots,v^{n-1})\in\mathbb{R}^{n-1}$ と書く。
時間的向き付け可能性は、$M$ の開被覆 $\{U_i\}_{i\in I}$ と各 $U_i$ 上の連続な時間的ベクトル場 $X_i$ であって、$U_i\cap U_j\neq\emptyset$ 上で常に $g(X_i,X_j)<0$ を満たすものの存在としても定式化できる。この定式化は上の定義と同値である。大域的な $T$ があれば $U_i=M$、$X_i=T$ ととればよい。逆にこのような族があれば、多様体はパラコンパクトなので $\{U_i\}$ に従属する1の分割 $\{\rho_i\}$ をとり $T:=\sum_i\rho_iX_i$ とおく。各点 $p$ で $\rho_i(p)>0$ となる $i$ は有限個あり、それらの $X_i(p)$ は prop-spacetime-time-cone (2) により同じ時間錐に属し、時間錐は凸なので $T_p$ はその時間錐に属する時間的ベクトルである。よって $T$ は大域的な連続時間的ベクトル場である。
時空 $(M,g)$ の因果的順序 $\le$ は反射的かつ推移的である。すなわち $M$ 上の前順序をなす。同様に $\ll$ は推移的である。さらに $p\ll q$ ならば $p\le q$ である。
反射性は定義($p\le p$)による。推移性:$p\le q$ かつ $q\le r$ とする。$p=q$ または $q=r$ なら明らかなので、$p\neq q$、$q\neq r$ とし、$p$ から $q$ への未来向き因果曲線 $\gamma_1\colon[0,1]\to M$ と $q$ から $r$ への未来向き因果曲線 $\gamma_2\colon[0,1]\to M$ をとる。連結した曲線
$$
\gamma(s):=\begin{cases}\gamma_1(s)&(0\le s\le1)\\ \gamma_2(s-1)&(1\le s\le2)\end{cases}
$$
は $\gamma_1(1)=q=\gamma_2(0)$ より連続で、区分的に滑らかであり、$s=1$ における左右の片側接ベクトルはそれぞれ $\gamma_1$ と $\gamma_2$ の接ベクトルなので、すべての片側接ベクトルが未来向き因果的である。よって $\gamma$ は $p$ から $r$ への未来向き因果曲線であり $p\le r$ が成り立つ。$\ll$ の推移性は「因果曲線」を「時間的曲線」に置き換えて同じ議論で従う。最後の主張は、時間的ベクトルが因果的であることから従う。$\square$
$\le$ が半順序になるためには、さらに反対称性($p\le q$ かつ $q\le p$ ならば $p=q$)が必要である。これは一般には成り立たない。ex-spacetime-lorentz-cylinder では任意の $p$ について $p\ll p$、したがって相異なる $p,q$ について $p\le q$ かつ $q\le p$ が成り立つ。反対称性は、時空が閉因果曲線($\gamma(a)=\gamma(b)$ となる未来向き因果曲線)を持たないこと、すなわち因果的(causal)であることと同値である。閉時間的曲線を持たない時空を chronological という。これらを含む因果性条件の系列(chronological、causal、strongly causal、stably causal、globally hyperbolic など)を因果階層といい、その最下段が、すべての点が閉時間的曲線上にあり因果的順序が完全に自明化した Totally Vicious時空である。
thm-spacetime-causal-basics の証明は、各点が凸近傍(測地線に関して凸な近傍)からなる近傍基を持つことと、凸近傍の内側で $I^+(p)$ が指数写像による未来錐の像であることを用いる。証明は ONe83 Ch. 14(冒頭の補題群)、HE73 §6.2、BEE96 Ch. 3 に譲る。(3) は、$p$ の凸近傍 $C$ 内で未来向き時間的ベクトル $v$ に対し $\exp_p(\varepsilon v)\in I^+(p)$($\varepsilon>0$ が小さいとき)が成り立つことから従う。これらは Totally Vicious時空の記事で用いる。
時空は一般相対論の舞台そのものである。一般相対論は Einstein 方程式
$$
\mathrm{Ric}-\frac12Sg+\Lambda g=8\pi T
$$
($\mathrm{Ric}$ はリッチテンソル、$S$ はスカラー曲率、$\Lambda$ は宇宙定数、$T$ はエネルギー運動量テンソル)を満たす Lorentz 計量 $g$ を求める理論であり、Minkowski 時空・Schwarzschild 時空・de Sitter 時空はいずれもその厳密解である(Wal84 Ch. 4–6、HE73 Ch. 5)。未来向き時間的測地線は自由落下する質点の世界線を、光的測地線は光の伝播を表し、曲率が測地線の相対的な集束・発散を支配する。因果的順序 $\le$ は事象の因果的未来・過去を定め、初期値問題の適切性(Cauchy 発展)の基礎になる。因果性がどこまで保たれるかを分類するのが因果階層であり、その極端な破れの例が Totally Vicious時空、曲率が測地線の集束を強制する条件が Generic条件(Lorentz幾何) で、後者は Penrose–Hawking の特異点定理の仮定に現れる。計量を正の関数倍する共形変換は因果的類別を保ち、因果構造は計量の共形類だけで決まる。宇宙論では FLRW 時空(Robertson–Walker時空)が基本的な例である。
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