基本的な概念と用語

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 因果構造はLorentz多様体上の概念であり、Riemann多様体にはその類似物は見いだせない。特にLorentz多様体の特別な場合である時空が舞台である。まずは時間的向きについて述べる。

時間的向き

Lorentz多様体 $(M,g)$ が時間的向き付け可能とは、Mの開被覆 $\{O_i\}$ と各 $\{O_i\}$ 上の時間的ベクトル場 $X_i$ の組 $\{(O_i,X_i)\}$で、$O_i\cap O_j(\ne\emptyset)$ 上で $g(X_i,X_j)<0$ となるものが存在するときをいう。
このとき 各点 $p\in M$ に対して、$p\in O_i$ となる $i$ に対して、$X_i(p)$$p$ における未来向きを定める。
また時間的向き付け可能なLorentz多様体を時空と呼ぶ。
時空 $M$ が時間的向き付け可能であるための必要十分条件は明らかに次である。

時間的向き付け可能であることの必要十分条件

Lorentz多様体 $(M,g)$ が時間的向き付け可能であることの必要十分条件は、$M$ 全体で定義された時間的ベクトル場が存在することである。

Lorentz多様体 $(M,g)$ が時間的向き付け可能であるとすると、上の定義の開被覆と時間的ベクトル場の組 $\{(O_i,X_i)\}$ を取り、$\{O_i\}$ に関する1の分割 $\{\rho_i\}$ をとり、$X=\sum_i\rho_iX_i$ とすると、$X$$M$ 全体で定義された時間的ベクトル場である。
逆に、$M$ 全体で定義された時間的ベクトル場 $X$ があるとする。
$M$ 上の任意のリーマン計量 $g_R$ をとり、$g(Y,Z):=g_R(Y,Z)-2||X||_R^{-2}g_R(X,Y)g_R(X,Z)$ と置くと $g(X,X)=-||X||_R^2<0$ であり、$g$ はLorentz計量である。
さらに $\{O_i,X|_{O_i}\}$ は上の定義の要件を明らかに満たすから $g$ は時間的向き付け可能である。

Lorentz多様体 $(M,g)$ が時間的向き付け可能でなくても次の処方で時間的向き付け可能なLorentz多様体を得ることができる。$\tilde{M}:=\{(p,C),\ p\in M,\ C は T_pM の2つの{\rm causal\ cone}のどちらか\}$ とする。このとき $\pi:\tilde{M}\ni(p,C)\mapsto p\in M$ は被覆写像であり、$\tilde{M}$$M$ の二重被覆多様体である。さらに $\tilde{g}:=\pi^\ast g$ として $\tilde{M}$ に計量を定める。このとき、$\tilde{M}$ が連結でない、すなわち2つの連結成分を持つなら $M$ 自体が時間的向き付け可能である。したがって $M$ が時間的向き付け可能でないなら $\tilde{M}$ は連結である。$\tilde{M}$ が連結ならその各点にはcausal coneのうちの一つが連続的に割り当てられているので $\tilde{M}$ は時間的向き付け可能である。

さらに次の定理が成り立つ。

滑らかな多様体 $M$ に対して以下は同値である。

  1. $M$ 上にLorentz計量が存在する。

  2. $M$ 上に時間的向き付け可能なLorentz計量が存在する。

  3. $M$ 上に至る所0にならない大域的なベクトル場 $X$ が存在する。

  4. $M$ はコンパクトでないか、またはEuler標数が0である。

$(3)\Leftrightarrow(4)$ 微分トポロジーからの帰結である。

$(2)\Rightarrow(3)$ 上の命題から従う。

$(3)\Rightarrow(2)$ $M$ 上に任意にリーマン計量 $g_R$ を定めるとき、$g_L:=g_R-\frac{2}{g_R(X,X)}{}^\flat X\otimes{}^\flat X$ は向き付け可能なLorentz計量を定める。

$(2)\Rightarrow(1)$ 自明である。

$(1)\Rightarrow(2)$ $(M,g)$ の時間的向き付け可能な二重被覆多様体 $(\tilde{M},\tilde{g})$ は(4)を満たす。したがって $M$ も(4)を満たす。

時空

 時間的向き付け可能なLorentz多様体 $(M,g)$時空 (spacetime) と呼ばれる。
区分的 $C^1$ 級の曲線 $\gamma:I\rightarrow M$ が未来向きtimelike曲線であるとは、接ベクトルが常に未来向きのtimelikeベクトルとなることである。
区分的 $C^1$ 級の曲線 $\gamma:I\rightarrow M$ が未来向きcausal曲線であるとは、接ベクトル $\dot{\gamma}$ が常に未来向きで、かつ $||\dot{\gamma}||^2\geq0$ となることである。

時間的未来(過去)、因果的未来(過去)

$p\in M$ に対して、未来向きtimelike曲線 $\gamma:[0,1]\rightarrow M$$\gamma(0)=1,\gamma(1)=q$ となるものが存在するとき、$p<< q$ と書く。
$$ \begin{align} I^+(p):=\{q\in M;\ p<< q\} \end{align} $$
$p$時間的未来 (timelike future) と呼ぶ。
また未来向きcausal曲線 $\gamma:[0,1]\rightarrow M$$\gamma(0)=p,\gamma(1)=q$ となるものが存在するとき、$p\le q$ と書く。
$$ \begin{align} J^+(p):=\{q\in M;\ p\le q\} \end{align} $$
$p$因果的未来 (causal future) と呼ぶ。

$I^\pm,J^\pm$$M$ から $M$ の冪集合 $\mathcal{P}(M)$ への写像とみなすことができる。

内側連続、外側連続

$I^\pm:M\rightarrow\mathcal{P}(M)$

  1. 内側連続 (inner continuous)であるとは、任意の $p\in M$ と任意のコンパクト集合 $K\subset I^\pm(p)$ に対して、$p$ の適当な近傍 $U$ が存在し、任意の $q\in U$ に対して、$K\subset I^\pm(q)$ となるときを言う。

  2. 外側連続 (outer continuous)であるとは、任意の $p\in M$ と任意のコンパクト集合 $K\subset M\backslash \overline{I^\pm(p)}$ に対して、$p$ の適当な近傍 $U$ が存在し、任意の $q\in U$ に対して、$K\subset M\backslash \overline{I^\pm(q)}$ となるときを言う。

$I^\pm$ の内側連続性

$I^\pm$ は常に内側連続である。

任意の $p\in M$ と任意のコンパクト集合 $K\subset M\backslash \overline{I^\pm(p)}$ に対して、$\{I^\pm(q);\ a\in I^\pm(p)\}$$K$ の開被覆である。
従って、有限個の $q_i\in I^\pm(p)$ を選んで、 $K\subset\bigcup_{q_i}I^\pm(q_i)$ と出来る。
このとき、$\bigcap_{q_i}I^\mp(q_i)$$p$ の近傍であり、望みの条件を満たす。

achronal set、acausal set

因果構造の分析においてcausal曲線によってどの点が結ばれるかは重要な問題意識であるが、逆に決して結ばれないという性質も重要である。
部分集合 $A\subset M$achronal (resp. acausal)とは、$A$ の任意の2点がtimelike曲線 (resp. causal曲線) で結ばれないことである。
例えば開近傍などはacausalではないことはすぐに分かる。
このことからachronal,acausal集合は時空の中の“薄い”集合であると予想できる。
実際、適当な条件の下で位相的超曲面になることが証明できる。

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