$R$を可換環、$\mathfrak{p}\neq R$をイデアルとする。 任意の$a,b\in R$に対して、$a,b\not\in\mathfrak{p}$ならば$ab\not\in\mathfrak{p}$が成り立つとき、$\mathfrak{p}$を素イデアルという。
$R$を環、$\mathfrak{p}\neq R$をイデアルとする。 $\mathfrak{p}$が素イデアル$\Leftrightarrow$$R/\mathfrak{p}$が整域。
$(\Rightarrow)$ $a,b\in R$に対して、$(a+\mathfrak{p})(b+\mathfrak{p})=\mathfrak{p}$が成り立つとする。 このとき、$ab\in\mathfrak{p}$であり$\mathfrak{p}$が素イデアルなので$a\in\mathfrak{p}$または$b\in \mathfrak{p}$である。 よって、$R/\mathfrak{p}$において積が零元になるときにはどちらかの元が零元となるので、$R/\mathfrak{p}$は整域。 $(\Leftarrow)$ $a,b\not\in\mathfrak{p}$を任意に取る。 $(a+\mathfrak{p})(b+\mathfrak{p})=ab+\mathfrak{p}$であるが、$R/\mathfrak{p}$は整域なので$ab+\mathfrak{p}\neq\mathfrak{p}$が成り立つ。 よって、$ab\not\in\mathfrak{p}$より$\mathfrak{p}$は素イデアル。
$R$を可換環とする。 零イデアル$(0)$が素イデアル$\Leftrightarrow$$R$は整域である。
$(\Rightarrow)$ 対偶を示す。 $a\neq0$を零因子とすると、$ab=0$となるような$b\neq0$が存在する。 よって、$a,b\not\in(0)$だが$ab\in(0)$を満たすような$a,b$が存在するので$(0)$は素イデアルではない。 $(\Leftarrow)$ 対偶を示す。 $(0)$が素イデアルではないので、ある$a,b\in R$が存在して$a,b\not\in (0)$だが$ab\in (0)$が成り立つ。 よって、$a,b$は0ではない零因子なので$R$は整域ではない。
$R$を可換環、$\mathfrak{p}$を素イデアル、$I_1,\cdots,I_n$をイデアルとする。 $I_1\cap\cdots\cap I_n$$\Rightarrow$$I_m\subset\mathfrak{p}$を満たす$1\leq m\leq n$が存在する。
背理法で示す。 $I_m\subset\mathfrak{p}$を満たす$1\leq m\leq n$が存在しないと仮定する。 $k=1,\cdots,n$に対して、$x_k\in I_k\backslash\mathfrak{p}$が取れる。 このとき、$x_1\cdots x_n\in I_1\cap\cdots\cap I_n$であるが、$x_1\cdots x_n\not\in\mathfrak{p}$なのでこれは矛盾。
$R$を可換環、$I\subset\mathfrak{p}$をイデアルとする。 $\mathfrak{p}$が$R$の素イデアル$\Leftrightarrow$$\mathfrak{p}/I$が$R/I$の素イデアル
$
(R/I)/(\mathfrak{p}/I)\cong R/\mathfrak{p}
$
なので、左辺が整域であることと右辺が整域であることは同値であることから従う。
$R$を可換環、$\mathfrak{m}\neq R$をイデアルとする。 $I\neq R$がイデアルで$\mathfrak{m}\subset I$ならば$\mathfrak{m}=I$が成り立つとき、$\mathfrak{m}$を極大イデアルという。
$R$を環、$\mathfrak{m}\neq R$をイデアルとする。 $\mathfrak{m}$が極大イデアル$\Leftrightarrow$$R/\mathfrak{p}$が体。
$(\Rightarrow)$ $a+\mathfrak{m}\in (R/\mathfrak{m})\setminus \{0+\mathfrak{m}\}$ となる $a+\mathfrak{m}$ を任意にとると、$a\in R\setminus\mathfrak{m}$。極大イデアルの定義より $\mathfrak{m}+(a)=R=(1)$ である。よって $ax+y=1$ となる $x\in R$ と $y\in\mathfrak{m}$ が存在するから $ax+\mathfrak{m}=1+\mathfrak{m}$ つまり $(a+\mathfrak{m})(x+\mathfrak{m})=1+\mathfrak{m}$ より、$a+\mathfrak{m}\in (R/\mathfrak{m})^*$。よって、$R/\mathfrak{m}$ は体。
$(\Leftarrow)$ $a\in R\setminus\mathfrak{m}$ となる $a$ を任意にとる。$a+\mathfrak{m}\in (R/\mathfrak{m})\setminus \{0+\mathfrak{m}\}$ だから仮定より $a+\mathfrak{m}\in (R/\mathfrak{m})^*$、よって $(a+\mathfrak{m})(x+\mathfrak{m})=1+\mathfrak{m}$ となる $x\in R$ がとれる。つまり $ax+y=1$ となる $x\in R$ と $y\in\mathfrak{m}$ がとれるから、$1=ax+y\in (a)+\mathfrak{m}$ より $\mathfrak{m}+(a)=(1)=R$。よって $\mathfrak{m}$ は極大イデアル。
$R$を可換環とする。 零イデアル$(0)$が極大イデアル$\Leftrightarrow$$R$は体である。
前頁の命題3 より明らか。
極大イデアルは素イデアルである。
$R$を環、$\mathfrak{m}$を極大イデアルとする。 このとき、$R/\mathfrak{m}$は体であり、体は整域なので$R/\mathfrak{m}$は整域である。 よって$\mathfrak{m}$は素イデアルである。
$p$を素数とする。 $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$は体なので、$p\mathbb{Z}$は極大イデアルである。 従って、素イデアルでもある。
2変数多項式環$\mathbb{R}[x,y]$においてイデアル$(x)$を考える。 準同型定理より
$
\mathbb{R}[x,y]/(x)\cong\mathbb{R}[x]
$
が成り立ち、$\mathbb{R}[x]$は整域だが体ではないので、$(x)$は素イデアルだが極大イデアルではない。
$R$を可換環とする。 $a\in R$が可逆元ではないとすると、$a$を含む極大イデアルが存在する。
$a$ を含む、自明でない $R$ のイデアル全体の集合を $\Sigma$ とおくと、$a$ は可逆元でないので、$(a)\neq R$ だから、$\Sigma$ は空集合ではない。
$\Sigma$ の上昇列は上界をもつことを示す。$(I_\alpha)$ を $\Sigma$ の上昇列とし、$I=\bigcup_\alpha I_\alpha$ とおくと、$I$ は $R$ のイデアルとなる。実際、$a\in I_\alpha$ ならば $ka\in I_\alpha\subset I$ より $ka\in I$、$a\in I_\alpha$, $b\in I_\beta$ ならば $a+b\in I_\alpha\cup I_\beta\subset I$ より $a+b\in I$ となる。
$\Sigma$ のどのイデアルも $1$ を含まないから $1\not\in I$ なので $I$ は自明でないイデアルなので、$(I_\alpha)$ は上界 $I$ をもつ。
このことから、Zornの補題より $\Sigma$ は極大元 $\mathfrak{m}$ をもつ。これは $a$ を含む、$R$ の極大イデアルである。
$R$を可換環、$I$をイデアルとする。
$
\sqrt{I}=\{r\in R| ^\exists n>0, r^n\in I\}
$
と定義し、これを$I$の根基という。 特に、$I=(0)$ならば$\sqrt{(0)}$を$R$の根基という。 $r\in\sqrt{(0)}$ならば$r$はべき零であるという。
$R$を可換環、$I$をイデアルとする。 $\sqrt{(0)}=(0)$が成り立つならば、$R$は被約であるという。 $\sqrt{I}=I$が成り立つならば、$I$は被約であるという。
イデアルの根基はイデアルである。
$R$を可換環、$I$をイデアルとする。 $0\in\sqrt{I}$は明らか。 $a,b\in\sqrt{I}$とする。 このときある$m,n$が存在して$a^m,b^n\in I$である。 $(-a+b)^{m+n}$の各項は$a^m$または$b^n$で割り切れるので$-a+b\in\sqrt{I}$。 また、任意の$r\in R$に対して、$(ra)^n\in I$なので$ra\in\sqrt{I}$。 以上より、$\sqrt{I}$は$R$のイデアルである。
$R$を可換環、$I,J$をイデアルとする。以下が成り立つ。 (1)$\sqrt{\sqrt{I}}=\sqrt{I}$ (2)$\sqrt{I+J}=\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$
(1)$\sqrt{\sqrt{I}}\supset\sqrt{I}$は明らか。 $\sqrt{\sqrt{I}}\subset\sqrt{I}$を示す。 $r\in\sqrt{\sqrt{I}}$を任意に取る。 ある$n>0$が存在して$r^n\in\sqrt{I}$なので、ある$m>0$が存在して$(r^n)^m\in I$。 つまり、ある$mn>0$が存在して$r^{mn}\in I$なので、$r\in\sqrt{I}$。 以上より、$\sqrt{\sqrt{I}}=\sqrt{I}$。 (2)$\sqrt{I+J}\subset\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$を示す。 $r\in\sqrt{I+J}$を任意に取る。 ある$n>0$と$a\in I,b\in J$が存在して$r^n=a+b$と書ける。 $a^1=a,b^1=b$なので$a\in\sqrt{I},b\in\sqrt{J}$で$a+b\in\sqrt{I}+\sqrt{J}$である。 つまり$r^n\in\sqrt{I}+\sqrt{J}$なので$r\in\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$より$\sqrt{I+J}\subset\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$が成り立つ。 $\sqrt{I+J}\supset\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$を示す。 $r\in\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$を任意に取る。 ある$n>0$と$a\in\sqrt{I},b\in\sqrt{J}$が存在して$r^n=a+b$と書ける。 $a\in\sqrt{I},b\in\sqrt{J}$よりある$i,j>0$が存在して$a^i\in I,b^j\in J$が成り立つ。 $(r^n)^{i+j}=(a+b)^{i+j}\in I+J$なので、$r\in\sqrt{I+J}$。 以上より、$\sqrt{I+J}=\sqrt{\sqrt{I}+\sqrt{J}}$。
$R$を可換環、$I,J$をイデアルとする。 $\sqrt{I}+\sqrt{J}=R\Leftrightarrow I+J=R$
$(\Leftarrow)$ $I\subset \sqrt{I}$, $J\subset \sqrt{J}$ より $\sqrt{I}+\sqrt{J}=R$ は明らか。
$(\Rightarrow)$ $a+b=1$ となる $a\in\sqrt{I}$, $b\in\sqrt{J}$ がとれる。よって $a^m\in I$, $b^n\in J$ となる正の整数 $m, n$ がとれるので、
前頁命題14
の証明と同様に、$1=(a+b)^{m+n-1}\in I^m+J^n$ より、$I^m+J^n=(1)=R$。
$R$を可換環、$\mathfrak{p}$を素イデアルとする。 $\sqrt{\mathfrak{p}}=\mathfrak{p}$である。
$\sqrt{\mathfrak{p}}\supset\mathfrak{p}$は明らか。 $\sqrt{\mathfrak{p}}\subset\mathfrak{p}$を示す。 $p\in\sqrt{\mathfrak{p}}$を任意に取る。 ある$n>0$が存在して$p^n\in\mathfrak{p}$が存在する。 $p^n=p\cdot p^{n-1}$であり、$\mathfrak{p}$は素イデアルなので$p\in\mathfrak{p}$または$p^{n-1}\in\mathfrak{p}$が成り立つ。 これを繰り返すことで$p\in\mathfrak{p}$となるので$\sqrt{\mathfrak{p}}\subset\mathfrak{p}$である。 つまり、$\mathfrak{p}$が素イデアルならば$\sqrt{\mathfrak{p}}=\mathfrak{p}$が成り立つ。
$I$ が有限生成で $I\subset\sqrt{J}$ ならば $I^n\subset J$ となる正の整数 $J$ がとれる。
$a_1, \ldots, a_r$ を $I$ の生成系とする。仮定より、各 $i$ について $a_i\in\sqrt{J}$ より、$a_i^{e_i}\in J$ となる正の整数 $e_i$ がとれる。$n=\sum_{i=1}^r e_i$ ととれることを示す。
$a_1^{f_1} \cdots a_r^{f_r}$ の形の $I$ の要素をとると、$\sum_{i=1}^r f_i\geq n$ ならば、$e_i\geq f_i$ となる $i$ が存在するから、$a_1^{f_1} \cdots a_r^{f_r}\in (a_i^{e_i})\subset J$ となることがわかる。
$x\in I^n$ を任意にとる。$x=\sum_{j=1}^s k_j a_1^{f_{1j}} \cdots a_r^{f_{rj}}$ となる $k_1, \ldots, s\in R$ と、各 $j$ について $f_{1j}+\cdots +f_{rj}\geq n$ となる正の整数 $f_{11}, \ldots, f_{rs}$ がとれる。先に示したことから、各 $j$ について $a_1^{f_{1j}} \cdots a_r^{f_{rj}}\in J$ となるから $x\in J$ となる。よって $I^n\subset J$。