$kn+a$ $(k\in\Z)$ の形の数全体の集合を
$$n\Z +a=\{a, a\pm n, a\pm 2n, \ldots\}=\{kn+a, k\in\Z\}$$
とおくと、
除法の原理
より整数全体は
$$n\Z, n\Z +1, n\Z +2, \ldots, n\Z +n-1$$
に分けられる。$n\Z+a (0\leq a\leq n-1)$ は $n$ で割った余りが $a$ に一致する整数全体の集合となる。
これは整数全体を、与えられた整数 $n$ で割った余りにより類別しているとみることができる。より具体的に、次の定理が成り立つ。
次の各条件は互いに同値である。
上記の条件が成り立つことを $a$ は $n$ を法として $b$ に合同であるといい
$$a\equiv b\Mod{n}$$
であらわす。
1.$\Longrightarrow$2. $a-b=kn$ とおくと
$$a+sn=b+kn+tn=b+(k+s)n, b+tn=a-kn+tn=a+(t-k)n$$
より $n\Z+a=n\Z+b$.
2.$\Longrightarrow$3. $n\Z+a=n\Z+b$ ならば $a\in n\Z+a=n\Z+b$.
3.$\Longrightarrow$4. $a=kn+b\in n\Z+b$ ならば $b=a-kn\in n\Z+a$.
4.$\Longrightarrow$5.
$a=qn+r$, $0\leq r\leq n-1$ とおく。
$$b=kn+a\in n\Z+a$$
ならば
$$b=kn+a=kn+qn+r=(k+q)n+r, 0\leq r\leq n-1$$
より
$b$ を $n$ で割った余りも $r$ となる。
5.$\Longrightarrow$1. $a=kn+r$, $b=\ell n+r$ ならば $a-b=(k-\ell)n$ は $n$ で割り切れる。
$n\Z+a$ を $a$ の属する剰余類といい、$a\Mod{n}$ であらわす。$a\equiv b\Mod{n}$ は $a$ と $b$ の属する剰余類が一致することと定義できる。
$n$ を $0$ でない整数とする。
このことは整数の演算 $+, -, \times$ が $\Z/n\Z$ においてwell-definedであり、かつそれらの演算により $\Z/n\Z$ が環となっていることを意味する。
$4n+3$ の形の素数は無限に多く存在する。
実数 $X>0$ を任意にとり、$P$ を $X$ より小さいすべての素数の積とする。$4P-1$ は必ず $4n+3$ の形の素因数 $q$ をもつ。実際、
$$4P-1=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k}$$
と分解すると、$4P-1$ は奇数だから各 $p_i$ も奇数でなければならないがすべての $p_i$ が $p_i\equiv 1\Mod{4}$ とすると
定理2
より$4P-1\equiv 1\Mod{4}$ となる。しかし、$4P-1$ を $4$ で割った余りは $3$ だから、これは矛盾。
$q$ は $P$ を割り切らない。実際 $q\mid P$ ならば $q\mid 1=4P-(4P-1)$ となり、矛盾する。よって $q$ は $X$ より大きい $4n+3$ の形の素数である。$X$ は任意にとれるから $4n+3$ の形の素数は無限に多く存在する。
整数の演算 $+, -, \times$ が合同式の世界でもそのまま定義されるのに対して、合同式の世界における除法は整数の除法とは大きく様相が異なる。
$n$ を $0$ でない整数とする。
$\gcd(a, n)=1$ で $ab\equiv ac\Mod{n}$ のとき $b\equiv c\Mod{n}$.
とくに $p$ が素数で $a$ が $p$ で割り切れないとき $ab\equiv ac\Mod{n}$ ならば $b\equiv c\Mod{n}$.
$\gcd(a, n)=1$ かつ $n\mid (ab-ac)=a(b-c)$ ならば 倍数と約数: 定理5 より、$n\mid (b-c)$ つまり $b\equiv c\Mod{n}$.
$k, n$ が整数で $n\neq 0, \gcd(a, n)\mid k$ のとき $ab\equiv k\Mod{n}$ となる $b$ が存在する。
$\gcd(a, n)\mid k$ より Bezoutの補題 から、$ab-nt=k$ となる整数 $b, t$ がとれる。
まず $\gcd(a, n)=1$ の場合について示す。
$m=0, 1, \ldots, n-1$ に対して $am$ を $n$ で割った余りを $s_m$ とおくと
定理4
より、$s_i=s_j, 0\leq i< j\leq n-1$ ならば $i\equiv j\Mod{n}$ であるが、$0\leq i< j\leq n-1$ より、これは不可能である。
よって $s_0, s_1, \ldots, s_{n-1}$ は $n$ 個の値 $0, 1, \ldots, n-1$ をすべてとらなければならない。
つまり各 $s=0, 1, \ldots, n-1$ に対して $ab\equiv s\Mod{n}$ となる $b$ が存在する。
よって 任意の整数 $k$ に対して、$k$ を $n$ で割った余りを $r$ とすると、$ab\equiv r\equiv k\Mod{n}$ となる $b$ が存在する。
一般の場合、 $\gcd(a, n)\mid k$ ならば $a_1=a/\gcd(a, n), n_1=n/\gcd(a, n), k_1=k/\gcd(a, n)$ とおくと
$\gcd(a_1, n_1)=1$ なので
$$a_1 b\equiv k_1\Mod{n_1}$$
となる $b$ が存在する。
倍数と約数: 定理2 (9)
より
$$ab\equiv k\Mod{n}$$
が成り立つ。
このことから、とくに次のことがわかる。
$\gcd(a, n)=1$ のとき $ab\equiv 1\Mod{n}$ となる $b$ が存在する。この $b$ を $n$ を法とする $a$ の逆元といい、$\bar a$ あるいは $a^{-1}$ であらわす($\bar a$ は $a$ の属する剰余類を意味する場合もあるので注意)。
$\gcd(a, n)=1$ ならば $ab\equiv c\Mod{n}\Longleftrightarrow b\equiv ca^{-1}\Mod{n}$.
$b\equiv ca^{-1}\Mod{n}$ のとき $ab\equiv (ac)a^{-1}\equiv caa^{-1}\equiv c\Mod{n}$.
逆に $ab\equiv c\Mod{n}$ ならば $ab\equiv aca^{-1}\Mod{n}$ なので
定理4
より $b\equiv ca^{-1}\Mod{n}$.
$\gcd(a, n)=1$ が $n$ を法として逆元をもつとき、$\Z/n\Z$ における除法が $(b\Mod{n})/(a\Mod{n})=ba^{-1}\Mod{n}$ により定義できる。とくに $p$ が素数のとき $\Z/p\Z$ が体となる。一方 $n$ が素数でなければ、$1$ と $n$ 自身を除く $n$ の約数 $d$ は $n$ を法として逆元をもたず、$0$ と合同でもないので、$\Z/n\Z$ は体ではない。
よって $\Z/n\Z$ が体となることの必要十分条件は $n$ が素数であることがわかる。より一般に、$(n)$ が可換環 $R$ の素イデアルであることの必要十分条件は、 $R/(n)$ が体となることである。 素イデアルと極大イデアル の項目を参照。
$0$ ではない整数 $n$ をとる。
整数の組 $a_1, a_2, \ldots, a_r$ が $n$ を法とする完全剰余系であるとは、任意の整数 $m$ について $m\equiv a_i\Mod{n}$ となる $a_i$ が一意に定まることをいう。
冒頭に書いたことから、 $0, 1, \ldots, n-1$ は $n$ を法とする完全剰余系となる。
$n$ 個の整数 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ が $n$ を法とする完全剰余系であるための必要十分条件は $i\neq j$ のとき必ず $a_i\nequiv a_j\Mod{n}$ となることである。
$a_0, a_1, \ldots, a_{n-1}$ が $n$ を法とする完全剰余系であるとする。
定義より $a_i$ についても $a_i\equiv a_j\Mod{n}$ となる $a_j$ が一意に定まるが、$a_i\equiv a_i\Mod{n}$ だから $i=j$ でなければならない。
よって $i\neq j$ のとき必ず $a_i\nequiv a_j\Mod{n}$ となる。
$n$ 個の整数 $a_0, a_1, \ldots, a_{n-1}$ が $n$ を法として互いに不合同とする。
$n$ 個の整数 $a_0, a_1, \ldots, a_{n-1}$ が $n$ を法とする完全剰余系であることを示すため、まず
任意の整数 $m$ について $m\equiv a_i\Mod{n}$ となる $a_i$ は、あるとしても$1$つしかないことを示す。
実際、$i\neq j$ にもかかわらず $m\equiv a_i\Mod{n}$, $m\equiv a_j\Mod{n}$ がともに成り立つとき $a_i\equiv a_j\Mod{n}$ となって、先の仮定に反する。
各 $a_i$ を $n$ で割った余りを $s_i$ とする。$s_i$ は $n$個の数 $0, 1, \ldots, n-1$ のいずれかである。
また $a_0, a_1, \ldots, a_{n-1}$ は $n$ を法として互いに不合同だから、各 $s_i$ は相異なる値をとる。よって $s_0, s_1, \ldots, s_{n-1}$ は $n$ 個の値 $0, 1, \ldots, n-1$ をすべてとらなければならない。
つまり各 $s=0, 1, \ldots, n-1$ に対して $a_i\equiv s\Mod{n}$ となる $i$ が存在する。
任意の整数 $m$ に対して、$m$ を $n$ で割った余りを $r$ とすると、$a_i\equiv r\Mod{n}$ となる $i$ が存在する。このとき
$m\equiv a_i\equiv s\Mod{n}$ が成り立つ。
剰余系を考えることで、たとえば次のことがすぐにわかる。
$3n+2$ の形の平方数は存在しない。
$-1, 0, 1$ は $3$ を法とする完全剰余系である。 $k\equiv 0\Mod{3}$ のとき $k^2\equiv 0\Mod{3}$, $k\equiv \pm 1\Mod{3}$ のとき $k^2\equiv 1\Mod{3}$ であるから
任意の整数 $k$ について $k^2\equiv 0\Mod{3}$ または $k^2\equiv 1\Mod{3}$ が成り立つ。よって $k^2\equiv 2\Mod{3}$ となる整数 $k$ は存在しない。
与えられた数で割った余りが別の与えられた数に一致する平方数が存在するかどうかという問題は、平方剰余のページでより詳しく扱う。