前ページの定理2 より、円分多項式 $\Phi_n(X) (n=1, 2, \ldots)$ は整数係数の多項式であるから $a$ が整数ならば $\Phi_n(a)$ の値も整数である。
やや一般化された円分多項式の値について考察する。
$$\Phi_n(X, Y)=(X^n-Y^n)/\prod_{d< n, d\mid n}\Phi_d(X, Y)$$
により$2$変数多項式 $\Phi_n(X, Y)$ を定めると
$$\Phi_n(X, Y)=Y^{\deg \Phi_n}\Phi_n(X/Y, 1)=Y^{\varphi(n)}\Phi_n(X/Y, 1)$$
となる。つまり $\Phi_n(X)=a_d X^d+a_{d-1} X^{d-1}+\cdots +a_0$ とおくと
$$\Phi_n(X, Y)=a_d X^d+a_{d-1} X^{d-1} Y+\cdots +a_0 Y^d$$
となる。よって$a, b$ が整数ならば $\Phi_n(a, b)$ の値も整数である。
LTE (Lifting The Exponent) と呼ばれる、次の定理から証明する。
$a, b$ を互いに素な整数とし、$p$ を $a, b$ のどちらも割り切らない素数とする。
$bc\equiv a\pmod{p}$ となる $c$ をとり、$p$ を法とする $c$ の位数 を $g$ とおく。
このとき $n=p^e m, \gcd(m, p)=1$ とおくと
$$p\mid (a^n-b^n)\Longleftrightarrow g\mid n\Longleftrightarrow g\mid m$$
となる。さらに
$$p^f\mid\mid (a^g-b^g)$$
となる $f$ をとると、$g\mid m$ かつ $p$ が奇素数 のとき
$$p^{f+e}\mid\mid (a^n-b^n)$$
が成り立つ。
まず $g$ は $p-1$ を割り切るので $\gcd(g, p)=1$ だから
$$g\mid m\Longleftrightarrow g\mid n\Longleftrightarrow p\mid (c^n-1)$$
となる。
$$c^n\equiv 1\pmod{p}\Longleftrightarrow a^n\equiv (bc)^n\equiv b^n\pmod{p}$$
だから
$$p\mid (a^n-b^n)\Longleftrightarrow g\mid m$$
となる。
そこで $m$ が $g$ で割り切れるとして $m=kg$ つまり
$$n=p^e kg$$
とおく。また $c$ を
$$bc\equiv a\pmod{p^{f+e+1}}$$
となるようにとる($p$ は $a, b$ のどちらも割り切らないから $\gcd(b, p^{f+e+1}=1)$ も成り立つので、このような $c$ をとることができる)。
$\ell=0, 1, \ldots, e-1$ に対し、
$$c^{p^\ell g}\equiv 1\pmod{p}$$
が明らかに成り立つ。そこで
$$c^{p^\ell g}=Ap+1$$
とおくと
$$\begin{split}
\frac{c^{p^{\ell +1}g}-1}{c^{p^\ell g}-1}= & \sum_{i=0}^{p-1} c^{i p^\ell g}=\sum_{i=0}^{p-1} (Ap+1)^i \\
= & p+\frac{p(p+1)}{2}Ap+(Ap^2)\sum_{i=2}^{p-1}\binom{i}{2}+\cdots
\end{split}$$
より、
$$\frac{c^{p^{\ell +1}g}-1}{c^{p^\ell g}-1}\equiv p\pmod{p^2}$$
となるから
$$\tag{3.1} p\mid\mid \frac{c^{p^{\ell +1}g}-1}{c^{p^\ell g}-1}\label{eq31}$$
が成り立つ。よって
$$p^e\mid\mid \frac{c^{p^e g}-1}{c^g-1}$$
となるから
$$p^{f+e}\mid\mid (c^{p^e g}-1)$$
となる。
前ページの命題1
の (iii) より
$$\gcd((c^n-1)/(c^{p^e g}-1), c^{p^e g}-1)\mid \frac{n}{p^e g}=k$$
だが、$k$ は $p$ で割り切れないから
$$p^{f+e}\mid\mid (c^n-1)$$
が成り立つ。
$$a^n-b^n\equiv b^n(c^n-1)\pmod{p^{f+e+1}}$$
で $b$ は $p$ で割り切れないから
$$p^{f+e}\mid\mid (a^n-b^n)$$
も成り立つ。
$a, b$ を互いに素な整数とし、$p$ を $a, b$ のどちらも割り切らない素数とする。
$bc\equiv a\pmod{p}$ となる $c$ をとり、$p$ を法とする $c$ の位数 を $g$ とおき
$$p^f\mid\mid (a^g-b^g)$$
となる $f$ をとる。
$p\mid \Phi_n(a, b)$ となる必要十分条件は $n=p^e g$ となる整数 $e\geq 0$ が存在することである。
さらに $p^f\mid\mid \Phi_g(a, b)$ となり $p$ が奇素数で $e\geq 1$ あるいは $p=2$ で $e\geq 2$ のとき $p\mid\mid\Phi_{p^e g}(a, b)$ となる。
$d< g$ のとき $p$ は $a^d-b^d$ を割り切らないので $\Phi_d(a, b)$ も割り切らない。
$p^f\mid\mid (a^g-b^g)$ となるから
$$p^f\mid\mid (a^g-b^g)/\prod_{d\mid g, d< g}\Phi_d(a, b)=\Phi_g(a, b)$$
となる。
$e\geq 1$ とする。$1\leq d< g$ のとき $p$ は $a^{p^{e-1} d}-b^{p^{e-1} d}$ を割り切らないので $\Phi_{p^{e-1} d}(a, b)$ も割り切らない。
$p$ が奇素数のとき \eqref{eq31} より
$$p\mid\mid \frac{a^{p^e g}-b^{p^e g}}{a^{p^{e-1} g}-b^{p^{e-1} g}}=\prod_{d\mid g}\Phi_{p^e d}(a, b)$$
となるから、
LTE
より $p\mid\mid \Phi_{p^e g}(a, b)$ となる。
$p=2, e\geq 2$ のとき $g=1$ で $a, b$ は奇数なので
$$\Phi_{p^e g}(a, b)=\frac{a^{2^e}-b^{2^e}}{a^{2^{e-1} g}-b^{2^{e-1} g}}=a^{2^{e-1} g}+b^{2^{e-1} g}\equiv 2\pmod{4}$$
だから $p\mid\mid \Phi_{p^e g}(a, b)$ となる。
一方 $n=p^e m, \gcd(m, p)=1$ となる整数 $e\geq 0$ と整数 $m$ をとると
$p\mid\Phi_{p^e m}(a, b)$ ならば $p\mid (a^{p^e m}-b^{p^e m})$ だから
$g$ は $m$ を割り切る。$m>g$ のとき
LTE
より
$p^{e+f}\mid\mid (a^{p^e m}-b^{p^e m}), p^{e+f}\mid\mid (a^{p^e g}-b^{p^e g})$
となるから $p$ は $(a^{p^e m}-b^{p^e m})/(a^{p^e g}-b^{p^e g})$ を割り切らない。
よって $\Phi_{p^e m}(a, b)$ も $p$ で割り切れない。
$\Phi_{p^e m}(a, b)$ も $p$ で割り切れないことは、
前ページの命題1
の (iii) と同様にして
$$\frac{X^m-Y^m}{X^d-Y^d}=X^{(k-1)d}Y^d+X^{(k-2)d}Y^{2d}\cdots +Y^{(k-1)d}\equiv kX^{kd}\pmod{X^d-Y^d}$$
となるから
$$\frac{a^{p^e m}-b^{p^e m}}{a^{p^e g}-b^{p^e g}}\equiv \frac{m}{g}\times a^{p^e m}\pmod{a^{p^e g}-b^{p^e g}}$$
が成り立つことから直接示すこともできる。
$n$ が $p\mid \Phi_n(a, b)$ となる最小の $n$ であるとき $p$ を $\Phi_n(a, b)$ の原始素因数 (primitive prime factor) という。 定理2 より $p$ が $\Phi_n(a, b)$ の原始素因数であることは $n$ が $p$ を法とする $a$ の位数 $g$ であることと同値である。
一方 $p$ が $\Phi_n(a, b)$ の原始素因数でなければ、 $p\mid n$ であり、かつ $n=p^e g$ となる。$g\mid (p-1)$ であるから $p$ は $n$ の最大の素因数となる。さらに $n\geq 3$ のとき $p\mid\mid \Phi_n(a, b)$ である。よって
$$u_n(a, b)=\prod_{p\mid\Phi_n(a, b), p\mid n} p$$
とおくと $u_n(a, b)=1$ または $n$ の最大の素因数で
$\Phi_n(a, b)/u_n(a, b)$ の素因数は $\Phi_n(a, b)$ の原始素因数であることがわかる。
原始素因数を用いて、初項$1$の等差数列には素数が無限に存在することが示される。
任意の正の整数 $n$ に対し、$kn+1$ の形の素数は無数に存在する。
$n=1, 2$ のときは単に
素数の無限性
と同値である。そこで $n\geq 3$ とする。
$m$ を $n$ の倍数とする。
$$\Phi_m(a)=\prod_{\gcd(k, m)=1, 1\leq k\leq m-1} (a-e^{2\pi i k/m})\geq (a-1)^{\varphi(m)}$$
であるから、$a$ が大きいとき $\Phi_m(a)>m\geq u_m(a)$ となる。よって $\Phi_m(a)$ は原始素因数 $p$ をもつ。
$m$ は $p$ を法とする $a$ の位数だから $p$ は $km+1$ の形の素数である。$m$ は $n$ の倍数だから $p$ は $kn+1$ の形の素数である。$m$ はいくらでも大きくとれるから、$kn+1$ の形の素数でいくらでも大きいものが存在する。
原始素因数については、より強く、以下のZsigmondyの定理が成り立つ。 Zsigmondy (1892) によって証明され、その後Kanold (1950) などにより、再証明が行われている。
$b=1$ のとき、つまり $\Phi_n(a)$ の原始素因数に関してはBang (1886) によって証明され、Dickson (1905) がより簡単な証明を与えている。
$a>b>0$ かつ $\gcd(a, b)=1$ のとき $\Phi_n(a, b)$ は $(a, b, n)=(2, 1, 6)$, $(a+b, n)=(2^m, 2)$, $(a-b, n)=(1, 1)$ の場合を除いて原始素因数をもつ。
前ページの定理4
の証明と同様に
$$\begin{split}
\Phi_n(a, b)= & \prod_{d\mid n}(a^{n/d}-b^{n/d})^{\mu(d)}=a^{\varphi(n)}\prod_{d\mid n}\left(1-\left(\frac{b}{a}\right)^{n/d}\right)^{\mu(d)} \\
\geq & a^{\varphi(n)}\left(1-\frac{b}{a}\right)\prod_{k\geq 2, k\mid n, \mu(n/k)=1}\left(1-\left(\frac{b}{a}\right)^k\right)
\end{split}$$
となる。
$$n=\prod_{i=1}^r p_i^{e_i}, p_1< p_2<\ldots< p_r$$
と素因数分解すると、$\mu(k)=\pm 1$ となる $n$ の約数の個数は $2^r$ である。
$p_1$ が $k$ を割り切らないとき $\mu(k)=1\Longleftrightarrow \mu(p_1 k)=-1$ であるから $\mu(k)=1$ となる $n$ の約数の個数は $2^{r-1}$ 個である。また
$$\varphi(n)\geq \prod_{i=1}^r (p_i-1)\geq \prod_{i=2}^r (p_i-1)\geq 2^{r-1}$$
であるから
$$\begin{split}
\Phi_n(a, b)\geq & a^{\varphi(n)}\left(1-\frac{b}{a}\right)\left(1-\left(\frac{b}{a}\right)^2\right)^{\varphi(n)-1} \\
\geq & (a-b)\left(a\left(1-\left(\frac{b}{a}\right)^2\right)\right)^{\varphi(n)-1}
\end{split}$$
となる。
$$1-\left(\frac{a-1}{a}\right)^2=1-\frac{a^2-2a+1}{a^2}=\frac{2a-1}{a^2}$$
かつ $b\leq a-1$ より
$$\Phi_n(a, b)\geq \left(2-\frac{1}{a}\right)^{\varphi(n)-1}$$
であることがわかる。$a\geq 2$ だから $p_r\geq 5$ のとき
$$\Phi_n(a, b)\geq \left(\frac{3}{2}\right)^{p_r-1}>p_r\geq u_n(a, b),$$
$a\geq 4$ かつ $p_r=3$ のとき
$$\Phi_n(a, b)\geq \left(\frac{7}{4}\right)^2>p_r\geq u_n(a, b),$$
$2\leq a\leq 3$ で $p_r=3$ のとき $r=1, n=3^e$ ならば
$$\begin{split}
\Phi_n(a, b)= & \frac{a^n-b^n}{a^{n/3}-b^{n/3}} \\
= & a^{2\times 3^{e_1-1}}+a^{3^{e_1-1}}b^{3^{e_1-1}}+b^{2\times 3^{e_1-1}}
\geq a^2+ab+b^2 \\
= & 7>p_r>u_n(a, b)
\end{split}$$
となる。さらに $r=2, p_1=2, p_2=3$ ならば
$$\begin{split}
\Phi_n(a, b)= & \left(\frac{a^n-b^n}{a^{n/3}-b^{n/3}}\right)/\left(\frac{a^{n/2}-b^{n/2}}{a^{n/6}-b^{n/6}}\right) \\
= & a^{2^{e_1-1}\times 3^{e_2-1}}-a^{2^{e_1-1}\times 3^{e_2-1}}b^{2^{e_1-1}\times 3^{e_2-1}}+b^{2^{e_1-1}\times 3^{e_2-1}}
\end{split}$$
となるので $a\geq 3$ ならば
$$\Phi_n(a, b)\geq a^2-ab+b^2\geq 7>p_r>u_n(a, b),$$
$a=2, b=1$ で $n>6$ ならば
$$\Phi_n(a, b)\geq a^4-a^2+1\geq 13>p_r>u_n(a, b),$$
となる。
$r=1, p_1=2$ のとき $e_1\geq 2$ ならば
$$\Phi_n(a, b)=a^{2^{e_1-1}}+b^{2^{e_1-1}}\geq a^2+b^2>2\geq u_n(a, b)$$
となる。以上より $n\geq 3$ のときは $(a, b, n)=(2, 1, 6)$ の場合を除いて、$\Phi_n(a, b)$ は原始素因数をもつ。
$n=2$ のとき
$$\Phi_n(a, b)=a+b, \Phi_1(a, b)=a-b$$
だから $p$ が $\Phi_1(a, b), \Phi_2(a, b)$ をともに割り切るとき $p$ は
$$2a=\Phi_2(a, b)+\Phi_1(a, b), 2b=\Phi_2(a, b)-\Phi_1(a, b)$$
をともに割り切るが $\gcd(a, b)=1$ なので $p=2$, よって $a+b$ が $2$ の累乗でなければ $\Phi_n(a, b)$ は原始素因数をもつ。
$n=1$ のとき $a-b=1$ でなければ $a-b$ の素因数が $\Phi_1(a, b)$ の原始素因数となる。