Lucas数列には複数の添字・符号規約がある。本記事では $P,Q\in\mathbb{C}$ に対し
$$
D:=P^2-4Q
$$
とおき、$Q\ne0$ かつ $D\ne0$ を仮定する。多項式
$$
X^2-PX+Q
$$
の相異なる二根を $\alpha,\beta$ とする。このとき
$$
\alpha+\beta=P,\qquad \alpha\beta=Q,\qquad(\alpha-\beta)^2=D
$$
である。
第一種と第二種のLucas数列を、すべての整数 $n$ に対して
$$
U_n:=\frac{\alpha^n-\beta^n}{\alpha-\beta},
\qquad
V_n:=\alpha^n+\beta^n
$$
と定める。
非負添字では、これは初期値
$$
U_0=0,\quad U_1=1,
\qquad
V_0=2,\quad V_1=P
$$
と漸化式
$$
U_{n+2}=PU_{n+1}-QU_n,
\qquad
V_{n+2}=PV_{n+1}-QV_n
$$
による定義と一致する。
$Q\ne0$ により $\alpha,\beta$ はともに零でないので、負の指数も定義できる。$D\ne0$ は $\alpha\ne\beta$、従って $U_n$ の分母が零でないことを保証する。文献によって特性多項式を $X^2-PX-Q$ とする規約もあり、その場合は本記事の $Q$ を $-Q$ に置き換える必要がある。
任意の整数 $m,n$ に対して次が成り立つ。
$\alpha\beta=Q$ なので
$$
U_{-n}
=\frac{\alpha^{-n}-\beta^{-n}}{\alpha-\beta}
=\frac{\beta^n-\alpha^n}{Q^n(\alpha-\beta)}
=-Q^{-n}U_n
$$
であり、同様に $V_{-n}=Q^{-n}V_n$ である。
また $(\alpha-\beta)^2=D$ より
$$
V_n^2-DU_n^2
=(\alpha^n+\beta^n)^2-(\alpha^n-\beta^n)^2
=4(\alpha\beta)^n
=4Q^n.
$$
加法公式については、直接展開すると
$$
U_mV_n+U_nV_m
=\frac{2\alpha^{m+n}-2\beta^{m+n}}{\alpha-\beta}
=2U_{m+n}
$$
を得る。また
$$
V_mV_n+DU_mU_n
=(\alpha^m+\beta^m)(\alpha^n+\beta^n)
+(\alpha^m-\beta^m)(\alpha^n-\beta^n)
=2V_{m+n}.
$$
加法公式で $n$ を $-n$ に置き、負添字公式を用いると
$$
2U_{m-n}
=Q^{-n}(U_mV_n-U_nV_m),
$$
$$
2V_{m-n}
=Q^{-n}(V_mV_n-DU_mU_n)
$$
となる。両辺に $Q^n$ を掛ければ差の公式を得る。
特に $m=n$ とおくと
$$
U_{2n}=U_nV_n,
\qquad
V_{2n}=V_n^2-2Q^n
$$
を得る。さらに加法公式をもう一度用いると
$$
U_{3n}=U_n(V_n^2-Q^n)=U_n(DU_n^2+3Q^n),
$$
$$
V_{3n}=V_n(V_n^2-3Q^n)
$$
となる。
パラメータを明示するときは $U_n(P,Q)$、$V_n(P,Q)$ と書く。
この節では、内部に現れるLucas数列も非負添字については初期値と漸化式で定義する。この定義は内部パラメータ $(V_r(P,Q),Q^r)$ の判別式が $0$ の場合にも意味をもち、相異なる特性根を必要とするBinet表示には依存しない。
正の整数 $r$ と非負整数 $n$ に対して
$$
U_{rn}(P,Q)=U_r(P,Q)\,U_n(V_r(P,Q),Q^r),
$$
$$
V_{rn}(P,Q)=V_n(V_r(P,Q),Q^r)
$$
が成り立つ。
$A:=\alpha^r$、$B:=\beta^r$ とおくと
$$
A+B=V_r(P,Q),\qquad AB=Q^r.
$$
従って $A,B$ は $X^2-V_r(P,Q)X+Q^r$ の根である。
$A\ne B$ の場合、Binet表示から
$$
U_n(V_r,Q^r)=\frac{A^n-B^n}{A-B}.
$$
一方
$$
U_r(P,Q)=\frac{A-B}{\alpha-\beta}
$$
だから、両式の積は
$$
\frac{A^n-B^n}{\alpha-\beta}
=\frac{\alpha^{rn}-\beta^{rn}}{\alpha-\beta}
=U_{rn}(P,Q)
$$
である。また $V_n(V_r,Q^r)=A^n+B^n=V_{rn}(P,Q)$ である。
$A=B$ の場合も、恒等式
$$
A^n-B^n=(A-B)\sum_{j=0}^{n-1}A^{n-1-j}B^j
$$
と、右辺の和が初期値 $0,1$、係数 $A+B,AB$ のLucas第一種数列になることから同じ積公式が成り立つ。第二種の式も両辺が同じ漸化式と初期値を持つため成立する。
この形には $U_r$ による除算がない。$U_r\ne0$ の場合に限り
$$
\frac{U_{rn}(P,Q)}{U_r(P,Q)}=U_n(V_r(P,Q),Q^r)
$$
と書けるが、商の形を無条件に使ってはいけない。
任意の整数 $n,r$ に対して
$$
U_{n+r}^2-Q^rU_n^2=U_rU_{2n+r},
$$
$$
V_{n+r}^2-Q^rV_n^2=DU_rU_{2n+r}
$$
が成り立つ。
Binet表示を用いると
$$
\begin{aligned}
D(U_{n+r}^2-Q^rU_n^2)
&=(\alpha^{n+r}-\beta^{n+r})^2
-(\alpha\beta)^r(\alpha^n-\beta^n)^2\\
&=(\alpha^r-\beta^r)(\alpha^{2n+r}-\beta^{2n+r})\\
&=D\,U_rU_{2n+r}.
\end{aligned}
$$
$D\ne0$ なので割ることができ、第一式を得る。
同様に
$$
\begin{aligned}
V_{n+r}^2-Q^rV_n^2
&=(\alpha^{n+r}+\beta^{n+r})^2
-(\alpha\beta)^r(\alpha^n+\beta^n)^2\\
&=(\alpha^r-\beta^r)(\alpha^{2n+r}-\beta^{2n+r})\\
&=DU_rU_{2n+r},
\end{aligned}
$$
となり第二式を得る。
任意の整数 $n,r$ に対して
$$
U_{nr}^2-U_{(n-1)r}U_{(n+1)r}
=Q^{(n-1)r}U_r^2,
$$
$$
V_{nr}^2-V_{(n-1)r}V_{(n+1)r}
=-DQ^{(n-1)r}U_r^2
$$
が成り立つ。
正負の符号を同時に扱うため
$$
(\alpha^{nr}\pm\beta^{nr})^2
-(\alpha^{(n-1)r}\pm\beta^{(n-1)r})
(\alpha^{(n+1)r}\pm\beta^{(n+1)r})
$$
を展開する。同符号の純粋な冪は相殺し、結果は
$$
\mp Q^{(n-1)r}(\alpha^r-\beta^r)^2
=\mp DQ^{(n-1)r}U_r^2
$$
となる。負号を選んだ式を $D=(\alpha-\beta)^2$ で割れば第一式を得て、正号を選べば第二式を得る。
加法公式と差の公式を組み合わせると、任意の整数 $m,n$ について
$$
U_{m+n}+Q^nU_{m-n}=U_mV_n,
$$
$$
U_{m+n}-Q^nU_{m-n}=U_nV_m,
$$
$$
V_{m+n}+Q^nV_{m-n}=V_mV_n,
$$
$$
V_{m+n}-Q^nV_{m-n}=DU_mU_n
$$
を得る。第三式の右辺に余分な係数 $2$ は付かない。
$(P,Q)=(1,-1)$ とすると、$U_n$ はFibonacci数列 $F_n$、$V_n$ は通常のLucas数列 $L_n$ になる。$D=5$ なのでノルム恒等式は
$$
L_n^2-5F_n^2=4(-1)^n
$$
となる。また平方差の式で $r=1$ とすれば
$$
F_{n+1}^2+F_n^2=F_{2n+1}
$$
を得る。
$(P,Q)=(3,2)$ では $\alpha=2$、$\beta=1$ と取れるので
$$
U_n=2^n-1,\qquad V_n=2^n+1.
$$
例えば加法公式
$$
2U_{m+n}=U_mV_n+U_nV_m
$$
は
$$
2(2^{m+n}-1)
=(2^m-1)(2^n+1)+(2^n-1)(2^m+1)
$$
という直接確認できる恒等式になる。
$(P,Q)=(1,0)$ では特性根は $1$ と $0$ であり、非負添字の漸化式は定義できる。しかし $0^{-n}$ が現れるため、Binet表示を負添字へ拡張できず、$Q^{-n}$ を含む負添字公式も定義できない。これは「非負添字のLucas数列が定義できれば、負添字公式も無条件に使える」という含意を破り、仮定 $Q\ne0$ の必要性を示す。
$(P,Q)=(2,1)$ では $D=0$、特性多項式は $(X-1)^2$ である。漸化式から $U_n=n$、$V_n=2$ が得られるが
$$
\frac{\alpha^n-\beta^n}{\alpha-\beta}
$$
は $0/0$ となり定義できない。これは本記事のBinet表示に $D\ne0$ が必要であることを示す。重根の場合は極限または漸化式から別に扱う必要がある。
$(P,Q)=(0,-1)$ では特性根を $1,-1$ と取れ、$D=4$ かつ $Q\ne0$ であるが
$$
U_2=\frac{1^2-(-1)^2}{1-(-1)}=0
$$
である。従って $U_{2n}/U_2$ は定義できない。一方、除算を避けた合成公式
$$
U_{2n}=U_2\,U_n(V_2,Q^2)
$$
は両辺が $0$ で正しく成立する。これは商表示には $U_r\ne0$ という追加条件が必要であることを示す。
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