合成数を法とする合同式は、素数冪を法とする合同式に還元される。すなわち、次の定理が成り立つ。
$a_1, a_2, \ldots, a_r, N_1, N_2, \ldots, N_r$ が整数で、$N_i$ のどの2つも互に素であるならば
$$\label{eq2}x\equiv a_i\Mod{N_i} (1\leq i\leq r)\Longleftrightarrow x\equiv t \Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}\tag{2}$$
となる $t\Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}$ が一意的に定まる。さらに
$$\label{eq3}\gcd(a_1, N_1)=\gcd(a_2, N_2)=\cdots =\gcd(a_r, N_r)=1\Longleftrightarrow \gcd(t, N_1 N_2 \cdots N_r)=1\tag{3}$$
が成り立つ。
$N_i$ のどの2つも互に素だから
倍数と約数: 命題4
より
$N_s$ と $M_s=(N_1 N_2 \cdots N_r)/N_s=\prod_{1\leq i\leq r, i\neq s} N_i$ も互いに素である。
よって各 $s=1, 2, \ldots, r$ に対して
$$b_s M_s\equiv 1\Mod{N_s}$$
となる $b_s$ がとれる。
$$x\equiv a_1 b_1 M_1+a_2 b_2 M_2+\cdots a_r b_r M_r\Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}$$
ならば $s=1, 2, \ldots, r$ に対して
$$x\equiv a_s b_s M_s\equiv a_s\Mod{N_s}$$
が成り立つ。よって \eqref{eq2} が成り立つ $t\Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}$ が存在することが確かめられる。
逆に
$$x\equiv a_s\Mod{N_s} (s=1, 2, \ldots, r)$$
ならば
$$x\equiv a_s b_s M_s\equiv a_1 b_1 M_1+a_2 b_2 M_2+\cdots a_r b_r M_r\Mod{N_s} (s=1, 2, \ldots, r)$$
となるが $N_i$ のどの2つも互に素だから、
倍数と約数: 命題1
より
$\LCM[N_i, N_j]=N_i N_j$ が $1\leq i< j\leq r$ について成り立ち、
倍数と約数: 命題2
を繰り返し適用し、
$$x\equiv a_1 b_1 M_1+a_2 b_2 M_2+\cdots a_r b_r M_r\Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}$$
が成り立つ。よって \eqref{eq2} が成り立つ $t\Mod{N_1 N_2 \cdots N_r}$ は一意的に定まる。
さらに $\gcd(a_1, N_1)=\gcd(a_2, N_2)=\cdots =\gcd(a_r, N_r)=1$ ならば
各 $i$ について $t\equiv a_i\Mod{N_i}$ かつ $\gcd(a_i, N_i)=1$ なので $\gcd(t, N_i)=1$ であるから
倍数と約数: 命題4
より $\gcd(t, N_1 N_2 \cdots N_r)=1$ となる。
一方 $d>1$ が $a_i, N_i$ をともに割り切るとき $t\equiv a_i\Mod{N_i}$ だから $d$ は $t_i$ も割り切るが、
$d$ は $N_i$ も割り切るので $d$ は $t, N_1 N_2 \cdots N_r$ をともに割り切る。
よって \eqref{eq3} も成り立つ。
中国式剰余定理という名称は、古代の中国の算術書「孫子算経」に、複数の合同式を同時に満足する整数を求める問題が述べられていることに由来するが、実際には古代ギリシアではより古くから知られていたようである(Ribenboim, 1996, p. 33 を参照。なお同書や他の多くの文献では古代の中国で兵士の人数を数えるためにこの定理が用いられたと書かれているが、これは後世の創作のようである。Alexei Volkov, On the origins of the Toan phap dai thanh (Great compendium of mathematical methods), ''From China to Paris: 2000 years transmission of mathematical ideas'', edited by Yvonne Dold-Samplonius, F. Steiner, 2002, p.p. 369--410 など、および StackExchange, Has Chinese Remainder Theorem ever been used by Chinese military? などを参照)。
中国式剰余定理から、$\varphi(N)$ の値を決定することができる。
$N=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k}$ と素因数分解すると、
$$\varphi(N)=\prod_{i=1}^k p_i^{e_i-1}(p_i-1).$$
ただし $N=1, k=0$ のときは右辺の空積は $1$ をとるとする。
$N=p^e$ かつ $p$ が素数のとき $N=p^e$ と互に素な整数全体は $p$ の倍数ではない整数全体と一致する。
よって $1, 2, \ldots, N-1$ のなかで $N$ と互に素なものは、$1, 2, \ldots, N$ のうち $p, 2p, \ldots, (N/p)p=N$ を除いたもの全体と一致するから
$$\varphi(p^e)=p^{e-1}(p-1)$$
が成り立つ。
一般の整数 $N>1$ について $N=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k}$ と素因数分解する。
$1\leq t\leq N$ となる整数 $t$ に対して $t$ を $p_i^{e_i}$ で割った余りを $r_i(t)$ とおくと、
各 $i$ に対して $a_i\equiv t\Mod{p_i^{e_i}}$ が成り立つから、
中国式剰余定理
より
$$\gcd(t, N)=1\Longleftrightarrow \gcd(r_1(t), p_1^{e_1})=\gcd(r_2(t), p_2^{e_2})=\cdots =\gcd(r_k(t), p_k^{e_k})=1$$
となる。さらに $(a_1, a_2, \ldots, a_k)$ に対して $r_i(t)=a_i (1\leq i\leq k)$ となる $t$ が一意的に定まる。よって
$1\leq t\leq N, \gcd(t, N)=1$ となる整数 $t$ と
$0\leq a_i\leq p_i^{e_i}-1, \gcd(a_i, p_i^{e_i})=1 (1\leq i\leq k)$ となる整数の組 $(a_1, a_2, ldots, a_k)$ が
$1$対$1$に対応する。よって
$$\varphi(N)=\prod_{i=1}^k\varphi(p^e)=\prod_{i=1}^k p_i^{e_i-1}(p_i-1).$$
となる。
このことから、$\varphi(8)=\varphi(12)=4$, $\varphi(15)=\varphi(20)=\varphi(24)=8$ となることがわかる。