Chebyshev関数の値の大きさについて、 $x\geq 2$ のとき
$$Ax<\theta(x)< Bx$$
となる定数 $B>A>0$ が存在することが初等的に示せる。
任意の整数 $m\geq 1$ について
$$\theta(2m+1)-\theta(m+1)<2m\log 2\label{eq21}\tag{2.1}$$
が成り立つ。
$M$ を二項係数
$$M=\binom{2m+1}{m}=\frac{(2m+1)!}{m!(m+1)!}$$
とする。
$m+1< p\leq 2m+1$ のとき、$p$ は $(2m+1)!$ を割り切るが $m!, (m+1)!$ を割り切らないから $p$ は $M$ を割り切る。
よって素数の積 $\prod_{m+1< p\leq 2m+1} p$ も $M$ を割り切るので
$$\prod_{m+1< p\leq 2m+1} p\leq M$$
となり
$$\theta(2m+1)-\theta(m+1)=\sum_{m+1< p\leq 2m+1} \log p\leq \log M$$
が成り立つ。
$$M=\binom{2m+1}{m}=\binom{2m+1}{m+1}$$
なので
$$2M=\binom{2m+1}{m}+\binom{2m+1}{m+1}<\sum_{k=0}^{2m+1}\binom{2m+1}{k}=2^{2m+1}$$
であるから $M<2^{2m}$ となり
$$\theta(2m+1)-\theta(m+1)\leq\log M<2m\log 2$$
となることがわかる。
任意の整数 $n\geq 1$ について
$$\theta(n)<2n\log 2\label{eq22}\tag{2.2}$$
が成り立つ。
$n=1$ のときは $\theta(1)=0$, $n=2$ のときは $\theta(2)=\log 2$ だから、\eqref{eq22}は成り立つ。
$1\leq n\leq k-1$ のとき、\eqref{eq22}が成り立つとする。$n=k=2m+1$ が奇数のとき、
定理1
より
$$\theta(2m+1)<\theta(m+1)+2m\log 2$$
なので、帰納法の仮定から
$$\theta(2m+1)<2(m+1)\log 2+2m\log 2=2(2m+1)\log 2$$
となり、\eqref{eq22}は成り立つ。$n=k=2m\geq 4$ が偶数のとき、$k$ は素数ではないので
$$\theta(2m)=\theta(2m-1)<2(2m-1)\log 2<4m\log 2$$
となり、\eqref{eq22}は成り立つ。よって帰納法より\eqref{eq22}は任意の整数 $n\geq 1$ について成り立つ。
任意の整数 $n\geq 3$ について
$$\psi(n)>2\floor{\frac{n}{2}}\log 2-\log n\label{eq23}\tag{2.3}$$
が成り立つ。
整数 $m\geq 2$ に対し、素数 $p$ が二項係数
$$N=\binom{2m}{m}=\frac{(2m)!}{(m!)^2}$$
を割り切る回数を $e(p, m)$ とおくと
二項係数:定理8
より
$$e(p, m)=\sum_{k=1}^\infty\left(\floor{\frac{2n}{p^k}}-2\floor{\frac{n}{p^k}}\right)$$
となる。各被加数は $0$ または $1$ となる。実際 $u=\floor{m/p^k}, m/p^k=u+v$ とおくと $0\leq v<1$ より
$$0\leq \floor{\frac{2m}{p^k}}-2\floor{\frac{m}{p^k}}=\floor{2u+2v}-2u\leq 1$$
となる。また $p^k>2m$ ならば被加数は $0$ となるから
$$0\leq e(p, m)\leq \floor{\frac{\log (2m)}{\log p}}\label{eq24}\tag{2.4}$$
となる。よって
$$\begin{split}
\log N= & \sum_{p\leq 2m} e(p, m)\log p \\
\leq & \sum_{p\leq 2m}\floor{\frac{\log (2m)}{\log p}}\log p \\
=& \sum_{p\leq 2m} \sum_{1\leq k\leq \log(2m)/\log p} \log p \\
=& \sum_{p^k\leq 2m}\log p \\
=& \psi(2m)
\end{split}$$
が成り立つ。
$0\leq k\leq 2m, k\neq m$ のとき $\binom{2m}{m}>\binom{2m}{k}$ となるから
$$2m\binom{2m}{m}>2+\sum_{k=1}^{2m-1}\binom{2m}{k}=2^{2m}\label{eq25}\tag{2.5}$$
より
$$\binom{2m}{m}>\frac{2^{2m}}{2m}$$
となるから
$$\psi(2m)\geq\log N>2m\log 2-\log(2m)$$
となる。よって $n=2m\geq 4$ が偶数ならば\eqref{eq23}が成り立つ。また $n=2m+1\geq 5$ が奇数のとき
$$\psi(2m+1)\geq\psi(2m)>2m\log 2-\log(2m)$$
より\eqref{eq23}が成り立つ。最後に
$$\psi(3)=\log 6>2\log 2$$
より $n=3$ のときも\eqref{eq23}が成り立つ。
任意の整数 $n\geq 5$ に対して
$$\theta(2n)-\theta(n)>\frac{2}{3}n\log 2-(1+\sqrt{2n})\log(2n)$$
が成り立つ。
$n\geq 5$ とする。
定理3
の証明と同様に素数 $p$ が二項係数
$$N=\binom{2n}{n}=\frac{(2n)!}{(n!)^2}$$
を割り切る回数を $e(p, n)$ とおく。
$e(p, n)\geq 2$ のとき $p\leq \sqrt{2n}$ となるから \eqref{eq24} より
$$\sum_{e(p, n)\geq 2} e(p, n)\log p\leq \sum_{p\leq \sqrt{2n}}\log(2n)\leq\sqrt{2n}\log(2n)\label{eq26}\tag{2.6}$$
が成り立つ。
$\frac{2}{3}n< p\leq n$ のとき、$p>\frac{2}{3}n>\sqrt{2n}$ より
$$e(p, n)=\floor{\frac{2n}{p}}-2\floor{\frac{n}{p}}=2-2=0$$
となる。
よって
$$\sum_{e(p, n)=1, p\leq n} e(p, n)\log p\leq \sum_{p\leq \frac{2}{3}n}\log p=\theta\left(\frac{2}{3}n\right)$$
となり、
定理2
より
$$\sum_{e(p, n)=1, p\leq n} e(p, n)\log p<\frac{4}{3}n\log 2\label{eq27}\tag{2.7}$$
が成り立つ。
$n< p\leq 2n$ のとき $p>n>\sqrt{2n}$ より $e(p, n)=1$ であるから\eqref{eq25}\eqref{eq26}\eqref{eq27}より
$$\begin{split}
\theta(2n)-\theta(n)=& \sum_{n< p\leq 2n}e(p, n)\log p \\
=& \log N-\sum_{e(p, n)=1, p\leq n} e(p, n)\log p-\sum_{e(p, n)\geq 2} e(p, n)\log p \\
\geq & (2n)\log 2-\log(2n)-\frac{4}{3}n\log 2-\sqrt{2n}\log(2n) \\
= & \frac{2}{3}n\log 2-(1+\sqrt{2n})\log(2n)
\end{split}$$
となる。
このことから、$n\geq 500$ に対して $\theta(2n)-\theta(n)>0$ となる。
$$2, 3, 5, 7, 13, 23, 43, 83, 163, 317, 631$$
はいずれも素数だから、$n$ が $2$ 以上の整数のとき、 $n< p<2n$ となる素数 $p$ が存在することがわかる(Bertrand-Chebyshevの定理)。