Dirichlet級数

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{bbe}[0]{\mathbb{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\operatorname{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{LCM}[0]{\mathrm{LCM}} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{nequiv}[0]{\not\equiv} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{Ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

数論的関数 $f(n)$ に対して、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{f(n)}{n^s}$$
の形の級数を $f(n)$ に対応するDirichlet級数 (Dirichlet series) といい、このDirichlet級数であらわされる $s$ の関数を $f(n)$生成関数 (generating function) という。

つねに $1$ をとる関数は、 $f(1)=1$, $n=1$ 以外のとき $f(n)=0$ となる $f(n)$ のDirichlet級数とみることができる。つまり、つねに $1$ をとる関数は $\bbe$ の生成関数である。
またRiemannの$\zeta$関数 $\zeta(s)=\sum_n n^{-s}$$\mathbb{1}$ の生成関数である。

接合積との関係

次の定理は、数論的関数の接合積がDirichlet級数の乗法と対応していることを示している。

接合積の生成関数は生成関数の積

$s$ を複素数とする。
$\sum_{n=1}^\infty f(n)/n^s$, $\sum_{n=1}^\infty g(n)/n^s$ がともに絶対収束するとき、$h=f*g$ とおくと $\sum_{n=1}^\infty h(n)/n^s$ も絶対収束し、
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{h(n)}{n^s}=\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\right)\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{g(n)}{n^s}\right).$$

$\sum_{n=1}^\infty f(n)/n^s$, $\sum_{n=1}^\infty g(n)/n^s$ がともに絶対収束するので
$$\left(\sum_{d=1}^M\abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M\abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)\rightarrow \left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)\ (M\rightarrow\infty)$$
が成り立つ。よって任意の $\epsilon>0$ に対して、$M$ が十分大きいとき
$$\abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)-\left(\sum_{d=1}^M\abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M\abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)}<\epsilon$$
が成り立つ。

任意の $\epsilon>0$ に対して、上記のように整数 $M$ をとると、$N>M^2$ のとき
$$\begin{split} \sum_{n=1}^N \frac{h(n)}{n^s}= & \sum_{n=1}^N \sum_{d\mid n}\frac{f(d)g(n/d)}{n^s} \\ = & \sum_{n=1}^N \sum_{n=dm}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s} \\ = & \sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s} \end{split}$$
となるが、
$$\begin{split} & \abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \frac{f(d)}{d^s}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \frac{g(m)}{m^s}\right) -\left(\sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}\right)} \\ & \qquad \leq \sum_{dm>N}\abs{\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}} \\ & \qquad \leq \abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)-\left(\sum_{d=1}^M \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)} \\ & \qquad <\epsilon \end{split}$$
となるから、
$$\begin{split} \sum_{n=1}^\infty \frac{h(n)}{n^s}= & \lim_{N\rightarrow\infty}\left(\sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}\right) \\ = & \left(\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\right)\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{g(n)}{n^s}\right) \end{split}$$
となる。

$$F(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$
とおくと、$\abs{\mu(n)}\leq 1$ であるから、 $F(s)$, $\zeta(s)$ はともに $\operatorname{Re} s>1$ で絶対収束する。
$\mu*\mathbb{1}=\bbe$ であるから、 定理1 より $\operatorname{Re} s>1$
$$F(s)\zeta(s)=1$$
つまり
$$\frac{1}{\zeta(s)}=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$
が成り立つ。

$\zeta(s)$$s=1$$1$位の極をもち、その他の点で正則な関数に解析接続される。よって $F(s)$ であらわされる関数は $\zeta(s)$ の零点において極をもち、その他の点で正則な関数 $G(s)$ に解析接続される。

ただし、 $0<\operatorname{Re} s\leq 1$ となる $s$ について
$$G(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$
と級数表示できるかは($\zeta(s)\neq 0$ となる $s$ に対しても)自明ではなく、$\operatorname{Re} s\leq 0$ のときは、右辺が(通常の意味でも)収束しないため、このような級数表示は成り立たない。
たとえば
$$G(1)=\lim_{s\rightarrow 1}\frac{1}{\zeta(s)}=0$$
は明らかだが、
$$F(1)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n}=G(1)=0$$
となるかは自明ではない。結論から言えば $\sum_n \mu(n)/n=0$ は成り立つが、これは素数定理と同値であることが知られている。

Dirichlet級数の収束

絶対収束座標

絶対値からなる級数
$$\sum_{n=1}^\infty\abs{\frac{f(n)}{n^s}}=\sum_{n=1}^\infty \frac{\abs{f(n)}}{n^\sigma}, ~ \sigma=\operatorname{Re} s$$
が収束する実数 $s$ と発散する実数 $s$ がともに存在するとする。このとき、次のような実数 $\sigma_0$ が一意的に定まる。
$\sum_n f(n)/n^s$ は、$\operatorname{Re} s>\sigma_0$ のとき絶対収束し、$\operatorname{Re} s<\sigma_0$ のとき絶対収束しない。

$\sum_{n=1}^\infty \abs{f(n)}/n^\sigma$ が収束する実数 $\sigma$ の下限を $\sigma_1$ とおく。

$\operatorname{Re} s>\sigma_1$ とすると、$\operatorname{Re} s\geq \sigma_2>\sigma_1$ かつ $\sum_{n=1}^\infty \abs{f(n)}/n^{\sigma_2}$ が収束する実数 $\sigma_2$ がとれる。
$$\sum_{n=1}^\infty\abs{\frac{f(n)}{n^s}}\leq \sum_{n=1}^\infty \frac{\abs{f(n)}}{n^{\sigma_2}}$$
より、$\sum_{n=1}^\infty \abs{f(n)/n^s}$ も収束する。

一方、$\sigma=\operatorname{Re} s<\sigma_1$ とすると、$\sum_{n=1}^\infty \abs{f(n)/n^s}=\sum_{n=1}^\infty \abs{f(n)}/n^\sigma$ は収束しないから、
$\sum_{n=1}^\infty f(n)/n^s$ は収束しない。
よって、$\sigma_0=\sigma_1$ と定まる。

この実数 $\sigma_0$ をDirichlet級数 $\sum_n f(n)/n^s$絶対収束座標 (abscissa of absolute convergence) という。

Dirichlet級数の一意性

$F(s)$ がDirichlet級数によってあらわされる関数であるとき、このDirichlet級数の係数である数論的関数 $f(n)$ は関数 $F(s)$ により一意的に定まることが知られている。

Dirichlet級数の一意性

$2$つのDirichlet級数
$$F(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{f(n)}{n^s}, G(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{g(n)}{n^s}$$
がともに $s=\alpha$ のときに絶対収束するとする。
$s_k$ が複素数の無限列で、$\operatorname{Re} s_k$ が正の無限大に発散し、すべての正の整数 $k$ について
$F(s_k)=G(s_k)$ となるとき、すべての正の整数 $n$ について $f(n)=g(n)$ となる。

$h(n)=f(n)-g(n)$ により $h(n)$ を定め、対応するDirichlet級数を
$$H(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{h(n)}{n^s}=F(s)-G(s)$$
とおくと、$k=1, 2, \ldots$ について $H(s_k)=0$ となる。

$h(n)\neq 0$ となる $n$ が存在すると仮定し、そのような整数 $n$ で最小のものを $N$ とおく。
$$H(s)=\sum_{n=N}^\infty \frac{h(n)}{n^s}=\frac{h(N)}{N^s}+\sum_{n=N+1}^\infty \frac{h(n)}{n^s}$$
となるので、$k=1, 2, \ldots$ について
$$\frac{h(N)}{N^{s_k}}+\sum_{n=N+1}^\infty \frac{h(n)}{n^{s_k}}=H(s_k)=0$$
となる。$\sigma_k=\operatorname{Re} s_k$ とおくと
$$\frac{\abs{h(N)}}{N^{\sigma_k}}=\abs{\sum_{n=N+1}^\infty \frac{h(n)}{n^s}}\leq \sum_{n=N+1}^\infty \frac{\abs{h(n)}}{n^{\sigma_k}}$$
となる。仮定より $\sigma_k\rightarrow +\infty$ となるから、 $k$ が大きいとき $\sigma_k>\alpha$ となる。つまり、$k\geq k_0$ のとき $\sigma_k>\alpha$ となる $k_0$ が存在する。

$C=(N+1)^\alpha \sum_{n\geq N+1}\abs{h(n)}/n^\alpha$ とおくと、$k\geq k_0$ のとき
$$\frac{h(N)}{N^{\sigma_k}}\leq \sum_{n=N+1}^\infty \frac{\abs{h(n)}}{n^{\sigma_k}} \leq \frac{1}{(N+1)^{\sigma_k-\alpha}}\sum_{n=N+1}^\infty \frac{\abs{h(n)}}{n^\alpha}=\frac{C}{(N+1)^{\sigma_k}}$$
となるから、
$$\abs{h(N)}\leq C\left(\frac{N}{N+1}\right)^{\sigma_k}$$
となるが、$k\rightarrow \infty$ のとき、右辺は $0$ に収束する。よって $h(N)=0$ となって、矛盾する。

Euler積

一般的に、乗法的関数の無限和について、つぎの事実が知られている。

$f(n)$ が乗法的関数で、$\sum_n f(n)$ が絶対収束するとき、すべての素数に関する積
$$\prod_p (1+f(p)+f(p^2)+\cdots)$$
は収束し、$\sum_n f(n)$ に一致する。とくに $f(n)$ が完全乗法的ならば
$$\sum_n f(n)=\prod_p \frac{1}{1-f(p)}$$
となる。

各素数 $p$ について
$$1+f(p)+f(p^2)+\cdots$$
は絶対収束する。実際、整数 $e\geq 1$ について
$$\abs{\sum_{f\geq e}f(p^f)}\leq \sum_{f\geq e}\abs{f(p^f)}\leq \sum_{n\geq p^e}\abs{f(n)}$$
となり、$e\rightarrow \infty$ のとき、右辺は $0$ に収束する。

$$P(x)=\prod_{p\leq x} (1+f(p)+f(p^2)+\cdots)$$
とおく。また、$x$ 以下の素数を $p_1, \ldots, p_r$ とおいて、
$$Q(x, y)=\sum_{p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}\leq y} f(p_1^{e_1})f(p_2^{e_2}) \cdots f(p_r^{e_r})$$
とおく。先に記したことから $1\leq i\leq r$ について $1+f(p_i)+f(p_i^2)+\cdots$ は絶対収束するので
$$\lim_{y\rightarrow +\infty}Q(x, y)=P(x)\label{eq1}\tag{*}$$
となる。

$A(x, y)=\{n=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}\leq y\}$ とおくと、
$$Q(x, y)=\sum_{p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}\leq y} f(p_1^{e_1})f(p_2^{e_2}) \cdots f(p_r^{e_r}) =\sum_{p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}\leq y} f(p_1^{e_1} p_2^{e_2}\cdots p_r^{e_r})=\sum_{n\in A(x, y)}f(n)$$
となる。$y\geq x$ のとき $A(x, y)$$x$ 以下の整数をすべて含んでいるから $S=\sum_n f(n)$ とおくと
$$\abs{S-Q(x, y)}\leq \sum_{n\not\in A(x, y)}\abs{f(n)}\leq \sum_{n>x}\abs{f(n)}$$
となる。\eqref{eq1}より
$$\abs{S-P(x)}\leq \sum_{n>x}\abs{f(n)}$$
となるが、$\sum_n f(n)$ は絶対収束するから、右辺は $0$ に収束する。つまり $P(x)$$S=\sum_n f(n)$ に収束する。

$f(n)$$f(n)/n^s$ に置き換えることで、Dirichlet級数について、つぎの展開が可能であることがわかる。

$f(n)$ が乗法的関数で、$\alpha$ を Dirichlet級数 $F(s)=\sum_n f(n)/n^s$ の絶対収束座標とすると、$\operatorname{Re} s>\alpha$ のとき
$$F(s)=\prod_p \left(1+\frac{f(p)}{p^s}+\frac{f(p^2)}{p^{2s}}+\cdots \right)$$
となる。とくに $f(n)$ が完全乗法的ならば
$$F(s)=\prod_p \frac{1}{1-f(p)p^{-s}}$$
となる。

これらの右辺の積をEuler積 (Euler product) という。

参考文献

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