本ページにおいては初等整数論のうち、整除性の理論のもっとも基礎的な事項について述べる。具体的には、除法の原理について述べ、倍数と約数およびそれらに関連する概念について述べる。
任意の整数 $n$ と、任意の正の整数 $a$ に対して、次の$2$つの条件が成立するような整数 $q, r$ が一意的に存在する。
これは $\Z$ がEuclid整域であることをいっている。
$(1)$ まず $n\geq 0$ の場合に、上記の2つの条件が成立するような整数 $q, r$ が存在することを数学的帰納法により証明する。
$n=0$ のとき、$q=r=0$ ととることができる。
$n\geq 1$ について $n-1=q_0 a+r_0, 0\leq r_0\leq a-1$ となる整数 $q_0, r_0$ が存在すると仮定する。
$0\leq r_0\leq a-2$ のとき $n=q_0 a+(r_0+1)$ より $q=q_0, r=r_0+1$ ととれる。
$r_0=a-1$ のとき $n=q_0 a+(a-1)+1=(q_0+1)a$ より $q=q_0+1, r=0$ ととれる。
$(2)$ $n\leq 0$ の場合、$(1)$ より $-n=q_0 a+r_0, 0\leq r_0\leq a-1$ となる整数 $q_0, r_0$ がとれる。
$r_0=0$ のとき $n=-q_0 a$ なので $q=q_0, r=0$ ととれる。
$1\leq r_0\leq a-1$ のとき $n=-q_0 a-r_0=(-q_0+1) a_0+q_0-r_0$ なので $q=-q_0+1, r=q_0-0$ ととれる。
$(3)$ 一意性を示す。$n=q_1 a+r_1=q_2 a+r_2$ かつ $0\leq r_1, r_2\leq a-1$ となる整数 $q_1, q_2, r_1, r_2$ が存在すると仮定する。
$q_1\neq q_2$ のとき
$$ \abs{(q_2 a+r_2)-(q_1 a+r_1)}=\abs{(q_2-q_1) a+(r_2-r_1)}\geq a\abs{q_2-q_1}-\abs{r_2-r_1}\geq a-(a-1)\geq 1$$
となって、$q_1 a+r_1 =q_2 a+r_2=n$ に矛盾する。よって $q_1=q_2$ である。
よって $r_1=n-q_1 a=n-q_2 a=r_2$ より $r_1=r_2$ である。したがって $q, r$ は一意的に定まる。
$2$つの整数 $m, n$ に対して、 $n=dm$ となる整数 $m$ が存在するとき、
$S$ が $0$ でない整数を少なくとも$1$つ含む整数の集合で、$n\in S$ ならば $n$ の倍数も $S$ に含まれ、$m, n\in S$ ならば $m+n$ も $S$ に含まれているとする。
このとき $S$ に含まれる最小の正の整数を $a$ とすると、$S$ は $a$ の倍数全体の集合と一致する。
このことは、$\Z$ が単項イデアル整域であることをいっている。
より一般に、単項イデアル整域の条件より、Euclid整域は単項イデアル整域である。
$S$ に含まれる $0$ でない整数 $n$ をとる。$n<0$ ならば $-n\in S$ だから、$S$ は正の整数を少なくとも$1$つ含む。よって $S$ に含まれる最小の正の整数 $a$ がとれる。$a$ の倍数が $S$ に含まれることは仮定からすぐにわかる。
$n\in S$ ならば
除法の原理
より、$n=qa+r, 0\leq r\leq a-1$ となる整数 $q, r$ が存在する。
仮定より $r=n-qa$ も $S$ に含まれるが、$a$ のとり方より、$1\leq r\leq a-1$ のとき $r$ は $S$ に含まれない。
よって $r=0$ となり、$n$ は $a$ の倍数でなければならないことがわかる。
$a_1, a_2, \ldots, a_n$ を整数とする。すべての $a_i$ の倍数である数を $a_1, a_2, \ldots, a_n$ の公倍数 (common multiple)、すべての $a_i$ の約数である数を $a_1, a_2, \ldots, a_n$ の公約数 (common divisor)という。
$a_1, a_2, \ldots, a_n$ の最小の正の公倍数を $a_1, a_2, \ldots, a_n$ の最小公倍数 (least common multiple)といい、$\LCM[a_1, a_2, \ldots, a_n]$ であらわす。$a_1, a_2, \ldots, a_n$ の最大の公約数を $a_1, a_2, \ldots, a_n$ の最大公約数 (greatest common divisor)といい、$\gcd[a_1, a_2, \ldots, a_n]$ であらわす。
$\gcd(a_1, a_2, \ldots, a_n)=1$ のとき $a_1, a_2, \ldots, a_n$ は互いに素 (relatively prime / coprime) であるといい、どのような $i, j (1\leq i< j\leq n)$ をとっても $\gcd(a_i, a_j)=1$ であるとき $a_1, a_2, \ldots, a_n$ はどの$2$つも互いに素、あるいは対ごとに互いに素 (pairwise coprime) であるという。
$d\neq 0$ が $a, b$ の公約数であるとき $\gcd(a/d, b/d)=\gcd(a, b)/\abs{d}$. とくに $\gcd(a/\gcd(a, b), b/\gcd(a, b))=1$.
倍数と約数に関する定理のうち、最も重要なのが、つぎの定理である。後に説明するが、この定理は本質的には素因数分解の一意性と等価である。
$a, b, n$ を整数とする。 $a, n$ が互いに素なとき、$n\mid ab \Longleftrightarrow n\mid b$.
$n\mid b$ ならば $n\mid ab$ となることは 定理2 (4) からすぐにわかる。また、$n=0$ のとき $a=0$ または $b=0$ であるが、 $a, n$ が互いに素なので $a=\pm 1$ でなければならないから $b=0$ となって、定理は正しい。よって、以下 $n\neq 0$ かつ $a, n$ が互いに素で、$n\mid ab$ のとき $n\mid b$ となることを示す。
定理2 (2)
から $e, f, s, t$ が整数で $as, at$ が $n$ の倍数ならば $a(es+ft)$ も $n$ の倍数となる。
よって $ab$ が $n$ の倍数である整数 $b$ 全体の集合は
定理3
の条件を満足するから、$ab$ が $n$ の倍数である整数 $b$ のなかで最小の正のもの $b_0$ をとると、$ab$ が $n$ の倍数であるとき $b$ は $b_0$ の倍数である。
$an$ は $n$ の倍数だから $b_0\mid n$ となる。$n=sb_0$ とおくと $sb_0=n$ は $ab_0$ を割り切るから $s$ は $a$ を割り切る。よって $s$ は $a, n$ をともに割り切るから $a, n$ の公約数である。しかし $\gcd(a, n)=1$ であるから $s=\pm 1$ つまり $b_0=\pm n$ である。
よって $n\mid ab$ ならば $\pm n=b_0\mid b$ であるから、$n\mid b$ となる。
$n\mid ab\Longleftrightarrow n/\gcd(a, n)\mid b$.
定理4
より $\gcd(a/\gcd(a, n), n/\gcd(a, n))=1$ なので
初等整数論の基本定理
より $n/\gcd(a, n)\mid ab/\gcd(a, n)\Longleftrightarrow n/\gcd(a, n)\mid b$.
定理2 (3)
より $n\mid ab\Longleftrightarrow n/\gcd(a, n)\mid b$.
初等整数論の基本定理 に関する議論は Trygve Nagell, Introduction to Number Theory, John Wiler & Sons, Inc. New York, 1951, Section 1.4, p.p.14--15 を参考とした。