「すべての学生がある本を読む」と「ある本をすべての学生が読む」は同じ意味だろうか。
このページでできるようになること
集合・写像・量化記号を日本語へ戻し、条件の向きを取り違えずに読めるようになる。
線形代数学では、計算と同じくらい「すべての」「ある」「ならば」を正確に読むことが重要です。このページでは、以後繰り返し使う集合・写像・必要十分条件を、方程式の例から準備します。
真か偽かが定まる文を命題という。命題 $P,Q$ に対して、次の命題を考える。
含意 $P\Rightarrow Q$ が偽になるのは、$P$ が真で $Q$ が偽の場合だけです。たとえば「整数 $n$ が4の倍数なら偶数である」は、4の倍数である整数すべてについて偶数であると主張しています。4の倍数でない整数は、この主張の反例にはなりません。
$P\Rightarrow Q$ とその対偶 $\lnot Q\Rightarrow\lnot P$ は同値である。
証明では、真偽を場合分けします。短い論理確認ですが、後の対偶証明の根拠になるので省略しません。
$P$ が偽なら $P\Rightarrow Q$ は真である。このとき、$Q$ が真なら $\lnot Q$ は偽なので対偶も真、$Q$ が偽なら $\lnot P$ は真なので対偶も真である。
$P$ が真なら、$P\Rightarrow Q$ の真偽は $Q$ の真偽と一致する。$Q$ が真なら元の含意は真であり、$\lnot Q$ が偽なので対偶も真である。$Q$ が偽なら元の含意は偽であり、対偶では $\lnot Q$ が真、$\lnot P$ が偽なので対偶も偽である。
すべての場合で二つの命題の真偽が一致するため、両者は同値である。
量化記号の順序は変えられません。学生全体を $S$、本全体を $B$、学生 $s$ が本 $b$ を読むことを $R(s,b)$ と書くと、
$$
\forall s\in S\ \exists b\in B,\ R(s,b)
$$
は、学生ごとに読む本が違ってよいという意味です。一方、
$$
\exists b\in B\ \forall s\in S,\ R(s,b)
$$
は、全員が読む共通の一冊が存在するという、より強い主張です。
量化命題の否定は
$$
\lnot(\forall x\in A,\ P(x))
\Leftrightarrow
\exists x\in A,\ \lnot P(x),
$$
$$
\lnot(\exists x\in A,\ P(x))
\Leftrightarrow
\forall x\in A,\ \lnot P(x)
$$
である。
「すべての $x$ が $P(x)$ を満たす」が偽であるとは、$P(x)$ を満たさない要素が少なくとも一つあることである。これが第一の同値である。
「$P(x)$ を満たす $x$ が存在する」が偽であるとは、どの $x$ を取っても $P(x)$ を満たさないことである。これが第二の同値である。
ここで二つ目の「どの $x$ を取っても」は全称量化、最初の「少なくとも一つ」は存在量化である。したがって否定すると量化記号が入れ替わる。
集合とは、対象をひとまとまりとして扱ったものです。$x$ が集合 $A$ の要素であることを $x\in A$、すべての要素が $B$ にも入ることを $A\subset B$ と書きます。
集合 $A,B$ に対して、次を定める。
$$
\begin{aligned}
A\cup B&:=\{x\mid x\in A\text{ または }x\in B\},\\
A\cap B&:=\{x\mid x\in A\text{ かつ }x\in B\},\\
A\setminus B&:=\{x\mid x\in A\text{ かつ }x\notin B\},\\
A\times B&:=\{(a,b)\mid a\in A,\ b\in B\}.
\end{aligned}
$$
これらを順に和集合、共通部分、差集合、直積という。
それぞれ和集合、共通部分、差集合、直積という。要素を一つももたない集合を空集合といい、$\varnothing$ と書く。
線形代数学で使う $\mathbb{R}^2$ は $\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ です。順序対では順序が重要なので、一般に $(a,b)$ と $(b,a)$ は異なります。
任意の集合 $A,B,C$ に対して
$$
A\cap(B\cup C)=(A\cap B)\cup(A\cap C)
$$
が成り立つ。
両方向の包含を示す。$x\in A\cap(B\cup C)$ とする。すると $x\in A$ であり、さらに $x\in B$ または $x\in C$ である。前者なら $x\in A\cap B$、後者なら $x\in A\cap C$ である。したがって $x\in(A\cap B)\cup(A\cap C)$ である。
逆に $x\in(A\cap B)\cup(A\cap C)$ とする。$x\in A\cap B$ または $x\in A\cap C$ である。どちらの場合にも $x\in A$ であり、かつ $x\in B\cup C$ である。よって $x\in A\cap(B\cup C)$ である。
両方向の包含が示されたので二集合は等しい。
二つの集合が等しいことを示す標準的な方法は
$$
A\subset B
\qquad\text{かつ}\qquad
B\subset A
$$
を示すことです。前ページの解集合定理も、この方法で証明しました。
短い文を記号化し、否定すると量化記号と条件がどう変わるかを一段ずつ追う。
$A=B$ であることと、$A\subset B$ かつ $B\subset A$ であることは同値である。
$A=B$ なら同じ集合なので両方の包含が成り立つ。逆に両方の包含を仮定する。$x\in A$ なら $A\subset B$ より $x\in B$ である。$x\in B$ なら $B\subset A$ より $x\in A$ である。したがって両集合はまったく同じ要素をもち、$A=B$ である。
写像 $f\colon A\to B$ は、各 $x\in A$ に対してただ一つの $f(x)\in B$ を対応させる規則です。$A$ を定義域、$B$ を終域と呼びます。
逆像の記号 $f^{-1}(T)$ は、逆写像が存在しなくても定義できます。たとえば $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ は全単射ではありませんが、
$$
f^{-1}([1,4])=[-2,-1]\cup[1,2]
$$
は意味をもちます。
$f\colon A\to B$ と $g\colon B\to C$ に対し、写像の合成|合成写像 $g\circ f\colon A\to C$ を
$$
(g\circ f)(x):=g(f(x))
$$
で定める。集合 $A$ の恒等写像 $\operatorname{id}_A\colon A\to A$ は $\operatorname{id}_A(x)=x$ で定める。
$f\colon A\to B$、$g\colon B\to C$、$h\colon C\to D$ に対して
$$
h\circ(g\circ f)=(h\circ g)\circ f
$$
が成り立つ。
二つの写像は定義域のすべての入力で値が一致すれば等しい。任意の $x\in A$ を取ると、
$$
\bigl(h\circ(g\circ f)\bigr)(x)
=h\bigl((g\circ f)(x)\bigr)
=h(g(f(x))).
$$
一方、
$$
\bigl((h\circ g)\circ f\bigr)(x)
=(h\circ g)(f(x))
=h(g(f(x))).
$$
任意の $x$ で値が一致するので二つの写像は等しい。
方程式 $f(x)=b$ を考えると、単射は「解が高々一つ」、全射は「すべての右辺に解がある」を意味します。
短い文を記号化し、否定すると量化記号と条件がどう変わるかを一段ずつ追う。
$f\colon A\to B$ に逆写像 $g\colon B\to A$ が存在して
$$
g\circ f=\operatorname{id}_A,
\qquad
f\circ g=\operatorname{id}_B
$$
となることと、$f$ が全単射であることは同値である。
逆写像があるとする。$f(x)=f(y)$ なら両辺に $g$ を作用させて $x=y$ だから単射である。任意の $b\in B$ に対し $x=g(b)$ と置けば $f(x)=f(g(b))=b$ だから全射である。
逆に全単射とする。各 $b\in B$ に対し、全射性から $f(x)=b$ となる $x$ が存在し、単射性からその $x$ は一意である。そこで $g(b)=x$ と定める。この定義から $g(f(x))=x$ と $f(g(b))=b$ が成り立つ。
命題 $P$ ならば $Q$ を $P\Rightarrow Q$ と書きます。このとき $P$ は $Q$ の十分条件、$Q$ は $P$ の必要条件です。$P\Rightarrow Q$ と $Q\Rightarrow P$ の両方が成り立つとき必要十分条件です。
命題 $P\Rightarrow Q$ の否定は「$P$ であるのに $Q$ でない例が存在する」です。したがって一般命題を壊すには反例を一つ示せば十分です。
「$n$ が4の倍数なら $n$ は偶数」は正しいが、「$n$ が偶数なら $n$ は4の倍数」は $n=2$ を反例として誤りである。必要条件と十分条件を入れ替えない。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=2x+3$ が全単射であることを示し、逆写像を求めよ。
$f(x)=f(y)$ なら $2x+3=2y+3$、よって $x=y$ なので単射である。任意の $b\in\mathbb{R}$ に対し $x=(b-3)/2$ と置けば $f(x)=b$ なので全射である。したがって全単射であり、
$$
f^{-1}(b)=\frac{b-3}{2}
$$
である。合成すると $f^{-1}(f(x))=x$、$f(f^{-1}(b))=b$ となる。
実数について、次の二命題の真偽を判定し、偽なら反例を挙げよ。
$$
\forall x\in\mathbb{R}\ \exists y\in\mathbb{R},\quad x+y=0,
$$
$$
\exists y\in\mathbb{R}\ \forall x\in\mathbb{R},\quad x+y=0.
$$
第一の命題は真である。任意の $x$ を取った後に $y=-x$ と選べば $x+y=0$ となる。
第二の命題は偽である。すべての $x$ に対して使える一つの $y$ があると仮定する。$x=0$ を代入すると $y=0$ でなければならない。しかし $x=1$ を代入すると $1+y=0$、すなわち $y=-1$ でなければならず、矛盾する。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ とする。集合 $S=[-2,1]$ と $T=[0,1]$ について $f(S)$ と $f^{-1}(T)$ を求めよ。また $f$ が単射・全射のどちらであるか判定せよ。
$x\in[-2,1]$ のとき $x^2$ の最小値は $x=0$ での0、最大値は $x=-2$ での4であり、その間の値をすべて取るから
$$
f(S)=[0,4].
$$
$x^2\in[0,1]$ は $|x|\le1$ と同値なので
$$
f^{-1}(T)=[-1,1].
$$
$f(1)=f(-1)$ なのに $1\ne-1$ だから単射ではない。また負の実数は二乗として現れないので全射でもない。
次は、線形代数学で係数として使う実数と複素数が、どの演算を可能にしているかを整理します。
記号を装飾でなく、曖昧さを除く文法として使えるようになった。以後の定義と定理を正確に読む土台になる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。
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