0-2 集合・写像・論理の読み方

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

「すべての学生がある本を読む」と「ある本をすべての学生が読む」は同じ意味だろうか。
このページでできるようになること
集合・写像・量化記号を日本語へ戻し、条件の向きを取り違えずに読めるようになる。
線形代数学では、計算と同じくらい「すべての」「ある」「ならば」を正確に読むことが重要です。このページでは、以後繰り返し使う集合・写像・必要十分条件を、方程式の例から準備します。

命題と論理記号

命題と論理演算

真か偽かが定まる文を命題という。命題 $P,Q$ に対して、次の命題を考える。

  • $\lnot P$:「$P$ ではない」。
  • $P\land Q$:「$P$ かつ $Q$」。
  • $P\lor Q$:「$P$ または $Q$」。ここで「または」は少なくとも一方が成り立つという意味で、両方が成り立つ場合も含む。
  • $P\Rightarrow Q$:「$P$ ならば $Q$」。
  • $P\Leftrightarrow Q$:「$P$ と $Q$ は同値」。これは $P\Rightarrow Q$ と $Q\Rightarrow P$ の両方が成り立つことをいう。

含意 $P\Rightarrow Q$ が偽になるのは、$P$ が真で $Q$ が偽の場合だけです。たとえば「整数 $n$ が4の倍数なら偶数である」は、4の倍数である整数すべてについて偶数であると主張しています。4の倍数でない整数は、この主張の反例にはなりません。

含意と対偶

$P\Rightarrow Q$ とその対偶 $\lnot Q\Rightarrow\lnot P$ は同値である。

証明では、真偽を場合分けします。短い論理確認ですが、後の対偶証明の根拠になるので省略しません。

$P$ が偽なら $P\Rightarrow Q$ は真である。このとき、$Q$ が真なら $\lnot Q$ は偽なので対偶も真、$Q$ が偽なら $\lnot P$ は真なので対偶も真である。
$P$ が真なら、$P\Rightarrow Q$ の真偽は $Q$ の真偽と一致する。$Q$ が真なら元の含意は真であり、$\lnot Q$ が偽なので対偶も真である。$Q$ が偽なら元の含意は偽であり、対偶では $\lnot Q$ が真、$\lnot P$ が偽なので対偶も偽である。
すべての場合で二つの命題の真偽が一致するため、両者は同値である。

量化記号を日本語へ戻す

全称量化と存在量化

集合 $A$ の要素 $x$ に関する条件 $P(x)$ に対し、
$$ \forall x\in A,\ P(x) $$
は全称量化、すなわち「すべての $x\in A$ について $P(x)$ が成り立つ」を意味する。また
$$ \exists x\in A,\ P(x) $$
は存在量化、すなわち「ある $x\in A$ が存在して $P(x)$ が成り立つ」を意味する。

量化記号の順序は変えられません。学生全体を $S$、本全体を $B$、学生 $s$ が本 $b$ を読むことを $R(s,b)$ と書くと、
$$ \forall s\in S\ \exists b\in B,\ R(s,b) $$
は、学生ごとに読む本が違ってよいという意味です。一方、
$$ \exists b\in B\ \forall s\in S,\ R(s,b) $$
は、全員が読む共通の一冊が存在するという、より強い主張です。

量化命題の否定

量化命題の否定は
$$ \lnot(\forall x\in A,\ P(x)) \Leftrightarrow \exists x\in A,\ \lnot P(x), $$
$$ \lnot(\exists x\in A,\ P(x)) \Leftrightarrow \forall x\in A,\ \lnot P(x) $$
である。

「すべての $x$ が $P(x)$ を満たす」が偽であるとは、$P(x)$ を満たさない要素が少なくとも一つあることである。これが第一の同値である。
「$P(x)$ を満たす $x$ が存在する」が偽であるとは、どの $x$ を取っても $P(x)$ を満たさないことである。これが第二の同値である。
ここで二つ目の「どの $x$ を取っても」は全称量化、最初の「少なくとも一つ」は存在量化である。したがって否定すると量化記号が入れ替わる。

集合と包含

集合とは、対象をひとまとまりとして扱ったものです。$x$ が集合 $A$ の要素であることを $x\in A$、すべての要素が $B$ にも入ることを $A\subset B$ と書きます。

集合の基本演算

集合 $A,B$ に対して、次を定める。
$$ \begin{aligned} A\cup B&:=\{x\mid x\in A\text{ または }x\in B\},\\ A\cap B&:=\{x\mid x\in A\text{ かつ }x\in B\},\\ A\setminus B&:=\{x\mid x\in A\text{ かつ }x\notin B\},\\ A\times B&:=\{(a,b)\mid a\in A,\ b\in B\}. \end{aligned} $$
これらを順に和集合、共通部分、差集合、直積という。
それぞれ和集合、共通部分、差集合、直積という。要素を一つももたない集合を空集合といい、$\varnothing$ と書く。

線形代数学で使う $\mathbb{R}^2$ は $\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ です。順序対では順序が重要なので、一般に $(a,b)$ と $(b,a)$ は異なります。

集合の分配法則

任意の集合 $A,B,C$ に対して
$$ A\cap(B\cup C)=(A\cap B)\cup(A\cap C) $$
が成り立つ。

両方向の包含を示す。$x\in A\cap(B\cup C)$ とする。すると $x\in A$ であり、さらに $x\in B$ または $x\in C$ である。前者なら $x\in A\cap B$、後者なら $x\in A\cap C$ である。したがって $x\in(A\cap B)\cup(A\cap C)$ である。
逆に $x\in(A\cap B)\cup(A\cap C)$ とする。$x\in A\cap B$ または $x\in A\cap C$ である。どちらの場合にも $x\in A$ であり、かつ $x\in B\cup C$ である。よって $x\in A\cap(B\cup C)$ である。
両方向の包含が示されたので二集合は等しい。

二つの集合が等しいことを示す標準的な方法は
$$ A\subset B \qquad\text{かつ}\qquad B\subset A $$
を示すことです。前ページの解集合定理も、この方法で証明しました。

証明を読む前の見取り図

短い文を記号化し、否定すると量化記号と条件がどう変わるかを一段ずつ追う。

集合の相等

$A=B$ であることと、$A\subset B$ かつ $B\subset A$ であることは同値である。

$A=B$ なら同じ集合なので両方の包含が成り立つ。逆に両方の包含を仮定する。$x\in A$ なら $A\subset B$ より $x\in B$ である。$x\in B$ なら $B\subset A$ より $x\in A$ である。したがって両集合はまったく同じ要素をもち、$A=B$ である。

写像

写像 $f\colon A\to B$ は、各 $x\in A$ に対してただ一つの $f(x)\in B$ を対応させる規則です。$A$ を定義域、$B$ を終域と呼びます。

像と逆像

写像 $f\colon A\to B$、部分集合 $S\subset A$、$T\subset B$ に対して、
$$ f(S):=\{f(x)\mid x\in S\} $$
を $S$ の像といい、
$$ f^{-1}(T):=\{x\in A\mid f(x)\in T\} $$
を $T$ の逆像という。特に $f(A)$ を写像 $f$ の像という。

逆像の記号 $f^{-1}(T)$ は、逆写像が存在しなくても定義できます。たとえば $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ は全単射ではありませんが、
$$ f^{-1}([1,4])=[-2,-1]\cup[1,2] $$
は意味をもちます。

写像の合成と恒等写像

$f\colon A\to B$ と $g\colon B\to C$ に対し、写像の合成|合成写像 $g\circ f\colon A\to C$ を
$$ (g\circ f)(x):=g(f(x)) $$
で定める。集合 $A$ の恒等写像 $\operatorname{id}_A\colon A\to A$ は $\operatorname{id}_A(x)=x$ で定める。

写像の合成の結合則

$f\colon A\to B$、$g\colon B\to C$、$h\colon C\to D$ に対して
$$ h\circ(g\circ f)=(h\circ g)\circ f $$
が成り立つ。

二つの写像は定義域のすべての入力で値が一致すれば等しい。任意の $x\in A$ を取ると、
$$ \bigl(h\circ(g\circ f)\bigr)(x) =h\bigl((g\circ f)(x)\bigr) =h(g(f(x))). $$
一方、
$$ \bigl((h\circ g)\circ f\bigr)(x) =(h\circ g)(f(x)) =h(g(f(x))). $$
任意の $x$ で値が一致するので二つの写像は等しい。

  • 単射:$f(x)=f(y)$ なら $x=y$。
  • 全射:すべての $b\in B$ に対し $f(x)=b$ となる $x\in A$ がある。
  • 全単射:単射かつ全射。
単射・全射・全単射

写像 $f\colon A\to B$ について、

  • 任意の $x,y\in A$ に対し、$f(x)=f(y)$ なら $x=y$ となるとき、$f$ は**単射**であるという。
  • 任意の $b\in B$ に対し、$f(x)=b$ となる $x\in A$ が少なくとも一つ存在するとき、$f$ は**全射**であるという。
  • 単射かつ全射であるとき、$f$ は**全単射**であるという。

方程式 $f(x)=b$ を考えると、単射は「解が高々一つ」、全射は「すべての右辺に解がある」を意味します。

証明を読む前の見取り図

短い文を記号化し、否定すると量化記号と条件がどう変わるかを一段ずつ追う。

逆写像の存在

$f\colon A\to B$ に逆写像 $g\colon B\to A$ が存在して
$$ g\circ f=\operatorname{id}_A, \qquad f\circ g=\operatorname{id}_B $$
となることと、$f$ が全単射であることは同値である。

逆写像があるとする。$f(x)=f(y)$ なら両辺に $g$ を作用させて $x=y$ だから単射である。任意の $b\in B$ に対し $x=g(b)$ と置けば $f(x)=f(g(b))=b$ だから全射である。
逆に全単射とする。各 $b\in B$ に対し、全射性から $f(x)=b$ となる $x$ が存在し、単射性からその $x$ は一意である。そこで $g(b)=x$ と定める。この定義から $g(f(x))=x$ と $f(g(b))=b$ が成り立つ。

必要条件と十分条件

命題 $P$ ならば $Q$ を $P\Rightarrow Q$ と書きます。このとき $P$ は $Q$ の十分条件、$Q$ は $P$ の必要条件です。$P\Rightarrow Q$ と $Q\Rightarrow P$ の両方が成り立つとき必要十分条件です。
命題 $P\Rightarrow Q$ の否定は「$P$ であるのに $Q$ でない例が存在する」です。したがって一般命題を壊すには反例を一つ示せば十分です。

逆は自動的に成り立たない

「$n$ が4の倍数なら $n$ は偶数」は正しいが、「$n$ が偶数なら $n$ は4の倍数」は $n=2$ を反例として誤りである。必要条件と十分条件を入れ替えない。

演習

写像の判定

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=2x+3$ が全単射であることを示し、逆写像を求めよ。

解答

$f(x)=f(y)$ なら $2x+3=2y+3$、よって $x=y$ なので単射である。任意の $b\in\mathbb{R}$ に対し $x=(b-3)/2$ と置けば $f(x)=b$ なので全射である。したがって全単射であり、
$$ f^{-1}(b)=\frac{b-3}{2} $$
である。合成すると $f^{-1}(f(x))=x$、$f(f^{-1}(b))=b$ となる。

理由を説明する問題

量化記号の順序

実数について、次の二命題の真偽を判定し、偽なら反例を挙げよ。
$$ \forall x\in\mathbb{R}\ \exists y\in\mathbb{R},\quad x+y=0, $$
$$ \exists y\in\mathbb{R}\ \forall x\in\mathbb{R},\quad x+y=0. $$

解答

第一の命題は真である。任意の $x$ を取った後に $y=-x$ と選べば $x+y=0$ となる。
第二の命題は偽である。すべての $x$ に対して使える一つの $y$ があると仮定する。$x=0$ を代入すると $y=0$ でなければならない。しかし $x=1$ を代入すると $1+y=0$、すなわち $y=-1$ でなければならず、矛盾する。

別対象へ転用する問題

像と逆像

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(x)=x^2$ とする。集合 $S=[-2,1]$ と $T=[0,1]$ について $f(S)$ と $f^{-1}(T)$ を求めよ。また $f$ が単射・全射のどちらであるか判定せよ。

解答

$x\in[-2,1]$ のとき $x^2$ の最小値は $x=0$ での0、最大値は $x=-2$ での4であり、その間の値をすべて取るから
$$ f(S)=[0,4]. $$
$x^2\in[0,1]$ は $|x|\le1$ と同値なので
$$ f^{-1}(T)=[-1,1]. $$
$f(1)=f(-1)$ なのに $1\ne-1$ だから単射ではない。また負の実数は二乗として現れないので全射でもない。

次は、線形代数学で係数として使う実数と複素数が、どの演算を可能にしているかを整理します。

このページで回収したもの

記号を装飾でなく、曖昧さを除く文法として使えるようになった。以後の定義と定理を正確に読む土台になる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
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