$V$ が体 $\K$ 上のベクトル空間のとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ が $\K$ 上線形独立 (linear independent) であるとは
$$a_1\Bv_1+a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r=\Bzr$$
となる $a_1, \ldots, a_r\in\K$ が $a_1=\cdots =a_r=0$ しかないことをいう。$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ が線形独立でないとき、つまり
上記の等式が成り立つが $a_1, \ldots, a_r$ の、少なくともひとつは $0$ ではないような $a_1, \ldots, a_r\in\K$ が存在するとき、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ を線形従属 (linear dependent) であるという。
$V=\K^n$ について、
部分空間:例2
における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $\K$ 上線形独立である。実際
$$a_1\Be_1+a_2\Be_2+\cdots +a_n\Be_n=(a_1, \ldots, a_n)$$
だから
$$a_1\Be_1+a_2\Be_2+\cdots +a_n\Be_n=\Bzr\Longleftrightarrow a_1= \ldots =a_n=0$$
となる。
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が線形独立なベクトルとする。このとき $\Bw\in V$ について、
:$\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形従属 $\Longleftrightarrow \Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$,
言い換えれば、
:$\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形独立 $\Longleftrightarrow \Bw\not\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$.
$\Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ ならば
$\Bw=a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n$ となる $a_1, \ldots, a_n\in\K$ がとれるから
$$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n+(-1)\Bw=\Bzr$$
より $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ は線形従属。
逆に $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ が線形従属のとき
$$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n+a_{n+1}\Bw=\Bzr$$
となる $a_1, \ldots, a_{n+1}\in\K$ で、その少なくともひとつは $0$ ではないものをとる。
$a_{n+1}=0$ のとき
$$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n=\Bzr$$
で、なおかつ、$a_1, \ldots, a_n$ の少なくともひとつは $0$ ではないので、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属となって仮定に反する。よって $a_{n+1}\neq 0$ なので
$$\Bw=-\frac{1}{a_{n+1}}(a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n)\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle.$$
$D\subset V$ が線形独立で、なおかつ $V$ を生成するとき $D$ は $V$ の基底 (basis) であるという。
ここで $D=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_r\}$ であるとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ は $V$ の基底であるともいう。
$V=\K^n$ について、
部分空間:例2
における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $\K$ 上線形独立かつ $V$ を生成するから、
$V$ の基底である。
一般的には、基底のとり方は一意的ではない。たとえば $(1, 1, 0)$, $(1, 0, 1)$, $(0, 1, 1)$ も $\K^3$ の基底となる。
有限生成なベクトル空間は、有限個のベクトルからなる基底をもつ。さらに強く、つぎのように、ベクトル空間の生成集合の部分集合で基底となるものが存在することがいえる。
ベクトルの有限集合 $B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$ について、$B$ の線形独立な部分集合 $C$ で
$$\span B=\span C$$
となるものがとれる。つまり、$B$ の部分集合で $\span B$ の基底となるものが存在する。
$B$ が零ベクトルを含むとき、$B_0=B\setminus\{\Bzr\}$ とおき、そうでないとき、
$B_0=B$ とおくと、$B_0$ は $B$ の部分集合で零ベクトルを含まず、 $\span B=\span B_0$ となる。
$B_0=\{\Bw_1, \ldots, \Bw_m\}$ とおく。$B_0$ 自身が線形独立ならば、$C=B_0$ ととれる。$B_0$ が線形独立でないとき、
$$a_1\Bw_1+\cdots +a_m\Bw_m=0$$
かつ、少なくともひとつは $0$ でない $a_1, \ldots, a_m\in\K$ がとれる。
$a_i\neq 0$ となる $i$ をひとつとり、それを $i(1)$ とおいて、$B_1=B_0\setminus\{\Bw_{i(1)}\}$ とおく。
$$\Bw_{i(1)}=-\frac{1}{a_{i(1)}}\sum_{j\neq i(1)}a_j\Bw_j\in \span B_1$$
であるから、$\span B=\span B_1$ となる。
同様にして、$B_r$ が線形独立でなければ、
$$\span(B_r\setminus\{\Bw_{i(r)}\})=\span B_r$$
となる $i(r)$ がとれるので、$B_{m+1}=B_m\setminus\{\Bw_{i(m)}\}$ とおく。
$B_1, \ldots, B_{m-2}$ がすべて線形従属のとき、$B_{m-1}=\{\Bw_j\}$ となる $j$ がとれるが、
$\Bw_j\in B_0$ なので、$\Bw_j\neq \Bzr$ であるから、$B_{m-1}$ は線形独立である。よって、
このようにして、$B_r$ が線形独立となる $r\in\{0, 1, \ldots, m-1\}$ がとれる。このとき
$B_r$ は$B$ の線形独立な部分集合で、帰納的に
$$\span B_r=\span B_0=\span B$$
となる。
基底の基本的な性質を示すために、線形独立なベクトルの個数に関する一般的な定理を証明する。
$B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$, $C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ がともに線形独立で
$$\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in \span B$$
となるとき、$m\leq n$.
$m>n$ と仮定して矛盾を導く。まず、$r=1, \ldots, n$ について
\begin{equation}
\span B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)
\label{eq1}\tag{*}
\end{equation}
となる、相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ がとれることを $r$ に関する帰納法で示す。
$C$ は線形独立だから $\Bw_1\neq \Bzr$ である。よって
$$\Bw_1=\sum_{i=1}^n a_{1i}\Bv_i, a_{1k}\neq 0$$
となる $k$ をひとつとることができる。それを $k(1)$ とおく。このとき
$$\Bv_{k(1)}=\frac{1}{a_{1, k(1)}}\left(\Bw_1-\sum_{i\neq k(1)} a_{1i}\Bv_i\right)\in \span\left(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)})\}\right)$$
となるので、
$$\span B\subset \span(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)}\})$$
となる。一方、$\Bw_1\in \span B$ なので
$$\span(\{\Bw_1\}\cup B\setminus\{\Bv_{k(1)}\})=\span B$$
が成り立つ。
$1\leq r\leq n-1$ かつ
$\span B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)$
となる、相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ が存在するとする。仮定より $r+1\leq n< m$ だから、
$$\Bw_{r+1}\in \span B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right)$$
となる。$C$ は線形独立だから
$$\Bw_{r+1}=\sum_{j=1}^r b_{r+1, j}\Bw_j+\sum_{i\neq k(1), \ldots, k(r)} a_{r+1, i}\Bv_i, a_{r+1, k}\neq 0$$
となる $k$ が存在する(なお、$n\geq r+1$ なので、$\Bv_i$ に関する和は空和とはならない)。
それで、そのような $k$ をひとつとり、それを $k(r+1)$ とおくと
$$\Bv_{k(r+1)}=\frac{1}{a_{r+1, k(r+1)}}\left(\Bw_{r+1}-\sum_{j=1}^r b_{r+1, j}\Bw_j-\sum_{i\neq k(1), \ldots, k(r+1)} a_{r+1, i}\right)$$
より
$$\begin{split}
\span B= & \span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_r\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r)})\}\right) \\
\subset & \span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_{r+1}\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r+1)})\}\right)
\end{split}$$
となる。一方、$\Bw_{r+1}\in \span B$ なので、
$$\span B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_{r+1}\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(r+1)})\}\right)$$
が成り立つ。
ここから、帰納法により $r=1, \ldots, n$ について \eqref{eq1} が成り立つ相異なる添字 $k(1), \ldots, k(r)$ がとれることがわかる。
とくに
$$\span B=\span\left(\{\Bw_1, \ldots, \Bw_n\}\cup B\setminus \{\Bv_{k(1)}, \ldots, \Bv_{k(n)})\}\right)$$
となるが、$k(1), \ldots, k(n)$ は相異なる添え字だから、それは $1, \ldots, n$ の並び替えでなければならず、
$$\span B=\langle \Bw_1, \ldots, \Bw_n\rangle$$
となる。$m>n$ なので、
$$\Bw_{n+1}\in \span B=\langle \Bw_1, \ldots, \Bw_n\rangle$$
となって $C$ が線形独立であるという仮定に矛盾する。よって $m\leq n$ でなければならない。
このことから、基底を構成するベクトルの個数は基底のとり方によらずベクトル空間によってのみ一意的に定まるという、
基底に関する最も重要な事実がただちに導かれる。
$B=\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}\subset V$, $C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ がともに線形独立で
$$\span B=\span C$$
となるとき、$m=n$.
$B, C$ がともに線形独立で、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in\span C$, $\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in\span B$ だから、
定理3
を $B, C$ を入れ替えて適用して、$m\leq n$ かつ $n\leq m$、
つまり $m=n$ がわかる。
したがって、$S$ が有限集合で $W$ の基底ならば、$\# S$ は $S$ のとり方によらず、一意的に定まる。
これを $W$ の $\K$ 上の次元 (dimension) といい、$\dim_\K V$ によりあらわす。
$V=\K^n$ について、
部分空間:例2
における $\Be_1, \ldots, \Be_n$ は $V$ の基底だから、
$\dim_\K V=n$ となる。このことから、$\K^n$ の他の基底も、$n$ 個のベクトルからなることがわかる。
さらに、 定理2 より、 定理3 において $B$ が線形独立であるという仮定は撤去できる。
$C=\{\Bw_1, \ldots,\Bw_m\}\subset V$ が線形独立で
$$\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in \langle \Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$$
となるとき、$m\leq n$.
このことから、$V$ の次元について、つぎの$2$つの事実が導かれる。
$V$ の生成元の個数の最小値は $\dim V$ と一致する。
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ を生成するベクトルで、個数が最小となるものとする。
このとき $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立である。というのは $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属ならば
定理1
より $\span B=\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle=V$ となる
$\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ の線形独立な部分集合 $B$ がとれるが、$\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ は線形従属なので
ため、$B$ は $\{\Bv_1, \ldots, \Bv_n\}$ の真部分集合でなければならず、$n$ の最小性に反するからである。
よって、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底なので $\dim V=n$ となる。
逆に、$\dim V=n$ で $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を $V$ の基底とし、
$\Bw_1, \ldots, \Bw_m$ が $V$ を生成するとすると、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立でなおかつ
$$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in \langle\Bw_1, \ldots, \Bw_m\rangle$$
なので、
定理5
より$m\geq n$ となる。
もちろん $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ を生成するから、$V$ の生成元の個数の最小値は $n$ に一致する。
$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値は $\dim V$ と一致する。
$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値を $n$ とし、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を、$V$ の線形独立なベクトルとする。
このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底となる。実際、任意の $\Bw\in V$ について、仮定より
$n+1$ 個のベクトル $\Bv_1, \ldots, \Bv_n, \Bw$ は線形従属となるから、
命題1
より
$\Bw\in\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ となる。よって、$\dim V=n$ となる。
逆に、$\dim V=n$ で $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を $V$ の基底とすると、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は線形独立、かつ
$\Bw_1, \ldots, \Bw_m\in V$ が線形独立ならば
定理5
より
$m\leq n$ となる。よって、$V$ の部分集合で、線形独立なものの個数の最大値は $n$ に一致する。
よって、ベクトル空間の次元と同じ個数のベクトルの組については、次に示すように、線形独立であることと生成元であることが同値である。
ベクトル空間 $V$ の次元が $n$ であるとき、つぎの条件は同値。
(ii)$\Longrightarrow$ (i):
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が線形独立とする。
このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ の生成元でなければ、$\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_n\rangle$ に属さない $V$ のベクトル $\Bv_{n+1}$ が存在するが、
命題1
より
$\Bv_1, \ldots, \Bv_{n+1}$ が線形独立となって、
定理7
に矛盾する。
(iii)$\Longrightarrow$ (1):
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ が生成元であるとする。
このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が線形従属ならば
$$a_1\Bv_1+\cdots +a_n\Bv_n=\Bzr, a_i\neq 0$$
となる $a_1, \ldots, a_n\in\K$ が存在するので、
$$\Bv_i=\sum_{1\leq j\leq n, j\neq i}-\frac{a_j}{a_i}\Bv_j$$
となるから、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ から $\Bv_i$ を取り除いたものも $V$ の生成元となるが、これは
定理6
に矛盾する。
(i) $\Longrightarrow$ (ii)(iii):
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ が $V$ の基底ならば、次元の定義から $n=\dim V$ となる。
また、有限次元ベクトル空間の線形独立なベクトルは基底へと拡張できることも重要な事実である。
$V$ が有限次元のベクトル空間で、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_k\in V$ が $\K$ 上線形独立なベクトルのとき、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_k$ を含む $V$ の基底が存在する。
$n=\dim V$ を $V$ の次元とする。
一般に、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r~(k\leq r< n)$ を、$\Bv_1, \ldots, \Bv_k$ を含む $\K$ 上線形独立なベクトルとする。
このとき、$\Bv_1, \ldots, \Bv_{r+1}$ が $\K$ 上線形独立なベクトルとするように $\Bv_{r+1}$ をとれる。実際、
$r< n=\dim V$ なので
定理5
より $\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle$ は $V$ を生成しない。よって、
$\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_r\rangle$ に属さない $V$ のベクトル $\Bv_{r+1}$ がとれる。
命題1
より $\langle\Bv_1, \ldots, \Bv_{r+1}\rangle$ は線形独立である。
よって、$V$ の $n$ 個のベクトル $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ で、$\K$ 上線型独立なものがとれるが、
$n=\dim V$ なので
定理8
より $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の基底である。