0-1 連立方程式から構造を見る

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

3本の方程式を解いたあと、答えが一点・直線・空集合になる違いを、計算をやり直さずに説明できるだろうか。
このページでできるようになること
方程式の答えを「数の組」だけでなく、位置と自由度をもつ集合として読めるようになる。

この章を貫く問い

高校では一つの方程式を解くたびに計算をやり直した。大学数学では、解の存在・一意性・自由度を、個別の数値を越えて説明できるだろうか。第0章では、連立方程式を入口に、集合・写像・論理・証明という大学数学の読み方を準備する。
このページでは、高校数学で学んだ連立一次方程式を出発点にします。一つの方程式を解くだけなら、代入法や加減法で十分です。線形代数学が必要になるのは、係数や未知数の個数が変わるたびに計算をやり直すのではなく、解の存在、一意性、自由度をまとめて理解したいときです。

まず高校数学の方法で解く

次の連立方程式を考えます。
$$ \begin{cases} x+2y=5,\\ 3x-y=4. \end{cases} $$
第一式から $x=5-2y$ を得て、第二式へ代入すると
$$ 3(5-2y)-y=4, \qquad 15-7y=4, \qquad y=\frac{11}{7}. $$
したがって
$$ x=5-\frac{22}{7}=\frac{13}{7}. $$
解は
$$ (x,y)=\left(\frac{13}{7},\frac{11}{7}\right) $$
の一つだけです。
この計算は正しいのですが、「なぜ解が一つだけだったのか」はまだ説明していません。係数を少し変えて、三つの例を比べます。
$$ \begin{array}{c|c|c} \text{方程式} & \text{計算結果} & \text{解の様子}\\ \hline \begin{cases}x+2y=3\\2x+4y=6\end{cases} &x=3-2y&\text{無数にある}\\[4mm] \begin{cases}x+2y=3\\2x+4y=7\end{cases} &0=1&\text{存在しない}\\[4mm] \begin{cases}x+2y=5\\3x-y=4\end{cases} &\left(\frac{13}{7},\frac{11}{7}\right)&\text{一つだけ} \end{array} $$
個々の答えは加減法で求められます。しかし、知りたいのは三つの場合を分ける共通の仕組みです。

係数を一つの作用として読む

一次方程式系と解

体 $K$ の元 $a_{ij},b_i$ を用いた方程式
$$ \begin{cases} a_{11}x_1+\cdots+a_{1n}x_n=b_1,\\ \hspace{18mm}\vdots\\ a_{m1}x_1+\cdots+a_{mn}x_n=b_m \end{cases} $$
を $m$ 本の方程式、$n$ 個の未知数からなる連立一次方程式または一次方程式系という。すべての式を同時に満たす $(x_1,\ldots,x_n)\in K^n$ を解といい、解全体の集合を解集合という。
右辺がすべて零の一次方程式系を斉次系、それ以外を非斉次系という。

「一次」という語は、未知数同士の積 $x_1x_2$、二乗 $x_i^2$、絶対値 $|x_i|$ などを含まず、各未知数が係数との積として一回だけ現れることを表します。
係数をまとめて
$$ A= \begin{pmatrix}1&2\\3&-1\end{pmatrix}, \qquad \boldsymbol{x}= \begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}, \qquad \boldsymbol{b}= \begin{pmatrix}5\\4\end{pmatrix} $$
と書くと、最初の連立方程式は $A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}$ となります。ここで行列 $A$ は数を並べた表であるだけでなく、入力 $\boldsymbol{x}$ を出力 $A\boldsymbol{x}$ へ移す規則です。
$$ \begin{pmatrix}1&2\\3&-1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}x+2y\\3x-y\end{pmatrix}. $$
連立方程式を解くとは、出力が $\boldsymbol{b}$ になる入力を探すことだと読み替えられます。

位置と自由度を分ける

右辺を零にした方程式 $A\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}$ を斉次方程式と呼び、その解全体を
$$ N(A):=\{\boldsymbol{v}\mid A\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}\} $$
と書きます。$N(A)$ は、$A$ を作用させたときに見えなくなる方向の集まりです。

行列の零空間

$m\times n$ 行列 $A$ に対して
$$ N(A):=\{\boldsymbol{v}\in K^n\mid A\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}\} $$
を $A$ の零空間という。後には、行列が定める線形写像の核 $\ker A$ と呼ぶ。

証明を読む前の見取り図

個々の消去計算から共通して残る性質を取り出し、解の位置と動ける方向を分ける。

非斉次方程式の解集合

$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}$ が少なくとも一つの解 $\boldsymbol{x}_0$ をもつとする。このとき、解全体は
$$ \boldsymbol{x}_0+N(A) := \{\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}\mid \boldsymbol{v}\in N(A)\} $$
である。

この定理は、「一つの基準となる解」と「動かしても出力が変わらない方向」を分離します。証明は二つの集合が等しいことを、両向きの包含で確かめます。

解集合の記述

まず、$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}$ を満たす任意の解 $\boldsymbol{x}$ を取る。仮定より $A\boldsymbol{x}_0=\boldsymbol{b}$ でもある。行列の積が加法と両立することから
$$ A(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0) =A\boldsymbol{x}-A\boldsymbol{x}_0 =\boldsymbol{b}-\boldsymbol{b} =\boldsymbol{0} $$
となる。したがって $\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0\in N(A)$ である。$\boldsymbol{v}:=\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0$ と置けば
$$ \boldsymbol{x}=\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}, \qquad \boldsymbol{v}\in N(A) $$
だから、任意の解は $\boldsymbol{x}_0+N(A)$ に属する。
逆に、$\boldsymbol{v}\in N(A)$ を任意に取る。$A\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}$ であるから
$$ A(\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}) =A\boldsymbol{x}_0+A\boldsymbol{v} =\boldsymbol{b}+\boldsymbol{0} =\boldsymbol{b} $$
となる。したがって $\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}$ は元の方程式の解である。
以上により、解全体と $\boldsymbol{x}_0+N(A)$ の間の両方の包含が示された。

最初の三例を同じ言葉で解き直す

方程式
$$ \begin{cases}x+2y=3,\\2x+4y=6\end{cases} $$
には $\boldsymbol{x}_0=(3,0)$ という解があります。斉次方程式は $x+2y=0$ だけに簡約されるので、$y=t$ と置けば $x=-2t$ です。したがって
$$ N(A)= \left\{ t\begin{pmatrix}-2\\1\end{pmatrix} \mathrel{\Big|}t\in\mathbb{R} \right\}. $$
定理から解全体は
$$ \begin{pmatrix}3\\0\end{pmatrix} +t\begin{pmatrix}-2\\1\end{pmatrix} $$
です。無数の解がある理由は、零でない「見えなくなる方向」があるからです。
第二式の右辺を $7$ に変えると、左辺は第一式の二倍なのに、右辺は二倍ではありません。したがって出力 $\boldsymbol{b}$ は行列 $A$ が到達できる範囲に入らず、解が存在しません。
最初の例では斉次方程式の解が $\boldsymbol{0}$ だけです。一つ解を見つければ、そこから動ける方向がないので、解は一意です。

数ベクトルでない対象にも同じ構造がある

抽象化の価値は、同じ計算を別の対象へ移したときに見えます。二次以下の多項式
$$ p(t)=a+bt+ct^2 $$
について $p(0)=1$、$p(1)=2$ を満たすものをすべて求めます。条件を係数について書けば
$$ a=1, \qquad a+b+c=2. $$
よって $a=1$、$b=1-c$ であり、$c=s$ と置くと
$$ p(t)=1+t+s(t^2-t). $$
ここでも、一つの解 $1+t$ に、二点 $0,1$ で値が零になる多項式 $s(t^2-t)$ を足した形になっています。数ベクトルの連立方程式と多項式の条件決定問題は、同じ「一つの解+斉次問題の解」という構造をもっています。

線形でない場合には壊れる

反例:二次方程式の解は平行移動で記述できない

$x^2=1$ の解は $x=1,-1$ である。一つの解 $x_0=1$ と、対応する斉次方程式 $v^2=0$ の解 $v=0$ を使っても、$x_0+v=1$ しか得られず、もう一つの解 $-1$ は得られない。
証明で使った
$$ A(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0) =A\boldsymbol{x}-A\boldsymbol{x}_0 $$
に対応する式は、二乗については一般に成り立たない。解集合の構造は線形性に由来する。

このページで得た見通し

連立一次方程式について、次の三点を分けて考えられるようになりました。

  • 出力 $\boldsymbol{b}$ に到達できるか:解の存在。
  • 零へ送られる方向があるか:解の一意性。
  • 零へ送られる方向が何本あるか:解の自由度。
    計算を一般化する前に、大学数学で使う集合・写像・論理の読み方を整える必要があります。次のページでは、「すべて」と「ある」の違い、写像の入力と出力、必要条件と十分条件を、この方程式の議論に結びつけて確認します。

演習

解集合の分類

次の連立方程式について、解が存在するかを判定し、存在する場合は解全体を「一つの解+斉次方程式の解」の形で表せ。
$$ \begin{cases}x+y+z=2,\\2x+2y+2z=4.\end{cases} $$

解答

第二式は第一式の2倍なので、独立な条件は $x+y+z=2$ だけである。一つの解として $(2,0,0)$ を取る。斉次方程式で $y=s,z=t$ と置けば $x=-s-t$ だから、解全体は
$$ \begin{pmatrix}2\\0\\0\end{pmatrix} +s\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix} +t\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix} \qquad(s,t\in\mathbb{R}) $$
である。代入すると二式をともに満たす。

理由を説明する問題

一意性と斉次解

$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}$ が少なくとも一つ解をもつとする。この方程式の解が一意であることと、斉次方程式 $A\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}$ の解が $\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}$ だけであることが同値であると証明せよ。

解答

非斉次方程式の解を一つ $\boldsymbol{x}_0$ とする。斉次方程式に零でない解 $\boldsymbol{v}$ があれば、解集合定理により $\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}$ も解である。$\boldsymbol{v}\ne\boldsymbol{0}$ なので $\boldsymbol{x}_0+\boldsymbol{v}\ne\boldsymbol{x}_0$ であり、解は一意でない。したがって解が一意なら斉次解は零だけである。
逆に斉次解が零だけだとする。$\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}$ を任意の二解とすると
$$ A(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}) =A\boldsymbol{x}-A\boldsymbol{y} =\boldsymbol{b}-\boldsymbol{b} =\boldsymbol{0}. $$
仮定より $\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}=\boldsymbol{0}$、したがって $\boldsymbol{x}=\boldsymbol{y}$ である。少なくとも一つ解が存在するので、その解は一意である。

別対象へ転用する問題

数列の条件

実数列 $(a_n)_{n\ge0}$ で
$$ a_{n+2}=a_{n+1}+a_n\quad(n\ge0), \qquad a_0+a_1=1 $$
を満たすものをすべて求めよ。初期値を一つのパラメータで表し、最初の5項を書け。

解答

$a_0=s$ と置けば条件 $a_0+a_1=1$ から $a_1=1-s$ である。漸化式により以後の項は一意に定まり、
$$ \begin{aligned} a_2&=a_1+a_0=1,\\ a_3&=a_2+a_1=2-s,\\ a_4&=a_3+a_2=3-s. \end{aligned} $$
したがって最初の5項は
$$ (a_0,a_1,a_2,a_3,a_4)=(s,1-s,1,2-s,3-s). $$
逆に任意の $s\in\mathbb{R}$ からこの初期値で漸化式を使えば、二条件を満たす数列が得られる。よって解全体は一つの自由パラメータ $s$ をもつ。

このページで回収したもの

抽象化前は各方程式を別々に解いた。抽象化後は一つの特解と斉次解の空間で全解を記述でき、多項式や数列の条件にも同じ見方を移せる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
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