回転・微分・値の評価は見た目が違うのに、なぜ同じ行列の言葉で扱えるのだろうか。
このページでできるようになること
重ね合わせを保つ操作を線形写像として見抜き、基底の像から全作用を復元できるようになる。
回転、行列による変換、微分、多項式の値を取る操作に共通する性質を見抜き、入力を足したり数倍したりしたとき、出力を再計算せずに予測できるようになる。
次の操作を比べよう。
$V,W$ を同じ体 $K$ 上のベクトル空間とする。写像 $T\colon V\to W$ が、任意の $u,v\in V$ と $a,b\in K$ に対し
$$
T(au+bv)=aT(u)+bT(v)
$$
を満たすとき、$T$ を線形写像という。
$b=0$ または $a=0$ とすれば、加法を保つこととスカラー倍を保つことがそれぞれ従う。逆にこの二つを満たせば上の式も成り立つ。
$T(u)$ と $T(v)$ をすでに計算していれば、線形性により
$$
T(3u-2v)=3T(u)-2T(v)
$$
である。入力 $3u-2v$ を成分から作り直して作用させる必要はない。
これは単なる計算短縮ではない。複雑な入力を簡単な基底ベクトルの線形結合へ分ければ、写像は基底ベクトルの行き先だけで完全に決まる。後に行列表示を作れる理由がここにある。
任意の入力を基底展開し、線形性で写像の外へ係数を出す。
$v_1,\dots,v_n$ が $V$ の基底であるとする。二つの線形写像 $S,T\colon V\to W$ が各 $i$ で $S(v_i)=T(v_i)$ を満たせば、$S=T$ である。
証明の設計図:任意の入力を基底の線形結合で表し、線形性によって写像を各基底ベクトルへ分配する。
任意の $v\in V$ は一意に $v=a_1v_1+\cdots+a_nv_n$ と書ける。線形性より
$$
S(v)=\sum_i a_iS(v_i)
=\sum_i a_iT(v_i)=T(v).
$$
任意の $v$ で値が一致するので $S=T$ である。
$D\colon\mathbb{R}[t]_{\le3}\to\mathbb{R}[t]_{\le2}$、$D(p)=p'$ とする。基底 $(1,t,t^2,t^3)$ の行き先は
$$
D(1)=0,
\qquad D(t)=1,
\qquad D(t^2)=2t,
\qquad D(t^3)=3t^2.
$$
したがって
$$
p(t)=2-3t+5t^2+t^3
$$
に対しても、各項をまとめて
$$
D(p)=-3+10t+3t^2
$$
と分かる。後にこの四つの行き先を列に並べるだけで、微分を行列として記録する。
$F\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$F(x)=x^2$ は
$$
F(x+y)=(x+y)^2=x^2+2xy+y^2
$$
であり、一般に $F(x)+F(y)$ と一致しない。また $F(2x)=4F(x)$ であって $2F(x)$ ではない。
ただし「二乗は役に立たない」のではない。線形でないため、入力を分解して出力を重ね合わせる方法が使えないという境界を示している。
$S\colon U\to V$ と $T\colon V\to W$ が線形なら、合成 $T\circ S$ も線形である。
任意の $u,v\in U$ と $a,b\in K$ に対し
$$
\begin{aligned}
(T\circ S)(au+bv)
&=T\bigl(S(au+bv)\bigr)\\
&=T\bigl(aS(u)+bS(v)\bigr)\\
&=a(T\circ S)(u)+b(T\circ S)(v).
\end{aligned}
$$
微分してから $1$ を代入する操作 $p\mapsto p'(1)$ も、二つの線形写像の合成だから自動的に線形である。
$I\colon\mathbb{R}[t]_{\le2}\to\mathbb{R}$ を
$$
I(p)=\int_0^1p(t)\,dt
$$
で定める。$I$ が線形であることを示し、$I(2-3t+6t^2)$ を求めよ。
積分の性質から
$$
I(ap+bq)=\int_0^1(ap+bq),dt
=aI(p)+bI(q)
$$
なので線形である。また
$$
I(2-3t+6t^2)
=\left[2t-\frac32t^2+2t^3\right]_0^1
=\frac52.
$$
線形性を確認した後は、基底の行き先だけで写像全体が決まる。微分、評価、回転、行列作用を別々の理論として扱う必要がなくなった。
では、線形写像によってどの情報が失われ、どの出力まで到達できるのか。次のページでは、それを核と像という二つの部分空間で測る。
無限個の入力への作用を有限個の基底の像で記録できるようになった。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。
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