3-1 線形写像

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

回転・微分・値の評価は見た目が違うのに、なぜ同じ行列の言葉で扱えるのだろうか。
このページでできるようになること
重ね合わせを保つ操作を線形写像として見抜き、基底の像から全作用を復元できるようになる。

このページでできるようになること

回転、行列による変換、微分、多項式の値を取る操作に共通する性質を見抜き、入力を足したり数倍したりしたとき、出力を再計算せずに予測できるようになる。

見た目の違う四つの操作

次の操作を比べよう。

  1. 行列 $A$ によって $x\mapsto Ax$ と移す。
  2. 平面を原点のまわりに回転する。
  3. 多項式を微分して $p\mapsto p'$ とする。
  4. 多項式へ $1$ を代入して $p\mapsto p(1)$ とする。
    どの操作でも、入力を先に足してから操作することと、操作後の結果を足すことが一致する。また入力を $a$ 倍すると出力も $a$ 倍になる。
    例えば微分では
    $$ (ap+bq)'=ap'+bq', $$
    評価では
    $$ (ap+bq)(1)=ap(1)+bq(1) $$
    である。この共通性を定義にする。
線形写像

$V,W$ を同じ体 $K$ 上のベクトル空間とする。写像 $T\colon V\to W$ が、任意の $u,v\in V$ と $a,b\in K$ に対し
$$ T(au+bv)=aT(u)+bT(v) $$
を満たすとき、$T$ を線形写像という。

$b=0$ または $a=0$ とすれば、加法を保つこととスカラー倍を保つことがそれぞれ従う。逆にこの二つを満たせば上の式も成り立つ。

線形性は出力の重ね合わせを保証する

$T(u)$ と $T(v)$ をすでに計算していれば、線形性により
$$ T(3u-2v)=3T(u)-2T(v) $$
である。入力 $3u-2v$ を成分から作り直して作用させる必要はない。
これは単なる計算短縮ではない。複雑な入力を簡単な基底ベクトルの線形結合へ分ければ、写像は基底ベクトルの行き先だけで完全に決まる。後に行列表示を作れる理由がここにある。

証明を読む前の見取り図

任意の入力を基底展開し、線形性で写像の外へ係数を出す。

基底上の値による一意性

$v_1,\dots,v_n$ が $V$ の基底であるとする。二つの線形写像 $S,T\colon V\to W$ が各 $i$ で $S(v_i)=T(v_i)$ を満たせば、$S=T$ である。

証明の設計図:任意の入力を基底の線形結合で表し、線形性によって写像を各基底ベクトルへ分配する。

任意の入力で比較する

任意の $v\in V$ は一意に $v=a_1v_1+\cdots+a_nv_n$ と書ける。線形性より
$$ S(v)=\sum_i a_iS(v_i) =\sum_i a_iT(v_i)=T(v). $$
任意の $v$ で値が一致するので $S=T$ である。

手を動かす例:微分写像

$D\colon\mathbb{R}[t]_{\le3}\to\mathbb{R}[t]_{\le2}$、$D(p)=p'$ とする。基底 $(1,t,t^2,t^3)$ の行き先は
$$ D(1)=0, \qquad D(t)=1, \qquad D(t^2)=2t, \qquad D(t^3)=3t^2. $$
したがって
$$ p(t)=2-3t+5t^2+t^3 $$
に対しても、各項をまとめて
$$ D(p)=-3+10t+3t^2 $$
と分かる。後にこの四つの行き先を列に並べるだけで、微分を行列として記録する。

非例:二乗は線形でない

$F\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$F(x)=x^2$ は
$$ F(x+y)=(x+y)^2=x^2+2xy+y^2 $$
であり、一般に $F(x)+F(y)$ と一致しない。また $F(2x)=4F(x)$ であって $2F(x)$ ではない。
ただし「二乗は役に立たない」のではない。線形でないため、入力を分解して出力を重ね合わせる方法が使えないという境界を示している。

線形写像を組み合わせる

$S\colon U\to V$ と $T\colon V\to W$ が線形なら、合成 $T\circ S$ も線形である。

合成へ線形性を二度使う

任意の $u,v\in U$ と $a,b\in K$ に対し
$$ \begin{aligned} (T\circ S)(au+bv) &=T\bigl(S(au+bv)\bigr)\\ &=T\bigl(aS(u)+bS(v)\bigr)\\ &=a(T\circ S)(u)+b(T\circ S)(v). \end{aligned} $$

微分してから $1$ を代入する操作 $p\mapsto p'(1)$ も、二つの線形写像の合成だから自動的に線形である。

演習と解答

積分写像の線形性

$I\colon\mathbb{R}[t]_{\le2}\to\mathbb{R}$ を
$$ I(p)=\int_0^1p(t)\,dt $$
で定める。$I$ が線形であることを示し、$I(2-3t+6t^2)$ を求めよ。

解答

積分の性質から
$$ I(ap+bq)=\int_0^1(ap+bq),dt =aI(p)+bI(q) $$
なので線形である。また
$$ I(2-3t+6t^2) =\left[2t-\frac32t^2+2t^3\right]_0^1 =\frac52. $$

抽象化の回収と次の問い

線形性を確認した後は、基底の行き先だけで写像全体が決まる。微分、評価、回転、行列作用を別々の理論として扱う必要がなくなった。
では、線形写像によってどの情報が失われ、どの出力まで到達できるのか。次のページでは、それを核と像という二つの部分空間で測る。

このページで回収したもの

無限個の入力への作用を有限個の基底の像で記録できるようになった。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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線形代数学I ― 連立方程式からベクトル空間・線形写像までの表紙
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