2-6 交換定理と次元

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{angleb}[1]{\left\langle #1 \right\rangle} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{Ba}[0]{\mathbf{a}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{Bb}[0]{\mathbf{b}} \newcommand{Be}[0]{\mathbf{e}} \newcommand{Bu}[0]{\mathbf{u}} \newcommand{Bv}[0]{\mathbf{v}} \newcommand{Bw}[0]{\mathbf{w}} \newcommand{Bx}[0]{\mathbf{x}} \newcommand{By}[0]{\mathbf{y}} \newcommand{Bzr}[0]{\mathbf{0}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbf{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\operatorname{rank}} \newcommand{span}[0]{\operatorname{span}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

読み始める前の問い

空間の基底を別のベクトルに取り替えたら、本数まで変わってしまうだろうか。
このページでできるようになること
交換定理から基底の本数が不変であることを証明し、次元を定義できるようになる。

このページでできるようになること

同じ空間の基底を別の方法で選んでも、本数だけは変わらないことを証明する。その結果、「平面は二次元」のような次元が、座標の選び方ではなく空間自身の性質だと分かる。

基底の本数は本当に一定か

$\mathbb{R}^2$ には標準基底 $(1,0),(0,1)$ がある。一方 $(1,1),(1,-1)$ も基底で、どちらも二本である。しかし、巧みに選べば三本の基底を作れる可能性はないのだろうか。
基底は「生成する」と「一次独立である」を同時に満たす。生成する列は多いほど作りやすく、独立な列は少ないほど作りやすい。この逆向きの条件を結ぶのが交換補題である。

証明を読む前の見取り図

独立な列の一本を生成系へ挿入し、係数が非零の一本と交換する操作を反復する。

交換補題

$w_1,\dots,w_m$ が $V$ を生成し、$v\ne0$ とする。このとき、ある $j$ が存在して
$$ v,w_1,\dots,\widehat{w_j},\dots,w_m $$
も $V$ を生成する。帽子はそのベクトルを除くことを表す。

証明の設計図:$v$ を $w_i$ の線形結合で表す。非零係数を一つ選び、その $w_j$ を $v$ と残りの $w_i$ で解き直す。

一つを解き直す

$w_1,\dots,w_m$ は生成系なので
$$ v=a_1w_1+\cdots+a_mw_m $$
と書ける。$v\ne0$ だから、係数がすべて零ではない。$a_j\ne0$ となる添字を一つ選ぶと
$$ w_j=\frac1{a_j}v-\sum_{i\ne j}\frac{a_i}{a_j}w_i. $$
したがって除いた $w_j$ も新しい列の線形結合で作れる。元の生成系の各ベクトルが新しい列から作れるため、新しい列も $V$ を生成する。

独立な列は生成系より長くなれない

証明を読む前の見取り図

独立な列の一本を生成系へ挿入し、係数が非零の一本と交換する操作を反復する。

Steinitzの交換定理

$v_1,\dots,v_r$ が一次独立で、$w_1,\dots,w_m$ が $V$ を生成するなら
$$r\le m.$$
さらに、生成系のうち $r$ 本を $v_1,\dots,v_r$ で置き換えても、$V$ を生成するようにできる。

一本ずつ交換する

$v_1\ne0$ なので交換補題により、$w_j$ のどれか一つを $v_1$ で置き換えても生成系のままである。順番を付け替え
$$ v_1,w_2,\dots,w_m $$
が生成系だとしてよい。
次に $v_2$ をこの生成系で表す。もし $v_2$ の表示で $w_2,\dots,w_m$ の係数がすべて零なら、$v_2$ は $v_1$ のスカラー倍となり、$v_1,v_2$ の独立性に反する。したがって、ある $w_j$ の係数が非零であり、その $w_j$ を $v_2$ と交換できる。
同じ操作を続ける。$k$ 段階目では、$v_k$ が $v_1,\dots,v_{k-1}$ だけの線形結合になることは独立性に反するため、まだ残っている $w_j$ の一つと交換できる。一回の交換には一つの $w_j$ が必要なので、$r$ 回交換するには $r\le m$ でなければならない。

次元は空間自身の数になる

証明を読む前の見取り図

独立な列の一本を生成系へ挿入し、係数が非零の一本と交換する操作を反復する。

基底の本数の一意性

有限次元ベクトル空間の二つの基底は同じ本数のベクトルをもつ。

二方向に交換定理を使う

$v_1,\dots,v_r$ と $w_1,\dots,w_m$ を基底とする。前者は独立、後者は生成系なので交換定理から $r\le m$。役割を交換すると $m\le r$。よって $r=m$。

この共通の本数を $\dim V$ と書き、$V$ の次元という。

抽象化によって先に答えが分かる

  • $\mathbb{R}^n$ の標準基底は $n$ 本なので $\dim\mathbb{R}^n=n$。
  • $\mathbb{R}[t]_{\le m}$ の基底 $(1,t,\dots,t^m)$ は $m+1$ 本なので次元は $m+1$。
  • Fibonacci型漸化式 $u_{n+2}=u_{n+1}+u_n$ の解は初期値 $(u_0,u_1)$ で一意に決まる。初期値を取り出す写像によって解空間は $\mathbb{R}^2$ と同型になるため、次元は2である。
    個々の解をすべて書き下さなくても、「自由に選べる数が何個あるか」を基底の本数として測れるようになった。

よくある誤解

三本のベクトルが平面全体を生成することはある。例えば $(1,0),(0,1),(1,1)$ は $\mathbb{R}^2$ を生成する。しかし三本目は最初の二本の和であり、独立ではない。生成元の本数と次元は同じとは限らず、独立性も同時に要求する基底の本数が次元である。

演習と解答

多項式空間の次元

$$ W=\{p\in\mathbb{R}[t]_{\le4}\mid p(1)=0\} $$
の基底を一つ求め、次元を答えよ。

解答

$p(1)=0$ であることと $p$ が $t-1$ で割り切れることは同値である。したがって
$$ p(t)=(t-1)(a+bt+ct^2+dt^3). $$
よって
$$ t-1,\quad t(t-1),\quad t^2(t-1),\quad t^3(t-1) $$
が $W$ を生成する。これらの一次結合が零なら、$t-1$ をくくった中の多項式の全係数が零になるので独立である。したがって基底であり $\dim W=4$。

次ページへの接続

交換定理は基底の本数を保証した。次のページでは、すでに見つけた独立な列を基底まで延長する方法と、部分空間の次元が全空間を超えないことを導く。

このページで回収したもの

次元が座標の選び方から独立な量になり、解く前に自由度の上限を予測できる。
次へ持ち越す問い
この見方を、次のページではより広い対象またはより計算しやすい形へ移す。

参考文献

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