このページでは、部分空間が線形変換について安定であることを定義し、安定な部分空間が必ずとれることを示す。
$V$ の部分空間 $W$ が線形変換 $f\colon V\to V$ について安定であるとは、$\Bw\in W$ について、つねに $f(\Bw)$ が再び $W$ に属する、つまり $f(W)\subset W$ となることをいう。
どのような線形変換をとっても、それについて安定な部分空間が必ずとれる。より強く、つぎの事実がいえる。この事実は行列の対角化について議論する上で重要である。
$V$ を代数閉体 $\K$ 上有限次元の複素ベクトル空間とすると、$V$ 上の線形変換 $f$ について、$V$ の正規直交基底 $\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ を、各 $1\leq r\leq n$ について $\angleb{\Bv_1, \ldots, \Bv_r}$ が $f$ で安定となるようにとることができる。
次元に関する帰納法で示す。$\dim V=1$ のときは明らか。
$\dim V\leq m-1$ のときに定理が成り立つと仮定し、$\dim V=m$ とする。
$f$ の固有値 $k_n$ をひとつとり、$f(\Bu_1)=k_1\Bu_1$ となる固有ベクトル $\Bu_1\neq\Bzr$ を $\wenvert{\Bu_1}=1$ となるようにとると、$\angleb{\Bu_1}$ は明らかに $f$ で安定。そこで、$\Bu_1$ を含む $\K^n$ の正規直交基底 $\Bu_1, \Bu_2, \ldots, \Bu_n$ をとる。
$V$ の部分空間 $W=\angleb{\Bu_2, \ldots, \Bu_n}$ について、$\pi\colon V \to W$ を $V$ から $W$ への投影、つまり
$$\pi(a_1\Bu_1+\cdots+a_n\Bu_n)=a_2\Bu_2+\cdots+a_n\Bu_n$$
により定まる写像とし、$W=\angleb{\Bu_2, \ldots, \Bu_n}$ 上の線形変換 $g$ を $g(\Bu)=\pi(f(\Bu))$ により定める。
帰納法の仮定から、$W=\angleb{\Bu_2, \ldots, \Bu_n}$ の正規直交基底 $\Bv_2, \ldots, \Bv_n$ を、各 $2\leq r\leq n$ について $\angleb{\Bv_2, \ldots, \Bv_r}$ が $g$ で安定となるようにとることができる。
$\Bv_1=\Bu_1$ とおくと、各 $r=2, \ldots, n$ について、$\Bv=a_2\Bv_2+\cdots+a_r\Bv_r\in\angleb{\Bv_2, \ldots, \Bv_r}$ ならば
$\angleb{\Bv_2, \ldots, \Bv_r}$ が $g$ で安定なので、
$$g(a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r)=c_2\Bv_2+\cdots +c_r\Bv_r$$
となる $c_2, \ldots, c_r\in\K$ がとれる。すると
$$f(a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r)=c_1\Bv_1+g(a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r)$$
となる $c_1\in\K$ がとれるから
$$\begin{split}
f(a_1\Bv_1+\cdots +a_r\Bv_r)= & ~ f(a_1\Bv_1)+f(a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r) \\ = & ~ k_1a_1\Bv_1+c_1\Bv_1+g(a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r) \\
= & ~ (k_1a_1+c_1)\Bv_1+c_2\Bv_2+\cdots +c_r\Bv_r
\end{split}$$
となる。
このことから、$r=2, \ldots, n$ について $\angleb{\Bv_1, \ldots, \Bv_r}$ は $f$ で安定であることがわかる。
最後に、$\Bv_2, \ldots, \Bv_n$ は $W$ の正規直交基底で、$W=\angleb{\Bu_2, \ldots, \Bu_n}$ のベクトルはいずれも $\Bu_1=\Bv_1$ と直交し、$\wenvert{\Bv_1}=1$ であることから、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は $V$ の正規直交基底であることも確かめられる。