$V$ を $\K$ 上のベクトル空間とする。
$V$ 上の線形変換 $f\colon V \to V$ の固有ベクトル (eigenvector) $\Bv$ とは、
$$f(\Bv)=k\Bv$$
となる $k\in\overline{\K}$ が存在するような $\Bv\in V$ のことである。
$\Bv\neq \Bzr$ のとき、このような $k$ は一意的に定まる。実際、$f(\Bv)=k_1\Bv=k_2\Bv$ ならば、$(k_2-k_1)\Bv=\Bzr$ かつ $\Bv\neq\Bzr$ より、$k_1=k_2$ となる。
このとき、$k$ を $f$ の 固有値 (eigenvalue) といい、$\Bv$ を固有値 $k$ に属する固有ベクトルという。
$\K$ 上の $n$ 次正方行列 $A$ の固有値および固有ベクトルは $T_A$ の固有値および固有ベクトルと定義する。
$V$ を $\R$ 上微分可能な関数 $f(t)$ 全体のなすベクトル空間とすると、微分演算子 $d/dt$ は $V$ 上の線形変換となる。このとき、
$$\frac{d}{dt}ce^{kt}=kce^{kt}$$
であることから、任意の $k\in\R$ は $d/dt$ の固有値で、$ce^{kt}$ は固有値 $k$ に属する固有ベクトルとなる。
写像 $f$ について、固有値 $k$ に属する $V$ の固有ベクトル全体は $V$ の部分空間となる。実際、
$$f(\Bv)=k\Bv, ~ f(\Bw)=k\Bw$$
となるとき、
$$f(a\Bv+b\Bw)=af(\Bv)+bf(\Bw)=ak\Bv+bk\Bw=k(a\Bv+b\Bw)$$
より、$a\Bv+b\Bw$ も固有値 $k$ に属する固有ベクトルとなる。この部分空間を、固有値 $k$ に属する固有空間 (eigenspace) という。
$f\colon V \to V$ をベクトル空間 $V$ 上の線形変換、$k_1, k_2, \ldots, k_r$ を $f$ の相異なる固有値、$\Bv_i$ を $k_i$ に属する $\Bzr$ でない固有ベクトルとすると、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ は線形独立。
$r$ に関する帰納法で証明する。$r=s$ について定理が成り立つとし、$r=s+1$ について定理の条件のもとで
$$a_1 \Bv_1 + \cdots + a_{s+1} \Bv_{s+1}=\Bzr$$
とすると、
$$f(a_1 \Bv_1 + \cdots + a_{s+1} \Bv_{s+1})=a_1 f(\Bv_1)+\cdots +a_{s+1} f(\Bv_{s+1})=a_1 k_1 \Bv_1+\cdots a_{s+1} k_{s+1}\Bv_{s+1}=\Bzr$$
となるから
$$a_1(k_1-k_{s+1}) \Bv_1+ \cdots a_s (k_s-k_{s+1})\Bv_s=\Bzr$$
となる。帰納法の仮定より $i=1, \ldots, s$ について $a_i(k_i-k_{s+1})=0$ となるが、定理の条件より $k_i\neq k_{s+1}$ だから
$a_1=\cdots a_s=0$ となり、$a_{s+1}\Bv_{s+1}=\Bzr$ となるが、$\Bv_{s+1}\neq \Bzr$ だから $a_{s+1}$ も $0$ となる。
よって $a_1=\cdots =a_{s+1}=0$ でなければならない。つまり $a_1, \ldots, a_{s+1}$ は線形独立となる。
線形変換の固有値は、基底のとりかたによらず、表現行列の固有値と一致する。
$f$ をベクトル空間 $V$ 上の線形変換とする。
$V$ の基底 $\Bv_1, \Bv_2, \ldots, \Bv_n$ に関する $f$ の表現行列を $A$ とすると、
$f$ の固有値と $A$ の固有値は一致する。より詳しく、
$\Bv=c_1\Bv_1+\cdots +c_n\Bv_n$ が固有値 $k$ に関する $f$ の固有ベクトルであることは、
$\displaystyle \Bu=\begin{pmatrix}c_1 \\ \vdots \\ c_n\end{pmatrix}$ が固有値 $k$ に関する $A$ の固有ベクトルであることと同値である。
$V$ の基底 $\Bv_1, \Bv_2, \ldots, \Bv_n$ に関する $f$ の表現行列を $A$ とする。
$k$ が $f$ の固有値であるとし、$f(\Bv)=k\Bv$ となる零でないベクトル $\Bv$ をとる。
$$\Bv=c_1\Bv_1+\cdots +c_n\Bv_n, ~ \Bu=\begin{pmatrix}c_1 \\ \vdots \\ c_n\end{pmatrix}$$
とおくと
$$k\Bv=kc_1\Bv_1+\cdots +kc_n\Bv_n$$
より
$$A\Bu=\begin{pmatrix}kc_1 \\ \vdots \\ kc_n\end{pmatrix}=k\Bu$$
となり、$k$ は $A$ の固有値で、$\Bu$ はこの固有値に関する $A$ の固有ベクトルとなる。
逆に、$k$ が行列 $A$ の固有値であるとし、$A\Bu=k\Bu$ となる零でないベクトル $\Bu$ をとる。
$$Bu=\begin{pmatrix}c_1 \\ \vdots \\ c_n\end{pmatrix}, ~ \Bv=c_1\Bv_1+\cdots +c_n\Bv_n$$
とおくと
$$k\Bu=\begin{pmatrix}kc_1 \\ \vdots \\ kc_n\end{pmatrix}$$
より
$$f(\Bv)=kc_1\Bv_1+\cdots +kc_n\Bv_n=k\Bv$$
となり、$k$ は $f$ の固有値で、$\Bv$ はこの固有値に関する $f$ の固有ベクトルとなる。