コンセプト

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本テキストでは、ホモロジー理論に親しみのない方を主なターゲットとし、単体複体の二元体係数ホモロジーという最もシンプルなホモロジー理論の一つを紹介する。

テキストを読むにあたっては、集合と写像・線型代数の基本的な取り扱いに慣れているとよい。 たとえば、部分集合族・線型写像の核と像・ベクトル空間の商空間といった概念は頻繁に登場する。 しかし、位相空間論・環上の加群論の知識は全く必要としない。それは以下の理由による。

まず、ホモロジー理論とは代数的トポロジーと呼ばれる分野の一種である。代数的トポロジーとは、幾何的対象から代数的な量を取り出し、それを用いて元々の幾何的対象を調べる分野(またはそれに由来する数学を扱う分野)の総称である。 このとき、ホモロジー理論で扱われる代数的な量のことをホモロジーあるいはホモロジー群というが、ホモロジー群にも様々な種類が存在する。 種類の区別の仕方として、以下に挙げる二つの判断基準がある:

  • 第一に、取り扱う幾何的対象の範囲である。最も素朴にはすべての位相空間が考えられるが、扱う範囲を制限することで議論が進みやすくなる。本テキストでは、位相空間の知識がなくてもホモロジー理論に親しめるよう、単体複体と呼ばれる組合せ的な対象を取り扱う。
  • 第二に、代数的量であるホモロジー群の複雑さである。ホモロジーは一般に環上の加群であるが、環を簡単なものにすることでホモロジー群の計算・その結果が簡単になる。本テキストでは、二元体と呼ばれる環の上でホモロジー理論を展開する。二元体は特に体であるので、ホモロジー群は二元体上のベクトル空間ということになる。

現代の代数的トポロジーは、代数的にも幾何的にも大きく抽象化を受けて発展している。 それを学ぶとき、最も抽象的と思われる理論から勉強をスタートすることも一つの道であるが、最も原始的と思われる例から触れてみることも、親しみを持つためには有効なことがある。 本テキストで得た知識・経験が、数学を面白いと思える理由の一つ、あるいはこの先にあるホモロジー理論・代数的トポロジーを学ぶ際の助けとなれば幸いである。

ちなみに、ホモロジー(homology)は英語で「相同性」を表す言葉である。

参考文献

[1]
枡田幹也, 代数的トポロジー, 講座 数学の考え方〈15〉, 朝倉書店, 2002
[2]
Jean-Claude Hausmann, Mod Two Homology and Cohomology, Universitext, Springer, 2015
[3]
中岡稔, 復刊 位相幾何学:ホモロジー論, 共立出版, 1999
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