本テキストでは、ホモロジー理論に親しみのない方を主なターゲットとし、単体複体の二元体係数ホモロジーという最もシンプルなホモロジー理論の一つを紹介する。
テキストを読むにあたっては、集合と写像・線型代数の基本的な取り扱いに慣れているとよい。 たとえば、部分集合族・線型写像の核と像・ベクトル空間の商空間といった概念は頻繁に登場する。 しかし、位相空間論・環上の加群論の知識は全く必要としない。それは以下の理由による。
まず、ホモロジー理論とは代数的トポロジーと呼ばれる分野の一種である。代数的トポロジーとは、幾何的対象から代数的な量を取り出し、それを用いて元々の幾何的対象を調べる分野(またはそれに由来する数学を扱う分野)の総称である。 このとき、ホモロジー理論で扱われる代数的な量のことをホモロジーあるいはホモロジー群というが、ホモロジー群にも様々な種類が存在する。 種類の区別の仕方として、以下に挙げる二つの判断基準がある:
現代の代数的トポロジーは、代数的にも幾何的にも大きく抽象化を受けて発展している。 それを学ぶとき、最も抽象的と思われる理論から勉強をスタートすることも一つの道であるが、最も原始的と思われる例から触れてみることも、親しみを持つためには有効なことがある。 本テキストで得た知識・経験が、数学を面白いと思える理由の一つ、あるいはこの先にあるホモロジー理論・代数的トポロジーを学ぶ際の助けとなれば幸いである。
ちなみに、ホモロジー(homology)は英語で「相同性」を表す言葉である。