本テキストでは、ホモロジー理論に親しみのない方を主なターゲットとし、単体複体の二元体係数ホモロジーという最もシンプルなホモロジー理論の一つを紹介する。
本章では、テキストのコンセプト・概要を説明する。
この章では、二元体に親しみがない読者のために速習コースを用意する。 二元体$\mathbb{Z}_2$とは唯二つの要素のみから成る体のことである。二元体は、その計算規則の特異さから、実数体$\mathbb{R}$や複素数体$\mathbb{C}$上の線型代数とは異なる部分を生む。
この章では、本テキストを通して扱う幾何的対象である単体複体について、諸々の定義を行う。 単体複体とは、単体と呼ばれる図形のピースを"きっちり"と貼り合わせて作られる組合せ的な図形である。
単体複体が与えられたとき、その多面体が目に見えるとは限らない。 あるいは目に見えたとしても、その"かたち"を把握することは一般に難しい。 そこで我々は、与えられた単体複体からホモロジーと呼ばれる代数的な量を取り出し、観察することを考える。 この章では、その準備として、単体複体という幾何的対象に対して鎖複体という代数的対象を対応づける。
この章では、前章で導入した鎖複体を用いて、遂にホモロジー群を定義する。ホモロジーは単体複体に対して定まるベクトル空間の集まりのことである。