$T$ を体 $\K$ 上の不定元とするとき、$\K$ 係数の $T$ の有理式の全体
$$\K(T)=\left\{ \dfrac{f(T)}{g(T)}~\middle|~f(T), g(T) \in\K[T],~g(T) \neq 0 \right\}$$
は体をなす。この体を $\K$ 上の有理関数体 (The field of rational functions) と呼ぶ。
一般に、$n$ 変数の有理関数体を次のように定める。体 $\K$ 上の代数独立な要素 $T_1, \ldots, T_n$ について、
$$\K(T_1, \ldots, T_n)=\left\{ \dfrac{f(T_1, \ldots, T_n)}{g(T_1, \ldots, T_n)}~\middle|~f, g\in\K[T_1, \ldots, T_n],~g(T_1, \ldots, T_n) \neq 0 \right\}$$
は体をなす。この体を $\K$ 上の$n$変数有理関数体と呼ぶ。
それで、$\K(T_1, \ldots, T_n)$ は、多項式環 $\K[T_1, \ldots, T_n]$ の局所化として実現される。
前節の定理 より、有理関数体は、環としては有限生成でない。
有理関数体に関して、次の2つの事実が成り立つ。とくに後者の事実はHilbertの零点定理の証明に用いられる(Fulの1.9節および1.10節を参照)。
$\K$ が体で、$\L=\K(X)$ が $\K$ 上の有理関数体とする。
$z\in \L$ が $\K[X]$ 上整ならば、$z\in \K[X]$ である。
$z$ は $\K[X]$ 上整なので、
$$z^d+a_1 z^{d-1}+\cdots a_d=0$$
となる $a_1, \ldots, a_d\in \K[X]$ がとれる。
$z=F/G, F, G\in \K[X], \gcd(F, G)=1$ とあらわされるから、
$$F^d+a_1 F^{d-1} G+\cdots +a_d G^d=0$$
とある。よって、
$$F^d=-G(a_1 F^{d-1}+\cdots +a_d G^{d-1})$$
より、$\K[X]$ において $G$ は $F^d$ を割り切る。
しかし $\gcd(F, G)=1$ だから、$\gcd(F^n, G)=1$ となる。よって $G$ は定数でなければならず、$z=F/G\in \K[X]$ となる。
「任意の $z\in \K(X)$ について、$F^n z$ が $\K[X]$ 上整となる自然数 $n>0$ が存在する」ような多項式 $F\in \K[X]$ は $F=0$ しか存在しない。
$0$ でない多項式 $F\in \K[X]$ をとり、任意の $z\in \K(X)$ について、$F^n z$ が $\K[X]$ 上整となる自然数 $n>0$ が存在すると仮定する。
$F$ が定数多項式でないとき、$G=F+1$ とし、$F$ が $0$ でない定数多項式のとき $G=F+X$ とおくと、
$G$ は定数ではない多項式で、かつ $\gcd(F, G)=1$ となる。ここで $z=1/G$ とおく。
ある自然数 $n>0$ をとれば、$F^n/G$ が $\K[X]$ 上整となるから、
$$(F^n/G)^d+a_1 (F^n/G)^{d-1}+\cdots a_d=0$$
となる $a_1, \ldots, a_d\in \K[X]$ がとれる。よって
$$F^{nd}+a_1 F^{n(d-1)} G+\cdots +a_d G^d=0$$
となるので、$G$ は $F^{nd}$ を割り切る。$\gcd(F, G)=1$ だから、$\gcd(F^{nd}, G)=1$ なので、$G$ は定数でなければならないが、これは$G$ のとり方に反する。