ベクトル空間 $V$ の部分空間の共通部分は次に示すように $V$ の部分空間であることがすぐにわかるが、
$V$ の部分空間の合併集合は一般には部分空間とはならない。たとえば $V=\K^3$ について
$$A=\{(x, 0, 0): x\in\K\}, B=\{(0, y, 0): y\in\K\}$$
とおくと、$(1, 0, 0), (0, 1, 0)\in A\cup B$ だが $(1, 1, 0)\not\in A\cup B$ となる。
一方で、
$$C=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$$
とおくと、$C$ は $V$ の部分空間で、$A, B$ はともに $C$ の部分空間となる。
$V$ の部分空間 $A$, $B$ について、$A$ のベクトルと $B$ のベクトルの和であらわされるベクトル全体の集合を
$A+B=\{\Bu+\Bv: \Bu\in A, \Bv\in B\}$
とあらわす。これを $A, B$ の和 (sum) という。
$A, B$ がともに $V$ の部分空間であるとき、
$A+B$, $A\cap B$ はともに $V$ の部分空間である。
$\Bw_1, \Bw_2\in A+B$ とすると、
$$\Bw_1=\Bu_1+\Bv_1, \Bw_2=\Bu_2+\Bv_2$$
となる $\Bu_1, \Bu_2\in A$, $\Bv_1+\Bv_2\in B$ が存在する。よって
$$\Bw_1+\Bw_2=(\Bu_1+\Bv_1)+(\Bu_2+\Bv_2)=(\Bu_1+\Bu_2)+(\Bv_1+\Bv_2)\in A+B$$
となる。また、$\Bw\in A$, $k\in\K$ について
$\Bw=\Bu+\Bv$ となる $\Bu\in A, \Bv\in B$ をとると
$$k\Bw=k(\Bu+\Bv)=(k\Bu)+(k\Bv)\in A+B$$
となる。これらのことから、$A+B$ は $V$ の部分空間であることがわかる。
また、
$\Bu, \Bv\in A\cap B$ のとき、
$\Bu+\Bv\in A$ かつ $\Bu+\Bv\in B$ より $\Bu+\Bv\in A\cap B$ となる。
また $\Bv\in A\cap B$ と $k\in\K$ に対して
$k\Bv\in A$ かつ $k\Bv\in B$ なので $k\Bv\in A\cap B$ となる。
これらのことから、$A\cap B$ も $V$ の部分空間であることがわかる。
$A=\{(x, 0, 0): x\in\K\}$, $B=\{(0, y, 0): y\in\K\}$, $C=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$
とおくと $C=A+B$ となる。
また $A=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$, $B=\{(x, 0, z): y\in\K\}$ とおくと
$\K^3=A+B$ となる。
より一般に、ベクトル空間 $V$ の部分空間 $A_1, A_2, \ldots, A_n$ について、和を
$$A_1+A_2+\cdots +A_n=\{\Bv_1+\Bv_2+\cdots +\Bv_n: \Bv_i\in A_i~(i=1, \ldots, n)\}$$
と定めると、これも $V$ の部分空間となり、
$$A_1+A_2+A_3=A_1+(A_2+A_3)=(A_1+A_2)+A_3$$
などがすぐにわかる。
部分空間の和と共通部分の次元については、次の関係式が成り立つ。
$V$ がベクトル空間、$A$, $B$ が $V$ の有限次元の部分空間であるとき、
$$\dim(A+B)+\dim(A\cap B)=\dim A+\dim B.$$
$A$, $B$ が有限次元であるから
線形独立性とベクトル空間の基底:定理7
より、$A\cap B$ も有限次元である。
そこで $A\cap B$ の基底を一組とって、それを $\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ とおく。
線形独立性とベクトル空間の基底:定理9
より、$\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ を含む $A$ の基底
$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n}$ が存在する。同様に、
$\Bu_1, \ldots, \Bu_m$ を含む $B$ の基底 $\Bu_1, \ldots, \Bu_m, \Bu_{m+n+1}, \ldots , \Bu_{m+n+\ell}$ が存在する。
$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ は $A+B$ の基底となることを示す。
任意の $\Bv+\Bw\in A+B~(\Bv\in A, \Bw\in B)$ について、
$$\Bv=a_1 \Bu_1+\cdots +a_{m+n}\Bu_{m+n}, \Bw=b_1 \Bu_1+\cdots +b_m\Bu_m+b_{m+1}\Bu_{m+n+1}+\cdots +b_{m+\ell}\Bu_{m+n+\ell}$$
とおくと、
$$\Bv+\Bw=(a_1+b_1) \Bu_1+\cdots +(a_m+b_m)\Bu_m+a_{m+1}\Bu_{m+1}+\cdots +a_{m+n}\Bu_{m+n}b_{m+1}\Bu_{m+n+1}+\cdots +b_{m+\ell}\Bu_{m+n+\ell}$$
とあらわされるので、$A+B$ は $\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ により生成される。
そこで、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ が線形独立であることを示す。
$$k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n+\ell}\Bu_{m+n+\ell}=\Bzr$$
となる $k_1, \ldots, k_{m+n+\ell}\in\K$ をとる。
$$\Bw=k_{m+n+1} \Bu_{m+n+1}+\cdots +k_{m+n+\ell}\Bu_{m+n+\ell}$$
とおくと、
$$\Bw=-(k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n}\Bu_{m+n})\in A$$
より、$\Bw\in A\cap B$ であるから、
$$\Bw=\ell_1 \Bu_1+\cdots +\ell_m \Bu_m$$
となる $\ell_1, \ldots, \ell_m\in\K$ がとれる。よって
$$\ell_1 \Bu_1+\cdots +\ell_m \Bu_m-(k_{m+n+1} \Bu_{m+n+1}+\cdots +k_{m+n+\ell}\Bu_{m+n+\ell})=\Bzr$$
となる。$\Bu_1, \ldots, \Bu_m, \Bu_{m+n+1}, \ldots , \Bu_{m+n+\ell}$ は $B$ の基底である線形独立であるから
$k_{m+n+1}, \ldots, k_{m+n+\ell}$ がすべて $0$ となる。よって
$$k_1 \Bu_1+\cdots +k_{m+n}\Bu_{m+n}=\Bzr$$
となるが、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n}$ は $A$ の基底であり線形独立であるから $k_1, \ldots, k_{m+n}$ もすべて $0$ となる。
よって、$k_1, \ldots, k_{m+n+\ell}$ はすべて $0$ でなければならない。
このことから $\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ が線形独立であることがわかる。
よって、$\Bu_1, \ldots, \Bu_{m+n+\ell}$ は $A+B$ の基底なので
$$\dim (A+B)=m+n+\ell$$
となり、
$$\dim(A+B)+\dim(A\cap B)=2m+n+\ell=\dim A+\dim B$$
となる。
$A=\{(x, y, 0): x, y\in\K\}$, $B=\{(x, 0, z): y\in\K\}$, $C=\{(x, 0, 0): x\in\K\}$ とおくと
$A+B=\K^3, A\cap B=C$ となり、一方で
$$\dim (A+B)+\dim (A\cap B)=\dim(\K^3)+\dim C=4=\dim A+\dim B$$
となる。
定理2
、より具体的に上記の例からわかるように、$\dim (A\cap B)>0$ のときには、和の次元と次元の和は一致しない。
一方で、和の次元と次元の和が一致する条件について、つぎの事実がわかる。
$A, B$ がともに $V$ の有限次元の部分空間であるとき、つぎの条件は同値である。
(i)$\Longrightarrow$ (ii):
$A+B$ の定義より、$\Bu=\Bv+\Bw$ となる $\Bv\in A$ および $\Bw\in B$ が存在することは明らかなので、
一意性を示す。
$$\Bu=\Bv_1+\Bw_1=\Bv_2+\Bw_2$$
となる $\Bv_1, \Bv_2\in A$ および $\Bw_1, \Bw_2\in B$ をとる。このとき
$$\Bv_1-\Bv_2=\Bw_2-\Bw_1\in A\cap B$$
なので、(i) より
$$\Bv_1-\Bv_2=\Bw_2-\Bw_1=\Bzr$$
つまり $\Bv_1=\Bv_2$ かつ $\Bw_1=\Bw_2$ となる。
(ii)$\Longrightarrow$ (iii):
$\Bv_1, \ldots, \Bv_m\in A$ が線形独立で、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n\in B$ も線形独立だが、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は線形従属とすると、
$$a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m+b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n=\Bzr$$
となる $a_1, \ldots, a_m, b_1, \ldots, b_n\in \K$ で、そのうち少なくともひとつは $0$ ではないものがとれる。
$a_1, \ldots, a_m$ のいずれかが $0$ ではないとすると、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ が線形独立と仮定したことから
$$a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m\neq \Bzr$$
となる。よって、
$$\Bv=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m, \Bw=b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$
とおくと $\Bv\neq \Bzr$ で、
$$\Bzr=\Bv+\Bw, \Bv\in A, \Bw\in B$$
とあらわされる。しかし、明らかに $\Bzr=\Bzr+\Bzr, \Bzr\in A, \Bzr\in B$ とあらわされるので、これは (ii) に反する。
(iii)$\Longrightarrow$ (iv):
$\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ が $A$ の基底、$\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ が $B$ の基底ならば、
任意の $\Bv+\Bw\in A+B~(\Bv\in A, \Bw\in B)$ について、
$$\Bv=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m, \Bw=b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$
となる $a_1, \ldots, a_m, b_1, \ldots, b_n\in \K$ がとれるから、
$$\Bv+\Bw=a_1 \Bv_1+\cdots +a_m \Bv_m+b_1 \Bw_1+\cdots +b_n\Bw_n$$
と、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ の線形結合によりあらわされる。
よって、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ を生成する。
一方 (iii) より $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は線形独立であるから、
$\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ の基底である。
(iv)$\Longrightarrow$ (v):
$m=\dim A$, $n=\dim B$ とおくと、
$m$ 個のベクトルからなる$A$ の基底 $\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ および $n$ 個のベクトルからなる $B$ の基底 $\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ をとることができる。
このとき (iv) より $\Bv_1, \ldots, \Bv_m, \Bw_1, \ldots, \Bw_n$ は $A+B$ の基底なので
$$\dim (A+B)=m+n=\dim A+\dim B.$$
(v)$\Longrightarrow$ (i):
$\dim (A+B)=\dim A+\dim B$ ならば
定理2
より
$$\dim (A\cap B)=\dim A+\dim B-\dim (A+B)=0$$
より、$A\cap B$ に属するベクトルは $\Bzr$ しかない。
定理3
の条件が成り立つとき、$A+B$ を $A$ と $B$ の直和 (direct sum) といい、
$C$ が $A$ と $B$ の直和であることを
$$C=A\oplus B$$
によりあらわす。