ベクトル空間の線形写像に関する準同形定理を示す準備として、剰余類と商空間について解説する。
まず、ベクトル空間 $V$ の部分空間 $W$ に対して、ベクトル $\Bv\in V$ の $W$ に関する剰余類 (coset)を、
$$\Bv+W=\{\Bv+\Bw: \Bw\in W\}$$
により定める。
$$\Bu+W=\Bv+W \Longleftrightarrow \Bv-\Bu\in W$$
となる。
$\Bu+W=\Bv+W$ のとき、$\Bu+\Bw_1=\Bv+\Bw_2$ となるベクトル $\Bw_1, \Bw_2\in W$ がとれるから、
$\Bv-\Bu=\Bw_1-\Bw_2\in W$ となる。
逆に$\Bv-\Bu=\Bw_0\in W$ となるとき、
$$\Bv+W=\{\Bv+\Bw: \Bw\in W\}=\{\Bu+\Bw_0+\Bw: \Bw\in W\}$$
となるが、$\Bw_0\in W$ だから、$\Bw\in W$ のとき $\Bw_0+\Bw\in W$ となり、逆に $\Bw_0+\Bw\in W$ のとき
$\Bw=(\Bw_0+\Bw)-\Bw_0\in W$ となるから、
$$\Bv+W=\{\Bu+\Bw_0+\Bw: \Bw\in W\}=\{\Bu+\Bw: \Bw\in W\}=\Bu+W$$
となる。
$$(\Bu+W)+(\Bv+W)=\Bu+\Bv+W, k(\Bv+W)=k\Bv+W$$
により剰余類の和とスカラー倍が定まる。
$\Bu_1+W=\Bu_2+W$ かつ $\Bv_1+W=\Bv_2+W$ のとき、
命題1
より
$$(\Bu_2+\Bv_2)-(\Bu_1+\Bv+1)=(\Bu_2-\Bu_1)+(\Bv_2+\Bv_1)\in W$$
となる。よって
$$(\Bu_1+\Bv_1)+W=(\Bu_2+\Bv_2)+W$$
が成り立つ。これにより剰余類の和が、剰余類に属するベクトルのとりかたによらずに定まる。
また、$k\in \K$ について
$$k\Bu_1+W=k\Bu_2+W$$
が成り立つから、剰余類のスカラー倍も、剰余類に属するベクトルのとりかたによらずに定まる。
このようにして定義された剰余類の和とスカラー倍について、剰余類の全体はベクトル空間となる。
$W$ に関する剰余類全体の集まり
$$V/W=\{\Bv+W: \Bv\in V\}$$
はベクトル空間となる。
$V/W$ を $W$ による商空間 (quotient space) という。
$2$つのベクトル空間 $U$, $V$ の商空間の次元はこれらのベクトル空間の次元の差であらわされる。
$W$ が、体 $\K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ の部分空間であるとき
$$\dim V/W=\dim V-\dim W$$
となる。
$m=\dim W$, $n=\dim V$ とおいて、$W$ の基底を一組とり、 $\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ とする。
線形独立性とベクトル空間の基底:定理9
より、$\Bv_1, \ldots, \Bv_m$ を含む $V$ の基底
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ をとることができる。
このとき $\Bv_{m+1}+W, \ldots, \Bv_n+W$ は $V/W$ の基底となる。実際、任意の $\Bv+W\in V/W$ は $\Bv=k_1 \Bv_1+\cdots +k_n \Bv_n$ とおくことで、
$$\Bv+W=k_{m+1}\Bv_{m+1}+\cdots +k_n\Bv_n+W\in \angleb{\Bv_{m+1}+W, \ldots, \Bv_n+W}$$
となる。また、
$$\sum_{i=m+1}^n k_i(\Bv_i+W)=\Bzr+W$$
とすると、
$$\left(\sum_{i=m+1}^n k_i\Bv_i\right)+W=\Bzr+W$$
より、$k_1, \ldots, k_m\in\K$ をうまくとれば
$$\left(\sum_{i=1}^n k_i\Bv_i\right)+W$$
となるが、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n\in V$ は線形独立だから $k_1=\cdots =k_n=0$ となる。とくに $k_{m+1}=\cdots =k_n=0$ でなければならない。よって、$\Bv_{m+1}+W, \ldots, \Bv_n+W$ は線形独立。
よって、$\Bv_{m+1}+W, \ldots, \Bv_n+W$ は $V/W$ の基底なので
$$\dim V/W=n-m=\dim V-\dim W$$
となる。