$V$ をスカラー積をもつ、体 $\K$ 上のベクトル空間、$g$ を $V$ 上の$2$次形式とする。$\Bv\neq \Bzr$ について、つねに $g(\Bv)>0$ となるとき、$g$ を正定値 (positive definite) であるという。やや弱く $\Bv\in V$ について、つねに $g(\Bv)\geq 0$ となるとき、$g$ を半正定値 (semipositive definite) であるという。このとき、次の定理が明らかに成り立つ。
$\angleb{Bv, \Bv}$ が正定値であるための必要十分条件は $\angleb{\Bv, \Bw}$ の正の慣性指数が $\dim V$ に一致することである。
$\angleb{Bv, \Bv}$ が半正定値であるための必要十分条件は $\angleb{\Bv, \Bw}$ の負の慣性指数が $0$ に一致することである。
$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は正規直交基底とし、$f_A(\Bv)=\angleb{\Bv, T_A(\Bv)}$ を、$\K$ 上の$n$ 次対称行列 $A$ に対応する$2$次形式とする。
$f_A(\Bv)$ が正定値のとき、行列 $A$ も正定値といい、$f_A(\Bv)$ が半正定値のとき、行列 $A$ も半正定値という。
実対称行列 $A$ が正定値であるための必要十分条件は、$A$ の固有値がすべて正となることである。また、実対称行列 $A$ が半正定値であるための必要十分条件は、$A$ の固有値がすべて非負となることである。
$A$ の固有値をひとつとり、それを $k$ とおき、対応する固有ベクトルを $\Bv$ とおくと、$T_A(\Bv)=k\Bv$ であるから
$$f_A(\Bv)=\angleb{\Bv, k\Bv}=k\wenvert{\Bv}^2$$
となるが、$A$ が正定値ならば $\Bv\neq\Bzr$ なので、$f_A(\Bv)>0$ となる。よって $k\wenvert{\Bv}^2>0$ より $k>0$ となる。$A$ が半正定値ならば $f_A(\Bv)\geq 0$ となる。よって $k\wenvert{\Bv}^2>0$ より $k\geq 0$ となる。
また、$A$ が実対称行列で、$\Bv_1, \ldots, \Bv_n$ は正規直交基底だから $T_A$ はHermite変換だから
Hermite行列の固有値と対角化:定理4
より正規直交基底 $\Bw_1, \ldots, \Bw_n$ により対角化可能である。
各 $\Bw_i$ に対応する $T_A$ の固有値を $k_i$ とおくと $\Bv=x_1\Bw_1+\cdots +x_n\Bw_n$ について
$$f_A(\Bv)=\angleb{\Bv, T_A(\Bv)}=\angleb{x_1\Bw_1+\cdots +x_n\Bw_n, k_1 x_1\Bw_1+\cdots +k_n x_n \Bw_n}=k_1 x_1^2+\cdots +k_n x_n^2$$
となる。
そこで、上と逆に、$A$ の固有値がすべて正ならば、$k_1, \ldots, k_n>0$ だから $\Bv\neq \Bzr$ について $f_A(\Bv)>0$ となるので、$A$ は正定値である。$A$ の固有値がすべて非負ならば、$k_1, \ldots, k_n\geq 0$ だから $\Bv\in V$ について $f_A(\Bv)\geq 0$ となるので、$A$ は半正定値である。