$\K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ 上の線形変換 $f\colon V\to V$ の、ある正規直交基底 $\Bu_1, \Bu_2, \ldots, \Bu_n$ に関する表現行列が実対称行列となるとき、
随伴変換と随伴行列:定理3
より、$f^*=f$ となる。
それで、ある正規直交基底 $\Bu_1, \Bu_2, \ldots, \Bu_n$ に関する $f$ の表現行列が実対称行列となるとき $f$ を実対称であるということにする。
実対称行列の固有値は実数である。
より詳しく、$\Bu$ が固有値 $k$ に属する複素固有ベクトルであるとき、$\Bu=\Bv+i\Bw$ となる実ベクトル $\Bv$, $\Bw$ はともに(零ベクトルでなければ)固有値 $k$ に属する実の固有ベクトルとなる。
$A$ が実対称行列であるとし、$A\Bu=k\Bu$ となる零でないベクトル $\Bu$ をとる。このとき
$$^t \overline{\Bu}A\Bu=^t \overline{\Bu}(k\Bu)=k ^t\overline{\Bu}{k\Bu}=k\wenvert{\Bu}$$
となるが、$k\wenvert{\Bu}$ はスカラー量なので、$^t(k\wenvert{\Bu})=k\wenvert{\Bu}$ となるから
$$\label{eq1}(^t \Bu) (^t A) \overline{\Bu}=^t(^t \overline{\Bu}A\Bu)=^t (k\wenvert{\Bu})=k\wenvert{\Bu}=^t \overline{\Bu}A\Bu
=k\wenvert{\Bu} \tag{1}$$
となる。$A$ は実対称行列だから
$$(^t \Bu) (^t A) \overline{\Bu}=(^t \Bu)\overline{A} \overline{\Bu}$$
となるが、
$$\overline{A} \overline{\Bu}=\overline{A\Bu}=\overline{k\Bu}=\overline{k} \overline{\Bu}$$
となるので
$$\label{eq2}(^t \Bu) (^t A) \overline{\Bu}=(^t \Bu)(\overline{k} \overline{\Bu})=\overline{k} \wenvert{\Bu}\tag{2}$$
となる。$\Bu$ は零ベクトルではないから、$\wenvert{\Bu}\neq 0$ である。よって\eqref{eq1}, \eqref{eq2} より $k=\overline{k}$ となって、
$k$ は実数であることがわかる。
$\Bu=\Bv+i\Bw$ となる実ベクトル $\Bv$, $\Bw$ をとると、
$$A\Bu=A(\Bv+i\Bw)=A\Bv+iA\Bw$$
かつ
$$A\Bu=k\Bu=k(\Bv+i\Bw)=k\Bv+i(k\Bw)$$
より
$$A\Bv+iA\Bw=k\Bv+i(k\Bw)$$
となるが、$A$ は実行列だから、$A\Bv, A\Bw$ はともに実ベクトルである。$k$ も実数だから $k\Bv, k\Bw$ もともに実ベクトルである。よって
$A\Bv=k\Bv$ かつ $A\Bw=k\Bw$ となる。
このことから、$\K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ 上の線形変換 $f\colon V\to V$ が実対称ならば、ある正規直交基底 $\Bv_1, \Bv_2, \ldots, \Bv_n$ に関する $f$ の表現行列 $A$ が実対称行列なので、$f$ の固有値 $k$ は実数で、この固有値 $k$ に属する $f$ の実固有ベクトルが存在し、さらに、$\Bu=\Bv+i\Bw$ となる実ベクトル $\Bv$, $\Bw$ はともに(零ベクトルでなければ)固有値 $k$ に属する実の固有ベクトルとなることがわかる。
$f$ が実対称変換ならば 随伴変換と随伴行列:定理3 より$f^*=f$ となるから、$f$ はHermite変換である。次節では、実対称変換、より一般にHermite変換が正規直交基底により対角化可能であることを示す。