$\R, \C$ 以外の体上のベクトル空間の例を挙げる。
本稿のベクトル空間の議論は一般の体上のベクトル空間に関する議論なので、$\R, \C$ 以外の一般の体上でも成立する。
$\C$ は $\R$ 上 $1, i$ を基底にもつベクトル空間とみることができる。
$$\Q(\sqrt{2})=\{a+b\sqrt{2}: a, b\in\Q\}$$
は $\Q$ 上のベクトル空間とみることができ、$1, \sqrt{2}$ を基底にもつ。
$\F_2=\{0, 1\}$ を
$$0+0=1+1=0, 0+1=1+0=1$$
および
$$1\times 1=1, 0\times 1=1\times 0=0\times 0=0$$
により定義される体(これは $\Z/2\Z$ に同型である)とする。
このとき、
$$\F_2^n=\{(a_1, \ldots, a_n): a_i\in \F_2\}$$
は $\F_2$ 上のベクトル空間となる。また
$$\{(a_1, \ldots, a_n)\in \F_2^n: a_1+\cdots +a_n=0\}$$
は
$$\Bu_1=(1, 0, 0, \ldots, 1), \Bu_2=(0, 1, 0, \ldots ,1), \ldots, \Bu_{n-1}=(0, 0, \ldots, 1, 1)$$
を基底にもつ$\F_2^n$ の部分空間である。ここで各 $\Bu_i ~ (i=1, \ldots, n-1)$ は $a_i=a_n=1$ かつ $j\neq i, n$ のとき $a_j=0$ により定まるベクトルである。
$\K$ が $\L$ の拡大体ならば、$\K$ 上のベクトル空間は $\L$ 上のベクトル空間とみなすことができる。
しかし、逆に $\L$ 上のベクトル空間が $\K$ 上のベクトル空間となるとは限らない。たとえば $\R^n$ は、通常のスカラー倍 $k(a_1, \ldots, a_n)=(ka_1, \ldots, ka_n)$ のもとでは $\C$ 上のベクトル空間とはならない。
一方、$\L^n$ のベクトルを $\K$ 上のベクトル空間 $\K^n$ のベクトルとみることはできる。たとえば $\R^n$ のベクトルを $\C$ 上のベクトル空間 $\C^n$ のベクトルとして考えることはできる。
$V$ が体 $\K$ 上のベクトル空間で、$\Bv_1, \ldots, \Bv_r\in V$ で、係数を体 $\L$ でとった線形結合
$$a_1\Bv_1+a_2\Bv_2+\cdots +a_r\Bv_r~(a_1, \ldots, a_r\in\L)$$
を $\Bv_1, \ldots, \Bv_r$ の $\L$ 上の線形結合という。
$\C^n$ のベクトルは $\C$ 上のベクトル空間としては線形従属でも、$\R$ 上のベクトル空間と見ると線形独立となる場合がある。たとえば $(1, 0), (i, 0)\in \C^2$ は $\C$ 上は線形従属だが、$\R$ 上は線形独立である。一方、成分がすべて実数である $\C^n$ のベクトルは $\R$ 上線形独立ならば $\C$ 上でも線形独立となる。一般には、次の事実が成り立つ。
$\K$ が $\L$ の拡大体で、$\Bu_1, \ldots, \Bu_r\in \L^n$ が $\L$ 上線形独立ならば、
$\Bu_1, \ldots, \Bu_r$ は($\K^n$ のベクトルとみたときに) $\K$ 上も線形独立。
言い換えれば、
$x_1 \Bu_1+\cdots +x_r \Bu_r=\Bzr$ となる $x_1, \ldots, x_r\in \K$ が存在するとき、
$y_1 \Bu_1+\cdots +y_r \Bu_r=\Bzr$ となる $y_1, \ldots, y_r\in \L$ が存在する。
$\L$ 上 $x_1, \ldots, x_r$ で生成されるベクトル空間の基底をとって、それを $\alpha_1, \ldots, \alpha_k$ とおく。
$x_i=\sum_{j=1}^k c_{ij} \alpha_j$ となる $c_{ij}\in \L$ がとれて、
$$x_1 \Bu_1+\cdots +x_r \Bu_r=\sum_{i=1}^r \left(\sum_{j=1}^k c_{ij} \alpha_j\right) \Bu_i=\sum_{j=1}^k \alpha_j (\sum_{i=1}^r c_{ij} \Bu_i)$$
となる。
$x_1 \Bu_1+\cdots +x_r \Bu_r=\Bzr$ だから、
$$\sum_{j=1}^k \alpha_j (\sum_{i=1}^r c_{ij} \Bu_i)$$
の各成分は $0$ である。$\alpha_1, \ldots, \alpha_k$ は $\L$ 上線形独立で、$\Bu_1, \ldots, \Bu_r\in \L^n$ だから、各 $j$ について $\sum_{i=1}^r c_{ij} \Bu_i$ の各成分は $0$、つまり各 $j$ について
$$c_{1j} \Bu_1 +\cdots +c_{rj} \Bu_r=\Bzr$$
となる。
$\K$ が $\L$ の部分体で、$\Bu_1, \ldots, \Bu_r\in \L^n$ とする。
$\Bv\in \L^n$ が $\Bu_1, \ldots, \Bu_r$ の $\K$ 上の線形結合であらわされるとき、
$\Bv$ は $\Bu_1, \ldots, \Bu_r$ の $\L$ 上の線形結合であらわされる。
つまり $\Bv=x_1 \Bu_1+\cdots +x_r \Bu_r\in \L^n$ となる $x_1, \ldots, x_r\in \K$ が存在するとき、
$\Bv=y_1 \Bu_1+\cdots +y_r \Bu_r\in \L^n$ となる $y_1, \ldots, y_r\in \L$ が存在する。
線形独立性とベクトル空間の基底:定理2
より $\K$ 上 $\Bu_1, \ldots, \Bu_r$ で生成される空間の基底を $\Bu_1, \ldots, \Bu_r$ の中から選ぶことができる。
これを $\Bu_i ~ (i\in I)$ とおくと、$\Bv$ は $\Bu_i ~ (i\in I)$ の線形結合であらわされる。つまり
$$\left(\sum_{i\in I} x_i^\prime \Bu_i\right)-\Bv=\Bzr$$
となる $x_i^\prime\in \K$ がとれる。よって $\Bu_i ~ (i\in I), \Bv$ は $\K$ 上線形従属だから、
定理1
より $\L$ 上でも線形従属である。つまり
$$\left(\sum_{i\in I} c_i \Bu_i\right)+c_{r+1}\Bv=\Bzr$$
となる $c_i\in\L ~ (i\in I\cup \{r+1\})$ がとれる。$\Bu_i ~ (i\in I)$ は線形独立であるから、$c_{r+1}\neq 0$ となるので、$y_i=-c_i/c_{r+1}$ とおくと、
$$\Bv=\sum_{i\in I}y_i \Bu_i, y_i\in\L$$
となる。