有限体の構造

$$\newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\mathrm{ind}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\mathrm{rank}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

$F$ が標数 $p$ の有限体とする。$k\equiv \ell\Mod{p}$ ならば、$ka=\ell a$ であるから、$\bar k=k\Mod{p}\in \F_p$ について、$(\bar k)a=ka$ と定めることで、$F$$\F_p$ 上のベクトル空間となる。$F$ は有限体であるから、$\F_p$ 上のベクトル空間としての生成元 $a_1, a_2, \ldots, a_m$ がとれる。このとき、$F$ のすべての要素は
$$k_1 a_1+k_2 a_2+\cdots +k_m a_m, k_1, k_2, \ldots, k_m\in\F_p$$
と一意に表すことができる。よって、$F$$p^m$ 個の要素からなる。このことから、標数 $p$ の有限体の要素の個数は $p$ の冪であることがわかる。

逆に、任意の正の整数 $e\geq 1$ について、$p^e$ 個の要素からなる有限体が存在する。これはつぎのように構成される。

$\Phi_d(X)$$1$$d$ 乗根に関する円分多項式とする。素数 $p$ と、正の整数 $e\geq 1$ をとる。$\Phi_{p^e-1}(T)$$\F_p[T]$ における既約因子をひとつとり、それを $f(T)$ とおく。 多項式の除法の原理 にあるように、$\F_p[T]$ はユークリッド整域だから 「環論の基礎4:UFD・PID」の命題7 よりPIDなので、 同・命題5 より$(f)$ は素イデアルである。 同・命題6 よりPIDにおいて素イデアルは極大イデアルとなるから$(f)$ は極大イデアルである。よって $\F_p[T]/(f)$ は体となる。

$f(T)$ の次数を $d$ とすると、$\F_p[T]/(f)$ の要素は
$$a_{d-1} T^{d-1}+\cdots+a_1 T+a_0$$
の形の代表元をもつから、$\F_p[T]/(f)$$p^d$ 個の要素からなる有限体となる。

重要なことは、この体が $p^e$ 個の要素からなる体となることである。

$\F_p[T]/(f)$$p^e$ 個の要素からなる体である。実際、
$$X^{p^e}-X=X(X-1)(X-T)\cdots (X-T^{p^e-2})$$
と分解され、$\F_p[T]/(f)$ 上の方程式
$$X^{p^e}-X=0\label{eq1}\tag{1}$$
は重解をもたず、
$$\F_p[T]/(f)=\{0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}\}$$
は、その解の集合となる。

このことから、$\F_p[T]/(f)$$p^e$ 個の要素からなる有限体であることがわかる。これにより、
任意の素数 $p$ と、正の整数 $e\geq 1$ について、$p^e$ 個の要素からなる有限体が存在することがわかる。

$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$$\F_p[T]/(f)$ に含まれることは明らかである。

つぎに、$X^{p^e}-X=0$ の解は、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ ですべて与えられることを示す。

そこで、先に $0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ は相異なることを示す。$0$$1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ のいずれとも相異なることは明らかである。
$T^i=T^j, 0\leq i, j\leq p^e-2$ かつ $i\neq j$ であるとすると、$d=\abs{i-j}$ とおくと、$T^d=1$ かつ $1\leq d\leq p^e-2$ となる。
$T^g=1$ となる最小の正の整数を $g$ とおくと、$p^e-1$$g$ で割り切れ、かつ $g< p^e-1$ となる。 テキスト「初等整数論」円分多項式の命題1 (iii) より、$\Z[T]$ において
$$\frac{T^{p^e-1}-1}{T^g-1}\equiv \frac{p^e-1}{g}\Mod{T^g-1}$$
となる。つまり、
$$\frac{T^{p^e-1}-1}{T^g-1}-g(T)(T^g-1)=\frac{p^e-1}{g}\label{eq2}\tag{2}$$
となる $g(T)\in\Z[T]$ がとれる。よって、$\F_p[T]$ においても、この等式が成り立つ。しかし、$F_p[T]$ において、
$$f(T)\mid \Phi_{p^e-1}(T)\mid \frac{T^{p^e-1}-1}{T^g-1}$$
かつ
$$f(T)\mid (T^g-1)$$
であるから、$\F_p[T]$ において、\eqref{eq2}の左辺は $f(T)$ で割り切れなければならない。つまり $\F_p[T]$ において、$(p^e-1)/g$$f(T)$ で割り切れることになって矛盾する。
よって、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$$\F_p[T]/(f)$ の相異なる $p^e$ 個の要素である。

さて、$X$ を未知数とする方程式\eqref{eq1}は $\F_p[T]/(f)$ において、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ を解にもつ。
実際、\eqref{eq1}の左辺は $X$ で割り切れるから、$0$ は\eqref{eq1}の解で、また$T^{p^e-1}=1$ だから、$T^{k(p^e-1)}=1$ も成り立つので、$T^k$ の形の要素は\eqref{eq1}の解である。
一方、$\F_p[T]/(f)$ は体だから、この方程式は高々 $p^e$ 個の解しかもたない。よって
\eqref{eq1}の解は $0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ で与えられる。

つぎに、$\F_p[T]/(f)$ の要素はすべて\eqref{eq1}の解であることを示す。
$1$ は明らかに\eqref{eq1}の解である。また、$f$ のとり方から、$T$ も\eqref{eq1}の解である。
$a, b$ が\eqref{eq1}の解ならば、
$$(ab)^{p^e}=a^{p^e} b^{p^e}=ab$$
より $ab$ は\eqref{eq1}の解である。

また、
$$(a+b)^{p^e}=\sum_{k=0}^{p^e} \binom{p^e}{k} a^{p^e-k} b^k$$
となるが、 二項係数の素因数分解 からわかるように、$0< k< p^e$ のとき、素数 $p$$\binom{p^e}{k}$ を割り切る指数は
$$\sum_{j=1}^{\infty} \left(\floor{\frac{p^e}{p^j}}-\floor{\frac{k}{p^j}}-\floor{\frac{n-k}{p^j}}\right) \geq \floor{\frac{p^e}{p^e}}-\floor{\frac{k}{p^e}}-\floor{\frac{p^e-k}{p^e}}=1$$
となる。つまり、$0< k< p^e$ のとき $p$$\binom{p^e}{k}$ を割り切る。よって $\F_p[T]/(f)$ において
$$(a+b)^{p^e}=a^{p^e}+b^{p^e}$$
となる。

よって、$a, b$ が\eqref{eq1}の解ならば、$ab, a+b$ も\eqref{eq1}の解である。
$\F_p[T]/(f)$ の要素は
$$a_{d-1} T^{d-1}+\cdots+a_0$$
の形の代表元をもつから、積と和を有限回繰り返すことで、
$\F_p[T]/(f)$ の要素はすべて\eqref{eq1}の解であることがわかる。

さらに、$p^e$ 個の要素からなる体は、同型を除いて一意的に定まる。まず、Fermatの小定理の一般化を示す。

Fermatの小定理の一般化

$F$$p^e$ 個の要素からなる体のとき、$0$ 以外の $F$ の要素 $a$ に対し、つねに
$$a^{p^e-1}=1$$
が成り立つ。言い換えると、$a\in F$ に対し、つねに
$$a^{p^e}=a$$
が成り立つ。

$F$$p^e$ 個の要素からなる体とする。$F\setminus \{0\}$$p^e-1$ 個の要素からなる乗法群となるので、 「群論の基礎3:正規部分群」の命題 3.6 より、$0$ 以外の $F$ の要素 $a$ の位数は $p^e-1$ の約数である。よって
$$a^{p^e-1}=1$$
が成り立つ。よって、 $a\in F$$0$ でも、$0$ でなくても
$$a^{p^e}=a$$
が成り立つ。

$\Phi_{p^e-1}(X)$$\F_p[X]$ における既約因子 $f(X)$ をひとつとると、
$p^e$ 個の要素からなる体は、$\F_p[T]/(f)$ に同型である。

$\F$$p^e$ 個の要素からなる体とする。 先の定理 より、$0$ 以外の $\F$ の要素 $a$ に対し、つねに
$$a^{p^e-1}=1$$
が成り立つ。よって $\F$ 上の方程式
$$X^{p^e-1}-1=0$$
$\F$ において、$p^e-1$ 個の解をもつから、$X^{p^e-1}-1\in \F[X]$
$$X^{p^e-1}-1=\prod_{a\in \F, a\neq 0}(X-a)$$
と因数分解される。とくに $f(X)$$X^{p^e-1}-1$ の因数でもあるから、 $f(X)$$\F[X]$ において$1$次式の積に因数分解されるので、
$f(X)=0$$\F$ において解 $X=t$ を少なくとも$1$つもつ。したがって、$\F_p(t)\subset \F$ となるが、
$\F_p(t)$$\F_p[T]/(f)$ に同型であり、 定理1 より、$\F_p(t)$$p^e$ 個の要素からなる体である。
よって、$\F=\F_p(t)$$\F_p[T]/(f)$ に同型である。

$p^e$ 個の要素からなる有限体につき、 定理1 により存在が、 定理3 により一意性が保証される。それで、この有限体を $\F_{p^e}$ であらわす。

$4$ 個の要素からなる有限体は
$$\F_4=\F_2[T]/(T^2+T+1)=\{0, 1, T, T^2\}=\{0, 1, T, T+1\}$$
により与えられる。実際、この体における演算は
$$T^2=T+1, T(T+1)=(T+1)T=1, (T+1)^2=T$$
により定まる($\Z/4\Z$$(\Z/2\Z)\oplus(\Z/2\Z)$$4$ 個の要素からなる環ではあるが体ではない。$\F_4$ の演算は、これらの環の演算とは異なることに注意)。

定理1 より、$\F_{p^e}$$\F_p$ の単拡大である。逆に、 定理3 より、$\F_p$ の単拡大は $\F_{p^e}$ の形のものに同型であることがわかる。
それで、$\F_p$ の代数閉包は
$$\overline{\F_p}=\bigcup_{e\geq 1}\F_{p^e}$$
で与えられる。とくに、$\F_p$ の代数閉包は無限個の要素からなる体となる。

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